ドルオタゴリラ呪術師とリアルロシアンルーレットチンチクリン 作:カフェイン中毒
まずい、葵君と意思疎通が図れない。以心伝心でツーと言えばカーと言い合える私たちだけどいくら何でも視覚と聴覚、そして言葉を封じられたらそんなこと言ってられない。葵君、伝わってよ……!と私は感覚だけでアバドンを召喚し葵君ごと自分を呑み込ませる。おそらくこれは領域っ!?
「新幹線っ!?アバドンっ!」
「ナイスだ
アバドンで実質的に領域から隔離された私たち、目と耳と口の自由がきいた瞬間に目の前に迫るのはトップスピードの新幹線一両!?とっさに口を閉じさせたアバドンと新幹線が正面衝突する。アバドンに跳ねのけられた新幹線が転がり、霞となって消えた。葵君が簡易領域を展開してとりあえず一安心だ。
「な、何でいきなり新幹線なんか……!?」
「わからん、だがしかし領域に呑まれたことは事実だ。琴音、領域を展開することは?」
「できない、かな。私の領域は場を対象としたものじゃなくて標的を視覚でも聴覚でも魂でもどれでもいいから捉えてないとダメなの。縛りだね、展開できなくもないけど領域が暴走しちゃう」
「簡易から出ればまた何もできない状況に戻る……か。ならばこのままこのペルソナの中で探索をしよう。幸い、いる場所は分かる」
「そう、だね。これもこの広さの領域を展開するための縛り、なのかなあ?」
私たちが着地したのは伏見稲荷の駐車場だ。それなのに領域に呑まれたんだ。伏見稲荷の奥社の結界は強固だ。軛がそこにあるからね。仮に今その結界を破壊しにかかっているなら奥社を中心としてものすごく広い範囲に結界があることになる。しかもこれまた時間稼ぎに特化したような領域……つくづく夏油さんは私を京都に釘付けにしたいらしい。
「なんというか、攻撃に規則性がなさ過ぎて逆に怖い。即死トラップとかはないのかな」
「ある、だろうが俺の簡易領域の外にお前のペルソナが外殻になっている。領域の効果であるならばこの二つで大まかに弾ける」
狐火、雷、落ち武者……このくらいまではまだ理解できるんだけど西洋鎧着た騎士とか、トラックとか、果ては現代武装の軍隊とか、呪霊チックになってるけど統一性のない攻撃が絶え間なく続いている。手榴弾を投げ返したあたりでどうしたものか、せめて何か法則性のようなものを掴みたいと首をひねる。その悉くはアバドンに攻撃が当たるものの効いていない。一番やばかったのが新幹線の突撃だったね。
「……そうか、なるほど!琴音、この領域の必中効果はなんだ?」
「え?そりゃあれじゃん。ヘレンケラー、見えず聞こえず話せずってやつ。マハラギダイン!」
「むんっ!そうだ!つまり、本来この領域に立ち入ったものは何も認識できず伝えることもできない、つまり
「この領域の中はシュレーディンガーの猫だっていうこと?何も認識できないし外部からもわからないなら何が起こっていてもおかしくないって?」
千本鳥居を抜けながら、前方を炎で薙ぎ払い、アバドンの口の中に入ってきたゾンビを葵君が蹴り飛ばす。その中で葵君がいう仮説は、この統一性も規則性もなく襲い掛かってくる危険はこの領域の副次効果であるという仮説だった。感覚を閉ざすことを必中にして認識できなければ何が起こっていてもおかしくないという術式を当てる、ということ?
「おそらく、俺たちが簡易領域を使えなければ何もできずに殺されただろう。今、簡易領域で感覚を取り戻した俺たちが見ているからこそ箱の中身は俺たちの理解できるモノとなって襲い掛かってくる」
「ここまで特化してるって考えると呪術的観点で言えば……」
「呪詛師ならともかく呪霊ならば本体はショボいのがセオリーだ。このレベルの領域を展開し続けているとなると何かしら不利な縛りを結んでいなければ成り立たん。それこそMr.五条レベルでないと不可能だ。それならこの呪霊は最初から東京に配置するだろう」
千本鳥居を抜ける。荘厳な奥社である一ノ峰上社に貼られた結界の前にいた。猿の呪霊だ。山伏の恰好をした猿……顔は猫だけど。それぞれ目、耳、口が縫い付けられて閉ざされている。術式特化のタイプっぽくておそらく領域展開の縛りであろう掌印を3匹で組み合わせるように組み続けている。
「葵君!崩して!」
「応っ!」
領域を展開され続けるのはよくない。道中の呪霊を殲滅しながらとはいえ七海さんをはじめとしたみんながここに向かっている。領域の張り合いで押し勝つよりもまず領域を破壊しないと!葵君の先制パンチを猿たちは掌印を組んだまま纏まって回避した。だけど、それは悪手だ!
「ぶっ飛べっ!マハラギダインっ!」
葵君に向けて発射された獄炎は葵君に当たる前に不義遊戯で入れ替わった猿たちに直撃する。術式を使ったので簡易領域が解けてモロに術式を食らったけど猿たちの掌印が解けたことで砕けるように領域が消えていった。これでもう、何も考えなくていい。顎下に召喚器を突きつける。葵君にはちゃんと見せたことなかったよね、私の領域。
「領域展開―――――
空間が塗り替わる。青く、ただひたすら青いだけの空間に。青一色しかない、地面もない空間。重力は立ち消え私たちは浮かぶまま。猿たちは必死に3匹集まって掌印を組み領域で押し返そうと頑張るけどあっちへ行ったりこっちへ行ったり。まあ、もう終わりだからあがけばいいよ。
「刈り取れ」
私がそうつぶやくと背後の空間から14枚のタロットカードが姿を現す。アルカナはすべて『死神』。タロットが裏返って砕かれるとそこに表れたのはペルソナではなかった。頭陀袋を被り、鎖に巻き付かれた呪霊。両手に異様な銃身の長さを持つリボルバーを2丁携えて猿どもに狙いをつける呪霊とペルソナの中間のような『刈り取るもの』だ。たくさんいるから個体名なんかわかんないし。かといって、私でもないんだあれ。私になる前、無意識に揺蕩う意識を私の領域で形にしたといえばいいのかな。
「これが、お前の領域か……!」
「そう。この領域の効果は二つ。あの刈り取るものを多数召喚できる。そして、刈り取るものを倒せた場合……やられた刈り取るものは私のペルソナに新生し自立行動を開始する」
「なるほど、お前の万能性に手数が加わる、と。待て、自立行動とは?」
「そのままだよ。刈り取るものもペルソナも自立して行動する。標的がいなきゃ暴走しちゃうの。私の標的指定を頼りに自分で考えて術を使い相手を祓う。これが私の領域」
ようやっと集まった猿たちが掌印を組む。だけどもう遅い、14体の刈り取るものが標的を見定め己の銃から色とりどりの術を弾丸として発射していた。炎、氷、風、雷、念動、核熱、呪力、反転呪力、物理弾……私が扱えるありとあらゆる属性が猿たちに殺到し混沌とした爆発を起こして終わる。悲鳴すら残さず、終わっちゃったね。
「さて、特級は祓い終わったね。あとは一級だ、頑張ろう葵君」
「……そうだな。
「気になるよ、乙骨君がどうなったのか、向こうはどうなのか。もう戦闘してるから連絡はとれないから。だけど、信じるしかない」
「ならば、直接確かめに行け。夏油某とやらとひと悶着あったのは知っている。ジジイには先んじて許可をとっておいた。後詰め程度お前がいなくても問題ない。正直出番がなさ過ぎて暴れ足りん。首級をこれ以上持っていくな」
「それはちょっと……欲張りじゃない?私にだって役割があるんだしさ」
帳で暗い稲荷大社で踵を返して残りを祓おうとする私の脇に手を突っ込んで持ち上げた葵君が止めてきた。確かに囮として使われた乙骨君が気にならないわけない。当たり前だ、だって一年生だけで残されてるんだから。確かに京都はもう大丈夫だろう、だけどあとよろしくでほっぽり出すのはあまりにも無責任じゃないかな。
「そうだ、役割だ。言ったはずだぞ
終わりかけの戦場の後処理ではなく今必要な戦場に行け。葵君はいつも私の欲しい言葉をくれる。我が儘だけどしたいことを明確に言葉にしてくれる。任せろと請け負ってくれる。こっちの現場に五条先生が来てない以上、向こうは終わってないってことだ。それなら、行くべきだと思う。
「任せた、葵君。よろしくね」
「ああ、行ってこい」
それだけ言ってペルソナを召喚する。ヘルメスという踵から大きな金属の羽根をはやしたペルソナを召喚した私はそれに抱かれて彗星のように空をかける。間に合って欲しいと、そう願って。
「――――最後くらい、呪いの言葉を吐けよ」
言えねぇよ、そんな言葉を胸中に浮かべながら片手を失った親友に対して五条悟は術式を起動する。一拍の間に親友は物言わぬ躯になって目の前に転がるだろう。行動と心を乖離させるのはよくやっている、躊躇うことなく一瞬で終わることだろう。放たれた蒼色が夏油傑の心臓を抉る、その瞬間に流星が落ちてきた。
「まにあったーーーっ!!!!五条先生ストップ!ストーーーーップッ!」
「琴音!?京都は大体片付いたって聞いてたけど戻ってきたの!?」
「……おや、君はもう私の顔なんか見たくないと思ってたけどね。どうしたんだい?顔を殴ってしまったお礼参りかな」
「報告は後でしますけど京都は何とかなりました!とりあえず夏油さん殺すのはストップで!プリーズ!」
流星のように落ちてきたのは自らに並ぶ術師になりかけている小さな少女、汐見琴音とその術式であるペルソナだった。大慌てで自分と夏油の間に割って入った彼女がぴょいんぴょいんと跳ねながらストップアピールをするので毒気が抜けてしまう。ぐるぐると回った目をしている彼女を落ち着かせるために五条は大きくため息をついて見せた。
「あのさあ、僕今から一世一代の決断をするところだったんだけど?何このグダグダの空気?どうしろってのええ?」
「……まあ、私にとってはどっちにしろ詰みだからどっちに殺されるかの話なんだけどね」
「いえ!夏油さん!もう一回呪術界で働きましょう!行けます行けます!」
「「無理だろ」」
思わず声が親友と重なる。何を言ってるんだこのチンチクリンは。目の前にいるのは最悪の呪詛師だぞ。何百人も殺してきた大罪人だ。それをもう一度呪術界で?周りだって説得できないし何よりも目の前にいる本人が拒むだろう、猿のために働くなんて御免だと。
「すまないけど、その提案は拒ませてもらうよ。私はもうどうあがこうがこの世界では笑えない。こんなことを起こしている時点でね」
「いえ、私は非術師のために働けなんて言ってないですよ?術師のためにあなたの力を貸せと言ってるんです。違い分かります?非術師が嫌いなら別に助けなくていいです、代わりに私たちが助けますから。だから、夏油さんは術師である私たちを助けてください。それなら別に嫌じゃないでしょ?」
「いやそれ、ただの屁理屈じゃん琴音。こいつはもう非術師がいることが耐えらんねえんだろ」
「屁理屈でいーーーんですよもう!生きたいんですか生きたくないんですか!?家族って言ってたあの子たちをほっぽり出すんですか!言ったでしょ!指導者の役割!」
まるで台風だ。子供じみた理屈を並べ立てる見た目幼女に圧倒される最強二人の構図。どこかの反転術式使いが見たら腹を抱えて笑っているところだろう。あんまりにも言われたい放題なのでいいようにボロクソ言われ続けている夏油が先にプッツンした。
「生きたいに決まっているだろう!?私はまだ私が目指す世界を完成させていない!悔いなんかそこら中にある!だが!猿の奴隷になるなら死んだ方がマシだと言ってるんだ!」
「その世界、別に夏油さんが作らなくてもいいじゃないですか。誰か後継者でも選んだらどうです?それこそあの女の子二人とか。世界を変えるって難しいんですよ?ねえ五条先生?」
「あー、まあそれはね。傑、お前がいなくなって俺が気づいたことがあんだよ。それは『俺だけ強くなってもダメ』っつーことだ。だから、こうやって教師やってさ。そんでアホみたいな後輩ができた」
「アホでわるいかーーっ!」
かいぐりと後輩だという小さな少女を撫でる五条の姿は理想に生きているはずの夏油にとってはなぜかひどく眩しく映った。どうしてだ、と夏油は思考の海に沈んでいく。
未登録人工特級呪霊 「三化去」(さんげざる)
どっかのヤベーイ術師がとある縛りと共に夏油傑に譲渡した3体の呪霊。概念を埋め込んでいろいろできるかどうかの試作品の中で一番出来がよかったけどもう方法自体が失敗だったのでゴミを渡されたようなものだが一応ヤバイ部類。観測不能の領域の中でシュレーディンガーの猫の概念を発生させる。つまり正体不明に正体不明なままわけもわからず殺される。領域内で簡易領域か領域展開を使って五感を取り戻せば正体不明は正体不明でなくなり理解できる脅威がランダムに表れる意味不明な領域になり下がる。領域展開中は3体で掌印を結び続けるのが縛り。解けると領域も解ける。味は見猿が苦玉味、聞か猿が汚水味、言わ猿が蛆湧き泥まみれ味。3匹そろってクソ味団子3兄弟。
夏油さん生き残れ生き残れルートです。よろしくお願いします。