ドルオタゴリラ呪術師とリアルロシアンルーレットチンチクリン 作:カフェイン中毒
「……おそらく私がこうなったのは……消去法だったんだろうな。非術師の醜さを任務で嫌というほど知り、呪術師はそれを良しとし、そして尚且つ私自身が内から変えるという手段を不可能だと断じた」
「だからなんだよ。お前がやんなきゃならなかったのは俺と決別することじゃなくて俺でも、硝子でも、夜蛾さんでもなんでも……!その腐った胸の内をさらけ出すことだろ!」
「そうだったんだろう。だけどできなかった。わかるか悟、君は私を置いていったんだ、振り向いたこともないのにわかったような口を利くもんじゃないよ」
「過去のお話はあとでしてもらうとしてとりあえず未来のお話をしましょう。このまま夏油さんを捕えたとて100%死刑ですね、それは覆らないと思います」
「……ああ、今僕が殺さなくても結局後で殺すハメになるだろうし、僕もそうすべきだと思う。今回僕は一切上を説得しない。何もしないからな」
むしろそれでないと困る。夏油さんをこの場で殺すべきという主張は正論100%で間違ったところは何もない。むしろそんな意見を翻すような真似をすれば五条先生の意見論評は上で無視されるようになるだろう。そうなれば夏油さんを生かすメリットはゼロになる。現状でもマイナスになりそうなのに。
「私の意見は無視かい?いやだと言ってるんだ、さっさと殺してくれ」
「勝手に殺しまくっておいて終わるときになったら自分ひとりの命で済むなんてナメ腐った根性はここで捨てておいてもらえます?生殺与奪を握られた時点で選択肢なんてハナからないんですよ。使いつぶされる覚悟だけすましておいてください」
「ちょっと悟後輩にどんな教育してるの?ヤクザみたいな脅され方してるんだけど」
「そりゃお前、普通にキレてるんだよわかれよ。んで琴音、何で傑を生かしたいワケ?なに?恋にでも落ちた?」
「それはないですけど、呪霊操術ってメリットだらけの術式じゃないですか。しかも展開範囲も広い、なんで東京と京都で同時に展開できるんです?殺すよりも利用したほうがいいでしょ」
結局はこれだ。術式のメリットがやばすぎる。殺すよりも利用したほうが絶対にいいと確信を持つほど汎用性があって万能性もある術式。それにそもそも夏油さんは特級術師であった。世界に今5人しかいない最強の一角である。そんないつ生まれるかも分からない激ヤバSSR人材を逃してどうする。どうやっても戻ってきて馬車馬のごとく働いてもらうべきでしょう。
「そこらへんはついてくると思ったけど、そんで?」
「だってつまりこれ、夏油さんは最悪動かずに斥候として呪霊だけ放てるってことでしょ?呪霊だけ連れて行けば窓や補助監督さんだけでもある程度の探索できるってことじゃないですか。人手不足で探索ですら呪術師が出張ってるんだから革命起こりません?」
「……できんの?」
「……ハァ、現にやって見せただろう。京都のことだって把握してるさ。私だって何もしなかったわけじゃない。修行だってしたんだよ」
「夏油さんは動かずに、呪霊だけを放つ。つまり……縛りによって高専に縛り付けたまま術式を利用できるとすれば、上は食いつきそうですけどね」
五条先生の六眼がゆれる。上を良く知る五条先生ならわかるはずだ、上に立つ人間には下のことなんてどうでもいい。乙骨君を秘匿死刑にするのだって自分に害が及びそうだから以外になさそうだって五条先生言ってたもんね。町が消し飛ぼうがどうでもいいんだよ、本当は。
だから、夏油さんを雁字搦めにして行動の自由を奪った挙句に呪霊操術を有効活用できると餌をぶら下げたら食いつく。最悪の呪詛師を自らの僕にできると知れば嬉々として好き放題をするのが上の腐ったおじいちゃんズなのである。執拗に私に子を産めっていい続けてみたりね。男を産めっていうあたり筋金入り過ぎて気持ち悪い。
「夏油さん、呪術界の上の腐り具合どれくらいかわかってます?」
「非術師の世界を守るために必死こいてるんじゃないのかい?どの組織も上は腐っているが仕事をしている以上その程度だろう」
「……お前、それマジでいってんの?」
「五条先生、夏油さんって一般出身でしたよね?つまりそういうことですよ」
「……っかー……」
夏油さんはやっぱり、呪術界隈については疎い。術師としての一般知識はあるけど呪術界の上に昇り詰めないとわからないことは知らないんだ。だって知る前に出奔したんだから。上は腐っているという認識は一応ある。あるんだけどそれは例えば政治家の腐敗だとか、会社の社長の汚職だとか、一般人が想像できるものより少し踏み込んだ程度のものでしかない。人権があるかないかから話を始めなくちゃいけないレベルだとは知らないのだ。知っていたとしても実感がない。
「さて、一応メリットは提示したと思うんで個人的な話をします。私が何で夏油さんを生き残らせたいと考える理由ですが――――後悔してほしいんですよ」
「……後悔?」
「だってあなた今、非術師殺してもなんとも思わないでしょう?それなのに死んだからって何も反省してないのに救いになる刑を執行する意味があるんです?死ぬことで払拭できるほど軽い罪犯してないんですから」
100人以上殺した稀代の大呪詛師を殺せと言われて殺して解決?そりゃダメでしょ。罪の自覚がないままに殺したのならそれは罰じゃなくて救いだよ。何も知らぬ無知のまま、罪の自覚もなく生涯を閉じる。それじゃダメだ。後悔して反省して心の底から悔いてようやく……罪を雪ぐスタートラインに立てる。
「理屈だけなら夏油さん、あなたは自分が何をしたか理解はしている。理解しているけど実感はしてない。非呪術師が猿で、術師が至高だと思っている今じゃ。罪として認識できない。だから、私があなたに術師も非術師も同じ人間だって気づかせる」
「君は私の決断を軽く見過ぎだ。そんなの知っているに決まってるだろう。いい加減にしてくれ」
「ほら投げやりになってる。極端から極端に走り過ぎなんですよ夏油さんは。夏油さんのゴールって非術師を皆殺しにすることじゃなくて術師が理不尽に死ななくても済むような世界にするってことでしょ?違います?」
「……結論だけで言うならそうだ。術師が術師のために、もっと言えば身を粉にすることなく自分自身の生き方を決められる世界。それが理想だ」
「その世界に非術師っていても邪魔じゃなくないです?非術師が術師に対して呪霊を祓えって言ってるわけじゃないじゃないですか。極論私たち術師が害になるからって理由で勝手に祓ってるんです。夏油さんのやり方は荒唐無稽なんですよ、実行可能な手段じゃなくて理想のままなんです。着地点を設定しなおしましょ?」
わかった、この人病んでいる。体じゃなくて精神が。鬱病、かな。術師は善で非術師が悪。この前提が動かないから極端に走っちゃったんだ。出奔する直前まで悩みに悩んでぐるぐる回って、それでこんな風に極端じゃないともうダメってなっちゃったんだ。
「あとからぎゃーぎゃー生意気に騒いでいる私に諭されるのは腹が立つでしょうけどとりあえず飲み込んでください。ほんとに死にたいわけじゃないでしょう。泥水啜って生き延びて、奪った命一つ一つに向き合って答えを見つけるんです。何百人の命すべてを呪いに変える気ですか?」
「……無茶苦茶言うね、それでこそ特級術師だよ。いいだろう、私だって元は非術師の命を守るためにクソのように働いてきたんだ。後悔なんざさらさらできないと思うけど、できるものならさせてみなよ」
「はい、交渉成立ですね。まずは縛りを結びましょうか。『夏油傑はその処遇が決まるまで汐見琴音及び五条悟の許可がない限り呪力を封じる』細かいのは後回しにしてこれは絶対ですね」
「『了承した』……手錠でつなぐなりなんなりするんだね。今の私は猿だよ」
「……うっきっきーとでも言って欲しいのか?バカ言え、ここで殺されなかったのは今のお前にとったら間違いなくド級の不幸の始まりだ。ま、すぐにわかるさ」
「とりあえず、治しちゃいましょうか。マリア、メシアライザー」
「ああ、そうしてくれると助かる。多分今からこれよりもっと痛いことが始まるからね」
半身が焼け爛れて腕一本消し飛んでいるのによくもまぁ元気にツッコミ入れて反論したものだと思いながら五条先生が縛りで呪力がほとんど消し飛んだ夏油さんを拘束用らしい呪具……明らかに特級呪具じゃん。まあそれはいいとして、私は私で治してしまいましょうと夏油さんを反転で治した。
「尋問される前に吐いておくが、京都で私が放った5体の呪霊はとある人物から縛りと共にもらい受けたものだ。私は今からその縛りを破って君たちに情報を伝える。最悪死ぬかもしれないがそれはそれで受け入れてくれ」
「おい、そんなことしてたのかよ。思いつめすぎて手段選ばなすぎだ。黙ってりゃいいのによ」
「目的の着地点が同じだったから協力したが、結果も恐らく私がやった場合と似たり寄ったりになるだろう。だが……私がやるより地獄ができるだろうな。そういう意味では、私の命よりは価値がある情報だ。私がジムリーダーなら彼はチャンピオンだろうね。そして、この情報は上に伝えないほうがいいだろう。理由は勘だ」
「……あーあー、回りくどい話が相変わらず得意だなお前は。んで?話は聞いてやるからさっさと喋れ。他が来る」
夏油さん、協力者がいたんだ。いや、確かに夏油さんが設立したカルト団体は呪いを集めてはいたけど特級を取り込んだなんて情報は出てこなかったから独自のルートがある。そっか、一応は有るんだ。罪悪感とか後悔みたいなものは。それは多分私みたいな部外者じゃなくて五条先生みたいな身内に対してのものだろうけど。
「年の頃は40代前後、術式は不明だが呪術に関しての造詣は驚くほど深い。私の術式にも軽い興味を示していたから接触をしたそうだ。縛りの内容は『呪霊を提供する代わりに作戦後に術式を提供して研究させること』現状でもう私には実行不可能な縛りだ。当然情報提供関係も含まれる」
「……それで、目的が夏油さんと一緒?」
「ああ、正確にはたどり着く結果は一緒でも過程がだいぶ違う。私の場合は非術師を皆殺しだが彼の場合は全人類の術師化だ。結果的になされた場合非術師は殲滅される。だが私には非術師を術師にする手段が思いつかない、殺すよりも何かおぞましいことを起こす気がする」
「もうちょっと詳しい話聞かせろ。お前何やってんだよ」
「さあね。取り急ぎ私が知ってるのはこのあたりだ。会ったのも呪霊を渡されて縛りを結んだ一度のみ。しいて言うなら……そちらの乙骨君によく似ていたってことと、額からぐるっと一周縫い目みたいなものがあることだよ……そろそろ、か……ぐぅっ!」
「っ!?傑!?」
夏油さんの口からこぼれるように血があふれる。膝をついて間欠泉のごとく血を地面にぶちまける夏油さんに対して私は連続で治癒術を行使するが補填する傍から減っていく。縛りとはいえこんな風になるものなのか……!?情報提供しただけ……ちがう!もう一方の方だ!縛りじゃなくてこれじゃ呪詛だよ!?
「離れるんだ、何か持ってかれる……ぐあああっ!?」
「マリア!聖母の慈愛!……ダメ!治らない、魂ごと持ってかれたんだ……!」
「ふふ、生き残らせるあたり性格が悪いね……!これで済んだだけマシ、か」
夏油さんの右腕を黒い腕の集団が引きちぎって持っていった。内臓……腎臓の片方も持ってかれてる……!生き残らせてやるけど死なない分はもらっていくってこと!?ものすごく性格が悪い縛りだなこれ!しかも、魂ごと持ってかれてる。私の治癒術では治らない、魂の形が変わってしまっている。家入さんでも無理だ、これ。
「……どんな術師だよ。空間飛び越えてお前が生きていく最低限だけ残して持ってったぞ。縛りの罰則内容まで決められるってことだぜ、それ」
「だから、知っておいた方が……いいと言ったんだよ……だめだ、オチる。こっちの縛りは果たしてくれよ……」
そう言って夏油さんは気絶してしまった。一応傷は塞いだけど再生はできないだろうな……、ああ、憂鬱だ。夏油さんの死刑回避に動かないと。まずは特級術師とは言え女だからと舐めてかかっている上をビビらせるところから始めないと。とりあえず書類作成から始めましょうか。おじいちゃんたちパワポつかったプレゼン届くかなあ?いまだに黒電話使ってるからちょっと心配かも。
謎の術師、ダリナンダアンタイッタイ。夏油さんは一応生存ルートの予定です、一応。うずまき使ったせいで保持呪霊はゼロになってますけどもね!とりあえず五条先生と家入さんに腹パンされてくれ。