ドルオタゴリラ呪術師とリアルロシアンルーレットチンチクリン   作:カフェイン中毒

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第二十七話 最強への挑戦状

 赫い衝撃波が空間を絶叫させている。歪み、ねじれ、割れる空間を絞り出すように無限が蹂躙していく様を睥睨するサタナエルは尽きることのない黒のみで構成された蛇を悪魔の翼から無尽蔵に吐き出しながらもゆっくりと五条先生に視線を向けた。純粋な憤怒で形成された視線は私すらも震え上がりそうだけどそれを受けた五条先生は笑みを深めるだけ。

 

「ねえ、さっきから動いてないじゃん。いや、動けないのかな?これだけの大きな力の塊だ。縛りほどじゃないにしろ制御がキツイんでしょ?君が僕みたいな眼を持ってないのが残念だねぇ!」

 

「大正解っ……くぅぅぅっ!!!」

 

 ぐりん、と意識をこちらに向けた五条先生の仮説はあっている。ペルソナは私自身だ、でもその私が理性を保っていられるかはペルソナによる。サタナエルは純粋な怒りが寄り集まってできたペルソナ。怒りに震える自分が暴れまわらない理性を保っている?そんなわけないじゃんか。島どころか海底すら消し飛ばしそうな攻撃を放とうと逸るサタナエルの手綱を握っている私が今までと同じように動き回れるわけない。

 

 威力は保証されている、五条先生の無下限を突破できるかわからないけど拮抗はする。その代わり私は動ける式神使いからオーソドックスなその場に留まり式神を指揮する式神使いにジョブチェンジする羽目になっている。

 

 当然そんな隙を見逃す五条先生ではない。蛇の迎撃に使っている赫のうち一発を私に放った。無限に噛みついた蛇がその無限を噛み砕くもののその前に身を躱した五条先生には当たらず、無詠唱の赫だろうと私の呪力防御程度じゃ紙くず同然、空間ごと右手を持っていかれてしまった。ボタボタと血が垂れるが気にしてられない。

 

「いたいよー、五条先生ひどーい」

 

「……さすがにそれは僕でもヒくよ、琴音」

 

「そういってる右手に光った蒼色は没収だっ!ていっ!!」

 

 肩口からなくなった右手を動かしながら文句を言うとマジでヒかれてしまって若干傷ついた。右手の先に蒼を作って撃ち放つ前にサタナエルが一気に漆黒の蛇を倍以上に増やした。殺到する蛇に紛れて私は五条先生の懐に潜り込んで領域展延でタックルをかます。抱き着きには成功だ!あとは……!

 

「げいじゅつはー、ばっくはっつだーっ!!!」

 

「冗談だろ……っ!?」

 

 そういえば座標攻撃なら当たるかも、って言ったことがあったっけ?領域展延で中和された術式の中、私の胸と五条先生のお腹の間に白光が生ずる。サタナエルが座標を指定して放ったメギドラオンの前兆だ。領域展延で無下限を中和する私の自爆攻撃に初めて五条先生の顔に焦りが浮かんだ。いよっしゃーーっ!

 

 本日二度目のメギドラオン、自分の呪力の攻撃だろうとそんなのお構いなしに私を焼く白光に吹き飛ばされて木に何度も激突しながら最後はまだ残っていた岩壁にめり込んで終わった。だいぶ離れたかなとみれば無限が渦巻いて茈色が徐々に縮小していっているのが見える。五条先生が抉れたお腹をそのままに犬歯を剥いて私を見ていた。

 

 あー、これあれだー。五条先生ったらいまアドリブで奥義を改良してるんだね。無限と無限をぶつけ合わせて仮想の重さを作り出すっていうのは聞いてたんだけど、さらにその仮想質量を圧縮させて貫通力もプラスしようとしているのかな。いいさ、構えてよサタナエル!治すのは後回しで!

 

「九綱 偏光 烏と声明 表裏の間 虚式『茈』」

 

「大穴空けちゃえ!サタナエル!『大罪の徹甲弾』!!」

 

 召喚器を照準器代わりにして引き金を引くことでサタナエルに意思を伝達する。サタナエルが構えた装飾が込んだ銃から徹甲弾が発射され人の頭サイズまで圧縮された茈に正確に衝突した。大爆発なんて目じゃない現象、島を呑み込む呪力の放出が巻き起こり足場が消える。うわっちゃー……。

 

「島なくなっちゃった?」

 

「なくなったねー。琴音、色々見えてるけど大丈夫?」

 

「やぁん、五条先生もセクシーな腹筋丸見えじゃん。ひゅー、えっちー」

 

「ハッ、もうちょっと凹凸ある体で出直してきなツルペタ……じゃない!?」

 

「私の身長で誤解されがちなんですけどタッパが小さいだけでそれなりにある方なんですよ?もちろん大きいとは口が裂けても言えませんけど。頑張って育てました!身長に回って欲しかったです!」

 

 サタナエルの手のひらの上で空中に立つ五条先生と軽口をたたき合う。そら自爆なんてしたらいくら呪力でできた服とは言えボロボロになりますわな。ただ、私は自分の肉体には自信を持っているので下着だろうがパンツだろうがトップレスだろうが見られても恥じるところはなんらないのだ。磨き上げたこの肢体、見てほしいってわけじゃないけど見られても大丈夫なようにしているからね。

 

 サタナエルが吠えると全身複雑骨折で右腕が消し飛んだ私の怪我が全て元通りになる。うんうん、絶好調。襤褸切れになった諸々はもうどうでもいいや。五条先生も反転でとっくにメギドラオンで負った傷は治っている。一拍休憩挟んだけどそろそろ再開しようよ、楽しいなあ楽しいなあ。何しても倒せるイメージがわかない。五条先生も千日手に陥りかかっているのがわかったんだろう。

 

「領域展開―――『無量空処』」

 

「領域展開―――『群青浪漫死歌(ベルベット・ロマンチカ)』」

 

 呪術戦は私が押され気味なものの千日手。それなら呪術の最奥にて決着をつける。同時の領域展開、無限が連なる宇宙とただただ無為に広がる群青が中間でぶつかり合い、混じり合う。ここでハタと気づく、やられてしまった。領域の押し付け合いの場合……私が不利だ!

 

 五条先生の領域は無限の情報を相手の脳みそに叩き込む必中必殺の現代的な領域。だけど私は展開すれば勝ちの術式じゃない。展開して攻撃を当てる必要がある。領域の必中効果は打ち消し合っているものの領域を維持すればいい五条先生と五条先生に攻撃を当てつつ領域を維持しなきゃいけない私だと私の方が大変だ!

 

「なーんて、思ってたりしませんか?」

 

「君のモノローグを僕が気にするなんて思い上がりも甚だしいぜ。で、どうすんの?」

 

「『刈り取るもの』も無限の情報で溺れるんですねえ、初めて知りました」

 

「君のそれ、君とは完璧な別カウントだったんだ。あの領域展延の理屈じゃないの?」

 

「厳密には彼らは私じゃありませんので」

 

 ぶつけてみて初めて分かったんだけど、刈り取るものは厳密には私じゃなく無意識から存在を掬い上げただけの存在なので私としてカウントされない、それはつまり領域での必中効果の打ち消し合いの対象外である。元が強いので気にしてなかったけど最強の術師の領域効果をもろに受けた刈り取るものは無限の情報に溺れ存在を維持できなくなり消えていく。とても好都合!

 

 溶けて崩れた刈り取るものの亡骸から新生する私のペルソナ。イザナギ、オルフェウス、タナトス、ジャアクフロスト、アバドン、アステリオス、ヨシツネ……私が信頼を置く私自身が自らの意思で以って武器を構え五条先生に襲い掛かる。

 

 領域に飲み込めば五条先生の無下限なんて関係なく攻撃が当たる。私の領域は領域自体での必殺を狙ったものじゃなく私の術式をフルに、つまり潜在能力の完全開放を目的に組みあがっているのでリソースを絞って召喚する普段より無意識の内部にいる彼らをそのまま引っ張ってこれている。つまり、いつもより強い!

 

「でもなんで当たらないんですかね!?」

 

「君が動かすより彼らがかなり素直だからさ!琴音、君は自分が思うよりも相手の痛いところを突くのが上手いしやられたら困る嫌がらせをするのも上手ってこと!正直、君が動かす1体の方がこの大人数よりも厄介だよ」

 

「ではマニュアルといきましょう」

 

「やれんの?」

 

「ぶっつけ本番ですが何とかなるでしょう!というわけで行きます!極の番『アルダナ』!」

 

 極の番、領域を除くその術式の奥義。私の場合は召喚できるのは一体のみという制約を攻撃の一度のみという縛りを結ぶことで無視し複数のペルソナを召喚して同時に術を発動することで通常発揮できるそれとは一線を画す強力な一撃を放つというもの。

 

 オルフェウス、アバドン、アステリオス、ジャアクフロストが一体となって放った赤を超え呪力の色がそのまま出てる超火力の蒼炎を五条先生が放った茈が押し込める。うーん、避けられた。あっ、やば……!領域の押し合いで負けかけてる。一瞬無限もらいそうになった。もう少し行けると思ったけどやはり最強の壁は高い。領域程度じゃ勝てなくて当たり前だ。もう少し、奥まで行かなきゃ。召喚器を胸に、心臓に向けて引き金を引く。

 

「……私だけじゃダメみたいなので、みんなの力を借りることにします」

 

「割と内心驚いてるんだけどまだなんかあるワケ?」

 

「ええ、もう。五条先生がお望みだった私の最終手段ですよ――――『領域深淵』」

 

「…………はぁ?」

 

 領域が、沈む。無意識の入り口だった群青の空間から無限の宇宙を引き連れて人の無意識の中に沈み込む。領域がその人の精神世界を表すものだとすればここはその先……この世界に生けるありとあらゆる人が無意識のうちに共有している世界……集合的無意識というやつだ。私が五条先生の強力な術式を領域展延で一瞬で中和できるのもここが原因。簡易領域とはいえ私の領域とつながっているここに五条先生の術式が流れていったから。

 

黄昏黙死録(ユニバース・ニュクス)――――ねえ、五条先生。人が無意識のうちに最も恐れるものってなーんだ?」

 

「死だろ」

 

「そりゃわかっちゃうよねー。じゃあここに巣くうものもわかるはずです」

 

 空へ昇る満月に彩られた星一つ見えない夜空。自らの領域を維持しつつ想定外の顔を隠さない五条先生に対する質問は一瞬で正解を導かれてしまう。私の術式は概念を受肉させ現実に引っ張り出す。大雑把で簡単に言うとこうだ。受肉の過程で概念は劣化し普遍化する。じゃあ、引っ張り出す大本に自分が行けば?そのままの力を振るえるとすればどうだろうか。

 

 満月が、(ほど)ける。外殻を羽根のように広げ私の召喚器の中に仕舞った羽根と同質のものを振りまいて満月の中身は姿を現す。いっそ神々しい色をした黄金の卵のような核を晒した『死』が産声を上げる。その唄のような声だけで常人ならもう100回は死んでいるだろうに五条先生ときたら鼻血で済んでいる。さすが。

 

「こんなもの抱えて今までそんなテンションでいられたのか……!君、やっぱイカれてるよ。間違いない」

 

「ちょっと違いますよ。私は多分、高専に入らなかったらいつかここに自分から行って溶けてた。でも、みんながいるから私は現実に私の居場所を確保できている。五条先生、あなたも含めたみんなが私を現実に引っ張ってくれてるんです」

 

「何?告白?僕らが引っ張ってるだけじゃないだろ。君が自分で留まろうと踏ん張っているんだよ。僕らはそれを助けてるだけさ」

 

「ふふっ……あとは我慢比べですよ五条先生。領域の押し合いで負けた方が食われるんですから」

 

 『死』を呑み込もうとする『無限』と『無限』を殺そうとする『死』がぶつかり合う。情報量の多さに空間が悲鳴を上げてひび割れる。ぶつかり続けると世界の方が先に音をあげそうな自らの本質によるぶつかり合い。掌印を結ぶことで領域の強度を上げる五条先生と今一度召喚器で自らを撃ちぬくことで死の濃度をあげる私。

 

 ビキ、バキバキ……と領域に罅が入る。無限が死を呑み込み、死は無限を殺しかけている。問題なのがどっちも消えずに累積し続けていること。ただでさえ特大の容量を持つ概念が二つもぶつかり合って膨張し続けているのだ。結界は内からの攻撃にめっぽう強いとはいえ……壊れないわけじゃない。

 

 パキィン!と甲高い音をたてて結界が崩壊する。世界の中に沈んでいた私たちが急浮上して現実に引き戻された。バッシャン、と音をたてて海水の中に放り出された私が慌てて呪力で自分を強化して海面に顔を出す。

 

「詰みだよ」

 

「……みたいですね」

 

「いや、冗談。引き分けだね。琴音、まだ何かあったりする?もう何が出てきても驚けないけど」

 

「もーなにもないです。あ、そうだ。ていっ!」

 

「おっ!?」

 

 島を消し飛ばしたので領域から放り出されたらそりゃ着衣泳になる。で、私の背後に浮かんできた五条先生に背後をとられたわけだ。領域を使った直後なので術式は焼き切れて使用不可能、純粋な呪力操作と身体能力で五条先生に勝てるわけないのでほとんど詰みだ。

 

 戦闘態勢を解いた術式が使えない術師二人。これだけやってこの結果はまあ、大健闘だと言っていいでしょう。振り向いて五条先生に抱き着く。思いっきりやらせてくれたことに、胸を貸してくれたことに感謝して。すべてを出し切ることのなんて気持ちのいいことか。

 

「すっごく楽しかったです!」

 

「そりゃ僕もさ!」




島「ただ存在してただけなのに消し飛ばされた、訴訟」
ジャッジマン「無罪」

ニュクスは勘案しないとかほざいてましたけど組み込めそうなので組み込みました。理論的には70億の無意識化の死への恐怖で構成された呪霊みたいなもんでしょうか。ちなみにゴジョセンじゃなかったら月が昇った瞬間に死んでます。そりゃそうだ。普段の領域が潜在能力覚醒型としたらこっちの方は無量空処と同じ必中必殺型ですね。あ、さらっとやってますけど極の番はミックスレイドです。技名は召喚するペルソナによって変わりますけども。
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