ドルオタゴリラ呪術師とリアルロシアンルーレットチンチクリン   作:カフェイン中毒

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第三十話 宿儺ってもしかしてカワイイ?

「それでなんだけど、詳しいところ教えてくれる?」

 

「とりあえずなんですけど虎杖君自体不可解ですね。学校に宿儺の指が封印されていた、これ自体もまずおかしいです。百葉箱ですよね?んな馬鹿なって思いません?」

 

「それは僕も思う、箱と呪符を見る限りどう考えてもそれなりの術師が封印を施してる。そこまでして学校の百葉箱におくなんてありえない。恵には学校の悪習だって話してるけど特級呪物を魔除けにするには劇毒が過ぎるからね」

 

「虎杖君の生物としての強度、たまたま宿儺の魂全てに耐えられる耐性……で、なぜかその宿儺の指が封印された学校に通っていてさらにたまたま宿儺の指を拾う?まあ指を呑み込んだのは本人のイカれ具合のせいでしょうから別として偶然が3つ重なったら流石に疑いの目を持ちたくなっちゃいます」

 

「仕組まれてる、あるいは流れに乗せられてると君は言いたいワケだ」

 

 はい、と私は五条先生に頷いて見せる。本来なら温かいご飯でも作ってあげて新しい後輩たちも含めて絆を深めたいところではあるけど、一応お仕事としてここにきているので私はいま五条先生の奢りでなんかとてもお高そうな料亭で夜ご飯をいただきながら、虎杖君とその周りについての所感の情報と私の考えを五条先生に話していた。

 

 大体の話は伏黒君から聞いた。宿儺が虎杖君の体の一部を乗っ取って話し出した時点で話したことは宿儺にも筒抜けになると考えた私はあの場で核心的なことは言わずにふわっとした所感と大体のペースの目安を伝えるだけにとどめた。おそらく虎杖君は上に謀殺されるとは思うけどそこらへんは五条先生にお任せすることになる。

 

「じゃあ、詳しい話をしますね。虎杖君の魂の強度自体はお昼に話したのと変わりません、が……一気に5本とかそういう過剰な量の指を取り込んだ場合キャパシティが一瞬超えます。おそらくその瞬間宿儺に乗っ取られるでしょう」

 

「それで戻らなくなる可能性は?」

 

「ない、とは思いますがこれが例えば虎杖君が宿儺と何かしらの縛りを結べばその限りではないかと。一応宿儺にも聞かれてる前提で警告はしましたけどあまり本気で考えてはないですね。まだ呪術に現実感がないからだと思います」

 

「現実感がない、ね……一応死にかけてるんだけど」

 

「彼はまだ呪いが見える一般人の範疇を出てないってことですよ。まだ里香ちゃんの脅威を認識していた乙骨君の方が万倍マシって感じでしょう。彼がそれを実感した時に、どうなるかです」

 

 手厳しいね、と五条先生は六眼を細めて和紙の上に置かれた天ぷらを箸で取って口に運んだ。手厳しいというよりも心配なんだよね、私は。虎杖君は呪術のことを現代に残っていたファンタジーのような認識でいると思う。おおむね正しくて致命的に間違った認識だ。夢と希望にあふれた冒険譚じゃないんだよ、血で血を洗う、負の感情で負の感情を討ち果たす、同じ狢の醜い小競り合い。それが私たち呪術師の世界なんだから。

 

 澄んだお出汁のお吸い物を口に運ぶ。ん、ハマグリベースの合わせ出汁だ美味しい。私と虎杖君は同じ一般出身だけど出発点が違う。幼い頃から術式を扱って無意識につながり続け呪力の素と親しくしていた私と普通に暮らしていた彼を比べてはいけない。実際問題として虎杖君のイカれ具合は呪術師としてふさわしいものだ。だからこそ、怪しいんだ。彼じゃなくて、彼の周りに巣くうものが。

 

「それと、言うべきか迷いましたけど言います。伏黒君も宿儺の受肉に耐えられます。ただ、虎杖君ほどの強度はないので受肉の時点で乗っ取られるのは確定です。取り込んでも即死しないだけ、ともいえますが」

 

「……マジで君呼んどいてよかったよ。一歩間違ったらあの時点で宿儺が恵を使って受肉してたのか。わかった、ありがとう。約束通り奢るから好きなもの食べな」

 

「割ともうお腹一杯なんですけど。テーブル一杯に料理並んでるじゃないですか」

 

「残してもいいから好きなもの摘まみなさいよ。料理に手を付けない前提の料亭だけど味はいいんだ。そういう用途専用ってワケ。次からは一見さんじゃないからキミも利用できるよ」

 

 勿体ない!何でそんな悪い政治家みたいなことしなきゃいけないの!でもあれも美味しいコレも美味しい!料理人の腕がいいし素材もいいから出るこのお味を捨てるだなんて!えっしゃーやけ食いじゃあああああ!

 

 

 

 

 

「見るだけに飽き足らず潜っても来るのか小娘。しかして触れないあたり弁えてもいる。いいだろう、用件を手短に話せ」

 

「え!?ここどこ!?なにこれ!?」

 

「あれ?虎杖君もいるんだ。中を自覚できる人は稀らしいんだけど」

 

「俺がいるからに決まっているだろう。小僧にとって俺は異物だ。自らの内に生じた生得領域が変質して気づけん無能でなくて安心したぞ」

 

 テメェ一応異物って認識あったのかよ!?とヘンな形の動物の骨と血でできたような世界にいつの間にか立っていた俺は骨の山で頬杖をついてこちらを見下ろす俺の顔をしたヤツ……宿儺に対して悪態をついた。妙に上機嫌な宿儺が見ているのは俺じゃなくてちょっと離れたところで宿儺に手を振っていた小さな女の子だった。

 

 汐見琴音先輩、昨日の午後に急に五条先生が連れてきた京都にもあるらしい呪術高専の3年生の先輩。オレンジ色っぽくて明るい茶髪をポニーテールにしてる。身長はかなり小さくて自称最強らしい五条先生と引き分けたって伏黒から聞いても全然そうは見えなかった。まあ一撃で気絶させられたんだけどさ。

 

 先輩を見てまず思ったのは『キレイ』だな、っていう感想だった。五条先生の後ろから明るく挨拶をして現れた先輩、普通なら小さくてかわいいとかそういうのが先に来るんだろうけど俺の感想は『キレイ』だった。カワイイとか美人とか超えて、美しいっていう形容詞ってヤツがそっくりそのまま当てはまる感じって言えばいいのかな。

 

 伏黒が先輩を見て素直になって近づいていくくらい信頼してるっぽいのをみたらまあ言ってることはほんとなんだろなとしか思わなかったけど喧嘩に自信アリだった身としては投げ飛ばされてノックアウトはダサすぎる。力負けしてるわけじゃねえのに。

 

「んー、まあ宿儺とはお話しに来たんだよ。相互理解を深めましょうってね。ほら、相手を知って己を知れば百戦危うからずっていうでしょ?」

 

「呆れたな。まだそんな段階にいるのか?そも呪いに理解を求めるなど……愚者の所業だ」

 

愚者(フール)は白紙を意味するんだよ。つまり何でもできてなんにでもなれるの。それと、あなたに理解を求めるんじゃなくて私があなたを理解したいんだ」

 

「なあ、汐見先輩。ここって」

 

「えーとね、ここは生得領域って言って、端的に言えば虎杖君と宿儺の魂の中かな。まあ顔つき合わせて宿儺と話したかったからお邪魔したの。ちょっとした裏技でね」

 

「タヌキが。他者の生得領域に当たり前のように自らの魂を潜り込ませるなど妙術程度で済ませられるか。小僧、覚えているだろう。貴様がまたこの小娘に無様に投げられ気をやったのを」

 

 宿儺にあざ笑いながら言われて初めて俺が何をしていたのかを思い出した。朝飯食って、そんで汐見先輩に会ったから稽古つけてくださいってお願いしたんだ。先輩はいいよー、と快諾してくれて組手をやらせてもらった。割と長く打ち合えたと思ったんだけど、最後に投げられてこうなった。負けたんじゃねえかチクショウ!

 

「ふん、俺を相手に恐怖することもなく笑みを浮かべるか。やはり術師はどの時代も厄介だな。小娘、何が聞きたい?」

 

「うーん、じゃあとりあえず聞くんだけど人間社会と共存するつもりはある?」

 

「あるワケなかろう、下らん」

 

「っ!先輩!宿儺テメェ!」

 

「喚くな。何もできん貴様とは格が違う、見ろ」

 

 つまらなそうに宿儺がそっぽを向いて答えた瞬間先輩が立っていた場所が格子状に切り刻まれた。話してる途中で不意討ちなんかした宿儺に対して怒鳴っても嗤うだけだ。先輩、こいつあんたが望んでるような答えは絶対ださねェよ……!宿儺に促されて攻撃の爆心地を見る。

 

「んー、まあそれが普通だよねえ。やっぱり里香ちゃんみたいにはいかないかあ。それじゃあ次、趣味とか好きなことは?」

 

「ケヒヒ、見合いか何かか?女子供を鏖殺することだ、気分がよくなる」

 

「趣味悪~~。でもソレ嘘でしょ。好きだけど一番じゃない、そうだな~~……食べることが好きなんでしょ?虎杖君がご飯食べてるとき中で興味ありげに観察してたじゃ~~ん」

 

「え、何宿儺お前マジで?」

 

「殺すぞ、小娘」

 

「あ、図星~~~」

 

 ケラケラと両手で宿儺を指さして笑う汐見先輩が何も変わらず、何事もなかったようにそこに立っていた。攻撃されたっつーことがなかったかのように次の質問を投げかける汐見先輩。わかんなかった。汐見先輩がどうやってあの攻撃を防いだのか、そもそも何をされて何をし返したのかすらも。俺は、何もわからないんだ。

 

「食うことは確かに好みだ、鏖殺以外は娯楽なんぞそれぐらいしかない。所詮人生なんぞ死ぬまでの間の長い暇つぶしにすぎん」

 

「でも死にたくはないワケでしょ?潔く死ぬんじゃなくてこうやってモノになり果ててまで魂を現世にとどめてるんだから」

 

「違うな、死んでもよかった。だがそれよりも面白いことになると嘯く輩に唆されてな。1000年ぶりに吸う空気は確かに美味かったぞ」

 

「いまの排ガスたっぷりの空気よりも平安の澄んだ空気の方が美味しいと思うけどね~、じゃあ聞くんだけど殺しより面白くて興味の出ることがあったらそっちの方楽しむ?」

 

「………………さぁな」

 

 少しの間宿儺は目を開いてぽかんとした顔をした。思わぬことを問われたみたいな感じで。本当にそんなことを考えたことがないんじゃねえかって思える顔だった。その顔を見た汐見先輩はニヤッと笑う。明るい笑顔じゃなくて明らかに悪いこと考えてる顔だった。宿儺はそれを見て本気でイラついた顔をしていた。けど何もしない、いやできないんだ。宿儺は多分、今のままじゃ汐見先輩をどうにかできないと自分でわかっているから。

 

「貴様と話すと俺の調子が狂う、さっさと帰れ。追い出されたいか?」

 

「うーん、まあ虎杖君をこれ以上拘束するのもかわいそうだしここまでにしときましょう。一応は聞きたいことも聞けたし~~~。すっくんってばか~わ~い~い~」

 

「誰がすっくんだ腐れ小娘。達磨にして飼ってやろうか?いいや、手足があってもなくても変わらんな寸足らずめが」

 

「なにをー余計に色々贅沢オプション付けてるくせに。あ、でもそれなら虎杖君を殺すっていうことだよね。じゃあ帰る前に一つ」

 

 汐見先輩の背後、赤黒い空がひび割れる。向こう側の景色は何もない夜空に浮かぶ満月だった。優しいそよ風が頬を撫でる。だけど、その光景は俺にとって未曽有の怖さが襲い掛かってくるものだった。喉が干上がって声すら出ない。俺の方に歩いてくる先輩が死神のように思えてならない。宿儺は心底楽しそうに笑う余裕があるのに。

 

「私、身内に手を出されるの死ぬほど嫌いなの。魂ごと死にたくなかったら虎杖君が一生を終えるまでその狭い生得領域で黙って何もせずにすごしてて。この向こうに行きたくないのならね」

 

「くくっ……クハハハハハ!いいや、決めたぞ汐見琴音!貴様は何があろうと俺が殺す!誰にも邪魔はさせん!貴様が繋がる先をもすべて蹂躙し、貴様の髑髏を盃にその血を飲み干してくれる!」

 

「なーんて物騒なラブコールでしょ。ほい、じゃあ帰るよ虎杖君。ていっ!」

 

「うわっ!?」

 

 汐見先輩が俺を突き飛ばすと、感覚だけ急激に浮上していくみたいな感じになって宿儺の姿も先輩の姿も遠くなっていった。宿儺のことはどうでもいいけど、満月に吸い込まれるように浮かんでいく汐見先輩に必死に叫ぼうとするも声が出ない。その先に行っちゃだめだ、何もわからなくても本能でそれがわかる。意識が浮上して、何も見えなくなった。

 

「っっ!!先輩!?」

 

「お?帰ってきたね虎杖後輩。いやー、お邪魔しちゃって悪かったね?どこか変な部分はあるかな~~?」

 

「……先輩は、あの、あそこ通って平気なんすか。さっきの、満月のとこ」

 

「あー、そうか。宿儺とつながってるんだから感じ取れちゃうのか。怖がらせてごめんね?私は平気だからさ」

 

 ハッと目が覚めると目の前にはドアップの汐見先輩の顔。後頭部には柔らかい感触、膝枕されてるという事実の感想が出てくるよりも先に先輩が心配になってしまった。眉を寄せて困り顔になった先輩が俺を安心させるようにぽんぽんと頭を撫でてくれる。一安心して力が抜けた。顔を横に向ければ……心底気持ち悪いものを見る顔をした釘崎と、露骨に視線を逸らす伏黒に両手で2台のスマホを構える五条先生の姿が。シャッター音と共に俺は全力で起き上がり言い訳を始めるのだった。




 無意識経由で他人の意識に突撃隣の晩御飯をする主人公。これ、術式反転です。無意識から意識を掬い出しペルソナ化が術式順転で反転をすると自分が無意識に沈むことができます。ペルソナ5でいうメメントスみたいなもんでしょうか。ちなみに反転呪力はペルソナ経由で使ったので相変わらず反転術式は使えません、かなしいなあ。
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