ドルオタゴリラ呪術師とリアルロシアンルーレットチンチクリン   作:カフェイン中毒

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第七話 ブラザーとシスターと交流戦

 退屈が裏返る感覚、というのを俺は2回経験している。一度目は小学生の時、俺にナメた真似をした上に喧嘩を吹っ掛けてきた高校生をノした時。背後からかけられた女の趣味を尋ねる声に……特級呪術師九十九由基の質問に答え呪術の世界に飛び込んだ時。忘れもしない、今の俺の始まりの記憶。

 

 だが、その裏返った退屈も長続きはしなかった。我が師匠(マスター)の薫陶を受けた俺はしごきに耐えられるようになった段階で師匠の手を離れた。ただでさえ強かった俺自身のせいで呪いを祓う時ですらあくびが出ることすらあった。また退屈な日々が戻ってきたのだと、またこの空虚に耐えなければならんのだと勝手に納得し、諦めてすらいた。

 

「むぅんっ!!!」

 

 呪力が迸り、木人形を粉みじんにする。日課の鍛錬、最早作業と化していたそれにこれほどまでに熱が入ったのは師匠に見いだされ、死に瀕するような訓練を受けた時以来かもしれない。山となった木人形の残骸を見下ろし、黒い火花が飛び散ることがなかった拳を握り締める。

 

「東堂、いつにもまして荒れているな」

 

「それはお前もだろう、加茂よ。柄にもなく必死に汗をかく、珍しく面白い姿だ」

 

「当たり前だろう?私は加茂家の嫡男なんだ、必死にだってなる。置いて行かれたと分かったのならなおさらだ」

 

「……お前にしてはつまらなくない理由だ。ああ、そうだ。俺は汐見(シスター)に置いて行かれた。任務から帰って来た汐見を見たか?呪力の理解が別人になっていた」

 

「黒閃を決めたんでしょ、じゃなきゃああはならない」

 

 自らが操る箒で曲芸飛行のトレーニングを行っていた西宮が戻ってきてそう付け加える。昨日、二級術師として初めての任務に単独で赴いた我が超親友(シスター)、汐見琴音が帰還した。だが、挨拶だけを済ませた汐見はそのままジジイと歌姫先生に連れていかれ一度も帰還していない。

 

 2度目の退屈を裏返した存在、汐見琴音。つまらなさの余韻から抜け出せずにいた俺の退屈を裏返すどころか粉々に打ち砕いたヤツ。初めて教室で出会ったときからどこか違うと感じていた。一度は聞くと決めていた女の趣味の話に臆することなく合わせてきたうえで俺と息を合わせた小さな女。

 

 俺と同じ一般の出だからか術式はあれど呪力の操作はまるでド素人、だが……なぜか強者特有の凄みがあった。その直感はその後現れたMr.五条によって確信に変わる。現代最強の術師が認める……特級呪術師としての才能、近くにあるだけで死を想起させる特級呪具で顔色一つ変えずに自らの頭を撃ちぬく精神性……退屈とは対極にある姿、運命だと感じざるを得なかった。

 

 見た目は俺の趣味じゃあないが、中身は俺の運命、一生に一度巡り合えるかどうかの比翼の片割れ。逃がすつもりなんぞ微塵もわかなかった。柄ではないと理解していてなお呪力操作のレクチャーを買って出た。認めよう、俺は汐見琴音という小さな呪術師に魅了されていたと!

 

 ヤツは天才だった。ただ一度見本を見せただけで初歩の呪力操作をあっけなく行って見せた。あまつさえそれだけで呪力の基本へのアプローチの理論を理解した。ああ、汐見よ。その呪力操作に行きつくまで普通の術師がかける年月を知っているか?理論を理解できても実践に行きつくまでどれほどかかるのが普通かわかるか?その成長の速度は蛹からの羽化ではなく、時間操作に等しいほどだ。

 

 悪魔じみているほど美しい(かんばせ)をわずかにゆがめただけで俺からありとあらゆるものを吸収していく汐見に、我慢できなくなったタイミングで掛けられた模擬戦の誘いにやはり記憶通りに息が合うのだと心と体がわかっていた。

 

 蹂躙はしてきても戦闘はしてこなかったらしい汐見だが、手強かった。呪力で防御してもなお手を焼きかける炎も。覚えたての呪力操作で威力を増したペルソナの一撃も、攻防一つで階段をすっ飛ばして駆け上がって強くなり続けるのも素晴らしいとしか言えなかった。

 

 クソジジイに中断されてしまう最後の攻防で完全に俺を出し抜いて投げ飛ばしペルソナの攻撃に合わせた位置に追いやられた時は封印すると決めていた術式を使わされてしまった。つまらん学友のことなんぞもうどうでもいい、こいつさえいれば俺が退屈に陥ることはないともう骨の髄まで理解したのだ。

 

 木人の在庫がなくなったので適当な木の前に歩いていき、拳を振るう。一撃で樹木はへし折れ、木くずが飛び散る。そして、黒い火花が微笑むことはなかった。苛立ちを隠しきれない。汐見(シスター)は此度の任務で羽化した。それは体内の呪力を見れば察することができる。黒閃を発動し自らの呪力の本質を魂で理解したのだ。そしてそれは、俺が置いて行かれたことを意味した。

 

 汐見が強くなることは喜ばしいことだ。汐見はもともと特異な術式を危険視されて呪術界の上層部に殺されてもおかしくない存在。それを跳ねのける力を身につけろとMr.五条からも言われていた。だが!強さゆえの孤独!そして人とかかわることを好む汐見を!独りにしていいというのか!

 

 否!否否否否―――――断じて否!あの退屈を、つまらぬ日々を汐見(シスター)に味わわせる?己がそれに辟易していたのを忘れたか東堂葵!我が心と魂を救った無二の盟友を先に進ませ己が足踏みするなどあってはならん!それは俺では、東堂葵ではない!

 

 今の俺では黒閃を撃てないかもしれない、だが!それを俺が盟友を諦める理由になりはしない!足りないならばかき集め、必要ならば構築する!呪術師でありたいのならば、歩みを止めず、歩みを早め、いつか必ずその背に手を置き隣に並ぶと誓うのだ!

 

 琴音(マイシスター)よ、今は先に進むのを許そう。だが、いつか必ず隣に立つ。いや、いつかではない。今この瞬間にもだ。お前が歩みを進めるように俺も先にいるお前に走り寄ろう。その孤独を俺が癒し、二度とその沼に陥らせぬと今ここに宣言する。東堂葵は、汐見琴音を救わねばならないと。

 

 

 

 

 

「特級術師になりました~いえーい」

 

「そうか、おめでとうだ琴音(マイシスター)

 

「なーんかまた関係性が進んでる気がする~~」

 

「いやいやいやいやいや、琴音ちゃんちょっとそれほんとなの?大丈夫なのいろんな意味で?」

 

「……正直、私は汐見が秘匿死刑に処されるとしたら家に反対を申し入れるつもりではあるが、そこらへんは大丈夫なのか?」

 

 どうも、夏油さんと一発やり合って名誉男子認定されてから2週間くらい経ちました。一般特級呪術師になった汐見琴音です。気持ちは二級術師、コンゴトモヨロシク。だって手加減されて見逃されて昇格って納得できる?私は一切できない、でも悪いことだけじゃなかった。

 

 最悪の呪詛師、夏油傑。五条さんの同級生にして特級術師だった彼はある日何を思ったかとある村の住人100人超を呪殺し高専から除名されてしまった。だけど腐っても特級術師、単独で国家を転覆できる人間として認められた呪術師だ。対抗できるのは五条先生ともう一人らしいんだけど……

 

 問題なのは五条先生は呪術界の上のことが大っ嫌いで権力に滝登りする上から見たらやべーやつでもう一人の九十九さんも独自に動いていて呪術界の好きに使える対抗戦力がいませーん!とのことらしい。そんでちょうどよく夏油さんを撃退した(ように見える)私が来たわけらしいと五条さんは言ってた。

 

「んー、詳しいことは言うなって言われたから言わないけど、私が死刑にされることはなくなったっぽいよ。自由の身!」

 

「そうか、それはよかった。東堂じゃないが私も君のことは心配だったからね」

 

「くだらん話だが理不尽が消えるのはいいことだ」

 

「と、いうわけで!帰って来たので誉めて誉めてー!」

 

 ほっぷ、すてっぷで東堂君の肩の上に座った私が両手を広げて誉めろ~と言ってみるものの皆の反応はなんだか冷ややか。いやわかるんだけどさ、軟禁されて全く連絡取れなかったのは事実だし。ね~東堂君せめて頭の一つでも撫でてよ~。えへへ、ありがと。さて歌姫先生お話どうぞ!

 

「と、まあ1年生が全員揃ったところで話を始めるよ。とりあえずそのままでいいから聞いてね。今年度の姉妹校交流戦について何だけど、代表者として東堂と汐見が行くことが決まった。他は2年生と3年生だ」

 

「ほう!ついに汐見と肩を並べられるのか!心が躍るじゃないか!」

 

「お~~。よくわからないけどやった~~」

 

 ばんざーい、と両手をあげる。姉妹校交流戦ってあれだよね、京都校と東京校で集まって呪術の競い合いをするイベント。それに、1年生の代表として選ばれた!これすごくない!?やったー!あれ、でも加茂くんと桃ちゃんは……?

 

「汐見、呪術師は実力主義だ。代表として選ばれなかったのはすべて私の実力不足の責任。君が考えることじゃない。むしろ、君と東堂なら確実に勝ちを拾えると私は思う。呪術の本家の底力をかましてくるといい」

 

「……正直なところ問題が一つあるんだ、結構大きいやつ」

 

「?歌姫先生、その問題って?」

 

「2年、3年が東堂が出るならボイコットするって言ってんだ」

 

「ボイコットって選択肢があるんだ!?」

 

「そういえば上の学年の人全員の性癖尋ねてボコボコにしてたっけ東堂君」

 

「なんか最近上の学年の人たちに変な顔されるって思ったら東堂君が原因だったの!?」

 

 こう言ったらなんなんだけど、京都校の上の学年の人たちはあまり強くないらしい。3年間東京校に姉妹交流戦で負け続けているのがそれを表している。一番上が東堂君と同じ二級呪術師しかいないってなればまあ、しょうがないようなそうでないような。

 

 東堂君も東堂君で血気盛んというか、周りの評価に頓着しないというかとにかく自分勝手なところがある。だから、上の学年の人たちにも躊躇なく嚙みついて結果勝ってしまっている。勝ってしまっているのが問題なんだよねえ。呪術の総本山の名家の血筋の人たちがプライドズタズタってわけさ。

 

 結果私以外の全学年に露骨にあるいはうっすらと嫌われている現在の東堂君の完成ってわけ。それにほら、京都のいい家の人ってどこか根に持つというかネクラというか呪術師っぽい気風だからボイコットもやむなしって感じなのかな。おかしいなあ、昇級のチャンスをふいにするなんて。ああ、家お抱えの呪術師に推薦してもらえばいいからそこらへん関係ないのかな?

 

「これだけ嫌われている東堂の隣にいつもいるのになんで君は先輩たちと仲がいいんだ?」

 

「笑顔で挨拶して顔と名前を憶えてすごいことはすごいと言う、コミュニケーションなんてこれでいいんだよ加茂君。呪術師って個人じゃなくて術式とか家柄ばっかみるじゃん?そんなのギスギスするだけだよ~」

 

「その中で琴音ちゃんが仲良くなってるのが不思議って話でしょ」

 

「あー、話を戻すんだけど汐見も出るって言ったらそれならまあ、と渋々ボイコットは解除になったんだが、とにかくこれ以上刺激しないでよ東堂!」

 

「知らん、と言いたいところだが琴音と組ませてもらう礼として向こうから絡んでこん限り俺からは何もしない。それで構わんだろう?」

 

「まあとりあえずそれでいいよ。あー琴音、万が一やらかしたら上のやつら宥めてやってくれ……!私も手伝うから……」

 

 歌姫先生が胃を押さえながらそんなことを言うので、私はハイと東堂君の肩車の上でそういうしかなかったのだった。東堂君はどこ吹く風だけど流石に自由奔放がすぎるぞ、とぽかんと頭を叩いてやる。かっっった!東堂君はどうしたらコミュニケーションをまともにとれるようになるかなあ?お母さんは心配ですよ。

 

 それにしても東京かぁ、楽しみだな。一回も行ったことないんだよね私。えーと、東京の新宿とか渋谷とか竹下通りとかでおしゃれアイテム探して、化粧品とお土産たくさん買って。それとそれと観光もしたい!夢が広がるなあ。先輩は経験者の人もいるみたいだし、どこがおすすめか聞こうかな。今度お家にも誘われてるんだよねー、美味しいもの食べさせてくれるって!

 

「あ、そういえば東堂君知ってる?高田ちゃんの握手会東京でやるって」

 

「ああ、もちろん知っているとも。琴音(マイシスター)はまだ未参加だったな?どうだ、一緒に来ないか?」

 

「いくよーいくいく!東堂君好きだもんね!私アイドル知らなかったけどハマっちゃったよ!」

 

「さすがだ、よし!そうと決まれば準備をするぞ!」

 

「おっけー!たんたかたーん!だ~~!」

 

 最近東堂君におすすめされた高田ちゃんというアイドルにすっかりハマった私は彼女の曲をヘビロテ真っ最中。そのアイドルがやる握手会がちょうど交流会の日にちと重なるのである。これはぜひとも参加したい。できれば法被とうちわは作りたいくらい!あー!たのしみ~~!




 描写できてるかどうかはわかりませんがこの作品のハム子は陽の塊です。コミュ強です。いつの間にか友達になってます。ペルソナQ2で言われていたくらいのコミュニケーション強者です。これもペルソナ主人公の性よ。

 さて次回は交流戦になりますね。期待に沿えるかわかりませんが頑張ります。
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