「うぇぇーん!お兄ちゃん!怖かったよ!」
俺が岩沢と元の部屋に戻ってくると、いきなり初音が俺に抱き付いてきた。
「初音、何があったか知らないが大丈夫だ。お兄ちゃんが付いているからな」
とりあえず俺は初音を抱き締めて頭を撫でて安心させる。
「で、日向。何があったんだ?」
「目がマジでこえぇよ。復活した野田が初音ちゃんに絡んでビビらしたんだよ」
「馬鹿な!野田だと!奴は死んだはず!」
まさか地獄の縁から蘇ったというのか!?
「元から死んでねぇ!」
「藤巻は関係ないから黙ってろ」
「何回、間違えんだよ!もうわざとだろ!俺は野田だ!」
あれ?そうだっけ?まぁ、どっちでも一緒だから気にしなくていいか。問題は初音を泣かせたことだ。
「じゃあ、とりあえず貴様はぶち殺し確定だな」
「やれるもんならやってみろ!」
「いつまで私を無視するのよ。野田くんは邪魔だから黙っていて」
そう言うとゆりは野田に向かって椅子を投げ付けた。
「グワッ!」
野田は気絶した。相変わらず、すぐに殺られるな。
「遊佐さん、ゴミを片付けてくれる」
「分かりました」
遊佐が野田を引きずって、どこかに向かう。
「じゃあ、ゴミもなくなったところで本題に戻るわよ」
「ちょっと待て!野田はどこを連れていったんだ!?て言うか、死んでねぇよな!?」
日向がうるさくツッコむ。正直、俺の手で殺れなかったのは残念だが、初音を怖がらせる存在が消えたならそれで良い。
「うるさいわね。音無くんが中々、戻ってこなかったおかげでもうすぐ下校時間になるから早く話をしたいのに」
意外なことにゆりは下校時間を守るのか。変なところで律儀だな。
「それなら明日でも良いだろ!野田は大丈夫なのか!?ここは死後の世界じゃないから死んでも生き返らないんだぞ!」
「死後の世界とか意味の分からないことを言ってんじゃないわよ。どうせ焼却炉で燃やされてるだけよ」
それなら安心だな。遊佐が仕事を失敗するわけないし。
「いや、何も安心できねぇよ!」
「うるさいですね、先輩。彼女の私を放置して燃えるゴミの心配をするんですか?もしかしてあっち系なんですか?」
ユイも復活していたのか。よく見たら関根も復活しているな。
「訳の分からないことを言ってんじゃねぇよ!」
日向がユイに毎度の如くプロレス技をかける。これで邪魔者は排除されたな。
「やっと本題に入れるわね。というわけで、音無くんと初音ちゃん。私の部活に入りなさい」
「何でそんなに俺らに入れたがるんだ?別に目的のある部活じゃないんだから、そこまで拘らなくてもいいだろ」
そろそろ初音が毎週、楽しみにしているアニメが始まるから早く帰りたい。
「よく聞いてくれたわね。音無くん、この部活のメンバーを見て足りないのは何だと思う?」
「知性」
何を当たり前のことを言ってるんだ?この部活の、特に野郎共は馬鹿ばかりだ。
「そう、この部活には知性が足りない。私が支配する組織が馬鹿だというのは耐えられないのよ」
だったら最初から頭の良い奴もメンバーに入れておけよ。
「そこで音無くんよ。日向くんに聞いた話だと医者を目指してるんでしょ?だったら野郎共のどうしようもない馬鹿をフォーロー出来るはず」
なんて期待をするんだ。こいつらの馬鹿さ加減は並じゃない。フォーローなんて不可能だ。
「……あの僕は馬鹿じゃないですよ?テストも学年でトップクラスですし」
冴えない眼鏡がゆりに反論する。竹山だったか?確かに竹山はパソコンが得意らしいし、頭は良いはずだ。
「竹山君は黙ってて」
「ですから僕のことはクライ――」
「後、知性以外にも足りないものはあるわ」
ゆりが竹山の台詞を遮って言う。他に足りないもの?何だ、それは?金はよく分からないが足りているだろうし。
「それは癒しよ。こんなむさ苦しい野郎共ばかりでは癒しが足りないのよ」
ああ、確かにそうだな。戦線の皆は馬鹿騒ぎをするにはいいが、休みたい時とかの癒しには向かないよな。
「何を言ってるんですか、ゆりっぺ先輩。癒しならみゆきちがいるでしょ?」
「ちょ、やめてよ、しおりん」
今度は関根が入江に抱き付きながら反論する。関根がどさくさに紛れて入江の胸を揉んでるような気がするが気にしない。羨ましいとかは思わない。
「確かに入江さんは癒し系よ。でも、バンドの練習があるからあまり来ないじゃない。それに入江さんだけでは、このむさ苦しい空間を癒しきれないわ」
確かにそれは言えてるな。後、一人はほしいところだ。
「だったら、ひさ子さんのこのデカイ胸とかはどうですか?揉み心地は最高ですよ」
「何を馬鹿なことを言ってるんだ、お前は!」
ひさ子が関根に拳骨を食らわせる。関根も学習しないな。
にしても、ひさ子の胸の揉み心地か。興味があるな。
「……弦結」
「……お兄ちゃん」
かなでと初音から白い目で見られる。何で俺の考えていることが分かったんだ?
「まぁ、馬鹿は放っておいて、その癒しのために初音ちゃんも入ってほしいのよね。初音ちゃん、可愛いし」
「確かに初音が可愛いのは認めるが、この基本的に馬鹿でむさ苦しい部活に初音を入れることに罪悪感はないのか!今後、マトモな学園生活を送れなくなるぞ!」
「んー、確かにそれは問題よね。でも、マトモな学園生活は送れない代わりに普通では体験できない学園生活を送れるわよ」
まさか傍若無人なゆりに人を気遣う心があったなんて!
「……何か失礼なことを考えなかった?」
「いやいや、何も考えていないぞ!」
俺はそんなに考えが顔に出るのか?
「まぁ、いいわ。もう下校時間だから初音ちゃんが入るかどうかの返事は明日聞くわ」
そう言うと、ゆりは立ち上がってそそくさと帰っていく。何て自由な奴だ。
て言うか、返事を聞くのは初音の分だけなのか?つまり、俺の入部はゆりの中で決定しているのか?
何故か野田の扱いが酷いことになってる。もしかしたら次回、死んでいるかもしれない。さすがにそれはないと思うけど。
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