ある魔法学者の手記 ―蘇生とネクロマンシーの境― 作:AI小説
# 『アルケインの遺言──或る蒐集者の手記より』
## 第一部:異端刈りの起源について
### 序
私の名はエルヴィン・ド・ラーシェ。魔法史学会に籍を置く一介の蒐集者である。
この手記は、協会の公式記録が決して語らない「不死者異端刈り」の真実を、私なりに再構成したものだ。公文書は常に結論を急ぐ。しかし歴史の本質は、結論に至るまでの逡巡と誤算にこそ宿る。
以下に記すのは、二百四十年前、B帝国辺境で発生した「■□将軍事件」──協会が"Case-Sigma-7"と分類する事例──に関する断片的記録である。
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### 第一章:定義の欺瞞
協会は「不死者」を次のように定義している。
> *人間として想定される寿命を超過し、社会的・生物学的・精神的に人間性の維持が困難になった存在*
一見、学術的で中立的な定義だ。
だが、私はこの定義に潜む**欺瞞**を指摘せざるを得ない。
なぜなら、この定義は**結果**を述べているに過ぎず、**過程**を無視しているからだ。
不死者は、ある日突然「人間性を喪失」するわけではない。彼らは長い年月をかけて、少しずつ、気づかれないように──そして本人すら気づかぬまま──変質していく。
問題は「いつ」人間でなくなるかではない。
**「誰が」それを判定するのか**、である。
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### 第二章:限界の算出根拠
協会が提示する理論的限界寿命──300年から500年──は、どのようにして算出されたのか。
公式記録には「長期観測による統計的帰結」とあるが、具体的な被験者数も手法も開示されていない。
私が古文書館で発見した断片資料によれば、この数値は**たった十七例**の観察から導き出されている。
十七例。
それも、全員が戦闘系魔術師である。
学者、芸術家、行政官──非戦闘系不死者の観察記録は、ほぼ皆無だ。
つまり協会の「限界」とは、
> *戦う者が戦えなくなる時期*
を示しているに過ぎない。
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### 第三章:症状という名の烙印
協会が列挙する「限界到達後の共通症状」を再掲しよう。
* 長期記憶の断絶・混線
* 情動制御の破綻
* 社会的文脈理解能力の低下
* 自己と他者の境界の曖昧化
だが、これらは本当に「不死者固有の症状」なのだろうか?
老年学の基礎文献を紐解けば分かる。
これらは**通常の老化**でも観察される現象である。
違いはただ一つ。
不死者の場合、肉体が衰えないまま精神だけが老いる。
そして肉体が健在であるがゆえに、その「老い」は**危険**と見做される。
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### 第四章:楽観という罪
異端刈り制度化以前、不死者は確かに黙認されていた。
協会はこれを「楽観主義」と断じているが、私は異なる見解を持つ。
当時の人々は楽観していたのではない。
**問題を認識する枠組みを持たなかった**のだ。
不死者は希少であり、その大半は隠遁生活を送っていた。社会問題として可視化されるほどの数ではなかったのである。
■□将軍が特異だったのは、彼が**隠れなかった**ことだ。
英雄として、前線に立ち続けた。
それが悲劇の始まりだった。
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## 第二部:■□将軍──記録の空白
### 第五章:英雄の系譜
■□将軍──本名はグレゴリウス・フォン・アーレンバッハ。
B帝国軍第三軍団長。『鉄壁の盾』『不落の砦』などの異名で知られた。
彼の戦歴は驚異的だ。
* 〈黒嘴の群れ〉討伐(在任12年目)
* 〈紅眼の災厄〉単独撃退(在任47年目)
* 北方蛮族大侵攻阻止(在任89年目)
* 〈虚無喰らい〉封印作戦主導(在任152年目)
在任152年目。
通常、人間の将軍が現役でいられる期間は、せいぜい30年である。
だが誰も疑問を抱かなかった。
なぜなら彼は**勝ち続けた**からだ。
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### 第六章:変化の兆候
協会の勧告記録を時系列で整理すると、興味深い事実が浮かび上がる。
**第一次勧告(在任301年目)**
「定期診断の受診を推奨」
→ 将軍本人、「多忙」を理由に延期
**第二次勧告(在任327年目)**
「精神補正訓練への参加を強く推奨」
→ B帝国議会、「国防上の機密保持」を理由に拒否
**第三次勧告(在任349年目)**
「即時の行動制限措置を要請」
→ 皇帝陛下、「英雄への侮辱」として協会使節を追放
この間、将軍自身は一度も協会と接触していない。
全ての対応は、帝国側が代理で行っている。
つまり、
**将軍本人の意思は、誰も確認していない**。
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### 第七章:暴走の記録
在任356年目、冬。
北方国境の小村が全滅した。
生存者なし。建造物は完全に破壊。魔法痕跡から、単独の術者による殲滅と判明。
術式パターンは──■□将軍のものと一致。
帝国は即座に情報統制を敷いた。
だが、次の事件は隠蔽できなかった。
第三軍団駐屯地、壊滅。
死者、約八百名。
全員、将軍配下の兵士たち。
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### 第八章:封印の試み
帝国宮廷魔術師団が総力を挙げて封印術式を構築した。
使用された魔石は七十二個。儀式参加者は百名を超えた。
封印は──成功した。
三日間だけ。
将軍は術式を**解析**し、**無効化**し、**逆用**した。
宮廷魔術師団、全滅。
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## 第三部:討伐──或いは処刑
### 第九章:最終決戦
協会が討伐隊を編成したのは、封印失敗から十日後だった。
参加者、約三千名。
内訳:
* 協会所属術師:四百名
* 各国派遣軍:二千名
* 冒険者・傭兵:六百名
作戦名は「蒼穹の鎮魂歌(レクイエム・アズール)」。
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### 第十章:ある従軍記録より
以下は、討伐隊に参加した若き魔術師、エリアス・カーンの手記からの抜粋である。
> *四日目の夜明け前、ついに将軍を包囲した。*
>
> *彼は、立っていた。*
> *ただ、立っていた。*
>
> *甲冑は血に濡れ、剣は刃こぼれし、*
> *それでも、彼は───立っていた。*
>
> *誰かが、叫んだ。*
> *「将軍! 貴方は英雄だ! どうか、剣を捨ててくれ!」*
>
> *将軍は───笑った。*
>
> *いや、笑ったように見えた。*
> *だがその目には、何の光もなかった。*
>
> *彼は答えた。*
> *言葉ではなく、剣で。*
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### 第十一章:代償
討伐は成功した。
死者、千四百七十三名。
行方不明、二百名。
生還者の多くが、後に精神疾患を発症した。
ある者は悪夢に苛まれ、ある者は戦場の幻影を見続けた。
協会はこれを「術式残滓による精神汚染」と説明したが、
私は違うと思う。
彼らは単に、**英雄を殺した**のだ。
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### 第十二章:制度化という逃避
■□将軍事件から三年後、「不死者異端刈り制度」が発効した。
協会は声明でこう述べた。
> *これは安全装置である。*
> *二度と悲劇を繰り返さないための、*
> *理性的な予防措置である。*
美しい言葉だ。
だが私には、これが**逃避**にしか見えない。
問題の本質は、不死者が存在することではない。
**私たちが、英雄を手放せなかった**ことだ。
将軍が三百年を超えた時、誰かが止めるべきだった。
だが誰も止めなかった。
なぜなら彼は**必要**だったから。
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## 終章:問いかけ
協会の記録は、こう結んでいる。
> *■□将軍は怪物になったのではない。*
> *人間のまま、壊れただけだ。*
私はこの一文を、何度も読み返した。
そして、問い続けている。
**「壊れた人間」を殺すことは、正しいのか?**
**「壊れる前」に殺すことは、正しいのか?**
**そもそも、誰が「壊れた」と判定するのか?**
異端刈りは、確かに悲劇を防ぐかもしれない。
だがそれは同時に、
**私たちが、寿命を超えて生きる者を恐れている**
という事実の証明でもある。
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エルヴィン・ド・ラーシェ
魔暦1247年、霜月
辺境古文書館にて
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## 補遺:焼却命令
*この手記は、発見から三日後、協会倫理委員会により「危険思想の流布」として焼却処分が命じられた。*
*ただし、写本が複数存在するとの未確認情報がある。*