Blue Archive: Rewinding 作:Panofeed
「…い…起きてください」
鋭い声と共に体が前後に揺れる。はて、私は一体何を…
「…?」
「少々待ってくださいと言いましたのに、随分とお疲れだった様ですね」
木製の柱にガラス張りの壁、そこから見える景色は、この場所の高さを彷彿とさせる。
ここは…どこか見覚えがある、がしかし何故自分がここにいるのかさっぱり思い出せない。
目の前の白を基調とした制服を見に纏い、その上に不可思議な輪っかを浮かべている少女の言葉に、疑問符を浮かべざるを得ない状況だ…言葉に棘があるのは、気のせいであろうか。
「良い夢は、見られましたか。兎も角、集中をお願いします。長話も何ですので」
「ああ…はい。承知しました」
はて、私はこんな場所で何をしようとしていたのか…この緊迫感と状況を鑑みる限りには教鞭を振え、と言うものではない。それに、この妙な既視感は…
「今一度、状況をお伝えさせていただきます。私の名前は七神リン、学園都市『キヴォトス』の連邦生徒会の幹部を務めさせていただいております。そして、貴方は恐らく、我々によって呼び出された先生…のようですが」
「…申し訳ありませんが、人違いではありませんか?そういった雇用契約をした記憶が一切ないのです」
そう言って私は首を横に振る。確かに私は一端の数学者…だが、ここ最近は特別そういった依頼は来ていない。
それなのに、聞き覚えのある単語だ。違和感は他にもある。
妙に声が通る、体の節々から痛みを感じない、思考の回転もここ一年で最高潮だ。
「生憎、我々も貴方がここに招かれた経緯を把握できていないのです」
「ふむ…なら、ここの責任者と面談させていただけませんか?契約について、こちらの認識との語弊があると思われます」
「残念ながら…今代連邦生徒会長は永らく席におりません。総力を挙げて探しておりますが、未だ行方不明なのです」
…話の食い違いが見られる。私が謁見したいのはここの、子供たちの責任を請け負う人間、大人だ。いや、もしかすると…
「...この施設は、生徒自身が運営、管理をしているのでしょうか?」
「ええ。外の世界では珍しいものなのでしょうか…少し、時間が押しています。移動しながら、話を続けましょうか」
そう言って、彼女は席を立ち、歩き始める。私はその背中を追って、エレベーターに乗り込んだ。
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ガラス張りの外から見渡す景色に、心なしか懐かしさを感じる。連なるビル、上に昇る光に空に浮かぶ輪、そこらかしこで起こっている爆発。どれもが、今の不可解な状況を説明できるほど非現実的であった。
「貴方には、この学園都市の命運を賭けた仕事をしていただきます…このような状況になってしまったこと、誠に遺憾に思いますけれど」
溜め息をつきながら彼女は目頭を抑え、頭を振る。その声色には、絶望と悲観の表情が覗いていた…何であろうか、この居心地の悪さは。
「キヴォトスは数千の都市が集まって出来ている巨大な学園都市です。これから貴方が働くことになる場所でもあります」
切り替えたのか、淡々と彼女は説明を続ける。
やはり、私はこれを知っている。いつの記憶なのだろうか、そもそも私はどこでこれを知った?
「ですから…期待させてくださいね」
…ああ、そうか。この記憶の正体は、刺されるような不安感の正体は。
この世界は【ブルーアーカイブ】に酷似している。そして、私は驚くほどに歓迎されていない。
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【ブルーアーカイブ】。日常で奇跡を見つけるRPGと銘打たれたそれは、世界中で多くの心を揺らし、壊し、灼きつけた。
かく言う私もその1人で、丁度高校生時代に『先生』として生徒たちと向き合ってきた、私の中でも随分と記憶に残っている物語。
恐らく、私はこの場所に『先生』として転生したのだろう。
ちょうど思い出した最後の記憶は就寝前だ、年も年だったので、おそらく老衰だろう。
ただ、なぜだか私の服は就寝前のものではなく、ちょうど教職員が着るようなスーツ。ガラスにも、私の若い頃、丁度二十代半ば頃の写真と酷似した顔が写っている。
指輪と首のロケットだけが、前世を証明するこの状況。少しチグハグな気もするが。
「ちょっと待って!代理!見つけた、待ってたわよ!どうなってるの?学園中が大混乱よ…うん?もしかして隣の大人は…」
記憶と少し違うセリフを発した早瀬ユウカは、眉を顰めた後一歩後退り、あからさまに警戒し始めた。何故私がここまで拒絶されているのか、心当たりが全くない。
「あぁ…面倒な人達に捕まってしまいましたね」
考えをまとめ状況を整理しながら、ぼけーっと集まっている生徒たちの言葉を頭に流す。
曰く、連邦生徒会長は二年前から行方不明、サンクトゥムタワーの権限が数日前突如消失した、そのせいで都市中が混乱に陥っている…それは私の記憶している設定との乖離している。
「この『先生』こそがフィクサーになってくれるはずです」
リンがそこまで一息で言ったことを、数刻遅れてやっと認識して
「…ああ、どうも。これから『先生』を務めさせていただきます。至らぬ点も多いですが、どうかよろしくお願いします」
そう言って、一礼する。さて、どう出るか…
「…はぁ!?まさか、あの件から何も学んでないとは言わないですよね!?」
早瀬ユウカは拒絶を示し
「へぇ、この方が新しい…信用できる人物なのでしょうね?」
羽川ハスミは疑問を呈し
「はぁ…連邦生徒会長代理。貴方には納得のいく説明をしてもらいますよ」
火宮チナツは頭を抱え
「…」
守月スズミは沈黙を貫き
「…以前、何かありましたか?七神さん」
私は背景の開示を求めた。
「ああ、説明がまだでしたね。連邦捜査部『シャーレ』。貴方はそこの二代目担当顧問となります」
「…二代目?では初代は今何処に」
「死亡しました」
…は?待て、先生が死んだ?一体なぜ?
そもそも、状況的に今が本編開始時のプロローグ兼チュートリアルな筈。
なら、前任の赴任時期、シャーレの設立時期がおかしい。
そもそも、その前任は先生という称号がここまで疑われ、嫌われるほどの何かをしたというのか?
...考えても答えは出ない。今は集中しなければ。
「諸々は後に話しましょう。先ずは先生をシャーレの部室にお連れしなければ。モモカ、シャーレの部室へのヘリの手配を」
『シャーレの部室ね...あそこ今大騒ぎだけど?』
慣れたように彼女は虚空へ話しかける。
瞬間、その場所から桃色の髪をした小柄な少女、由良木モモカは記憶通りに明太子チップスをつまみながらホログラムとして出現した。
そして、プロットをなぞる様に記憶と同じような台詞を言いながら口元を汚し、軽快な音を鳴らす。
『前脱走した...なんだっけ、前逃げ出したあのー...七囚人?が騒ぎ起こしてるの。『私達が先生の意思を継ぐ!』とか言っちゃってさ。何かー、それに同調しちゃった子たちもいて、今戦場だよ?あそこ』
「...うん?」
『なんか、生徒会が新しい先生を引き入れるのが気に入らないみたいで、周りを焼け野原にしてるの。どっかから巡回戦車とかも手に入れちゃってさ。けど、もうほとんど用無しみたいな場所だし、今更どうなったって...あっ、先輩、お昼のデリバリー来たから、また連絡するね!』
...記憶していたものより、状況がひどい気がする。
一方的に捲し立て、昼飯を食すために通話を切った唯我独尊を前に、リンは笑顔のまま硬直し、体を震わせる。
今までも、これからも苦労するだろうなと、容易に想像できる未来に苦笑するしかない。機会があればコーヒーでも差し入れようか。
「...取り敢えず、部室奪還に向かいましょうか」
「ええ、そうですね...ちょうどここに各学園を代表する、立派で暇そうな方々がいるので、私は心強いです」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
はぁ、と息を吐き無理矢理口角を上げた彼女を見て、強かで苦労性だなんて考える。
ただでさえきちんとした大人が少ないこの場所に、私が相手取らなければいけない数多の厄災が蠢いていることをあえて考えないようにし、私は歩みを進める。
その背中を訝しむ何本もの視線が、鏃のように刺さっていた
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「何で私たちが不良と戦わなくちゃいけないのよ!?」
「サンクトゥムタワーの制御権を取り戻すためには、あの部室の奪還が必要ですから...」
舞う土煙、耳を潰す爆発音に眼前で飛び交う死に半ば呆然としながらも、私達は歩みを進める。
怯え、反射的に身を屈め周囲をみれば、平然と喋り歩く少女達に嫌な寒気を覚えた。
目覚めた時からの非現実的な出来事にはもう慣れたと思っていたが、実際に肌で感じるのと考えるのは別物だ。人に銃を向けたことも向けられたこともない、私の脳は半ばパニック状態であった。
けれど、一人の大人として私はこの場所に対する責任を、少女達だけに背負わせてはいけない。
服を正して背筋と膝を伸ばして少女達の方を向く。感情はおくびにも出さず、意地で表情を固定する。
一度感情が噴出してしまったら、溢れて止まる気がしなかった。
「そもそも、私たちは貴方が信用足るかを聞いてるんだけど?」
「私も同感です。本当に『先生』が務まるのでしょうか?」
こう聞かれると、本編との乖離をひしひしと感じる。まるで近づけば噛むぞと威嚇する野良犬のような雰囲気...異国の地を踏む時は大抵拒絶から入るが、ここまでとは思わなかった。
私は大学教授だ、女子高生の扱いなど知るわけない。だが、真摯に受け答えすればどうにかなるだろうと、一旦そう甘く考える。
「今すぐに信用しろとは言いません。結果を見て個々で判断して下さい。ただ、今は其れを話し合うほど時間がないようです」
「...それもそうね。証明をしようにも仮定ができないんなら、今話したって仕方ない...ったい!あいつら違法JHP弾使ってるじゃないの!」
「皆さん伏せて下さい。先ずは『先生』の安全の確保、あの建物の奪還はその次です...それに、JHP弾は違法指定されていません」
「うちの学校ではこれから違法になるの!傷跡残るでしょ!」
「ハスミさんの言うとおりです。彼はキヴォトスの外から来た人間、私達とは違って、弾丸一つで命の危機にさらされる危険があります。その点ご注意を!」
「分かってるわ...あなたは戦場に出ないでくださいね!」
銃弾を受けても痛いだけで済ませ、何なら文句まで言えている少女たち、という異常...やはりここはあのフィクションの中の世界なのだろうと感じつつ、彼女たちの会話は心なしか私を和ませてくれた。
だがどうにも、指揮ができそうな雰囲気ではない。と言うか無論私に軍事指揮の経験は無い。できることといえばチェスくらいの、ただのお荷物である。
ならば、できるだけ彼女らの体の動かし方、銃の扱い方を観察しておこう。もしかすれば、後の役に立つかもしれない。
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少しずつ、押されてきている。熱風と銃声の音量でそれを感じ取れるほどには...そろそろ、何が手を打たねば。
と言っても、まだ銃は撃てない。正確に言えば撃てるが、彼女たちの方が何倍も慣れている。戦場で私はただの足手纏いだ。
だが、指揮をすることもできない。彼女らは私を信用していない、かつ私は悲しいがな完全なる素人だ。それで事態が好転するならとっくに向こうから要請が来るだろう。
なら、『先生』として、私のするべき行動は、できる行動は。
「っ!居たぞ、アイツだ!」
『ちょっと!?何してるんですか先生!?』
インカムから聞こえる疑念の混ざった素っ頓狂な悲鳴、それに追従するように銃声が響く...と言ってもこの反応は至極真っ当だ。
詰まるところ、物陰から立ち上がって思いっきり手を振った。先程の話を聞くに向こうの狙いは私、であるならばこちらに注目させつくった隙を無理やりこじ開けて仕舞えばいい。
やはり複数の子供が銃を構え発砲しながら走って近づいてくる光景には、やはり足が震えすくむ。
「私がヘイトを買います。皆さんはそのうちに掃討を」
『分かりました』
『...ああもう!後で言い訳聞かせて下さいね!』
そうして、銃を振るう少女達と謎の男...いや、的と言った方が正しいか、の奇妙な共闘は始まった。
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さて、私はまともに人を殴ったことすらない。前世は暴力と無縁、とはいかないが平和だった。少なくとも、銃を持つ理由も、追いかけてくる少女を殴る理由もなかったわけだ。故に、まともな暴力の振るい方もわからない。ならば、策を弄するしかないだろう。
コンクリートが崩れかけのビル群を縫うように進む。右へ左へと、そもそも射線上に身を置かないようにしながら、私は一人ほどしか通れない狭い通路、そこにある私の肩幅ほどある窪みに隠れる。だがすぐに追いつかれる、一人の少女がこちらに向かってきていた。暴れる息を殺して飲み込む。
「はぁ...どこ行きやがったあの野郎...んなっ!?」
酸素不足で判断力が鈍ったであろう彼女の足を引っ掛け、転倒させる。
確か、先ほどスズミはこうしていたと思い出しながら、記憶の中の動きを模倣して、相手の顔を思いっきり蹴飛ばす。
「ぐえっ」と言う鳴き声とともに気絶した少女に申し訳なく思いながら、痺れて言うことを聞かない足を膝から折り地面に放られた拳銃と、服の中のマガジンをいくつかを手に取る。
お義父さんのウンチクを永遠と聞かされた経験がこんなところで役に立つとは。やはり人生はいつどんなことが役に立つかわからないものだ。
薬室に弾が装填されていることと足の回復を確認し、一発地面に撃つ。
制御できなかった反動が銃口を真上まで押し合げ、思いっきり体が後退する衝撃と痺れる両手を感じ、手を振り修正点を模索しながらもう一度影に隠れる。
「おい!こっちだ!」
「畜生!一人やられた!」
「もたついてると逃げられる!早く!」
そんな複数人、おそらく3人の声を聞き、立ち上がった影を見計らって物陰から飛び出す。
ちょうど目の前にいた少女の、突然大人が出てきた衝撃で動けないむき出しの頭を銃床で殴りつけ、よろける体の腕を掴んで無理矢理押さえ込み、脇腹に二発ほど叩き込む。
チナツの動きを参考にしたが、これはダメだ。もうすでに右手の感覚が半分ない。
乱暴に銃をベルトに挟み軽く手を振って、気絶したであろう少女を盾に前進する。
「...野郎!ぶっ殺してやる!」
「他二人が後ろに回ってる、それまで時間を稼ぐぞ」
と、彼女たちはステイを選択したようだ。
ならば申し訳ないが、掴んでいる子を離し前方へ蹴飛ばし、腰から銃を引き抜きすかさず三発、胴体に狙いを定め奥にいた少女に撃ち込む。 肩、脇腹、胸に命中、少しよろけたところにもう一度銃の重さを頭に叩きつける。
そのまま倒れた少女をよそに先ほどまで掴んでいた子の下敷きになったもう一人の頭蓋を、起きないように蹴り飛ばす。
ここまでしておいてかすり傷以外大した外傷が見られないが、やはり心は痛む。
今度は上手くできたようで、足は至って良好。やはり、衝撃を地面に吸収させるのがコツかと、そう軽く考察しながら彼女らの来た方向へ走り出す。
「いたぞ...撃て、逃すな!」
「よくも彼女たちを...!」
後ろから怒声と元気な銃声が聞こえる。
すぐ先の角を曲がってそれを回避すると、合流点のすぐ隣に隠れて待機する。
声のくぐもり方的にどちらも素顔だろう。どうやら相手は相当頭に血が昇っているらしい、銃を所構わず乱射しながらこちらにズンズン近ついてくる。
「あ、あっちだ!あっちに逃げ…がっ…」
足元を見、少し影が見えたタイミングで足を引っ掛け、前のめった背中に手を添えて膝を入れる。
そのまままっすぐに立つ少女の影に隠れながら、恨めしそうに睨む彼女の腹部に四発発砲。今度は全部下腹部に命中し、項垂れ膝をついた彼女を背負うようにして盾にする。
先ほどユウカがやっていたことだが、つくづく彼女たちの身体能力が恐ろしい。私は膝蹴り一撃でよろけさせることすらままならなかった。
今度は少しの痺れのみを訴える右手でもう一度拳銃を握り込み、後退し切った銃身をやっと認識して、確かここだったはずだとボタンを押したりマガジンの向きを確認したり四苦八苦しながらリロードをする。
ただ、その頃には相手も冷静さを取り戻していたようで。
キン、と金属製の何かを引き抜いたような音がした
「お前だけでも...!」
力の抜けた、盾にしていた少女を押し退け、全速力で曲がり角を曲がる。そのまま思いっきり伏せて...足元から吹き付ける風と強い熱を感じた。
幸い、こちらには何も飛んできてはいないようで、あたりを確認してから、元の通路に戻ればそこには気絶した五人の少女が転がっていた。
耳鳴りが酷い、ひどいノイズが入っているようにほとんど何も、インカムの音さえも聞こえない。
銃も格闘技も碌にやったことはない。けれど、私は昔から目が良かった。だから、射撃の体制、近接戦闘の方法、銃の扱い方諸々を彼女たちから教えてもらったのだ。
もちろん不恰好ではあるが、なんとか両者傷なしでやれたようだ、と安堵する。
滴る汗を拭いながら、酸素不足だと認識して思いっきり息を吸い、焼けるような空気に咳をしながら、全身で生を実感する。
と、拳銃を左腰のベルトに差し込むと先ほどからやけに騒がしかったインカムが止まり、ノイズというには可愛らしい声をやっと耳が認識する。
『...こちらユウカ、不良達の殲滅、『シャーレ』周辺の掃討は完了したわよ。ワカモともう一人の子には逃げられたけど...此方に来れるかしら』
「承知しました」
...とりあえずは場を切り抜けられたようだ。
不格好ではあった、先生には程遠い。けれど、手段はどうであれ確かに私は自分の責務を全うできたのではないか。
などと考えながら周囲を警戒しつつ前進すれば目的地まではあっという間で、熱気と煙に包まれたシャーレの眼前で、伏した不良たちとなぜか散らばった糸屑や綿に囲まれて待機している少女たちに手を振る。
「なんだか、戦闘がやりやすかった気がします...」
御礼がわりだろうか、今まで口を開かなかったスズミがそう口にすると、周りの少女達も同調するかのように強く頷く。
まぁ、指揮もへったくれもない、相手の情緒を妨害しただけ、やぶれかぶれの産物なのだが。
と、拾った新しいマシンピストルを右腰の後ろに固定しているとインカムに先ほどまで聞こえてこなかった声が聞こえる。
『私も、じきに到着予定です。建物の地下で落ち合いましょう』
「...承知しました。では、私は中に入ります。四人には、入り口を守っていて欲しいのです...中に機密情報がある可能性も否定できませんから」
「ちょっ...まだお話が...!」
「申し訳ないですが、時間が押してます。また後で、お話しさせてください」
「...ああもう!」
そう言ったユウカ。少しだけ焦るそぶりを見せたが、少し愚痴を吐いたのち、即座に戦闘体制に戻る四人を見て安心感を覚えながら、私は少し重くなった体を持ち上げ、足を動かした。
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外装が白一色で染められたビル、その内部で地下へ向かう階段を降りつつ、丁寧に足音を殺しながら私は辺りを見渡す。
手首が痛い、やはり先ほどの無茶が響いている。幸い中は荒らされた形跡はなく、限りなく平和だ...地下に近づくほどに聞こえるガチャガチャと何かを散らかすような音を除けば。
確か...七囚人の狐坂ワカモであったか。プロローグでの暴れ方とその後の態度の豹変を覚えていた。
本編では先生に恋をし、ここでは手を引いてくれたはずだ。
けれど、今、先生がいたと言う現実を加味すると前任に恋をした可能性もある。というか、先ほどのモモカの発言をなぞると敵対してくる可能性の方が高い。
だが悲しいがな、いずれにせよ複数人をここには呼べない、大事になれば確実にシッテムの箱やその他重要なアイテムが壊れる。
そうすればこの都市はおしまいだ。
つまり、激しい戦闘にすらならない単騎特攻というギャンブルをするしかない。
と、考えを巡らせているうちにドアの前に着く。
自動で静かに開くそれを潜り、階段の下を見渡してみると狐の尻尾をつけた一人の少女が辺りを見渡していた。
「ここはあなた様だけの場所、私が守り...あら?」
注目を集めようと足音を鳴らす前に、目が合った。
数秒の硬直の末、ふと少女が飛び上がり自分と同じ目線まで移動していることに気づく。
それは、私が一端の望みをかけた賭けに負けたことを伝えてるのに十分だった。
手すりの下に屈み、そのまま廊下へ退避することで死は頭上を無事に通り過ぎた...それを確認するや否や私は踊り場への逃走を開始する。
「貴方が彼の方の代わりに派遣された人?随分とまぁ貧相な...残念ですが、貴方にこの場は相応しくありません」
その言葉と三発の銃声が耳に届くか否か...左側の脇腹に鋭い痛みが走る。
少し目をやると、潰したブドウのような液体が飛び散っている。
貫通はしているようだ。地面に体を預け叫びのたうちたい衝動を必死に抑え、もつれそうになる足を運ぶ。
状況的には詰みに近い、できるのは在らん限りの延命だけだ。
地上階段の登り口まで這いずるようにたどり着くと、後ろから声が響く。
「おやおや、みっともない...彼の方の足元にも及びません、不愉快です」
ダメ押しにともう一発を左肩に叩き込まれ、目の前が真っ白に、思考が点滅する。
消去法だ、勝ち筋はこれしかない。
私はバッと立ち上がり覆い被さるように彼女の前に躍り出ると...鳩尾の下に銃の先の短刀を深く食い込ませた。
その勢いのまま、両腕でライフルをロックする。
「...何を?」
「無理矢理にでも抜こうとすれば、銃が折れる...がはっ...銃弾、込められて無いだろ」
「ほう...無駄なことを」
九九式短小銃...昔どこかの歴史館で見た記憶では装弾数が五発であったはずだ。
どうやら図星であったらしく、彼女はわざとらしく大袈裟にライフルから手を離すと...私を壁まで蹴飛ばす。
体がめり込む衝撃と共に口から血と胃液が溢れ出して止まらない。嗚呼、痛い。
「銃を奪った後はこれで...なんて、甘い。心底不愉快です」
少し軽くなった腰を感じると同時に彼女のその手に潰され、取っ手がひしゃける拳銃...やはりバレるか。
カツカツと私に近づき、のんびりとライフルに手を伸ばして、そのまま弾込めを開始する...このまま私を蜂の巣にする気だろう。
彼女には余裕がある、なぜなら彼女は勝ちを確信した。確かに、確実に。確信してしまった。
それはいただけないな。
傷口を抑える右手を腰の真後ろに回し、今まで見せないように努めてきたそれを彼女に向ける。
幸い、彼女の目線は自分の銃だけにあり、気づくまではタイムラグがあったようで。
「...んなっ!?」
無理矢理片手で反動を抑え、打ち出した20発が連続して響く。それらは彼女の全身に間違いなく当たっている。
それでも、硝煙が開けた先で、なお、彼女は立っていた。
割れた仮面からは琥珀色の瞳が見え隠れし、鼻筋を血液が伝う。
もう右手の感覚はない、見れば人差し指は変な方向へひしゃげ、親指は火傷だらけで他の指も肉が見え隠れしており、手も震えが止まらない。
おかげでかろうじて握れていたマシンピストルを落としてしまった。
俺はせめてもの抵抗としてライフルに腕を預ける。
「先生!?それに、貴方は七囚人の...!?」
と言ったところで、上からリンの声が響いた。手には携帯らしきものが握られており、すぐにでも増援がきそうだとわかる。
それを認識するや否や砕けかけの仮面を被り直し、ワカモは血を流しながらも階段の上まで駆け上がる。
そして、こちらを見やると
「今日のところは出直します。けれど、必ず返してもらいますからね。私の銃も、彼の方の居場所も」
と言い姿を消した。リンがこちらに駆け寄ってくるのが見えたので、私は血の滴る体に鞭を打ちながら、右手でライフルを下から支えて立ち上がる。多分抜いた瞬間に出血多量で死ぬやつだと思う。
「本当にお待たせしてしまって...先生!?安静にしていてください、救護班が駆けつけますので」
「すみません、肩を貸して、いただけませんか。自治権限の復帰が、最優先でしょう、ならば、本格的な治療を受ける前に」
「いえ、先生はここで休んでいてください。アレならば私が取ってきますので...」
そう言って、彼女は私の左手を肩にかけ、ライフルが固定されるようにそっと地面に横向きに設置する。
白い服が汚れてしまったな、後でクリーニング代でも渡しておかないと。
痛みと寒気が脳内を支配している。
随分と赤くなった床をぼーっと見つめていれば、彼女がタブレットを持って帰ってきていたようだ。それを私に差し出す。
「『シッテムの箱』...生徒会長の遺物です。説明は後です、私は邪魔にならないように、見える場所に離れていますので」
そう言っていなくなった彼女は、私の横に件のタブレットを置いてくれた。電源ボタンを押し、画面を確認する。
『...システム接続パスワードをご入力ください』
...腕を動かしたくない。かろうじてボイスオーバー機能のようなものをオンにし、震えた声で、記憶の底に眠っていた単語を引っ張り出そうとした、が吐いて出た言葉は少し形を変えていた。
「
それを唱えれば、少し気が楽になってしまったのか、意識が手のひらからこぼれ落ちる。
まだ、何も始まってすらいないのに。私の意識は泥の底に沈んだ。
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見覚えのある教室で、一人の少女がこちらを見ている。
ここは、アロナのいる教室か。しかし、あたり一面が暗い、どうやら夜のようだ。
依然、腹にライフルは突き刺さっておりいつの間にか両手で支えていたそれを維持する。
足取りは危ないが、この程度ならどうとでもなるだろう。とにかく時間がない。
私は、目の前をもう一度見据える。
制服や髪の毛、カチューシャにも黒が散りばめられており、青や白とは程遠い。もしかして
「お待ちしておりましたよ、先生代理」
「...二代目です。少し、時間が惜しいので早急にお願いしたいのですが」
あからさまにため息をつき、周囲を見渡す目の前の少女は赤みがかった左目を擦り...私を正常に認識すると、目を大きく見開く。
「随分とボロボロですね。何かありました?」
「急いでいる原因はそれですよ...急かすわけではないですが、早めにお願いします」
なぜか言葉がスラスラ出る。端的に告げ、人差し指だけを立てた左手を差し出す。
「...ああ、生体認証ですね。少々お時間頂きますよ」
そう言うが早いか、目の前の少女は私の方へツカツカと歩み寄り、指を重ねる。
そして、少しした後指を離し...首を捻ったり顎を指で擦ったりした。
おそらく前回の生体認証から一切の進展がない。
とりあえず、足腰がもう限界なのか立つことを拒否した体を壁に預け、まともに吸えていないであろう浅い息を繰り返す。
「まぁ、とりあえずはこれでOKです。で、ご用件は他にも?」
「サンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒会に付与できますか?」
「了解です。少々お待ちを」
そう言いながら、彼女は少し目を閉じる。しばしの静寂、物理的に耳が痛い。そして、彼女が目を開けると
「完了しました。以上でよろしいでしょうか」
「ああ、ありがとう。では、また」
「了解しました。次の邂逅を楽しみにしております」
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...随分と機械的で冷たい物言いを聞き流し、目を覚ます。そこでは、大人数が私を単価に乗せて運び出そうと四苦八苦していた。リンが、私の手を握っている。
「...目が覚めましたか、先生。無事、制御権の方は確保できました。本当は、『シャーレ』の部室をご紹介したかったのですが...」
「...はは、よかったです。まぁ、見学は、また今度に、させてください。今は、少し、眠たい」
随分と乱暴に、半ば投げるように担架に乗せられる。
衝撃でむせ返りそうになるのをなんとか堪え、私は正面を見据えなければならない。
それが、生徒と向き合うのが、先生の役目なのだ。そうだろう?『先生』
「そうですか...では先生、本日はお疲れ様でした。それと、先の無礼な言動を、謝罪させてください...本当に、申し訳ございませんでした」
「いいん、ですよ、疑うのは、当たり、前です。だから、悲しそうな顔を、しないで」
手を頭に置いた。それを上下させる。これで、ある程度は伝わってくれただろうか。
いや、髪に血がついてしまった。後で謝らないと。
「...ありがとうございます。では、またお会いしましょう。先生」
可憐な少女の笑顔は可愛い。そんな常識を再認識しながら、私は温もりを抱いて再び微睡の底に深く落ちていった
Pixivで書いてたのを投げとけーと言った感じで、とりあえずの一話。更新は不定期になります。
わからないこと、シンプル質問、好評に批評なんでも書いてって下さいな。どれもこれも小説を書く原動力になりますので。
以上、作者によるお目汚しでした。こんな場所まで読んでくれなくていいよ!
Q.なんでワカモは直ぐに殺さなかったの?
A.これ以上『先生』を侮蔑させないために新しく派遣されるやつの酷い死体を連邦生徒会に送りつけて制度を消そうとか考えてたし、守る場所を破壊しちゃ世話ないと思っていたから。