Blue Archive: Rewinding 作:Panofeed
「で、でも!先生も結局は部外者じゃない!」
そう声を荒げるは黒見セリカ。言い分は良く分かる、自分たちでなんとか回してきた学校、やりくりしてきた借金。それらを今更ぽっと出てきた変な大人に口出しされたくないというのは、かなりもっともな話ではあると思う。
「ハッキリ言うと、このままでは廃校しますよ?利子だって最近は返しきれてないでしょうに」
借金が9億以上まで膨れ上がっていなければ、の話ではあるが。
今までの景色からの推測、さらにはアロナからの調査によって、多少この子達の経済状況はわかっている。もちろん具体性は伴わない。
ここの校風なのか、余裕がないだけなのか。ホームページや、公的な地図さえも数年前で更新が止まっているので、ほとんど情報が入ってこないのだ。
「そ、それはそうだけど...けっ、けど!あんた一人が何かしたところでどうにかなるわけ!?」
「使われてない制度や支援などを引っ張ってきて、私の権限で申請し適応することもできます。そもそも借金の価格も法外なんです、学校一つが抱えているべきものではない」
今の所、本編との相違点はユメの生存、つまりそれが借金増大の原因である可能性が高い。なら、私が何かしらの対策を講じれる可能性が高いだろう。
まぁ、今まで大人に騙され、裏切られ続けたこの子達に突然信用しろなんて言ってもどうにもならないとは思う。
少しずつ、築き上げていくしかない。
「う、うう...わ、私は絶対認めないから!!」
「セリカちゃん!?」
「私、様子見てきます」
塗装の剥がれたパイプ椅子を思いきり倒し、そのまま乱暴に扉を開け彼女は出ていった。それを追いかけるようにノノミが続いていった。
私がついていっても不安感と不信を強めるだけだろう。ならば、今の状況整理に集中しなければ。
「...具体的にいくらほどあるんですか?」
「確か...10億くらいだっけ」
「正確には13億7865万円...それがアビドス、いえ、私たち『対策委員会』が返済しなくてはならない金額です。無論、ゲヘナからの援助で多少はましにはなってますが…」
「13億...」
本編で記憶していたものとの差異がどんどんと広がっていく。
13億と言えば、おおよそ四億の増加と言って差し支えはないだろうか、一学校が抱えていいわけがない。というか、なぜそこまで膨れ上がったのだろうか...
思い出すは昨日見た白い部屋に不釣り合いな機器、見ただけで最新鋭のものだとわかる代物。
「...前任が、本当に申し訳御座いませんでした。私に出来ることがあれば、何であれ協力させてください」
「先生!?か、顔をあげてください!そんなことしたら服に砂が...ど、どうしましょう...」
「顔上げてよ〜先生。アヤネちゃんも困ってるし...そんなことしたって、何も変わらないんだしさ」
確かに正論だ、謝っていても何も変わりはしないし、ならば仕事をすべきというのもわかる。
これは私なりの償いの意思表明だ。やらないことには始まらない。だが、ホシノのプレッシャーがひどく冷たい。なので頭を上げ、少し乱れた髪を少し整える。
「じゃあ先生には、昨日に引き続き資料整理とかやってもらおっかな」
「承知しました。隣の部屋で作業しているので、何かあればいつでもお声掛けください」
「お、お仕事頑張ってください!」
「はは、ありがとうございます」
仕事をしている間は見逃してあげよう、というメッセージを暗に感じる。
それに、資料仕事は自分にとって好都合だ。アヤネからの激励を受け取りながら、私はそそくさと部屋を出た。救うべきは、アビドスだけではない。
先生は、全ての生徒の味方であるべきなのだから。
◆ ◆ ◆ ◆
先生。シロコ先輩が連れてきた、怪しい大人。しばらく切ってないであろう枝毛だらけの髪、値踏をするように鋭い三輪眼、それでいていつもの銀行の人と同じように敬語を操る、変な男の人。
「私は、絶対認めない…」
今まで、私達を助けようとした変わり者の大人なんて今まで誰一人いなかった。なんなら、前の先生のせいで状況が悪化した、なんて話も聞いた。他の学校も、誰にも手を差し伸べられず潰れていってしまった。今やこの学校以外も今回もきっと同じだ、きっとそうに違いない。
けれど、皆疑いつつも先生を受け入れようとしている。そんなことをしたら、前と同じように、いや、それ以上に失敗することなんて分かりきっているのに。きっと、次こそは何かが変わると、そうやって裏切られる期待をして。なら、私が止めるべきなのだろう。
私は先生を監視することにした。何か尻尾を出せば、それが最後だ。確実に学校から追い出してやる。
翌日みんなに聞くと、先生は隣の部屋で仕事をしているそうだ。なら、監視も容易い。バイトまで時間はあるし、それまでは何か怪しいことをしていないか見るとしよう。
...
...
何この人。三時間とちょっと、ずっとパソコンと書類を交互に見つめあったり、何かを打ち込んでみたり、かと思ったら何かを走り書きしたりして...休憩とかしないのかな。っていやいや、あの大人が体を壊そうと私の知ったことじゃないのだ。
「...どうしたんですか?黒見さん。何かお困りで?」
「んにゃっ!?」
どうやら私はいつの間にか扉の隙間を開けすぎていたらしい。突然先生が声をかけてきた。
ここで馬鹿正直に『監視してました』なんていう訳にもいかない、と言っても逃げたって何にもならないし...
いや、いっそのこと『勉強で分からないところがあった』ってことにすれば近くで監視できるんじゃない?
それに、先生って言うんだから勉強を教えるくらいはできてないといけないって、そう言い張って追い出すことだって。
「じ、実は物理でわかんないとこがあって...」
「ふむ、どの部分ですかね?」
と、いう訳で私は先生に近づくことにした。実際、自分で勉強してても最近よくわかんないところもあったし...
「この拳銃のリコイルの問題なんだけど...」
「ああ、これはニュートンの第三法則を使うんですよ」
そういうと、解説を挟みながら先生が図解してくれた。なんでも、銃弾が前に押し出される力と拳銃のリコイルは比例してて〜とか、言われなきゃわかんない拳銃と記号を使って書いてくれた。
けどそこはさすが先生、そこまで丁寧でもない文字と図形がなかなかわかりやすくて、何個か出してくれた例題もささっと解けてしまった。
「うん...うん。すごくわかりやすかった。あ、ありがとう...先生」
「お役に立てたなら何よりですよ」
少し照れ臭くなりながらも、声を絞り出してお礼をする。
確か、先生とか言ってたけど、ここにくる前は何をしていたのかな。こんなに教えるのが上手いんだから多分そういうことをしてたんだろうけど...もしかしたら、大悪党だったりして。一応聞いてみよう。
「先生って、ここにくる前も先生やってたの?」
「先生...というより、大学で数学の研究をしてましたね。基本的にはそこで子供たちに数学を教えていたんです。他にも妻の研究を手伝ったりしていまして。だから、多分ここに呼ばれたんでしょうね」
そう言った先生は、顔を振り返りながら優しく笑ってた。今まで、見たことのないような、やわっこい表情。
もしかして、この人は悪い大人なんかじゃなくて、本当に私たちを助けるために来たんじゃ...はっ!いやいや、絆されてる場合じゃない。
そもそも、今先生がなんの仕事をしてるかすら分からないじゃない。もしかしたら、全てが先生の手引きの元行われてた...とかあるかもしれないでしょ。そもそも、ずっとパソコンと書類に追われてること自体おかしいし。
「とっ、ところで先生はずっとパソコンと睨めっこして何してるのよ、ゲーム?」
「ここらのヘルメット団の子達の支援や教育の企画を連邦生徒会に出してるんですよ。ほら、あの子達が手に職つけられればここの襲撃回数も減るとは思いません?」
─絶句した。彼は私たちだけじゃなく、私たち敵にも手を差し伸べようとしている。嘘だと思った、本当なわけないって。だって、おかしい。けど、目の前の先生の目がそうじゃないって言ってて。
画面を見る。そこには、いろんな文字列の中に、『支援プログラム』だとか、『教育を受けるチャンスを与える』とか、いくら探しても嘘じゃない証拠ばっかりで...誰彼構わず助けるその姿は、まるで聖人で。とても尊いとわかってはいるのに。それが、無性に許せなくて。
「...ッ!なんでよ!私たちを襲ってくる悪党なのよ!?何で助けようとするのよ!?なんで...なんでッ!」
思わず、机をドンと叩いてしまう。椅子を押し除け、立ち上がって激昂してしまう。多分、先生の方が正しいことを言っているんだろうってわかっているのに。私が間違っているのに。
一昨日のことを思い出す。必死になりながら、学校を乗っ取ろうとする悪党たち。私達を傷つけようとしてあまつさえ奪おうとしていた。そんな人間に施しを与えるなんて...
先生は、少し考えた後、私に優しく微笑んでくれて。少し砕けた表情で。
「私は不安がりで臆病だから、見える分だけでも手を差し伸べないと、夜気持ち悪くて寝付けなくなる。理由はそれだけ。けど、多分それでも十分な理由たり得ると、そう信じてる」
と言った後、少し笑いながら
「だから、僕は自分のためだけに、人を助けるよ。笑って明日に迎えるように、よくやったって昨日の自分を褒められるように」
「...何それ、バカみたい」
そんなことを言った。
無理矢理にでも、理解させられてしまう。ああ、この人は馬鹿だ。どうしようもない大馬鹿者だ。どれだけ自分が損しても、どれだけ反対されても、どれだけ恨まれようと。この人は、どうしようもなく身勝手に、人を助けてしまう。言葉だけじゃない、何かの重みが首筋を這う。
「...ごめんなさい」
「いいんだよ」
自分の胸の中のモヤモヤを吐き出す。そうすると大きな手が覆い被さった。くしゃくしゃになった頭からは、温もりが伝わってきていた。
◆ ◆ ◆ ◆
突然ではあるが、私の好物はラーメンである。スープ、具材、麺が奏でるトリオは、日本人たる者一度は通る場所。悲しいがな、日本にいる時間が少なかった故、インスタントラーメンをアレンジする技能だけやけに上がってしまって、うまいけどこれじゃないと考えた、遠い日々の記憶。
「あうう…ご、ご注文はお決まりですか…」
眼前で起こっている、制服が似合うセリカと、それを楽しそうに見つめる皆んな。ほのぼのとした生徒たちのやりとりを横目にメニューを眺める。いつの間にか夕食時だったらしく、先生も一緒にとお呼ばれしてきたのだ。
本編のように、ノノミとシロコによる先生争奪など起こるはずもなく、二人はホシノと前に座り。私はセリカから少し間を空けて座っている。
にしても、ラーメンがとても安い。一杯500クレジット以下のものばかりだ…これなら全員分無理なく奢れそうで、一安心である。
「私は、チャーシュー麺をお願いします!」
「私は塩」
「えっと…私は味噌で…」
「私はねー、特製味噌ラーメン!炙りチャーシュートッピングで!先生も遠慮しないで良いんだよー?ここの店凄く美味しいんだ」
「では…私は柴関ラーメンで」
と、各々で好きなラーメンを注文していく。塩に味噌、チャーシュー麺とチェーン店と同等のメニュー量。サイドも充実しているし、卓上調味料もきちんと用意されているとなれば、随分と客に寄り添った、いい店であるというのは嫌というほどわかる。
歳のせいでしばらく好きな物を食べれなかったのだ、正直ワクワクを隠せない。
「…ところで、みんなお金は大丈夫?もしかして、またノノミ先輩に奢ってもらうつもり?」
「いえ、ここは私が」
「おー。さすがは先生、やっぱり頼りになるね。やっぱあるの?大人のカードってやつが」
ぴり、と少しだけ圧を感じる。彼女は、おそらくではあるが、大人のカードを知っている。
恐らく前任が戦闘時に使っていたのを見たのだろう。
危険な力を持っているかどうか、確認するためにここに連れてきた。いざという時に、迅速に殺せるように、か。だが、悲しいがな
「ああ、あれは前任が限度額まで使った上で砕きましたよ」
「…へぇー?」
そう、大人のカードはもうない。前任が壊した。そう、如何なる盤面をもひっくり返せるようなジョーカーを使い潰したのだ。
一応現物は今でもシャーレに眠っている、がど真ん中に銃弾で貫かれたような跡があり、機能しない。だが、大丈夫。そんなものがなかろうと私は本編を知っているが故、この場所のためにいくらか資金を貯めているのだ。
と、そんなことを考えているうちに、香ばしい香りと共にラーメンが到着した。香りたつ湯気に誘われてコシのある麺をすすっていれば、これは今まで生きていた中でも一番に美味しいと豪語できるほどの出来だ。
絡み合う醤油と強い魚介系の出汁が麺を絶妙にマッチしていて、少しむせてしまう程度には夢中になって食べ進めていた。
しばらくして少し違和感を感じた。味に問題はない、むしろ少し塩っけと油が強いと感じるだけで、心の底から美味いと感じる素晴らしいラーメンなのだ。けれど、腹部に強くはないけれど、ハリと不快感を感じて
「...先生、大丈夫ですか?」
「はは...大丈夫だよ。少し、御手洗いに、行ってくるね」
喉の違和感を感じ、急いで席を立つ。そのまま個室に入り、祈るように屈めば、這い出ていた満腹感を真っ白な便器にそのままぶちまけてしまう。
目玉から、鼻から、喉の奥底から濁流となった不快感が押し寄せてそのまま垂れ下がる。
「...ぉぇ...げほっ、ごぼっ...ぅあ...ぇ」
つんと鼻をつく匂いと喉の奥のざらざらとした感覚、酸っぱくて脂っこい味が口の中に残る。
覗けば、溶けかけの麺と先ほどより黄色くなったスープが盛り付けられている。散々粗末な食事をした後に、いきなりラーメンというのも無理があったのだろうか。鼻を通る鉄のような香りとピリリとした痛みにえずいて、もう一度便器の底を覗き込む。
そのまましばらく、便器にしがみつき、咳き込みながら痙攣する胃に身を任せて、もう出ない胃酸を吐き続けた。
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「ご馳走様でした...先生、本当に大丈夫ですか?」
「私は大丈夫ですよ。心配無用です」
「いやぁー!ゴチでしたー、先生!」
「うん、お陰様でお腹いっぱい」
「早く出てって!仕事の邪魔!」
会計も終わり帰宅途中、途中で離席した挙句食事を残すとなれば、皆大層心配してくれた。優しい子達だ。正直自分の認識不足が原因なので、食事を残すことも含め、とても心が痛い。
けれど、それでも来てよかったと強く感じる。皆との距離が少しだけでも縮まったような気がするのだ。それだけでも、大きな進歩と言える。
「あ、あはは...セリカちゃん、また明日ね...」
「あーもう!さっさとどっか行っちゃいなさいよ〜!」
「あはは、元気そうで何よりだー」
照れ隠しなのか、セリカはプンスカと怒りながら私たちを怒鳴って、そのまま店の奥へ引っ込んでしまった。何も知らなければ、このまま談笑して帰るのもきっと楽しいだろう。だが私は知っている。
「...小鳥遊さん。帰り、彼女を護衛してくれませんかね」
「んー?何で私なの?」
前を歩く三人から少し離れて、小柄な彼女に小声で話しかける。能天気なまでのトーン、なのに声色だけが冷たいんだから笑えてしまう。
けれど、ここでは引かない、引いてはいけない。彼女が、不用意に傷つくのを阻止するために。悲劇は、起きるべきではないのだ。
「この中で一番強いの、小鳥遊さんでしょう?心配しなくても、私如きでは誰にも勝てません」
「...りょーかーい。時間はいつくらい?」
「ラストオーダーが8時半だったので、9時半までには店が閉まると思いますよ...ああ、それと、誰も殺さないようにお願いします」
わかったと、そう示すように頷く彼女は、そのまま後輩のところへ走ると後ろから覆い被さるように抱きついた。
「ひゃっ!?」と言う可愛い悲鳴から始まり、皆が一様に笑ったり戯れあったり、どこにでもある日常の光景。或いは、何らかの映画と言われても納得してしまうほどの、尊い奇跡。
それを胸に刻んで、私は改めて誓う。この景色を、彼女たちを、生徒たちの生活を、日常の奇跡を守ろう。たとえそれが、私にどんな厄災を振り撒くとしても。
◆ ◆ ◆ ◆
『お疲れ様でしたー!』
「はぁ…やっと終わった。目紛しい一日だったわ」
凡そ九時、バイトが終わり、少し伸びをしながら私は帰路についた。今日はいつもより少しだけ忙しかったような気がする。朝から先生の監視、そこから二人で話し合ったかと思えばバイトに向かって、その最中に来た学校の友達には手を焼かされたものだ。柴大将も止めてくれないから、収拾がつかなくなってしまった。
「みんなで来るなんて…忙しいったらありゃしない」
けれど、収穫もある。先生、彼は信用できる大人だ、と思う。実際に何かをしようと、口だけではなく行動をしようとしていたところもあるが、何よりも彼からは柴大将と同じ匂いがする。なんだか安心するような、温かい香り。
「ふぅ…そういえば、この辺も結構人がいなくなったなあ。前はここまでじゃなかったのに…治安も悪くなったみたいだし…」
白い息を吐いて、夜道でひとりごちる。ここ最近は特に、通学路で人とすれ違う機会が減った。いろんなお店も潰れているし、全体的に他の住人を見かける事自体がすっかり珍しくなってしまった。それに伴って、ヘルメット団なども白昼堂々動けるほどに活発になってしまったし。
「このままじゃダメだ。私たちも頑張らないと…そして学校を立て直さないと…」
ぱんぱん、と頬を叩いて気合いをいれる。そうだ、後ろ向きになってどうする。私が折れればアビドスはどうなってしまうのか、想像もしたくないのに。
下を向いて指を折りながら、バイト代をどうやって使うかを考えたり、どうすれば少しでも稼げるかを考えてる折…突如、目の前にヘルメット団が出現した。昨日の昼間も見た、ならずものたち。
「何よ、あんたたち」
「黒見セリカ、だな?」
「…カタカタヘルメット団?あんたたち、まだこの辺を彷徨いてたの?」
昨日の昼間振り、性懲りも無くまた襲ってきたなと、そう考える。疑問が口を吐くと、返答として奴らは銃を構え始めた。
こちらも勿論、臨戦体制を整えて戦闘…する間もなく、待機していたであろう数人に銃撃された。
ただでさえ痛いのに、弾も威力が高いものを使っているようだ。ジンジンと痛む体を引っ張ってなんとか、逃れるように遮蔽物に移動する。
「殺せ。死体は回収しろ」
それを見越していたかのように、砲弾が撃ち込まれる。直撃はしていない、がその衝撃で吹き飛んでしまった遮蔽物と飛んでくる瓦礫を受け全身が吹き飛ばされ、舞い上がった煙と砂で息が苦しくなる。こいつら、半端じゃない。
「ねぇ」
底冷えする声が聞こえた。聞き慣れた、グータラした先輩の声。けど、いつもとは全然違う、ハリと頼もしさと...どこか、危うさを感じて。
「…嘘だろう?」
「私の後輩に、何してんの」
煙が、晴れ始める。そこにいた先輩は、いつもとは違って、髪を纏めていた。それが妙に印象的で、頼もしくて泣いてしまいそうになっちゃって。
「クソっ…C班とD班からの連絡はまだか!」
「…ロスト、です。おそらく、撃破、されたものと…」
「ありゃ、聞こえなかった?」
ガシャンと、薬室に弾が込められる音がする。展開された盾からは少しずつ、青い見慣れたバリアが広がってゆく。にへらと笑った先輩は、そうとは考えられないような声色でこういった。
「私の大切な後輩に、何してんのかって聞いてんの」
「ッ…!総員、警か」
台詞を言い終わるか否か、前の方に居た三人が倒れた。
こちら側から見えるヘルメットには、おでこの部分に大きな穴が空いていた。そのまま、また地面から砂埃が舞い上がる。
また一人、また一人と銃声が鳴るよりも早く地面へと伏していくのが音で分かった。
そのまま、私が最後の一人になるまで、銃声は止まなかった。こんなの、戦闘にすらなっていない、そう感じる。そうして、へたり込んでいる私に、砂埃の中から現れた先輩はこう言って手を差し伸べた。
「さ、帰ろっか。今夜はよく冷えるからね〜。早くしないと風邪ひいちゃうよ?」
「...うん」
そのまま手を借りて立ち上がり、先輩の後ろを歩き始める...憂いを帯びた瞳に気がつかないまま。