Blue Archive: Rewinding   作:Panofeed

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酒を飲むほど老いてはないが、銃撃戦には若すぎない


1-3:落伍者達の懺悔

あれから2日が経過した。 セリカは無事だし、皆との仲も極めて良好。仕事は普段と同じほどの量。状況としては上々だ。

パソコンを開いて、録音した音声、そのちょうど翌日の定例会議のものを再生する。

 

『...では、アビドス廃校対策委員会の定例会議を始めます。と言っても、解決すべき問題なんて分かり切ってますけど...』

 

『会計担当のセリカちゃんも今はダウンしてるし、今後賞金首狩りをみんなでやる機会だって減らそうと思ってるから、厳しくなるだろうね〜』

 

『...え!?それはどうして...』

 

クリアな声が聞こえ、それを紙に書き写す。記録のために紙の議事録が必要らしい、普段は大きな何かが決まらないし紙を買うのも勿体無いからと削っていた作業だったらしい。

録音からでもわかる怒気を誰へ向けるわけでもなく、ホシノは淡々と続ける。

 

『こないだセリカちゃんが襲われたって言ったでしょ?犯人の子達に目的は何だって聞いてみたんだ』

 

『そ、それで...?』

 

『セリカちゃんを殺すこと自体が目的だって、そう言われたよ。随分と物騒な世の中になってきたね〜。だからさ、私としてはみんなにはできるだけ安全なうちに家に帰って、例えば賞金首のために一人でわざわざ危険を犯すなんてことはしないで欲しいんだ〜』

 

深いため息と、緊張感が伝わってくる。

 

どこともしれない相手が自分の死を望んている。高校生の少女たちには、いや、一人間が背負うにはあまりにも重い事実なのだ。

 

私自身も他人事ではいられない。早急に何か自衛の手段を調達しなければならないなんて思って、それでも何もできていないのが人間の性かもしれない。

 

『...わかった。けど、先輩も気をつけて』

 

『なんだか、物騒な話になってきましたね〜...』

 

『...でしたら。ひとつ提案が』

 

なら、もし私に何かできることがあるとするならば。戦うことでも、守ることでもなく、自分の権利を、知恵を彼女たちに貸し出すことでしかないのではないのだろうか。それとも何か他にできることがあるのか。今も、ずっと考え続けている。

 

『ヘルメット団が私たちを襲撃する主な理由は、彼女たちの生活です。彼女たちは現在、明日の衣食住さえままならないような生活を送っている。こんな生活の中であれば、どれだけ安い仕事であろうと喜んでやるでしょうね』

 

『先生?何を...』

 

『丁度最近連邦生徒会内で発足した、貧困に喘ぐ生徒を支援するプロジェクトが発足しましてね...例えば、敢えてここら辺近郊のヘルメット団らとの交流を深め、支援をすれば彼女らからの攻撃に対して割かれるリソースと時間を削れるのでは?』

 

音声越しに、もう一度空気が凍る。ペンを少し止めて、音声の再会を待つ。我ながら随分と突拍子もないことを言ったものだ。自分たちもままならないのに、敵に塩を送れだなんて。カチカチと、しばらくはペンのノック音だけが響く。

 

『...何でそう思うのかな?先生』

 

『一度や二度撃退したところで、根本は変わらない。彼女たちが支援を欲する限り,それを利用する何者かが私たちではない限り、彼女たちは嫌でもやらなければならない。そうでなければ、明日がない』

 

『けど、支援をしたところで私たちに恩義を感じてくれるかどうかすらもわかんないよね、先生。それじゃただの博打だ』

 

『けれど、多少の繋がりは生まれる。他人と、知り合いと、友人には大きな差があります。少しであったって交流を重ねて、そうすれば、彼女たちからの攻撃も止むのではないでしょうか』

 

『可能性は、あります。ですが先生...』

 

『余りに不確定すぎる。全部が全部、そんなに都合よく行くかな?』

 

『わからないからやるのでしょう。悲観して行動しないよりかはマシです』

 

『私は賛成ですよ〜、先生』

 

他の子供の唸り声が、録音されるほどまでに響いている。

ノノミが賛成してくれたから多少の緊張感は払拭されたが、それでも真顔で口に手を当て、唸りながら何かをぶつぶつと呟くホシノの姿には一端の恐怖を覚えたものだ。

 

そうして、その唸り声が止む。今も、彼女の眼差しを幻視するほどに、はっきりと覚えている。

 

『...わかった。けど、誰も危険に晒されないように、ちゃんとしてね、先生』

 

『...はい』

 

その後は、普段会議で上がるような『アイドルになる』だの『銀行を襲う』などを談笑を交えながら話し合い、音声は終了した。書ききれなかった部分の音声を戻して、書きだして、それでやっと議事録が終わった頃に、ガラガラと扉が開いた。

 

「先生、チョークが届いたわよ」

 

「ありがとうございます。教壇の上に置いておいてください」

 

ここ二日間は随分大変だった。何せいつから授業が行われていないのかすらわからないような場所だ。その上人手も資金も足りていないとなれば、掃除の行き届かず砂埃が溜まった部屋だって当然ある。

そこを再利用しようともなれば、それなりの労力が必要にもなってくる。

 

その上で、私の安全を確保する必要もあるとセリカは言っていた。それに多少料理の仕方や生活の知恵を知っているといったって、ここはキヴォトス、前世とは環境が違う。

 

手元の、グラフとイラストで彩られた資料を見る。

正直識字率もどれほどなのか怪しい、その統計を取る人間がいないからだ。

 

基本的に必要な知識、体調不良への対処法など、キヴォトスと前世とであまり差異はないらしいから助かった、それらを一目見ればわかるようにまとめておく。

もう一度プリントの束を掴んで整え直して、すっかりキレイになった教室を眺めながら、明日の授業に想いを馳せた。

 

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「んなもん知ってて何になんだよ!」

 

机の上に足を思いっきり上げ、背もたれに体重を預けながらヘルメット団員の一人の周りを細かくなった紙が舞う。それを見て、手に持った銃を構えようとしたセリカを、慌てて静止した。

 

今現在、私は炊き出しを待つ間に彼女たちに勉強を教えている。

勉強を教えていると言ってもやっているのは家庭科、料理や植物の育て方、食育系の基礎的なところを今はおさらいしている。

きちんと、彼女たちがよく訪れる校門近くや掲示板に張り出しておいたからだろうか。

座る位置も態度もバラバラだが、それでも数えられるほどの人数が来てくれた。

 

見る限りこの子達は食事というものの優先度をあまり理解していないらしい。皆一様にガリガリで、発育が小、中学生程度で止まってしまったようで身長が低い。

瞼が痙攣している子もいれば、しきりに瞬きをする子、爪がひび割れてそのままの子もいる。

 

普通であれば、状況を鑑みてきちんと保護する大人がいるはずなのだ。歪んでいる、この世界は。少しため息を吐いて、正面を見据える。

 

「いいですか?食事は体の手入れと同義です。偏った食事をしていたり、そもそも何も食べなかったりというのは、自分の体を壊しているのと同じなんですよ。筋肉も知能もきちんとしたモノを食べなきゃつきません。誰も変に軽かったり、錆だらけの銃なんて使いたくないでしょう?」

 

「まぁ、そりゃ確かに..」

 

「それに…帰ったら美味しいご飯を食べれるって考えたら、幾分か気が楽になりません?」

 

そう聞くと、教室が少しざわつきだす。食というのは一番身近な娯楽だ、想像しやすい分、特に興味が惹きつけられるのだろう。

腹の虫を暴れさせて、恥ずかしそうに俯く子達を見ると、この子達も年相応の女の子なんだなと改めて認識させられる...

 

本当は、昼飯がわりにパンの耳を貪っていた大人が言うべきことではないのだろうがこの際仕方がない。

 

「はは。じゃあここからは実践ということで、キッチンに移動しましょうか。帰るまでには作り方をマスターしてもらうつもりですので」

 

そう言って、私は先導して調理室へ向かう。2日で今まで暫く使われておらず、砂埃に埋もれていた部屋を救出し、ある程度の調理器具も用意した。

随分と需要がないらしい、どんな速達便でも二日ほど物品の配達に時間を要すると。と、後ろからぶっきらぼうな声を掛けられる。

 

「言っとくが、手持ちはねぇからな」

 

「元から要りませんよ」

 

こんな事で金を取ろうなどと言う恩着せがましい考えは勿論ない。心許ないが、自分の貯金を幾許か切り崩せば解決する事だ。

 

と、声がした方を向けば、少女は私をキッと睨んでいた。幾度となく信じ、裏切られてきた目。その外見とはあまりにも不釣り合いなその瞳が、この世界の歪さを如実に物語っている。

 

「なんでそこまでするんだ。おっさんは関係無いだろ、気持ち悪ぃんだよ!」

 

吐き捨てる。掃いて捨ててしまう。この行為を、好意を、当たり前じゃないと感じてしまえる。それが私には耐えられない。

 

「それが、大人の、先生として為すべきことだから。私には君達を導く責務があるんだよ」

 

そうして、わたしは教室を出る。いつも通りの不審と疑心の視線の中で、まばらに椅子を引く音が響いていた。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

私たちは互いの名前を知らない。誰かが蒸発した時、抜けた時、裏切った時、悲しみで前に進めなくなるのを防ぐためだ。一つの組織という名目はあるが、実際は不良の寄せ集めのようなもの。誰一人として他人に構って、振り回されるほど暇ではない。

その日暮らしに精一杯で、水で戻したカップ麺を分け合うことだってザラにある。

 

けど、すこしでも余裕ができれば他の所の奴らが、どこから嗅ぎつけたのか襲撃にやってきて、なることないこと言ってきて、そうして手元には今日に十分なほどしか残らない。

だから、他所が得したと聞き及べばすぐに、私たちだってそこに入り込んで自分達に十分なほどを持ち去っていく。

 

そうやって、この辺りは回っている。それが日常だ。

 

もちろん好きなわけない。盗みはあまり好きじゃない。盗まれるのはもっとだ。

けど選択肢なんてない、仕事が来るのは稀で、ここらあたりなんかは特に、植物なんかも育ちにくいから、飯を食うにも水を飲むにも他の場所より莫大な金がかかるらしい。

 

金、金金金。この世界を作った野郎は随分と愉しそうだ。

 

ガキどもが嫌いだ。綺麗事ばかり並べて、自分たちが恵まれてるなんてちっとも考えずにただ目の前にいる私達だけを糾弾して、それで何か解決した試しもないのに、罰を訴えて止まない。

それで何かが変わるのか、変わらないだろう。変わらなかっただろう。馬鹿どもめ。

 

連邦生徒会が、特に生徒会長が嫌いだ。急に大東してきたかと思えばふらりと三年もどこかに失踪して、お陰様でキヴォトスの治安は最悪だ。私達みたいな落伍者も年増えてきている。爆破で荒れた道路の舗装も間に合ってない。

それなのに、無責任に会長をじゃなく、先生を再雇用しやがって。過去から何を学んだのか。

 

大人が嫌いだ。どこまでも偉そうで、金を持ってるくせに私たちには見向きもしない。ふとこちらを向いたかと思ったら、狙いは金儲けか私たちの体。反吐が出る。

 

その癖、手を差し伸べるような大人もいつもいつも、こっちの都合なんて考えず講釈垂れやがる脳みそまでぐずぐずの腐れ外道どもばっかりだ。

 

『どうしてきちんと勉強しなかったんだ?そうすれば連邦生徒会に訴えることもできたろうに』

 

母校は砂と借金に塗れていた。私が入ってすぐ潰れ、まともな教育なんざ受けたこともない。

 

『何か一つ趣味でも持ったらどう?バンドでも何でもいい、努力してない人間に施しを与えるほど暇じゃないわ』

 

明日生きれるかどうかすらわからないんだ。ギターを買う金がないことくらい考えれば分かるだろ。

 

『どうして今に満足してるんだ!?自分で学校を打ち立てるなり、やれることは幾らでもあるだろう!?』

 

常に何かに追われていた。借金取りやら元から金の払う気がない雇用主やら、暁のホルスやらから息を潜めながら、冷たくなっていく仲間を見ながら、力もない私たちが何かをする余裕がどこにあるのか教えてくれよ、なぁ。

 

ああ、わかってるさ。どうせこれは、一匹狼たちの傷の舐め合いだ。けど、群れる以外に能がない私たちは、力も知恵もなくて、寄せ集まって一人前の私たちは、一体どうすれば良かったんだ。

 

多分、この大人は数日前行き倒れていた奴だ。確か、食える分はその場で食べて、取れる分の物資を盗った。久々に仲間達と笑い合いながら携帯栄養食を貪ったのはつい最近のことだ。

 

ありもしない良心が痛む、どうしても顔を歪めざるを得ない。私だってそうなのに、彼だって知っていれば、どう反応するかなんて想像に容易いではないか。こんなところまで来て、恐怖して、何がしたいのだろう。

 

「先生、ごめん。やっぱり、怖い」

 

半泣きで俎板の前に立ち尽くすアイツは、昔友達に刺されたんだったか。いまだに刃物を見るのでさえも怖いと聞いたことがある。

 

「えーっと、これを…どうすんだ?」

 

学生寮を追い出されたって言ってたアイツはいつ刃に触れるか心配で見てられねぇ。どうにもまともに料理をしたことがあるようには見えない。

 

かく言う私だって、大層な人間じゃない。一人が怖くて、この場所がぬくいから入り浸ってるだけの不良でしかない。

今更施してくれる人を、もう既に裏切ったのに裏切りたくなくて、嫌われるのが怖くて、そんな我儘を考えてしまうようなどうしようもないガラクタ。

 

だから、先生。早く言ってくれよ。私たちはもうどうも手の施しようもないって。そうじゃないと、私たちがこのささやかな希望に溺れ朽ちてしまう。それが純粋な優しさだって、そうわかっていても。

 

どれだけ得ても、今まで全部無くしてきた私たちの、失う怖さに怯えることしかできない、そんなどうしようもない心根なんかじゃぁ。

 

先生、ダメだ。こっちの道は荊だらけで、進んじまったらもう戻れない。だって

 

「大丈夫ですよ。一歩ずつ、焦らず、覚えていけばいいのですから」

 

こんなに優しく甘い劇薬に、耐えられる筈なのないのだから。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

玉ねぎスープというのは良いものだ。優しい甘みと塩っけが、特に夜寒さか厳しいアビドスでは体に染み渡る。

多少味が大雑把で鋭くても、冷めていたってあの子達が一生懸命作ってくれたと言う事実だけで、十分すぎるぐらいには美味しい。

 

正直、あの子達全員の身体状況を把握することは難しい。いきなり固形食を食べさせて、私の様に戻してしまったら勿体無い。

 

夜。すっかり日も暮れて、息が白くなり始めた頃。私は相も変わらず資料を作成している。数日間は様子を見なければならないが、これで多少アビドスと、あの子達の負担が減れば万々歳だ。

少なくとも、私の目から見て、改善の芽は見られた。

あの弾ける笑顔が嘘であれば、その子はもう役者として成功している。

 

「せんせー。お客さんが来たよー」

 

と、報告資料を纏めていると開けっ放しの扉からひょっこりとホシノが顔を出してそう言った。時間を確認すれば、丁度夜中の一時を過ぎた所。こんな時間に誰が、何のために私を訪問するのだろうか…

 

「ありがとうございます、この部屋に通して下さい。後、貴方も早めに寝てくださいね」

 

「…うへー。ま、おじさんは気ままにやるよー」

 

相も変わらず不信を言葉の端々から滲ませながら、揺れていた指抜きグローブが引っ込む。

 

こうは言うが、きっといつものように此処ら一帯のヘルメット達と私の警戒を続けるのだろう。ここ最近は昼間も寝れていないのか、少しずつ隈も濃くなっている。

一朝一夕で得られるものではないとはわかっている、がどうにか彼女に信用してもらえる方法は...

 

と、考え事をしていると、ノックが響いた。入ってと呼びかけ出迎えるは、黒髪の少女。顔に何もつけていない状態だからわからないが、おそらくヘルメット団の一人だろう。

ヘルメットどころか銃さえ見当たらないところを見るに相当な覚悟を持ってここに来たようだ。

 

「あ、えっと…お邪魔、します?」

 

「ああ、いらっしゃい。適当なところに座って下さい…お茶が出せなくて、申し訳ないですが」

 

「い、いやいや!いいんだよ全然!」

 

目の前でぶんぶんと手を振る緊張し切った少女を見ると、ここも一つの学校だと再認識させられ、なんだか吹き出したくなってしまうほどに、平和だ。

 

そしてそのまま、彼女は指先を遊ばせ、下を向いて黙りこくってしまった。

まぁ何であれ、彼女が話したくなるまで待ったほうがいいだろう。

 

毛先を遊ばせて、指を組んで、少し長い沈黙の末、彼女は口を開く。

 

「数日前にさ、アンタ、もの無くさなかったか?」

 

「...?」

 

「アレだよ、あ、アンタが倒れてた日の」

 

不味い、心当たりが全くない。何か彼女達にしてしまったのか?それとも、何か施してもらった?匿ってもらったりでもしたのだろうか。

 

だが、彼女の態度を見る限りに私が何かをしてしまったわけではなさそうだ。

というより、なぜだか彼女が罪悪感を感じてるように見える。

 

「私...アンタの荷物勝手に奪って、勝手に飲み食いしちまった。バッグん中に空、あったろ。あれ、私なんだ」

 

「...ああ。役に立ちましたか?」

 

なんだ、安堵の息を吐く。それくらいなら問題はない、むしろ役に立てて光栄ですらある。私が何かの施しを忘れてしまっていたわけではないらしい。

 

けれど、私とは裏腹に目の前の少女は今し方何かを覚悟したようにギュッと目を閉じていたかと思えば、うっすらと目を開けて、顔を歪めて、そのままパニックになったように頭を抱えて目を白黒させている。

 

「...なんで。だってあんた、私達にあんな施してくれて、けど私は、受ける前にメチャクチャにして、受け取る前に、善意を、だって、あんなことしてもらう権利なんて」

 

「大丈夫ですよ。あれが貴方の役に立ったのなら、それで十分です」

 

盗みは本来安易に許されるべき罪ではない。だが、そうでもしなければ生きていけないのなら別だろう。それを聞くと、彼女は目を見開き、理解できないものを見ているように少し後退り、鋭く息を吐く。

 

「なんでだよッ!バカじゃねぇの!?アンタに何の得もねぇし、騙されてるかも知れねぇのに、他に何か盗まれてるかもしれねぇのに!なのに何で!そんなヘラヘラしてられんだよ!」

 

「だって、君はこうやって謝りに来てくれたじゃないですか」

 

罪なんて、誰でも犯すものだ。それも、この子のように犯さなければ生きていけないような、そんな子に対して怒るのは違う。怒鳴りに行くべきはこの状況を作った人間であり、決してこの子じゃないのだ。

 

「なんでだよ...怒鳴ってくれよ...殴ってくれよ...ぐちゃぐちゃに、してくれよ...」

 

そう、彼女は俯いて声を震わせる。握られていたた裾はもうくしゃくしゃで、震えた腕で私に縋り付いては、少しずつ力が抜けてゆく。

不安で、自分を許せないから罰してほしい、そんな純粋で優しい子なのに。だから、私は彼女をそっと抱き寄せて、背中を摩る。

 

「なら、自分が認められるような自分になってください。それが、私からあなたへの罰です」

 

「そんなの...っ...そんなの、あんたに何の得も!ないじゃないか!」

 

その手を払いのけて、それでもまだ縋る彼女に、

 

「あなたが笑ってくれるなら、他に望むものなんてありません。あなたは、私の大切な生徒なんですよ」

 

一瞬、ぽかんとした顔をした後、少し目元が潤んだ。堰を切ったように溢れた涙に任せて、そのまま私の胸の中で泣きじゃくった。

センセセンセと泣いて、泣いて、そうして、シャツがすっかり絞れるようになった頃、疲れてしまったのか規則正しい息をして、少し目元を晴らした彼女をそっと椅子に座らせ、コートをかける。

 

その頃にはとっくに太陽が登ってきていて、夜の冷えた空気は、すっかり暖められていた。

 




やっぱり先生の見てないところで花売って日銭稼いでる子とかいると思うんだよねキヴォトス
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