Blue Archive: Rewinding 作:Panofeed
『爆撃作戦に民間人が巻き込まれていると聞いて見にきたら...先生がアビドスに出張していることは存じていましたが、まさか本当に貴方だったとは。医療班、彼の手当てを』
「ありがとうございます。アコさんがいなければどうなってたことか...」
『本当に感謝してくださいね?たままた私の手が空いていたからよかったものの...』
天雨アコ。増加の一途を辿るゲヘナ生によるキヴォトス内各所での犯罪行為、それ等の連絡や対処、連携などをするとき先ず連絡するのは彼女であった。
恐らくこっちに来てから一番関わってきた生徒の一人でもあるだろう、それでも未だに彼女の少し寒々しい格好には慣れない。
若者のおしゃれというものはどうにも慣れないものだった。
「...先生。あんたの知り合いかい?」
柴大将のいつもの陽気な笑顔はどこへやら、耳を立たせ尻尾は地面に着かんとしている。
店を爆破されて、銃を向けられて、それでも未だ取り乱さない彼は、本当に尊敬するべき大人なのだろう。
もし機会があれば一緒に飲みにでもいきたいものだ、平和に、駄弁りながら。
「仕事仲間と言った方が適切でしょうか...何かと連携する場面が多くてですね」
『突然すみません。私はゲヘナ学園所属の行政官、アコと申します』
「あ、あぁ...」
正直、痛みがなければ非現実的すぎるくらいの状況だ。大将の歯切れの悪い返事も納得ができる。
つい数分前まで、ここに建物があって、アル達がラーメンを食べ流のを眺めて日常を過ごしていたはずなのに、今はそれが遠い先にある。
わちゃわちゃと、両手で箱の取っ手を抱えた少し小さめの女の子2人がこちらに近づき、私の腕に袖を捲る。
どうやら彼女達が衛生兵とやららしい。
傷は中々に深いらしい、外気に触れればジクジクと傷んで、今も血液がダラダラ流れ出て滴り落ちている。
それに何だか熱を帯びていて、腫れぼったいような感覚もある。
何だか体が元気に飛び跳ねて回っているような、そんな心地。
久しく感じたことはない、不思議だ。
「酷いですね。まさか蹴り一発でこうなるとは...」
「肉が少し抉れてます...何をどうしたらこんなことに?」
ツンとした匂いのするガーゼはよく染みて痛い。その上に手際よく腕が真白な包帯に包まれていく。
じわりと赤く血が染みたところも何重に覆うようにグルグルと圧迫され、たちどころに何もなかったように全てを覆い隠している。
アコはその間じゅう柴大将と何かを話していた。
少しずつ、彼の尻尾がパタパタと揺れ始めていて嬉しい限りである。
「応急処置は完了しました。が、念の為病院に受診しては如何でしょう」
「ありがとう、そうします」
「…どうだって?先生」
「大事にはならないそうで、安心しました」
「それは、よかった」
こちらに歩み寄ってきた柴大将が、自分の店のことでも手いっぱいであるだろうに、ひどく安藤したような顔で胸を撫で下ろす。
アコはこちらが落ち着いたのを確認してから、ホログラム上にも関わらず、深々とお辞儀をした。
『先ず、今回の作戦による被害を謝罪します。私たちゲヘナの風紀委員会はあくまで、私たちの学園の校則違反をした方々を逮捕するためにやってきました。決して、貴方たちを攻撃する意図はありませんでした。』
「あ、頭を上げてくれって…!」
『いえ…貴方方を巻き込んで、あまつさえお店まで破壊してしまいましたから。補償金による補填をお約束しましょう』
補償、と彼女は言った。詰まるところそれは、彼女の認識ではこれは一切の違反がない行為である、ということであろう。事実、原作通りならそれは大いに正しい。
「補償金?他校の管理する敷地内での不許可な戦闘行為は明確な違反では?」
『...?ここは、アビドス高等学校の敷地内ではありませんよ。現在は...確か、カイザーコンストラクションの管轄内のはずですが...』
「...やはりか」
嫌な予感程よく当たるものだ。
どうせそうであろうという半ば革新的なものがあったから、確認は怠っていたが...間違いはないらしい。
私の反応で、状況を少し把握したらしい、やれやれと言った感じでデコに手を当てて、ハァとひとつため息をつく
『そもそも、今回だって彼らからの通報ですから。私有地内で不当な暴力行為を働いたという通報があって。対象が便利屋68だったということもあって私たちが直々に赴いた次第です...カイザーからは少し黒い噂を聞いていましたけれど、まさかこうも利用されるとは思ってませんでしたよ』
トカゲの尻尾切り、ということだろう。
校舎の損壊などの確実な損害を出したヘルメット団などと比べると、実際なかなか結果は出せていなかったわけだ。そうなってもおかしいことは何一つもないのだろうが...
彼女たちはまだ学生だ、本来このようなことに巻き込まれてはいけないような年頃。
もちろんここと前の世界の違いは十分に承知している。
それでも、許してはいけない行為だろう。
「...その噂や、土地の状況などを私の方に送っていただけないでしょうか。必要な書類です」
『...あんまり大事にはしないでくださいね?ただでさえこっちも今エデン条約の諸々で結構ゴタついてるんですから...』
ホログラムの中でタブレットを操作する、という光景もなかなかシュールだ。
そう言えば、こんなホログラム技術があるのに、未だタブレットが普及しているのは何故だろう。
どことなく、SFなどでは訳のわからない便利道具が使われているイメージがあるけれど。
「こっちの方向で爆発が…っ!?」
「な、何がどうなってるのよ…!」
ふと、後ろの方から声がする。特徴的な声だ、
見ればやはり、というべきか。対策委員会の皆が、ホシノを除いて、勢揃いしている。
それぞれが驚愕に目を見開き、何が起こったのかを測りかねている様子だ。
それも仕方がないだろう、つい昨日までお店のあった場所が今や焼け野原、なんて経験は私も初めてだ...
にしても、シロコは本当に交戦的らしい。すでに銃に不備がない確認し始めている。
「…アビドス対策委員会の奥空アヤネです。所属をお願いします」
『ん…?ああ、こんにちは、アビドスの皆様。私はゲヘナ学園所属の行政官、アコと申します』
「状況説明を、お願いします」
『便利屋68を頻繁に匿っている店があると通報を受け、制圧した次第です。店主さんとはすでに和解済みです』
取り乱しつつも平然を装おうとするアヤネと、先ほどとは裏腹にまるで猫を被ったような、と言えば失礼か、丁寧な物言いを返し物腰の柔らかいアコ。
けれどその態度にどこか違和感を覚えたのだろう、少し口調が強くなる
「…私たちに、一切の連絡が来ていなかったことについては?」
『…ん?』
「他の学校が別の学校の敷地内で、許可なく堂々と勝手に戦闘行為をするなんて!自治権の観点からして、明確な違反です!」
『...あら?』
怒りをあらわにし、メガネを震わせるアヤネとは対照的に、アコはどこか腑抜けた、意表をつかれたような表情を見せている。
そうして、こちらを向いてちょいちょいと手招きをする。
『伝えてなかったんですか?』
「伝えるも何も、知ったのは今が初めてですので...」
「...俺も、ずっと前から退去勧告は受けてたんだが...なにぶん強制力がないもんで無視してたんだ」
『...はぁ...またややこしく...』
じとーっと目を細め、しばしばと瞬きをして、顔を引き攣らせて。
まるで感情の固定された百面相のようにコロコロと顔を変えて、そうしてどうにか笑顔に顔を戻して、アヤネに向き直る
『先ず、ひとつ誤解を解いておきたいです。この土地はカイザーコンストラクションの管理地区であって、アビドスのものではありません。従って「今回の件に違法性はない」…』
声が重なる、コツ…コツ…と踏みしめるよう無足音が響いて、それ以外の全ての音が、無くなった。
先ず、感じたのは肌を射すような威圧感。
小柄な体型とふんわりと膨らんだ髪からは想像もつかない畏怖を、体は捉えていた。
決して威圧的な態度をとっているわけではない、声色も違う。
不釣り合いなほど大きい銃がそうさせるのかと言われればそれも違う。
ただ、理由なく、恐ろしい。
「…どうしたの?続けなさい」
誰かの喉が鳴る音がした。
いや、自分のものかもしれないが、私にはよくわからない。
空崎ヒナは、ただ、そこにいるだけ。
それだけで、普段から慣れているであろう風紀委員の面々さえも、威圧されて声の一つさえ出せない。
「うへぇ…こりゃぁ酷いね〜」
呑気な声が響く。
タイミングは、最悪だった。
目を動かせば、建物の影から、桃色の髪。
伸びをしながら、銃を打てるようにして。
ホシノのヘイローは乱れている、ヒナと戦闘になって、可笑しいことは何一つない。
けれど、
「...あれ?委員長ちゃん、どうしてここに?」
「...ん?」
お互いが見合わせた時、ふっと、緊張が緩んだ。
どちらも、肩の力が抜けている。銃もだらんと垂れ下げて、まるで警戒するそぶりもなく、見たこともないような柔らかな笑みを浮かべている。
当事者二人以外は、私を含めて、困惑しているようだ、未だ動けない。
「少し手が空いたから、顔を見ようと思って。元気?ホシノ」
「ぼちぼちかな〜…にしても、クマ酷いよ?」
「貴方が言えたことでもないでしょう?」
本当に、心底嬉しそうに。旧友と再開したときのような、と表現するとわかりやすいかもしれない。
お互いが、本当に柔らかな笑顔で、それこそ荒れ切ったこの場所には不釣り合いなほどに、平和な時間。
「彼女は…まだ、目覚めないのかしら」
「予兆すらないね〜、残念だけど。ま、快方には向かってるんだけどね」
「...何か手伝えることがあれば、何でも言って頂戴」
「悪いよ〜。借金の件も助けてもらってばっかなのに」
「遠慮しないで。私と貴方の仲でしょう?」
こちらの事情を知っているのか、ところどころ遠慮がちに、影を落としたような顔をするヒナ。
口調からして彼女はユメ先輩のことも知っているのだろうが...なぜだろうか。
「...ほんと変わったね、委員長ちゃん。ずっと思い詰めてたような顔してたのにさ」
「それは貴方だって同じでしょう?」
『ヒナ委員長...その、状況の説明を...』
アコはよく頑張った。この状況で、自分より上の立場の人間が談笑しているこの状況で話を戻そうと試みたのだから。
ヒナは顔を真剣なものに戻し、アコの方を一瞥したあと、周囲を見渡し、どこか萎縮したイオリを認識すると、口を開く。
「大丈夫、だいたい把握した。要するに、違反者の捕縛に際した襲撃部隊の暴走...といったところかしら」
「...」
「詳しい話は校舎に戻ってから。撤退準備を、急いで」
「...はい」
そうして、ホログラムは消え、兵は皆期間の準備を始める。.
ふと、周囲を見渡している彼女の視線と私の視線がぶつかった。そうすると彼女は私の方にゆったりと歩みを進める。唾を飲み込もうとして、けれど口が乾いていて、少し喉が痛くなる。
「それで...貴方が、新しい先生?」
「初めまして。私がシャーレの二代目先生です。お見知り置きを」
「...ふぅん」
私を見やる。その視線は、まるで道端を駆け回る鼠を眺めているようにぼんやりとしていて、その上で嫌悪と敵意を孕むもの。静寂が痛い、滴る汗が顎を伝っているとはっきりとわかるほどに引き延ばされた時間。
「...何か事を起こしたら」
目の前に掲げられるは、銃口。
覗き込めるほど大きく、奥が見えないほどに長いそれを軽々彼女は持ち上げて、何でもないように、されど疲れを滲ませて、こちらを見やる。
吸い込まれるように、中の暗闇に、いつ光ってなくなってしまってもおかしくない暗闇に目を奪われる。
今、この瞬間に、彼女がトリガーを引けば、私は何もできずに、ゴミのように死ぬ。
死、こわい、いやだ、死にたくない。
「その時は容赦しないから」
『委員長』
引き戻された。目が揺れている、息が少し荒い、いや、心臓の音さえかき消すこれが少しなのか、もう今の私に分別がつくわけがなかった。
全身を伝う悪寒と汗、震える手に、自分のことで手いっぱいな脳内は一切の言葉を発せず、彼女たちを見送ることしかできなかった。
「ほら、帰るよ。」
へたり込むことさえ、できなかったのだ。
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月末だ。明日になれば今月も終わってしまう。即ち、返済日が来てしまう。
利子だけで幾つだったか…兎も角、今月まではどうにかやりくりしてきたらしいが、もう既に払いきれない所まで膨れ上がっているらしい。
柴関ラーメンが無くなって少し経つ。
重要な稼ぎどころと、憩いの場を同時に失ったのだ。今、校内で皆あっちへこっちへ忙しく動き回っていた。
「…」
私は何をしているか。
仕事の休憩がてら銃を分解し整備しているだけだ。
幸いなことに部品の欠損や錆なんてものはなく、ただ砂が噛んでいただけだった。
銃口内に布を巻いた棒を入れ、煤を絡め取る。
借りた布で稼働部の油を、ついた汚れと共に入念に拭き取る。
少しガンオイルを差し、馴染ませて、全体を拭き取り組み立て直す。
まずは撃針、スプリング、スライドリテーナーをスライドの中にしっかり、丁寧に入れる。
次はフレームだ。反動スプリングとガイドロッドを中に入れて組み立てておく。
そうして、その二つを組み合わせて、ピン穴を重ねて...
ピンを差し込みハンマーで押し込む。
何度も、何度も、何度も、動作不良など起こらないように。
「先生」
「...ホシノさん。いたのなら一言かけてくれてよかったのに」
「何回も呼んだんだよ?先生、すごい集中してたからさ〜」
最後に今一度スライドの調子をチェックし、セーフティを掛けてから拳銃を構える。何度かチャキ、とおもちゃのような音がして、それがやけに耳に残る。
「拳銃の整備って、毎日やるものじゃないと思うけど?」
「毎日使ってますから、整備するに越したことはないでしょう?」
「それもそうだ...にしても、何があったの?人が変わったみたいに、必死で射撃練習してるけど...ヘルメット団の子達の支援とか、仕事の時以外ずっと的狙ってるからさ。その仕事だって、随分忙しいみたいじゃん」
「べつに...自分の無力さを痛感しただけですよ」
「...そう?」
拳銃を腰のホルスターに仕舞って、手持ち無沙汰故、外をぼうっと眺める。
その視界の真ん中、ちょうど校門の前に見覚えのない異物、黒塗りの車は映っていた。今日は来客の予定はなかったはずだ、と記憶している。
と、廊下の方から勢いよくドタバタと駆ける音がし、半ば叩きつけるようにドアが開かれる。
「どうしたの?そんな焦って」
「先生...先輩...ッ...カイザーが!」
息も絶え絶え、といった様子で膝と扉に手をついて耳をピクピクと動かすセリカの後ろに大きな影が揺れる。
彼女の遥か上にかかった手は強大で、それでいて丁寧に組み合わさり、忙しなく動いているモーターやゴタゴタしているはずの配線が優雅にしまわれている。
『急に訪ねてしまって申し訳ない。そこの...連邦捜査部シャーレの先生と二人きりで話し合いがしたくてね。少し、席を外してくれるとありがたい』
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『単刀直入に言えば...アビドスから手を引いていただきたい』
ギィ、と重機の重さに木製の椅子は悲鳴を上げる。
両腕を膝に乗せ、前屈みになってこちらを見つめるのはカイザーPMC理事。
実物はかなり大きく、それこそ私の背丈の1.5倍ほど亜あるのではないかと言う巨体が、小さな椅子に収まっていると言うのは少し不釣り合いかもしれない
「…何故?」
『双方に得がない…といえば伝わるだろうが…私も、何も映画の悪党のような性格はしていない。無駄な諍いは、特に無関係な人間を傷つけるものは、避けたいものなのだよ』
顎に指を当て、まじまじとこちらを見つめる。目の中のレンズが忙しなく動き、まるで何かをスキャンしているようにも見えた。
「何を…」
『呼吸も浅く、目の下のクマもひどい...あまり寝れていないのだろう?差し詰め...連日の襲撃に参っているのだろう。同情するよ』
お前が依頼主だろ、と言う言葉が出かけて、歯を食いしばって噛み砕いた。
この場で言って仕舞えば、今までの苦労が全部水の泡になってしまう。
こちらが、何かの情報を掴んでいると言うことを勘付かれてはならない。
『先生、貴方は疲れているんだ。責任感に追われて、きちんと周りを見ていない。事実、あなたが居て助けになったことだってあまり多くはないだろう。一度シャーレに戻って、ゆっくり休んで、しっかり寝て、そうしたらきっと、貴方の不安も、たちどころに消えて行くはずだ。貴方に加えられる危害なんて一切ない。私たちだって充電の時間が必要なのだよ』
「...嫌だ」
自分でも、何を言っているのか、はっきり把握しているつもりではあるが、それでも、声も漏れる吐息も微かに震えていて、視界は揺らぎ、手が震えていることさえ明白に理解できる。
脳裏にずっと、肩から弾けた鮮明な赤色が、ピカリと明転する視界が、必死で耐え抜いた爆風が、顔に食い込む砂利の痛みが、銃口の暗さがチラついてしょうがないのだ。
『なぜ、執着する。そこまでする義理は貴方にはないはずだ』
なぜ、だろうか。
私は誰かに頼まれてここに来たわけではない。かと言って使命感に駆られてやってきたわけでもない。
もちろん、この場所を守り抜かなければ巡り巡って世界は崩壊する、と言う事実は脳で理解している、けれど、それじゃないんだ。
ただ、年端もいかない少女たちが、こんなくだらないことを自分たちだけで抱え込んで、そのまま墓まで持って行こうとするその姿勢が、ひどく憎たらしく映ったのだろう。
「部外者であっても…私は、ここを、彼女達の普遍的な日常を守りたい。私は、先生だ。生徒を救う役割を放棄することは、絶対にあり得ない」
『...そうか。それが、貴方の選択なのだな、先生』
どこか拍子抜けするほどに、あっさりと彼は席から立つ。
丁寧に椅子を引いて、手と裾を払って、そのままドスドスと、その巨漢からは致し方ないが、軋みを鳴らし姿勢を正してからこちらを見やる
『今日のところは帰らせていただこう。けれど、先生。覆水盆に返らず、という言葉を、忘れないことだ』
「...ご忠告、痛み入ります」
『生意気な野郎だ』
ふん、と鼻息を鳴らして、そのままドアを丁寧に閉めて彼はどこかへ消えた。外を見れば、すでに車は影も形もなく、窓から差し込む日はオレンジに輝いていた。
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今日は月の形がいい、夜の空を見ながらそう黄昏る。
此処最近、書類の作成に頻発する会議に追われていた。
特に大きなものはアビドスの事情についてが一つ、もう一つ私が去った後のヘルメット団やその他の子たちの受け入れ先について。
前例もなく、その上かなり深刻な問題だ、結局両方とも解決したのは今日であった。
無論夜まで起きることも少なくないどころか多いわけで、それ故最近はホシノと顔を合わせる機会だって少なくない。
「...今日で最後、か」
カバンに荷物を、と言っても入れるものだって数えられるほどしかないが、整理して詰めていく。
アビドスの事情についてできることをやった今、私が此処に残ることはできない。
それ以上に、今は人手を必要としているのだ。
事実として、今もリンはオンラインになっている。けれど、私が今やることはない
「アロナさん、タクシーの手配を」
『承知しました』
久々に、ゆったりとした時間を過ごしている気がする。
あくびを噛み殺して、少し歪んだ視界で空を眺める。
人工的な灯りがほとんどない、と言うのも関係しているだろうが、本当に星がよく見える。
私の学がないばかりにどれがどれなのかは一切がわからないが、それでもただ綺麗に瞬いていると言うことは認識できた。
どこかで、皆と一緒に星を眺めて話し合えたらどれほど素敵だろうか。
カバンを背負って、廊下に出て。
ふと、考える。
いつもはこの時間、私を警戒したホシノが顔を出しに来るはずだ。
ホシノは、どこだ?
『...先生代理?』
嫌な考えが頭をよぎった。
対策委員会の扉を開ける。
開けて、テーブルの上、かろうじて書類と何か手紙のようなものを確認すると、そう出ないでくれと祈りながらそれに大股で歩み寄り、乱雑に書類を見据える。
そこにはきちんと、退部届という命題が書かれている
「…ッ、畜生!アロナ、位置は!」
『ハッキング済みです。いつでも案内できますよ』
紙を適当に宙へと放り、私は駆け足で、今ホシノがいるであろう場所へと向かう。
このときのために、これまた悪であるとは承知の上だが、初日からアロナに頼んで全員の居場所を追跡してもらっていたのだ。
まだ間に合う、いや、間に合ってくれ。
小さな鯨の泣き声は、一つ解れて愚図ったまま
一体何がどうなってるやら...