ホラーゲーム開発部に取材しに行ったら本物だったんですけど 作:ガクランクン
「さてと・・・」
教室内を見渡して状況を瞬時に認識した如月が女性を見つめる。その目に萎縮し、弾けるように女性は喋り出す
「っ!私は悪くないわ!家出してる奴を連れ戻そうとしただけで!!」
その言葉に如月は思うところがあったのか、フムと少し考え、喋る
「・・・確かに、貴女の行動に“正当性”はある」
如月はにこり、と笑った。少々観察眼に優れた山田ならわかる。昼間の取材と同じ笑顔の仮面だ。
「・・・でしたら、こうするのは如何です?…お互い今日のことは“無かった”ことにしましょう。私たちは何も見てない、会っていない・・・と」
女の様子を観察しながら話を続ける。
「その代わり、貴女には黙ってくれる対価として報酬をお支払いしましょう・・・金額は最低でも数千万・・・私のポケットマネーから後日お支払いしましょう。どうでしょう?お互い悪くない話ではないでしょうか。宜しければこの場で“契約”を・・・」
この言葉はハッタリなんかでは無い、現に如月はグループのCEO、数千万なんてすぐに払える額だ。女はその言葉に一瞬驚くが、その顔を見て真実だと気づく・・・だが
「───必要ないわ」
ピシャリと女はその契約を断った。そして一旦は治ったその激情が見る見るうちに湧き上がっていった。
「私のことを散々コケした!それだけで関係ないわ!お金の関係じゃない“私のプライド”の問題よ!」
その激情を真正面から浴びても如月の顔は変わらない、その激情をその身に受け止めてなお、冷静に応じている。
「なるほど、話には応じない・・・と?」
「ええそうよ!お金なんかじゃあ解決しないわ!」
「そうですか、そうですか───では凌牙、頼む」
その笑顔の仮面を崩すと同時に、合図を飛ばす。
『あいよ』
「鮫島先輩!?・・・こ、これは?」
軽い機械音声による返事が、数十分前以来のその声が山田の鼓膜に入ると同時に、空気の膜が壊れる感覚がして、山田の体から圧迫感と息苦しさが消えた。
しかし女性はその音を聞いたと同時にワナワナと震え、血相を変えた
「ど、どうして!?なんで“結界”が・・・・・・!」
「自身の“霊力”を混ぜ込んだ空間を形成して自身に有利な空間に作り替える。簡単にいえば空間内全てが自分の手足として動かせるようにする“結界”」
「ハッ!」
女性が驚愕した顔で安倍を見る。いつのまにか安倍を拘束していた式神は影も形もなくなって、安倍は机の上に座っていた。その表情はまだ影が差しているが、それでも比較で落ち着いている。
「ポピュラーな結界術の一種で、簡単にパワーアップできる反面、結界の消滅と共に著しく弱体化してしまう。例えば使っていた“術”が全て解除してしまうよう・・・なーんてことも」
安倍が少々くしゃくしゃになっているヒトガタを持ちヒラヒラと手の中で遊ばせ、誰に聞かせるわけでもない説明をした。
「っ!答えなさいっ!一体何をしたのっ!!」
『テメェらは2人1組のツーマンセルで活動する“退魔師”・・・結界術を貼りサポートする結界術師と式神術で直接祓うアンタのコンビネーション、見事だぜ。ただ結界担当の方がやられた際の保険がないのは少々いただけねーな』
小型ドローンから人を小馬鹿にするようなターンの凌牙の声が聞こえてくる。
「鮫島先輩!無事だったんですか!」
『おう、ちょっと心配かけちまったな
「・・・さて、これが最後です。今からでも遅くはないです」
如月は諭すような落ち着いた声で女性に語りかける。それを聞いた女性は付き物が落ちたような顔つきになり、はぁとため息をわざとらしくついた後
「分かったわ・・・ただ約束してちょうだい。彼が気絶した分まで吹っ掛けるから」
「──はい、問題ないですよ。安倍、頼んだ」
如月は先ほどの顔に戻り、安倍に合図をする。安倍は人使い荒いんだからも〜、とぼやきながらも2人の間に入り込み握手をさせ。
何かを喋ると2人の間が一瞬光ったように見えた。なんなのかわからなかったが、おそらくそれが如月が先ほど言っていた“契約”だろう、と感覚的に思った。
「これで今日のことは無しと言うことで」
「分かったわ。じゃあさっさとこっちの“仕事”を終わらせなくちゃね」
そういい、宙に浮くセーラー服の少女に向き合う。安倍はそれを聞いた瞬間に、教室の外へ駆け出す。如月は安倍を見ると、鮫島のドローンの方をチラリと見るとドローンは静かに教室の外へ出ていった。
そして改めて宙に浮くセーラー服の少女を見ると、安倍と同じように驚いた表情をした。
「・・・“幽霊”ですか?」
「そう、珍しいでしょう?私も驚いたわ。初めて本物を見たから、さて祓わなくちゃ」
彼女は、セーラー服の彼女…幽霊に向き合うと日本語だか英語だかわからない言語で呟き出した。
すると幽霊は苦しみもがくような仕草を見せた。それを見た山田は居ても立っても居られずに大声を出す。
「ちょ、ちょっと待ってください!彼女・・・なんか苦しんでないですか!?」
山田は今日初めて怪異というオカルト的存在を知ったが、今まで見てきた怪異と違い、危険な感じがしなかった。
だというのに、鎖やらお札でぐるぐる巻きにして苦しむようなことをするのはどうなのか?という旨を伝える。
女性はそのことを聞くと、少し思い悩んだ仕草を見せて山田に謝る
「確かにそうね、危険な怪異と同じ方法で祓おうとしてしまったら彼女の苦しみは終わらないわ。ごめんなさいね」
「あ、いえ!こちらこそ素人が口を聞いてすいません!」
先ほどまで見せた態度がすっかり鳴りを潜めた様子がおかしかったのか、フフフッとまたまた笑った。
そして女性は、幽霊に巻き付いている鎖とお札をゆっくりと慎重に外して、幽霊の拘束を解く。
そして彼女は、また日本語とも英語ともわからない言葉を呟く、しかし先ほどのような刺々しくは無く、柔らかさと優しさを感じるように、優しく丁寧に
それが数十秒続くと幽霊の体から光の粒が溢れ出して、それと連動するように幽霊の体がさらに透けてさらに奥が見えてくる。
「・・・・・・」
その様子を見守っている山田に対して、幽霊は微笑み
“■■■■■”
と呟き完全に消えた。山田は別に読唇術に精通してるわけでも読心術に急に目覚めたわけでもない。しかしなんと無くだが彼女の言いたいことはわかった
“ありがとう”
そう、呟いた気がした。
「じゃあこれで解散ね」
当初の仕事が教室に住み着く幽霊の除霊だった女性はあの後すぐに帰って行った。最後の最後まで本名は明かしてくれなかった。
本人曰く「必要になったら喋る」とのこと、結界術師を引きずりながら帰っていく姿はアグレッシブだなぁという感想が残った。
「じゃ、こっちもそろそろ解散っすね」
いつのまにか合流していた安倍の言葉によって、こちらも帰ることになった。現在山田達は学園の外の校門前にいる。
『今日あった事は、まぁなんだ。ちょっと変わった夢を見たと思え』
「学園での出来事は、できればあまり口外しないで欲しい・・・だが、何かあったらすぐに我々を頼って欲しい。力になるから」
「皆さん・・・今日はありがとうございました・・・!!」
今日1番の深々とした礼をして全身全霊で礼を伝える。
「構わないさ、それより帰り道はついて行った方がいいかな?」
「あ、いえ自分で帰れる・・・と思います」
「なんか変な怪異が出ればすぐ戻ってくださいっすよ!すぐ祓うので!!」
「ありがとうございます───怪異・・・そういえば、ああ言った存在ってこれからも見えるんですか?」
『いや、それに関しちゃ安心しろ。今回のはかなり特殊なケースだから見えただけでこれから先見る事はない・・・まー意図的に心霊スポットとか行けばまた変わるけどな』
「そ、そんな恐ろしい真似しませんよ」
「・・・それもそうだね」
誰かが最初に笑い出し、それが連鎖するように全員が笑う。そうして一通り笑い終わると、山田はニコリと笑顔になり、最後にもう一度深々と礼をしてホラゲー開発部の面々と別れていった。
「時間は───うん、まだ電車はあるな」
スマホを見て、現在の時刻を確認して終電を逃したかどうかを確認する。さっきまで非現実的な出来事の当事者だというのに、何も変わらず日常に戻った自分の適応力に少し苦笑いしながら
今日の出来事を思い出す。1人ぼっちで校内一の有名集団に取材をしに行き、更には深夜の学園で怪異やら式神やらの異常存在を見て・・・1人の少女を救った。たった数十分程の出来事だが最も忘れならない夜の出来事だろう。
(ん?────深夜?夜?)
何かすごい嫌な予感がして、スマホのメッセージアプリを立ち上げると、家族全員から大量のメッセージが届いていた。内容は全て「今どこにいる?」「無事?」「何してるの?」と言った自身の安否や居場所を聞く旨の内容だ。
「あ、はは」
もし、今から学園に戻って彼らと合流したら家族に対しての言い訳と謝罪も手伝ってくれるのかな?と一種の現実逃避をしながら
(ど、どど、どーしよ・・・コレ)
どう説明したものか汗をダラダラ流しながら考えるのであった。