ここだけ病弱コハル   作:匿名さん

1 / 51
はじめましての方ははじめまして。ネットの某所で物書き面してた者です。
本人証明のため、向こうに載せてない最新話までは連続投稿します。ひぃん笛の機能とかよくわかんないから全部手動だよー


エデン条約編
その1


「納得がいきません」

 

これで3つ目のパフェを口に放り込みながら、我らが正義実現委員会副委員長は憮然とした表情を隠しもせずに告げた。

 

「規則では確かに、いかなる理由があろうとテストの欠席は無得点扱いにはなります。例え体調の悪化が理由でも。……ですが」

 

胸の中の憤りがそうさせるのか、一口というには大きすぎるサイズのパフェの欠片が、スプーンで運ばれて口の中へ。いつにもましてハイペースっすねぇ。

 

「たった一度の無得点だけで、『補習授業部』なる部活へ移籍になるなどと。あの子の体の弱さは、ナギサ様もご存知のはずなのに」

 

「あー、まあまあ。そのへんにしとくっすよハスミ先輩。そんなバカスカパフェを食べたら太……なんでもないっすー、なんでその目はおやめください……」

 

「……いえ、私も少し感情的になりすぎていたきらいがあります。申し訳ありません、イチカ」

 

一瞬つり上がった眉をもとに戻しながら、ハスミ先輩は謝罪を口にした。普段は冷静に見えて意外と激情家なのが羽川ハスミという生徒だ。

 

「大丈夫っすよ。気持ちはわかりますし、私も、理解はしていても納得はしていませんから」

 

少しばかり冷めかけたコーヒーを口に運ぶ。

 

トリニティでは紅茶の需要が圧倒的で、コーヒーを飲む生徒は少ない。だけど、全く需要がないわけじゃない。頭を回したい時なんかは特に。

 

「シャーレの先生を顧問にした、成績が悪い生徒を集めた補習クラブ。……ただ、まあ。試験に受かれば問題もないっすし。コハルちゃんも体が弱いだけでオツムはそこまで悪くないっすから」

 

「ええそうですね。試験に受かれば何の問題もない。ただ……何か、作為的な物を感じるのは、私だけでしょうか。そもそも、この『補習授業部』というシステムそのものが、あまりにも急に作られすぎています。いくらティーパーティーの権限とはいえ、シャーレも巻き込んでの急な設立です。エデン条約が控えているなか、こんなものを急に作り出すなどと……ナギサ様は、何を考えているのか」

 

「成績が悪い生徒への救済措置……だとするなら、コハルちゃんが選ばれるのはおかしいっすからね」

 

コハルちゃんは体が弱い。体を動かすことが難しかったからか、あの子は昔から本を読んで過ごしていたようだ。

結果として、学力自体は比較的高い方で、テストもアクシデントさえなければ高得点を取れる子だ。この前も、うちの後輩たちに勉強を教えてくれと群がられて苦笑していた。

 

「何にせよ、今は様子見するしかないっすね。時期が悪すぎます。こっちもエデン条約でてんてこ舞いっすから、ナギサ様の思惑にはある程度沿うしかなさそうっすね……」

 

「……遺憾ですが、致し方ありませんね」

 

最後の欠片を口に放り込んで、ハスミ先輩は立ち上がった。マジっすか、あんだけあったパフェがもうないんすけど。

 

「愚痴に付き合わせて申し訳ありません、イチカ。私はこのあと先生とコハルを引き合わせなければなりませんので、これで」

 

「了解っす。私も、そろそろパトロールの時間っすから」

 

エデン条約に、補習授業部、ナギサ様の思惑。色々と暗雲が立ち込めているが、今はとりあえず進むしかなさそうだ。

0の多い注文伝票を横目で見ながら、私……仲正イチカは人知れずため息をつくのであった。

 

 

 

時が移ろい、午後。

 

【こんにちは、ハスミ。忙しい中ごめんね】

 

「いえ、大丈夫です。先生。こちらこそお忙しい中来ていただけたことに感謝しています。では行きましょうか」

 

シャーレからの来訪者を連れ添い、ハスミは正義実現委員会本部の建物の中を進んでいく。

 

【結構奥まで行くんだね……】

 

「普段、彼女は押収品管理室にて業務を務めていますので。ですがもうすぐです。……着きました。この扉の先です」

 

古めかしいながらも何処か威厳を感じる、両開きの大扉。そのドアノックを鳴らして、ハスミは口を開いた。

 

「コハル。私です。入りますよ」

 

「あ、ハスミ先輩。どうぞー」

 

扉に遮られてかくぐもった返答が聞こえ、ハスミは扉を押し開けた。

広い部屋には大きな本棚がいくつも置かれており、何冊もの本が収められていた。中央には大きな長テーブルがひとつ。その両脇にいくつか丸椅子が置かれており、まるで図書館のようだ。

だが、図書館特有のカビ臭さというものはどうにも感じられない。気になるのは静かな機械の駆動音。ふと部屋の隅を見ると、ミレニアムのロゴが入った空気清浄器が控えめに自己主張を続けていた。

 

ホコリ一つ積もっていない長テーブルの奥。整理でもしていたのか、いくつかの本が積み重なった先に、小柄な生徒が1人座っていた。ピンク色の髪に、小さな黒い翼が生えた少女は、こちらを見て柔らかな笑みを浮かべた。

 

「紹介します、先生。こちらは下江コハル。押収品の管理や、怪我をした委員会メンバーの救護など、正義実現委員会の裏方を担当しています。

コハル。こちらはシャーレの先生です。今回の件も含めて、きっとあなたの力になってくれるでしょう」

 

「あなたが噂のシャーレの先生……はじめまして、下江コハルといいます。生まれつき体が弱いので、ご迷惑をおかけするかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします」

 

【はじめまして、シャーレの先生をやっている者です。こちらこそ、トリニティには疎いから、そのあたり上手く協力しあえたらなと思っています。よろしくね】

 

手を差し出して来たコハルに合わせて握手をする。体温が低いのか、小さなコハルの手はやけにひんやりしているように感じられた。

 

 

 

「以前にも伝えたので把握しているでしょうが念の為。下江コハル。あなたはしばらくの間正義実現委員会を離れ、補習授業部に移籍することになりました。あなたの体の事情は把握していますが、なにぶんティーパーティーの決定ですので。……私の力不足です」

 

声はしっかりしているが、幾らか罪悪感があるのかもしれない。ハスミ先輩は目を伏せて、私に下された決定を改めて伝えてきた。

 

「い、いえ。テストを受けられなかった以上、無得点になるのは仕方のないことです。ハスミ先輩のせいではありませんから、どうか気にしないでください」

 

「……あなたが一時的にせよ、正義実現委員会から離れるのは大変な損失です。ここに収められた押収品を全て把握しているのはあなただけですから。業務の引き継ぎは終わっていますか?」

 

「はい。何人かに分けて、押収品のリストと今後整理すべき物のリストを分割して渡してあります。トリニティの長い歴史の中で、多種多様な物が収められてきました。その全てを、好きでもないのに一人で覚えろと言うのは、さすがに酷ですから……」

 

ここの部屋に収められている押収品は、全体のほんの一部でしかない。歴史の長さでも有名なトリニティ総合学園は、代々の治安維持組織が名前を変えつつ、今まで生徒たちから取り上げた禁制の品を長きにわたって受け継いできた。

ただ、あまりにも歴史が長すぎて、今まで押収してきた品が何処にいくつあるのか、と言った記録がところどころ紛失していたのだ。

 

正義実現委員会に憧れて入部を希望した私は、体の具合を考慮されて、主に押収品の管理を担当することになった。

前線に立てない役立たずが、少しでも力になれることはと……他の事務作業担当の子達の力も借りつつ、押収品の整理とリストアップを始めることにしたのだ。

私が正実に入部してからまだ1年経っていないが、周囲の子達が優秀なのもあって整理作業は順調に進んでいた。ただまあ、主にたくさんの本の整理先を全部暗記しろっていうのは、私やシミコ先輩、ウイ先輩くらいしかできないだろうから、私のポカで補習授業部なるクラブに移籍が決まったと聞かされてから、今まで引き継ぎ作業を進めていたのだった。

 

「押収品についてはこれで問題ありません。あとは部員の救護についてですが……」

 

「そちらに関しては心配する必要はありませんよ、コハル。救護騎士団に話を通し、騎士団員を1人、穴埋めで向かわせてくれるそうです」

 

「そうですか……よかった〜」

 

心配事の種が一つ減って、私の胸の内はいくらか軽くなった。

救護騎士団はトリニティでも歴史の長い部活動だ。そこに所属する団員の知識と実力はかなりのもので、多少の怪我なら即座に対応できるだろう。いつも迷惑をかけている私が言うんだから間違いない。

 

今までの経験から、人体にある程度詳しい私は、裏方専属なのもあって負傷した部員の治療も行っていた。救護騎士団の人と比べると流石に拙い腕だが、それでも私の神秘の関係もあって、今まで部員に割と感謝されるくらいには働けていた。

体調がいい時にしか見れないから、そんなに役には立ってないと思うんだけど……使い勝手が悪くても、救護員が1人減るのは割と組織としてダメージがある。メイン業務の押収品管理の引き継ぎで、そちらにまでは対処できなかったんだけど、どうやらハスミ先輩たちは対応してくれていたようだ。流石はハスミ先輩。スマートな手腕だ。

 

「コハル。まずはあなた以外の補習授業部員を集める必要があります。そのうち1人はここ、正義実現委員会建屋内にいますので、今から先生を連れて会いに行きましょう」

 

「はい。……? 正義実現委員会から、私以外にも補習授業部員が選ばれているのですか?」

 

「そういうわけではないのですが……ともかく、こちらへ」

 

先生もついてきてください。そう言ってハスミ先輩は身を翻し……ふと立ち止まって、私に再び正対した。

 

「そういえば、今日の体調は大丈夫ですか?コハル。無理してはいけませんよ」

 

「あ……大丈夫です。ハスミ先輩、心配していただいてありがとうございます。でも今日は朝から調子がいいので」

 

嘘ではない。少なくとも、調子が悪い時に比べて熱がないことは事実だ。朝からこうして押収品の整理をする余裕だってある。

ハスミ先輩はかがみ込むと(それでも私より背が高いままだ)、私のおでこと自分のおでこ両方に手を当てた。

 

「……ふむ。平熱にくらべていささか高い気もしますが……誤差と切り捨てられる範疇ではありますね。いいですかコハル? 再三言いますが決して無理をしてはいけませんよ。容態が急に変わることもありますから。薬と日傘はちゃんと持っていますね?今日は日差しが強いので、日中移動する際はこまめに日陰で休憩を。あとは」

 

【ちょっと待って。そんなに具合が悪いのかい?】

 

「あー……その、えっと……悪い時は、悪いです、はい……」

 

いけない。初対面の先生を心配させてしまった。これ以上迷惑をかけないよう、私は力こぶを作ってアピールする。

 

「で、でも! 今日はほんとに調子がいい方なので、大丈夫です!ハスミ先輩はちょっとだけ心配性なところがありまして……私が悪いんですが」

 

「最初の頃、心配をかけないよう無理を重ねていた子は果たして誰でしょうか?」

 

「うっ……すみません」

 

そこを突かれると痛い。発作とは違う意味で。

しゅんとする私に、ハスミ先輩はふっと笑って頭を撫でてきた。

 

「少し意地悪な言い方でしたね。ともかく、今日は調子が良さそうなことは確認しました。……先生」

 

真剣な表情をしたハスミ先輩は、私を撫でながら先生に声をかけた。

 

「コハルと一緒に行動するにあたって、お願いがあります。彼女の様子がおかしかったり、胸を押さえて苦しんだりした場合、彼女のカバンから薬を注射して欲しいのです」

 

【注射?】

 

「ハスミ先輩。さすがに私が説明します」

 

初対面の人に頼むには結構重たいけど、背に腹は代えられない。私はテーブルにおいていた自分のカバンを探って、筒状のプラスチックを取り出した。手のひらサイズのアンプルだ。中では透明な液体が揺れている。

 

「もし私が、その、有り体にいえば発作を起こした時に、これを打ち込んで欲しいんです。場所は首でも肩でも、極論どこでも問題ありません」

 

【発作があるの?】

 

「そんなに頻度は多くないんですけど……一応は」

 

かなり専門的な話になるので詳細は省くが、私は心臓が悪い。このアンプルは強心剤に近いもので、不安定な私の心臓を助けてくれるものだ。発作の時なんかは特に。……あと“発作以外の時も“。もっとも、そういう使い方はあまりしたくないけれど。

私の状態が想定より悪かったのか、先生は目を白黒させていたが、真剣な顔でうなづいてくれた。

 

【わかった。医学には詳しくないのだけど、できる限り血管に打ち込んだほうがいいのかい?】

 

「できればで構いません。さっきも言いましたが、極論打って体に吸収できればそれでいいので。いきなりこんな重たいことを頼んでしまってごめんなさい……」

 

【大丈夫。謝る必要はないよ。君の体が最優先だから】

 

シャーレの先生。噂だと生徒の足を舐めただとか、まことしやかに言ってる層もいたけれど。思った以上に優しい人でよかった。生徒の味方を標榜しているだけはある。

 

私と先生の話がまとまったことを確認して、ハスミ先輩は再び声をかけてきた。

 

「私も同行しますし、基本的には私が打ちますから大丈夫です。発作も、ここのところ起きていませんし、そう身構えることもありませんよ。……では、そろそろ行きましょうか」

 




昔は単発スレで終わらせるつもりだったのにねー……
どうしてこうなった???
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。