ここだけ病弱コハル   作:匿名さん

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その13

 

「う……ん………?」

 

不意に感じた頬をくすぐる風の感触。後頭部を柔らかいフィット感に包まれながら、私は目を覚ました。

 

「あ、起きた。ハナコさん、大丈夫ですか?」

 

「あ、コハルちゃ、ん……? 一体、何が……」

 

「覚えてませんか? ハナコさん、突然失神しちゃって……」

 

上から覗き込んで来たコハルちゃんの尊顔を拝しながら、私は過去の記憶を思い返す。

確か私は……うまい言い訳が思いつかなくて、コハルちゃんに全部ぶちまけて……コハルちゃんがまるで天使様に……ん? ちょっと待て。"上から覗き込んで"?

 

「とりあえず意識ははっきりしてるみたいですね、よかったぁ……」

 

コハルちゃんは心底ホッとした様子で、私に朗らかな笑顔を見せてくれた。……私を膝枕しながら。私を膝枕しながら。重要なので2回言いました。

 

「……ふおわぁっ!? すすすすいませんコハルちゃんすぐどきま痛ぁっ!?」

 

「ひゃあ!? は、ハナコさん!? 大丈夫ですか!?」

 

慌てて体を捻らせた私は周囲の状況確認を失念しており、コハルちゃんの膝上から転落して地面に熱烈なキスをかました。なんて無様な姿を……というか普通に痛い。頑丈なキヴォトス生まれでも痛いものは痛い。

 

「あちゃー。ハナコさん大丈夫ですか? 顔上げられます?」

 

心配してベンチから立ち上がりそうなコハルちゃんを片手で押し留めつつ、もう片手で痛む顔が変な形に加工されていないか確認していると、コハルちゃんのカバンを肩がけした宇沢さんが近寄ってきた。私の手をつかんで立ち上がらせると同時に、顔を寄せてヒソヒソと囁く。

 

「……ハナコさん。コハルさんとお話する時だけすごい空回ってませんか? 朝の冷静さは何処に行っちゃったんですか」

 

「そ、それが……コハルちゃんと話そうとすると、何故か気が動転してしまって……」

 

「……もしかして、話に出ていた奇行はそれが原因ですか」

 

宇沢さんは共感半分、呆れ半分の眼差しで私を見つめた。友だちとまともに話せもしないゴミですいません、今までやった試しがなくて……

自己肯定感が粉砕されてミジンコのように小さくなっていく私を見て、宇沢さんはポンと私の肩に手を置いた。

 

「気持ちはわかりますので、落ち着いて。これから慣れていけば、ハナコさんならいずれ普通に話せるようになると思いますよ。あ、これ、ハナコさんの荷物ですよね?」

 

今まで預かってましたので、はいどうぞ。と私のカバンを渡してくる宇沢さんに、礼を言って受け取る。

落ち着いて辺りを見回すと、そこはコハルちゃんの部屋ではなく、小さな公園のようだった。公園というより休憩所に近いもので、あるものと言えばコハルちゃんが腰掛けているベンチくらいだ。少し遠くにトリニティ総合学園の尖塔が見える。――確かここは、トリニティの校舎にほど近い位置にあった公園のはず。コハルちゃんの家から校舎までの間に存在していた。

 

「コハルちゃんは心配していたんですが、素人ながら命に別状はないと判断しまして、そのうち目覚めるだろうと運んできました! この宇沢レイサ、力仕事には自信がありますので!」

 

「無理しないでとは言ったんですけど、軽々とハナコさんを背負っちゃって……私のカバンまで持ってくれたんです。改めて、ありがとねレイサ」

 

「お気になさらず! この程度のこと、スーパースターの宇沢レイサにお任せください! トリニティの守護者であり、今日はコハルさんの守護者でもありますので!」

 

「頼もしいわね」

 

宇沢さんの頼りになる発言(独特なポーズ付き)を受けて、クスクスと楽しそうに笑うコハルちゃんが可愛すぎる……じゃなくて。

もしや、コハルちゃんの家からここまで私を背負って運んでくれたというのか。しかもコハルちゃんのカバンと私の荷物付きで。会ったときから思っていたが、なんと優しい人なのだろう。

目を丸くする私に、宇沢さんが補足を入れてきた。

 

「流石に途中途中で休憩を入れてましたけどね。コハルさんの休憩もまめに取らなくちゃなので、一石二鳥というやつです!」

 

「……それでも、お礼を言わせてください。ここまで運んでいただいて、ありがとうございました。宇沢さんは優しい方なのですね」

 

「い、いえ、それほどでも……あ、そうだ! ハナコさん、私のことを呼ぶ時は『レイサ』でいいですよ!……その、ご迷惑でなければ」

 

「迷惑などとは……いいのですか?」

 

「はい! 私のことを苗字で呼ぶのは、私の永遠のライバルだけにしておきたいので!」

 

「では、『レイサさん』と。ふふ……なんだか……そういえば、今の時間は」

 

『今のやり取り、なんだか友だちみたいですね』という言葉を飲み込んで、私は話をそらした。コハルちゃんと出会う以前は考えもしなかった経験に口を緩ませつつ、時計を見ると、現在時刻は7時を回ったあたり。まだ時間的余裕はあるが……

 

「ここまで運んでもらった私が言うのもなんですが、そろそろ出発しましょうか。テスト当日に遅刻は外聞が悪いので。……その……コハルちゃん、も……それでいいですか?」

 

「そうですね……コハルさん、動けますか?」

 

「私は大丈夫です。レイサも心配してくれてありがとう。薬も効いてきて楽になったからもう大丈夫。行きましょ?」

 

ベンチから立ち上がったコハルさんは、レイサさんから自分のカバンを受け取ろうとして、教室に着くまでは私が持ちますよ! と言われて拒否されていた。

それからコハルちゃんを気遣いつつ歩くことしばし。紆余曲折ありつつも、私たちは無事トリニティの校舎にたどり着くことができたのだった。

 

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