ここだけ病弱コハル   作:匿名さん

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その14

 

第一次学力試験、試験会場――トリニティの校舎内にて指定された教室に、私とハナコさん、レイサが着いた時には、既に残り2人のメンバーは揃っていた。

 

「あ! コハルちゃん、ハナコちゃん、おはようございます!」

 

「おはよう2人とも。現在時刻8時30分。任務開始までまだ時間があるうちに到着するのはいい心構えだ。任務の成功率も上がる」

 

「おはようヒフミ先輩、アズサも」

 

「おはようございます」

 

朝の挨拶を交わし合う私たち。アズサは相変わらずちょっと独特だけど、補習授業部として活動してきたこの数日でだいぶ慣れてきた。

 

「コハルちゃん、体は大丈夫ですか? 熱が出てたりとか、無理はしてませんか?」

 

「朝はそこまで良くなかったけど、薬が効いてるから今は大丈夫。心配してくれてありがとうヒフミ先輩」

 

「コハル、キツイと感じたら無理をするな。隊員のコンディションが悪ければ、成功する任務も成功しなくなる。私の席はコハルに一番近いから、何かあったら遠慮せず頼ってくれ」

 

「ありがとうアズサ。……なら申し訳ないけど、もしも私がその、この前みたく発作を起こしたら、先生と同じように薬を打って欲しいんだけど、お願いできる? アンプルを渡すから」

 

「了解した」

 

アズサの申し出に甘えて、カバンからアンプルを取り出して渡……あれ、私のカバンは?

あ、そうか。私のカバン、レイサが持ったままだ。申し訳ないことをさせてしまった。

 

「レイサ、今朝は本当にありがとう。カバンまで持ってくれて、感謝してもしきれないわ」

 

「いえ、気にしないでください! この宇沢レイサ、今日はアイリさんの代わりにコハルさんの守護者を務めていますので! このくらいお茶の子さいさいです! ……ところで、補習授業部の部長さんはどちらの方でしょうか?」

 

「あ、はい! 私ですが……どうされましたか?」

 

自分の胸を拳でドンッと叩いたレイサは、私にカバンを返してくれたあと、声とテンションを下げて皆に問うた。ヒフミ先輩がそれに応じる。

 

「試験前に頼み事をして申し訳ないのですが……今日、試験が終わったあとに、コハルさん図書館に本を返しに行くそうでして……私もついて行って補助するつもりだったんですが、所属組織の都合上時間があかない可能性もありまして……お手数なんですが、もし試験後に私が行けなかったら、代わりにコハルさんの補助をしてもらってもよろしいでしょうか……?」

 

「レ、レイサ!? 私一人でも大丈夫だから、何もヒフミ先輩に頼まなくても……」

 

「駄目ですよコハルさん! 一人だともし発作が起きたら誰も助けられませんから! 朝飲んでる錠剤はあくまで体調を整えるためのもので、発作防止にはならないというお医者さんのお話でしょう?」

 

「う……そ、それはそうだけど……」

 

だからといって態々ヒフミ先輩についてきてもらうのは……向こうも予定があるだろうし……そうだ、いっそ"アレ"を使うのはどうだろう。ちょっとだけなら負担も最小限で済むはずだし。と思ったが、レイサが本気で怒りそうな気がしたので口には出さない。この子マジギレすると表情がスンッてなってめっちゃ怖いのよ。

 

「あはは……私の都合は大丈夫ですよ。コハルちゃんのことはほっとけませんから。私が図書館についていきます」

 

「ありがとうございます!」

 

幸いなことにヒフミ先輩は快く快諾してくれた。レイサは深く腰を曲げてお礼を言っている。ありがたいけど、私がするからレイサがそこまでしなくてもいいのに……本当に優しい子だ。

 

「ヒフミ先輩、ありがとうございます。レイサもありがとう」

 

「いえ、元はと言えば私の都合のせいなので、気にしないでください! ……では、そろそろ私は行きますね。コハルさん、絶対に! 無理しちゃ駄目ですからね! 皆さん、どうかコハルさんをよろしくお願いします。下校の時は私が付き添いますので、そっちは安心してください。では!」

 

私にダメ押しで釘を差した後、補習授業部の皆に頭を下げてから、レイサは教室を出ていった。次に会う時は放課後、下校時になるだろう。

 

「しっかりした人ですね……さて、もうすぐ一次試験が始まります。今までの補習授業の様子を見てきて、恐らく皆さんなら何の問題もないと思います!」

 

ひらひらと手を降ってレイサを見送ったヒフミ先輩が、私たちを見て喋りだした。

 

「最初はとても不安だったんですが、コハルちゃんもハナコちゃんも優秀で、アズサちゃんも今日までとっても頑張ってくれました! よかったです、もし一次試験に落ちたら色々と面倒なことになってたので……」

 

「……ふふ。ヒフミちゃん。まだ先の話をすると鬼が笑いますよ?」

 

露骨にホッとした様子を見せるヒフミ先輩に、ハナコさんが微笑みながら諌めた。まあ確かに、まだ合格すると決まったわけではないし。大丈夫だと思うけど。

あとやっぱり、ハナコさんって私以外に話す時はしっかりするのね……どうしちゃったんだろう。私何か変なことしちゃったかな?

 

「そ、それもそうですね! コホン。失礼しました。でも、皆さんならきっと大丈夫だと私は信じています。試験が始まるまで少し時間がありますので、軽く復習だけして、本番に臨みましょう!」

 

音頭を取るヒフミ先輩に頷く。試験前の復習は大事だから……アズサ、大丈夫かな?

 

「ミッション前の最後の確認、と言ったところだな。了解した。……ところでコハル。薬のことなんだが」

 

「あ゛。ごめんなさい、すっかり忘れてた……」

 

慌ててカバンからアンプルを取り出してアズサに渡す。アズサは興味深そうに受け取ったアンプルをためつすがめつ眺め回していた。プラスチック内の薬液がそれに合わせて揺れ動く。

 

「いざという時は、これを刺せばいいのか?」

 

「そう。場所は極論どこでもオッケーで、使う時は先端を折り取って、先生みたいに刺してくれれば、あとは救護騎士団の人が対応してくれるから。可能性は低いけど……いざという時は、お願いします」

 

アズサに頭を下げる。正直よほどのことがない限り発作は起こさないと思うけど、まあ念の為だ。

アズサは頷いて、アンプルを自身の懐にしまってくれた。制服の裏にポケットを付けてるのかな。よくある改造だし。――そういえば、アズサの制服には胸元と左袖に同じマークのエンブレムが入ってるんだけど、どこかで見た覚えがあるのよね……確か古書館の本で見たような……。

 

キーンコーンカーンコーン

 

ふと湧いた疑問に考え込んでいると、鳴り響くチャイム音。

 

「っと、もうすぐ始業時間ですね。そろそろ先生もいらっしゃると思いますので、各々準備を始めましょうか」

 

 

 

その後、ヒフミ先輩の言う通り先生も到着し、テスト前の激励をしてくれた。

私には【無理しないようにね。すこしでも違和感があったらすぐ周りに言うんだよ?】と体調面の心配までしてくれた。私の周りには優しい人が多い。ありがとうございますと頭を下げておいた。

 

そして、いよいよテストの時間。私は一人試験問題と向き合っている。……うん。これは初級……というより基礎問題ね。特に変な応用の仕方は必要ない。ざっくり全体を眺めてみたけど、今回の試験問題の全般がこんな感じなので、正直全く問題ない。ケアレスミスさえしなければ満点も狙えるんじゃないかしら。

こうなってくると気になるのは私じゃなくて、周囲の方になる。カンニングを疑われると厄介だから周囲の様子はそんなに見れないけど、それでも筆記音とかで多少推測できたりはする。

 

一番近いアズサは……所々止まってるような……大丈夫かしら? あれだけ学習意欲高かったし大丈夫よね? きっと。

 

ヒフミ先輩は問題なさそう。淀みなく書いているみたい。もともと成績は優秀だったらしいし、心配するほうが失礼よね。……なんで補習授業部行きになったんだろう?

 

ハナコさんは席が遠くて、ちょっとよくわからない。でも、あれだけ頭が回って事情通で、私が来る前にはアズサや、時にはヒフミ先輩にも教えてたっぽいから、全然平気そう。

 

うん。アズサがちょっと不安だけど、概ね大丈夫。これなら一次試験合格で私も正義実現委員会に帰れるかな。……合格すると、この補習授業部の活動も終わりよね。ちょっとだけ寂しいけれど。

まあでも、会おうと思えばまた会えるだろうし。少なくとも"時間切れ"までには、何回かは。

 

そうこうしているうちに試験の終わりも近づいてきて、私は提出前最後の見直しをした。うん、大丈夫。回答がズレていることも、無記名なんてこともない。せっかく答えは合ってるのに無記名で0点……なんてのは避けたいもの。

 

キーンコーンカーンコーン

 

鳴り響くチャイム音と共に、第一次学力試験は終わりを告げた。答案が回収されていき、少しばかり気を張っていた私は軽く机に突っ伏した。

 

「コハル、大丈夫か? 薬を打ったほうがいいのか?」

 

「ちょっと……疲れただけだから。大丈夫、心配させてごめんね。発作を起こしてない時に薬を打つのはあんまり良くないから、気持ちだけ受け取っておくわ」

 

アズサが声をかけてきたので、心配ないと伝える。朝の薬の効果もあり、試験中体調が悪くなることはなかった。よかった、皆に迷惑をかけずに済んで。

 

「テストも終わりましたし、採点されて返ってくるまで時間がかかりますから、それまで休憩にしましょう。あ、コハルちゃんはちょっとお昼寝して体を休めた方がいいんですよね。毛布を持ってきてありますので、使ってください」

 

「そ、そこまでしてくれるなんて……ありがとうヒフミ先輩」

 

「いえいえ、アイリちゃんから貰ったメモの情報を元にしているだけなので、お礼はアイリちゃんに言ってあげてください」

 

アイリ、ヒフミ先輩に私の情報送ってたのね……いつの間に。あの子ったら、変なところで行動力あるんだからもう。

 

アイリにお礼を言う事を心に留めつつ、椅子から立ち上がって(立ち上がる時アズサが補助してくれた。ありがとう)ヒフミ先輩が敷いてくれた白い毛布の上に横になる。この毛布、ふわふわだけど、なんか変な鳥の毛皮みたいな造形してる。ちょうどヒフミ先輩が使ってるリュックサックの変な鳥と同じみたいだ。どっかで見たことある気がするんだけど、何処だったっけ。

 

横になってぼーっとしていると、正直な体は休ませようと瞼を重くしてくる。薬の作用もあってか、私の意識はすぐに夢の世界へと旅立ち始めた。

 

 

 

「……ごめんなさい、コハルちゃん」

 

 

 

眠りにつく瞬間、何か聞こえたような気がした。

 

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