ここだけ病弱コハル 作:匿名さん
「――ああーもう! しつこいわね! 何人いるのよコイツら!」
ダダダッと愛銃が火を吹き、遮蔽から身を晒していた間抜けが何人か倒れる。けれども、そんな間抜けはまだまだ沢山。その上戦車まで控えていると来た。
こんなことになるなんて……! と内心歯噛みする。コハルが一人で宇沢レイサと話しに行くっていうから、心配で尾行しただけだというのに。いい感じに話がまとまって、よかったよかったと皆で胸をなでおろしていたら、とんだ馬鹿が現れて全部めちゃくちゃだ。コハルは無理がたたってダウンしちゃうし、すぐ病院に連れていきたいのに……!
幸いなのは、数で勝って気を良くしたのか、さっきの一撃から戦車に動きがないこと。この数の上さらに戦車にまで攻撃されたら結構ヤバかった。相手がヘボで助かった。
そのヘボはというと、戦車のハッチから体を出してニヤニヤしながらこっちを見てる。コイツ余裕ができたからって消化試合みたいな顔しちゃってからに!
「アイリ! もっかい神秘使える?」
「ごめんね、もうアイスがなくて……」
あー、まあそうよね……こんなことになるなんて思ってないから事前準備なんてほぼないし。となると申し訳ないがアイリはあまり戦力に数えられそうにない。というかコハルを預けてるから下手に動かしたくない。
そのコハルはというと、今アイリに介抱されているが……熱が上がってるのか、ひどく苦しそうな呼吸を繰り返している。顔も真っ赤で汗も酷い。まず戦えないというか戦わせちゃいけないし、こんな土埃だらけの場所に長時間置いといたらどう考えてもマズイわよね!?
早くコイツらを突破して病院に連れてかなきゃ危ない。焦燥しながらも前を向くと、前方では自慢の友達が二人、奮闘を続けていた。
ガガガガッ!と軽機関銃が唸りをあげ、その度に人が倒れていく。それには目もくれず、カズサは次の標的へと銃口を向けた。
「クソッ、あの猫をやれ! 火力を集中しろ!」
慌てた不良たちが反撃するが、瓦礫や、時には気絶した不良を盾にし、一切の被弾を許さない。素早い動きで狙いを絞らせず、焦って飛び出してきた馬鹿を愛銃の圧倒的な連射力で即座に黙らせている。流石は元伝説のスケバン、動きに無駄がない。
とは言え、カズサの愛銃はマガジン式。ベルトリンク給弾じゃないから、どうしてもマガジン交換の隙は発生するんだけど……
「へいへいピッチャービビってるー」
「クソ、こいつちょこまかと!」
「アイツが邪魔するせいで後ろのが狙えねえ……!」
そこをナツが的確にカバーリング。ポリカーボネート製の盾はとても頑丈で、ナツのハンドリングも相まって、不良たちの一斉射撃を受けてもビクともしない。まるで歩く要塞だ。業を煮やして詰め寄ってきた相手にも、盾を逆に武器として使い、シールドバッシュ。たたらを踏んだところにサブマシンガンをお見舞いしている。
この二人がコンビを組んで頑張ってくれているからこそ、数で劣っているにも関わらず戦闘が成立しているのだ。てかあの二人、思った以上に息ぴったりね。
まあでも状況がマズイことに変わりはない。相手の数も減ってきてるけど、戦車は依然として健在だし、こっちの弾だって有限なのだから。カズサ辺り、そろそろ弾切れしてもおかしくない。
「……ッチ! ナツ、マガジン持ってない?」
「そんなものは、なーい! むしろ私が欲しい!」
「あっそ。アンタに期待した私が間違いだった」
ほら言った傍から!
「カズサ!」
「……! サンキュ!」
持っていたスペアのマガジンをカズサに投げる。カズサはノールックで受け取ると、流れるように空のマガジンを吐き出し、スペアを装填。慣れてるわね……。
でもこれで用意してたカズサのスペアはもうない。後は自分の愛銃分だけだ。キッツいわねもう!
せめてこっちが使い物になれば……! 一縷の望みをかけて、この騒動の中心人物を見る。しかし残念ながら、彼女ーー宇沢レイサは、動きを止めたままだった。このままだとヤバかったから、その辺の不良から取り上げた銃を渡して戦闘参加を促したんだけど、話に聞いてた以上にPTSDは深刻みたい。吐かないだけマシかしらね。どっちにしろ戦力にはならない。
「おらおらさっきまでの威勢はどうしたー!! んー?」
戦車から余裕ぶった声が聞こえてくる。でっかいのに乗ったからか態度もでかくなったわね……これだからでっかいのは……!
「言葉も出ねぇか! まあしょうがねえよな、これだけの数の差だ。そうそう覆せねえよ! いくらてめぇらに腕っぷしがあっても、そんなお荷物を2つも抱えてちゃあ尚更だ! このまま正実が来る前に諸共すり潰してやるぜ!」
ハッハッハと高笑いを上げる頭目の女。アイツ……! レイサのことは置いとくとしても、言うに事欠いてコハルを荷物扱いしたわね……!
かなり頭にくる発言だが、この状況自体は相手の言う通りだ。このままだと物量差ですり潰される!
「……ッ! ――宇沢ァ!」
その時、カズサが声を荒らげて叫んだ。それに反応してか、今まで固まったままだったレイサがビクッと震える。
「アンタ、いつまで言われっぱなしでいるつもり!? 自警団なんでしょ! そんなんでどうすんの! いつまでもウジウジウジウジと……!」
「……で、でも……「でもじゃない!」 !」
「私の知ってる『宇沢レイサ』は! こんなつまんないことをいつまでも引きずって、肝心な時に動けないやつじゃなかった! いつも無駄に熱くて、エネルギッシュで、しつこくて、鬱陶しくて、やる気が空回ってるような、精神年齢中学生のままのガキっぽい奴……でも、一本筋は通ってた!」
……カズサ。口ではボロクソに言ってたくせに。なんだかんだアンタ本当はレイサのこと、結構評価してるじゃん。
「つ……つまんないってなんですか! こっちは一生十字架を背負うような気持ちだったのに!」
「被害者本人が許してるでしょうが!……あの時は、カッとなって言い過ぎた。――ごめん」
カ……カズサが頭を下げた? あれだけ毛嫌いしてたレイサに……
「そもそも私がアンタの接近に気づかなかったのも悪かったし、一番の被害者のコハルが許してる以上、私が根に持つのも違うと思う。だから、ごめんなさい。――さあ! 私は謝った! コハルも許した! 後は、何? ……アンタが、アンタ自身を許すだけじゃないの?」
あ、その言葉、コハルが言ってたやつ。公園で覗き見してた時の記憶が脳裏に浮かぶ。
『あとは、貴方が貴方自身を許すだけ』
「……立ちなよ、宇沢レイサ。いつも名乗ってた口上は嘘だったの? 『正義の使徒』なんじゃなかったの!? 傷ついてる人を前にして、怯えて震えてるようなのが、アンタの言う『皆の騎士』なの!? 『スーパースター』ってのは、その程度だったの!? 違うでしょ!!」
普段からクールを気取ってるカズサの渾身の叫びが、戦場に木霊する。状況に飲まれたのか、周囲の不良たちの攻勢もいつしか止まっていた。
「そろそろ起きなよ、『ヒーロー』。この状況、アンタが願ってた晴れ舞台でしょ』
「……ハッ!? な、なんかすげえ空気読んで黙っちまったが……お、おい、何全員ボサッとしてやがんだ! そろそろやっちまわねえと正実が来る! 状況は変わってねえんだ、さっさと押し潰すぞ!」
我に返った頭目の声に、その場の全員が正気に戻る。わ、私まで空気に飲まれてたわ……てマズイ! 戦車が動き出した! 同時に、周囲の不良どもが一斉に動き出す。狙いはカズサか!
「――チッ、弾切れか……」
愛銃を向けるカズサ。だけど、さっきまで暴れまわってた代償か、その銃口から弾丸が吐き出されることはない。ヤッバもう誰も弾なんて持ってない!
「死ねぇ! キャスパリーグ!」
勝ちを確信したのか、不良の一人がカズサに接近して、銃口を向けた。
BANG!!
破裂音が響いて、人一人が吹き飛んだ。……襲いかかった不良の方が。え? なんで?
よく見ると、カズサの手には先ほどまでの愛銃はなく、代わりに別の銃が握られていた。あれは……DP-12? 確か一度のポンプアクションで2連射できるとかいう珍しいショットガンだっけ。詳しくは知らないけど。でもカズサの趣味には合わなそうな銃だ。デコり方もしっくりこないし、なんだってあんなものを……
「あ……それは……」
驚いた様子でカズサを指差すレイサ。それに対して、カズサは銃を振りかぶって……
「ほら、アンタの忘れ物!」
投げた。
それはクルクルと不規則に回転しながらも空中を突き進み……やがて、本来の持ち主の手に戻った。
反射的にキャッチしたのか、握った銃をレイサは呆然と見つめている。無くしたままだと聞いていた、彼女の銃。……そっか。カズサ、アンタが拾ってたのね。
「い、今だ! あの猫丸腰だぞ! ここで落とせ!」
頭目の号令と共に、周囲の不良が一斉にカズサに襲いかかるのと、レイサが手元の銃をしっかりと握りしめたのは、全く同時だった。
鳴り響く発砲音。その数、無数。
吹き飛ぶ不良たち。その数、同数。
たった一瞬で、周囲を囲んでいた不良たちがなぎ倒されていた。……ええええ!? 何が起きたの今!?
「な……は……?」
状況が理解できないのは相手も同じようで、頭目が固まる中、それに向けて、2つ並んだ特長的な銃口が突き出された。
「――ぅお待たせしましたぁ!! 不肖、宇沢レイサ! 完・全・復・活! です!!」
物凄いテンションのレイサが、復活の狼煙をあげた。……もしかして、今のレイサがやったの!? 『神秘』なんだろうけど、それにしたって射程と範囲がおかしくない!? ショットガンの有効射程を優に飛び越えてるんだけど!?
「私だけでは飽き足らず、コハルさんやそのお友達の皆さんまで巻き込んで襲いかかって……よくもやってくれましたね悪の手先! この借りは何倍にもして返します! 今! ここで!」
「グギギ……急にいつもの調子に戻りやがって……! ま、まあいい! 戦えるようになったところで所詮一人だけ! しかもあの猫は今戦力外! 盾持ちも、この戦車の前じゃちり紙にも劣る! 結局変わってねえんだよ状況はよぉ!」
悔しいが、頭目の言う通りだ。軽戦車とはいえ、戦車の装甲を抜くだけの火力は今の私達にはない。私の神秘ならまともに当たればいけるかもだけど、範囲が広いわけでもないし、そう大人しくは当たってくれないだろう。
そう思ったところで響く、小さな金属音。そう、何か、ピンを引き抜いたかのような……
「ッ! ダメ! コハルちゃん!」
焦ったようなアイリの声に振り向くと、そこにはアイリの制止を振り切って、何かの投擲体制に入ったコハルの姿があった。……まさか!? あの子、あんな状態で"アレ"を使う気!?
「コハルまっ……!!」
私が言い切る前に、コハルの手から拳大の物体が投げ放たれた。――トリニティ謹製の、特殊な形状をした手榴弾が。
それは狙いを過たず、戦車の正面、その開いた車窓にホールインワン。「へ?」と頭目が間抜けな声を上げるとともに……
ドカアァンッ!
車内で、手榴弾が炸裂した。
私たちが『神秘』を持つなら、当然コハルも『神秘』を持っている。彼女の『神秘』は手榴弾及び投擲能力の強化。彼女が手に持った手榴弾は聖なる手榴弾と化し、爆発とともに敵にはダメージを、味方には治癒効果を発揮するようになる。その上それを投げる際には、普段カスみたいなコハルの肩力でも、レーザービームみたいな送球が可能なまでに強化される。結構強力な部類の神秘だ。……ただし、コハルの体が、神秘の出力に耐えられるかはまた別の話。
早い話、コハルが神秘を使うと、体に凄まじい負荷がかかってしまうのだ。それこそ指一本動かせなくなるくらいには。
治癒効果は自分にも効果があるから、爆発範囲に自分を含めれば負荷も軽減できるらしいし、それを利用すればある程度戦闘もできるって本人は豪語してたけど、コハルの病気にはそもそも効果がないし、遠くの敵に投げたらおしまいだし、なによりそれは自爆特攻っていうのよ……ちなみに、昔突発的な戦闘に巻き込まれた時、やむなく自爆特攻して後でめっちゃくちゃ怒られたらしい。残当。
で、コハルは今それを使ったわけだ。よりにもよって高熱で体がヤバイ時に。しかも戦車内で爆発させたから、当然コハルは範囲に入ってない。故に、全ての反動がダイレクトにコハルの体に来ることになる。アイリが必死に止めようとするわけだ。なんて無茶をっ……!
「……っあ……」
「コハルちゃん!」
「コハル!」
案の定、コハルはぶっ倒れた。アイリが受け止めてくれたから地面に激突するのは避けられたけど、依然危険な状態であることに変わりはない。もうアイリ一人に任せておけないと私もコハルの元へ。カズサも慌てて走り寄ってくる。
「アンタ、なんて無茶してんの!」
「ヒュー……ヒュー……せ、せん、しゃ……は……ゴホッ」
「喋っちゃダメ! 戦車は……」
「……まだ動くの!? しぶとい奴……!」
――ところどころ煙を噴き上げてこそいるが、戦車は健在だった。ゆっくりとだが、主砲がこちらの方を向く。まさか一発ぶち込んでくる気!? 2ポンド砲なんて当たったら今のコハルじゃ本当に……
そこへ、ナツがすごい勢いで私たちの前へと飛び込んで来て盾を構える。主砲を受け止めようというのか。
「ゲホッ、ゲホッ……ハハハ! 起死回生の策も失敗に終わったみてぇだな! 今度こそこいつで終いだ! てめぇら全員、そんなチンケな盾ごとまとめてふっとばしてやるよぉ!」
ぐ、マズイ。いくらナツとその盾が頑丈でも、戦車の主砲は受け止めきれないかも……ナツ自身も疲れてるし。せめてコハルへのダメージが最小限になるようにと、私はコハルに覆い被さった。
「確かに、それを食らったら流石にマズイかもねー。でもさ。……誰か一人、忘れてなあい?」
「……何? いや待て、そういやアイツはどこに……」
ナツの言葉に、思わず頭目が辺りをキョロキョロと見回した。カツンと、後ろで響く着地音。
「――戦車に随伴歩兵がなぜ必要なのか、知っていますか?」
「なっ!? 後ろ……」
「懐に入りこまれたら何もできないからです。――こんなふうにねっ!」
コハルの投げた手榴弾の爆発を囮に、密かに接近していたレイサが、頭目に向けてゼロ距離で弾丸を撃ち込んだ。
もともと手榴弾を食らっていたせいか、頭目はそれで限界を迎えたようで……白目を剥いて車内へと崩れ落ちた。間髪を容れずレイサがそれに合わせて車内に何かを放り込んで、ハッチを閉める。
大きな音と共に車窓から強烈な閃光が漏れ……それが収まる頃には、戦車はその動きを止めていた。
「……その後は、通報を受けた正義実現委員会の皆さんがやってきて、コハルさんの状態にてんやわんやしたり、救護騎士団がコハルさんを緊急搬送したりと色々とありましたが……長かった私の逃走劇は、終わりを迎えました」
あ、コハルさんはなんとか回復したんですが、それはもう皆さんにしこたま怒られてましたよ。正義実現委員会の先輩から救護騎士団の子、放課後スイーツ部の皆さんにまで。かくいう私も怒りましたし。……まあ割と今回の件は私のせいなので、私が怒るのはどうなのかと自分でも思いましたが……それでもコハルさんの自己犠牲が過ぎていたので。
あ、そうそう。私も流石に色々と反省しまして、今はもう、不良と見たら即座に突っかかりにいくこともなくなりました。またあんな事故が起きるかもしれませんから……。
たははと頬をかいて笑うレイサさんに、私は二の句が継げなかった。まさか、レイサさんとコハルちゃんの間にそんな事があったなんて……
「長くなっちゃいましたが、ハナコさん。貴方に伝えたいことは、とてもシンプルなことです」
レイサさんは私の手を取ると、両手で優しく包み込んだ。あ……この状況は、まるで……
「『この世に、赦されない罪なんてない』んです。ハナコさん。……何があったのかはわかりませんが、もう自分を罰するのは辞めましょう? どんな事情があったとしても、真摯に謝れば、コハルさんなら必ず赦してくれますから」
まるで、話の中のレイサさんとコハルちゃんのやりとりそのままで。
固まった私に、レイサさんは「……流石にクサすぎましたかね?」と苦笑いしていた。……向こうがここまで開示したのだ、私が明かさないのは、フェアじゃないだろう。
「私は……今回の試験で、意図的に不合格になりました」
「……はい?」
なんでそんなことを? と、声ではなく目で問いかけてくるレイサさんに、私は言葉を続けた。
「この補習授業部は、一時的な集まりです。テストに合格して成績不良を脱すれば、解散となります。……私は二年生。コハルちゃんは一年生。他の二人は二年生ですが、それぞれの生活があります。彼女たちに会う理由が、なくなってしまうんです。私には……それが、耐えられなかった。この『補習授業部』という関係を、もうしばらく続けていたかった……」
「……だから、不合格に?」
「……はい。テスト終了ギリギリまで悩んでいたせいで、かなりおざなりな策になりましたが……目論見自体は一応成功しました。――ですが、1次試験に落ちた場合、全員合宿に強制参加することが決まっていたようでして。知ったときには、もう……」
「合宿……え、強制参加ってことはまさかコハルさんも?」
「その通りです……」
「……ええぇ」
信じられないと顔に書いてあるレイサさん。実際、私も信じがたい話ではある。コハルちゃんの体については割と有名な話なのだ。虚弱な正義実現委員として。当然、正義実現委員会の飼い主であるティーパーティーが知らないはずもない。にも関わらず、負担が大きい合宿に強制参加させるとは……何故だ? ――補習授業部を、一箇所に纏めておく必要があるということか? なんのために?
「……事情は分かりました。ハナコさん、そういうことなら、コハルさんは必ずわかってくれると思います。他二人も真摯に謝れば、きっと理解してくれますよ。というか、聞いていて思ったんですが……ハナコさんって、コハルさんと友達なんですよね? 普通に会いに行けばいいのでは?」
思考に耽ってしまった私に、レイサさんがとんだ爆弾を放り込んできた。思わず目が瞬く。
「普通に、会いに……?」
「はい。特に理由がなくても、会いに行けるのが友だちだと、個人的には思いますよ。……まあ気後れする気持ちもわかりますけどね!」
何を隠そう私が気後れするタイプですから! ……って、胸を張れることではないんですが……。
レイサさんのフォローはありがたいが、今の私はそれどころじゃなかった。『普通に会いに行く』……そんな概念は、今までの私にはなかったものだ。そうか、理由がなくても会いに行けるのが、友だちなんだ。
その時、遠くから鐘の音が鳴り響いた。大聖堂の鐘の音……夜を告げる調である。
「……あ! いけない!」
ガバッとブランコからレイサさんが立ち上がった。
「結構長く話し込んじゃいましたが、そろそろコハルさんを迎えに行かないと! あの人、気を遣って一人で勝手に帰っちゃう可能性があるので! すいませんハナコさん、私は此処で失礼します!」
「あ、いえお気になさらず。むしろこんなにも時間をとってしまって……ありがとうございました、レイサさん。少し気持ちが楽になりました」
「それこそ気にしないでください! 私が勝手に自己満足で来ただけですので! それに……一応『ヒーロー』、ですから!」
とーう! とテンション高めに飛び出したレイサさんは、そのまま公園を駆け抜けて……入口でふと立ち止まり、改めて私の方を振り向いた。
「――言い忘れてましたが、ハナコさん。しばらくは気をつけてくださいね。私は今までが今までなので、貴方に親近感を持ちましたが……きっと、コハルさんとの件で、貴方のことをあまり快く思っていない人も……少なからずはいるかと」
「……!」
「――でも大丈夫! ハナコさんなら、いずれ皆さん理解してくれると思います! いつも通りに過ごしていれば、各々忙しい方々ですから会うことも早々ないでしょうし、平気ですよ! では!」
タッタッタとレイサさんが駆けていく。その後ろ姿を見ながら、密かに考える。……コハルちゃんの発作絡みで、私をよく思っていない人たち……ある程度見当はつくが……。
暗くなり始めた公園で、私は一人、先に比べればだいぶ前向きな思考に耽るのであった。
ピリリリ。
もうだいぶ暗くなってしまった道を走る私の胸元で、鳴り響くモモトークの着信音。おや、こんな時間に通話とは、一体誰でしょう。まさか、コハルさんからですかね? ……いやないな。あの人催促の電話なんて一度もかけてきたことありませんし。むしろ変に気遣って一人で帰ろうとするタイプですし。それが一番困るんですけどね。……では誰から?
自問自答しながらも携帯を開くと、そこには早々連絡を取らない人の名前が。これは……即座にタップして応答する。
「もしもし、ウイ先輩ですか? ……コハルさんのことで、何か?」