ここだけ病弱コハル   作:匿名さん

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その3

 

今喋ったのは私ではない。アズサさんでもないし、見張りの子たちでも、勿論先生でもない。

声のした方向に振り向くと、見張りの子たちが守っていた大きな扉が、今まさに開いたところだった。部屋の明かりに照らされて、扉の内側にいたその姿が露わになる。

 

「といっても、詳しい内容までは聞こえなかったのですが。私のことを話されているのはわかりましたので、来てみました」

 

目に入るのはまずむき出しになった肩。羨ましいくらい大きな胸。くびれた腰。すらっと長い手足。

 

「何か御用でしょうか?」

 

暴力的なまでにスタイルのいい美女が、そこに立っていた。

 

 

 

……水着姿で。

 

 

 

もう一度言う。水着姿でだ。

 

「……え?は、え……はぁっ!?」

 

【】

 

この世に生まれてから今までで一番大きな声が出た気がする。

いやだってしょうがないでしょ!どこの誰が牢屋から水着姿の人が出てくると思うのよ!制服は何処にやったの!?

 

「あら。大人の方。ということは……シャーレの先生ですね。お噂はかねがね。改めまして、こんにちわ。となりますと、もしかして補習授業部の件でしょうか?」

 

体を見せつけるような仕草を取りながら、スク水姿の女がこちらに近づいてくる。動くたびに胸の大きな果実が揺れ動く。

 

「な、どうやって牢から出たんだ!?鍵はかけておいたはずなのに!」

 

「ちょ、その格好で動き回らないでください!というかなんで制服を着ていないんですか!届けたでしょう!」

 

見張りの二人が動揺している。先生は目の前の光景が衝撃的すぎて固まっている。アズサさんはというと「?」と状況を理解できていないようだった。

 

「あの服装は……潜入用の特殊スーツか?」

 

違う。状況を理解してないんじゃなくて水着を知らないだけだこれ。

じゃなくて!

 

「あああんた!人前でなんて格好してんのよ!公序良俗って言葉を知らないの!?」

 

「ふふ。知っていますよ。公の場で性を強調する行為を『公序良俗に反する』と言いますよね。この場合は誤用ですけれど」

 

え、そうなの? それは知らなかった……結構本は読んでる方だからそういう誤用とは無縁だと思ってたけど……。

ってそうじゃない!

 

「な、ならTPOと言い換えてもいいわよ!とにかく!なんで水着なのよ!ここをどこだと思ってんの!?」

 

「正義実現委員会の地下牢、ですよね? 実は私、少し開放的な気分に浸りたくて散歩をしていたのですが、何故か正義実現委員会の方々に捕らえられてしまって……ありのままの私でいただけですのに」

 

「赤裸々に語り過ぎなのよ!そ、そんな……見せびらかすような真似して!目に毒すぎるわ!」

 

「あら、もしかして、羨ましいのですか? ……『これ』が?」

 

そう言って腕を組む女。それに合わせて、大きなその……メロンが腕の上に乗っかって揺れる。水着姿だから制服よりもボディラインがハッキリしてて、もはや視界への暴力だ。

 

「ううう羨ましくなんてないわよ!だから強調するのをやめなさい!破廉恥よ!」

 

「あらそうですか?先程から私の胸に視線が釘付けでしたので……ふふ、『目は口ほどに物を言う』、とも言いますから」

 

「!?」

 

い、いや、確かに見てたけど! しょうがないでしょ!? あんなに強調されて見ない人なんていないわよ! 確かにこのちんちくりんなポンコツボディと比べちゃったけど……

 

「もっと素直になっていいんですよ? どうです? そんなに興味がお有りなら……

 

触って、見ますか?」

 

……触る? どこを? も、もしかして、あのおっきなおっp……胸を? あ、あの一部の層の夢とか希望とか色々詰まってそうな胸を? 触る? 誰が? 私が? いや、いやいやいやいや、そんなまさか、こんな、こんなえっちな展開、押収品の本でしか……えっ、えっえっゑっヱっe

 

「エッチなのは駄目! 死刑!」

 

ぐるぐる。定まらない思考に混乱が頂点に達し、思わず口から理不尽な死刑宣告が飛び出した。聴聞会もビックリのスピード判決を下しちゃった……。

 

「ふ――冗――で……」

 

興奮しすぎたせいか体が熱い。息が切れる。吸っても吸っても楽にならない。心なしか目の前の女の声もよく聞こえな……あ、れ?

 

ぐるぐる。巡る思考。回る視界。眩む世界。

 

 

 

ド ク ン

 

 

 

心臓が、大きく跳ねた。……そして止まった。

 

 

 

私が平時の思考を取り戻したのは、情けないことに、コハルが胸を押さえて倒れた時だった。

 

【コハル!】

 

「っ!コハルちゃん!」

 

膝から崩れ落ちた彼女を咄嗟に支えたのは、見張りをしていた生徒の片割れだった。

 

「……え?」

 

呆然とする水着姿の少女……浦和ハナコを尻目に、支えた彼女はそのままコハルを横たえつつ、呼びかけ続ける。

 

「コハルちゃん、しっかりして!」

 

「救護騎士団を呼んでくる!お前は薬を!」

 

「薬……! いつもなら服のポケットに……!」

 

もう片方の子が叫んで部屋を飛び出した。コハルを支えている子は呼びかけつつも、薬を探してかコハルの体を探っている。……そうだ!薬!

 

こぼれ落ちたコハルのカバン。そこに駆け寄った私は、中を弄って(生徒の私物を漁るなんて真似、本来したくないけれど仕方がない)先程コハルに見せられたアンプルを一本取り出した。そのままコハルの元へ。

 

【薬を取ってきたよ!射つから支えていて!】

 

「助かります!コハルちゃんの首に射ってください!」

 

アンプルの先端をパキリと折ると、中から小さな針が飛び出した。それをコハルの首に向け……一瞬躊躇したものの、私はそれを突き刺した。

 

小さな針はほとんど抵抗を感じずコハルの首筋に突き刺さる。内部の薬液が揺れ動き、コハルの体に注入されていくのが、透明な外装を通して見える。

空になったのを確認してアンプルを引き抜いた私は、コハルを支えたままの少女に声をかけた。

 

【これで大丈夫なのかい?】

 

「基本的には。下手に心臓マッサージをするとかえって良くないと聞いていて……あとは救護騎士団の方が来てくだされば……」

 

「あ、あの……」

 

震えた声。振り返ると、先程まで蠱惑的だった態度が嘘のように大人しくなった少女が、所在なさげに立っていた。

 

「その子は、一体……大丈夫なんです、か?」

 

ぎこちない足取りで、コハルに近づこうとする少女……ハナコ。しかし、その歩みは止めざるを得なかった。

 

 

 

ガチャッ!

 

 

 

金属音を立てて、銃口がハナコに向けられたからだ。

 

「コハルちゃんに近づかないで!」

 

なんの装飾もされていない、黒光りする武骨なフレーム。おそらくサブウェポンとして持っていたのだろう拳銃をハナコに向けた少女は、コハルを掻き抱きながら威嚇していた。

 

「貴方がコハルちゃんを変に興奮させたから、こんなことに……! この色情魔! これでコハルちゃんに何かあったら……全部貴方のせいよ!」

 

「違……! そんなつもりでは……私……」

 

まずい。このままでは取り返しのつかない事態になってもおかしくない。

焦燥感を覚えた私が行動する前に、すでに動いていた人がいた。

 

ガシッと拳銃を握った手が掴まれた。

 

 

 

「落ち着いて。銃を下ろせ」

 

 

 

白洲アズサだ。

 

 

「見たところ、彼女……ハナコに敵意はない。偶発的な事故の可能性が高い。勘違いの憎しみで人を撃てば、あとに残るのは虚しさだけだ。

 

Vanitas vanitatum, et omnia vanitas.                                

 

だけどそれは、虚しさを広げていい理由にはならない」

 

ばに……? よくわからない言葉が聞こえたが、とりあえずアズサの介入を受けて正実の子は落ち着いたようだ。銃は握ったままだが、銃口は下げてくれた。

ハナコは……愕然とした様子で、ただただコハルを見つめるだけだった。

 

ほどなくして、救護騎士団の子たちが到着し、コハルは彼女たちによって担架に乗せられ運ばれていった。

その日は説明どころではなくなったため解散とし、後日コハルの容態が良くなったとき、再び集まることになった。

コハルも心配だが、ハナコも心配だ。かなりショックを受けていたようだが、次に会う時は大丈夫だろうか……

 

ともかく、まずはなにも状況をわかっていないだろう最後の補習部員、阿慈谷ヒフミに連絡をしなければ。まさかの顔合せでのトラブルに、頭を抱える私だった。

 




ひぃん特殊タグとかよくわからないよー
でもかっこいいねこれ
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