ここだけ病弱コハル 作:匿名さん
「……美食研究会?」
半分困惑が綯い交ぜになった声を上げるハスミ。ああ、うん。やっぱり彼女たちか。
――【美食研究会】。ゲヘナにある(驚くべきことに正当に認可された)部活の一つで、リーダー、黒館ハルナを筆頭にした、文字通り【美食】を追い求める集団だ。メンバーは全四人と少数精鋭で、皆一癖も二癖もある、元気な娘たちだ。まあ今回のようにある意味元気すぎるところもあるが……まあ彼女たちなら、エデン条約の妨害等は目的ではないだろう。食べたかったんだろうね、幻のマグロ。
気になるのは人数が5人と一人多いところだが……おそらくまたフウカが簀巻きにでもされている? それがカウントされてるのだろうか。
『ところで先輩、今どちらに? 早いとこご司令を頂かないと、ツルギ先輩が発射……飛び出していっちゃいそうっすけど』
「つ、ツルギはとりあえず止めてください。私はその……私用で少々外に……」
流石に夜中にパフェ食ってましたとは言えないのか、ハスミは言葉を濁した。
『いやー無理っすよ。ハスミ先輩以外じゃそうそう止められな……あっ、ツルギ先輩行かないでください! あとそっちはドアじゃなくて壁――』
向こうから盛大な破砕音……かすかに「きひひひひゃああああっ!!」という奇声も聞こえた気がする。
『あー……とりあえずあたしらも一旦追いかけて、出撃しますね』
それを最後に、イチカからの連絡は途絶えた。沈黙が辺りに満ち……突如、外から爆発音が響き渡る。
「――近いな。爆発音からして、ここから1km以内といったところか」
「え、えぇっ……!?」
アズサの推測に、ヒフミが驚きの声を上げる。よく今のでわかるね、アズサ。地味に凄い。
「……皆さん」
そんな折、しばらく黙っていたハスミが私たちに話しかけてくる。
「突然のことですみませんが、皆さんの力が必要です。お願いできますでしょうか? 今はエデン条約を目前に控えて、いろいろと過敏な時期です。この件が外から見て『トリニティの正義実現委員会とゲヘナ間の衝突』と捉えられてしまうと、状況が不利になることは想像に難くありません。――つまり、正義実現委員会以外の第三者……補習授業部と【シャーレ】が一緒に解決してくださる……そういった構図が望ましいのです。先生、お願いできますでしょうか」
ああ、うん。このデリケートな時期に、トリニティの正規武装組織がゲヘナの一部勢力と衝突した……というのは、確かにそれだけでは不味そうだ。事が露見すれば面白おかしく書き立てそうなマスコミ(クロノス)もいるし、補習授業部とシャーレを挟むことである程度回避すると……政治っていうのは難しいね。
だがもとより、生徒のお願いを断るつもりは私にはない。
【うん、よし。じゃあ補習授業部一同出発しようか】
「了解した。これより先生の指示に従う」
真っ先に反応したのはアズサだ。素早く愛銃をチェックし体勢を整えている。動きが速い。
「えぇっ!? い、いきなり戦闘ですか!? ……あ、あうぅ……」
あとどれだけ残ってたっけ……と、ペロロ様リュックの中をガサゴソ探るヒフミ。こちらも驚きはしていたものの切り替えが速い。
「……少し、待ってください」
一人難色を示したのはハナコ。私にそう声をかけると、先ほどから黙って様子を見ていた店員に向き直る。まあ当初の目的からすればそうだよね。私から店員さんにお願いしようかとは思っていたんだけど。
「店員さん。申し訳ありませんが……」
「――大丈夫ですよ、お客様。事情はおぼろげですが、横で聞いていましたので。パフェはこちらで保管しておきますので、全て終わったら取りに来てください。それまで店は開けていますから」
「いいんですか?」
「私も生徒ではありませんが、トリニティの
人間ですので。その大事には、ささやかですが協力致します」
「……ありがとうございます。すぐ取りに来ますから」
そう言って頭を下げるハナコに合わせ、私も頭を下げる。この店員さんが話の分かる優しい人で助かった。これでパフェをコハルに食べさせることができるだろう。
「……そういえば、しっかり先生の指揮の下で動くのは初めてか。遠慮は要らない。先生、私のことは存分に使って欲しい」
【ありがとうアズサ。じゃあ安全第一でお願いするよ】
こうして、突発的だが夜中の追撃作戦が始まった。ターゲットは――美食研究会。
「うわわわわ!? すんごい撃ってくる! こんなの当たったらマグロが傷ついちゃうって……」
「下手するとお造りではなく天ぷらになってしまいそうですわね……」
砲火を避ける、揺れる車体の中。泣き言を漏らすイズミに、感想を述べるハルナ。どこかのほほんとした光景だが、発言に看過できなかった私は思わず牙を剥いた。
「それはダメ!!」
「わかっていますわ。せっかくの幻の魚ですもの。天ぷらも乙なものですが、どうせなら鮮度のいい内に刺身で召し上がりたいところです――噂の薬効成分も、揚げるとどうなるかわかりませんので。というわけで、引き続き頼みますね、イズミさん」
「ううぅ……わかってるけど、やっぱり今日のジュンコ怖いよ……」
「うーん、それにしても……どうやら囲まれてしまったようですね☆ どうしましょうか?」
イズミのボヤキを尻目に、この状況を楽しんでいるのか、どこか楽しそうに話すアカリ。前々から思ってたけど、やっぱ大物だ。
だが状況はマズイ。ここはトリニティ自治区……相手の領内で、追っ手は多数。更には囲まれていると来た。今のところフウカのドライビングテクニックもあって有効打はもらっていないが……それが永遠に続くとは、私も思えない。
「今高架上だから、まずは何処かで下りないと。こんな道の限られたところ走ってたら、進路も簡単に予測されるし」
小刻みにハンドルを切って車体を降りつつ、フウカがそう語る。実際、逃走時に高架を走るのは悪手だ。基本一本道だから撒きづらい上、一般道に降りようにもIC(インターチェンジ)が限られるせいで簡単に待ち伏せされる。道を塞がれてたから入るしかなかったとはいえ……いや、これは誘導されたか?
「鋭いですわね、ジュンコさん。その通り、誘導されているかと。なにせこの先は――」
「……うん? ――え!? 嘘!?」
ハルナの肯定と、フウカの驚愕が同時に発生する。その理由、今見えた高架の先は――途中で一部途切れていた。
「――工事中で一部途切れていますので。ここでなら追い詰められると踏んだのでしょう」
「余裕ぶってる場合じゃないでしょハルナ! どうすんの、Uターンしようにも!」
ビシッとフウカがバックミラーを指差す。そこに写っていたのは、迫りくる正義実現委員会の車両たち。ある程度はハルナの射撃で減らせたとは言え、それでも結構な数が後ろから迫ってきていた。
「あれだけの数をすり抜けるのは流石に無理よ!? 塞がれて終わりよ!」
「ええ。かといって全て狙撃するのも現実的ではない。ですので――このまま突っ切ってください」
え。
「よし、追い詰めました!」
『そのまま壁を維持しつつ前進で。いやー、正直ここに来るまでに捕まえられるか期待したんすけど、運転手の技量が予想以上っすねぇ』
敵ながらあっぱれ、と言わんばかりに笑うイチカ先輩の声が通信機から聞こえる。飛び出したツルギ先輩を追って出撃した先輩たちは、今ICの一つで待ち構えているらしい。万一Uターンしてかつ包囲を抜けられた際の備えだとか。この包囲網を抜けられるとは思えないけれど……相手はあのゲヘナだ。慎重に越したことはないか。
「そういえば、なんで今の時期にマグロなんて狙ったんでしょう? トリニティが厳戒態勢なことなんて分かりきってるでしょうに」
『うーん、あたしもゲヘナの人間じゃないんでわからないっすけど……今しかないと思ったんじゃないすか? なにせこの幻の魚、展示が終わったら海に返すことになってたんで、ここを逃すと次の機会がいつになるかわかったもんじゃないっすからねぇ』
あー、海に返すことになってたんだ……どうりで美食研究会が動き出すわけだ。話を聞くと、どうも連中気に入らない店を爆破するくらい食にこだわりがあるみたいだし。なんだ店を爆破するって。野蛮すぎる……これだからゲヘナは。
まあ何にせよこれで終わりだ。この先はまだ工事中で、途中で途切れてしまっている。向こう側はできているものの、どう考えても飛び越えられる距離じゃない。第一飛び越えようとして失敗したらキヴォトス人でも死ねる高さだ。いくら馬鹿でもそこまでではあるまい。ターンしてこちらに突っ込んできたとしても、それこそ複数台で前を塞いでしまえばそれでお縄だ。
まさしく袋のネズミ。この夜中に叩き起こされた恨みも兼ねて、事情聴取では盛大にいびってやる。
そろそろ途切れた地点が見えてきた。ここで減速しないと止まれないから、連中ここで止まるしかない。さあ止まるぞ。止まる……止ま……? あれ?
「イ、イチカ先輩! 連中全く止まる気配がないんですけど!?」
『……はい? え、マジで?』
あろうことか、黄色い車体は一切減速せず、それどころかますますスピードを上げて突っ走っていく。……いや、いやいやいや! 前が見えてないの!? その先に道なんてないってのに!!
……っ! マズイこっちは減速しないと一緒に冥土まで行く羽目になる。慌ててブレーキをかける。
「と、止まりなさい! 止まれ! 死にたいの!?」
思わずメガホンで呼びかけるが、向こうは意に介さず。相変わらず止まることなく最後の直線に差し掛かる。このままだとあと10秒もせず……!
と、その時向こうで動きがあった。……銀髪の女が狙撃銃の銃口をこちらに向けている。その銃口は、かすかに青白く光っているように見えた。
「……い、今なんて? なんかこのまま突っ切るって聞こえたけど……」
イズミが涙目になりながらそう尋ねると、ハルナは一切の余裕を崩さないいつもの態度でニッコリと微笑んだ。
「ええ、一字一句そのとおりですわ。このまま突っ切ります」
「……いや、いやいやいや! 無理だよぉそんなの! 道ないんだよ!? このまま進んだところで地面に叩きつけられておしまいだよぉっ! なんなら普通に死んじゃうよ!?」
イヤイヤと首を横に振るイズミ。私も同意見だ。別にこの先はカタパルトとして作られているわけではない。スピードに乗っているとはいえ、このまま飛び出したところで普通に飛距離が足らず地面に墜落する。……こんなところで死ぬわけにはいかない。ましてや、あの子より先になんて絶対嫌だ。後で死ぬのはもっと嫌だけど。
「ふふっ。確かに、このまま普通にいけば飛距離が足りません。ですが……この道の先、ちょうど途切れる部分の端に、鉄骨が突き出ています。ここを走行できれば距離が稼げますので、残りの足りない部分は私が補いますわ」
「て、鉄骨って……あんな細いところ無理だよぉ! 片輪分しかないじゃん!」
「いいえイズミさん。片輪分"も"あるのです。もちろん凡百の輩には無理な話でしょうが……」
チラと、ハルナは運転席に目を向ける。そこに収まっている運転手もチラと目線をハルナに向けた。
「――フウカさん。あなたを信じていますわ」
「アンタねぇ……私は凄腕ドライバーでも何でもないただの調理師だって言ってんのに。――あーもう! 死んだら化けて出てやるからね!」
掴まって! 放り出されても知らないから!
鋭く叫んだフウカは、ガッとアクセルペダルを全開で踏み込んだ。もともと速かった速度が更に加速。みるみるうちに高架の端が近づいてくる。その先、端から突き出た1本の鉄骨めがけて車体が寄っていく。
「左に寄って!」
フウカの指示に、反射的に左側に跳び、助手席の背もたれを掴む。横で鈍臭いイズミがワンテンポ遅れ、アカリに腕を掴まれて左側に引きずり込まれたのが見えた。その頭上をまたぐようにして、ハルナの愛銃が構えられる。そういえばさっき「足りない部分は私が補う」って……
次の瞬間、車体ががくんと不自然に震え……私たちは車ごと空へ飛び出した。
ふわふわとした浮遊感。重力から解放されて、自然と体が浮き上がる。背もたれを掴む手に力を込める。今手を放したらホントに死ねる。イズミがクーラーボックスごと飛ばされかけ、アカリがイズミの腕を握りしめてそれを防いでいる。「あらあら☆」と楽しそうに笑う声と、イズミの汚い叫び声が木霊する。そんな中、ハルナはしっかりと体を固定しつつ、深呼吸。後ろに向けた銃口に青白い光が宿り、みるみるうちに激しく輝いていく。銃身が鮮烈なスパークを起こす。
「――スコヴィル値1千万級の激辛ですわ。たんとお召し上がりくださいな」
「……! マズっ避けて!」
悲鳴じみた叫びを上げるも時すでに遅し。まるでアクション映画のカースタントのように飛び出した黄色い車から、青白い閃光が放たれた。こちらに向けて。――視界が青に染まった。
光は私が乗る車の真横を通り過ぎ、後続の車列に直撃。その全てを貫通してなぎ倒した。遅れて、空気が裂けたかのような衝撃が襲ってくる。私の乗った車はそれに耐えきれず横転し、車内で激しくシェイクされた私は頭を何かにぶつけて気を失った。
これは後日聞いた話だが、美食研連中はあれの反動でさらに距離を稼いで、向う側の高架に見事着地したらしい。あんたらもうカースタントだけで食ってけるんじゃない? これだからゲヘナは……本当に頭おかしい。
ハルナ渾身の一撃の反動もあり、給食部の車は見事に向こう岸へと着地した。大きくバウンドこそしたものの、車体はなんとか衝撃を吸収し、そのまま走り続ける。
「し、死ぬかと思ったぁ……」
「なかなか刺激的なイベントでしたね〜☆」
同じ車内にいたにしては、あまりにも対照的なコメントだった。やっぱアカリって大物だ。私? 二度と経験したくない。
まあでも包囲網は突破したし、あとはこのまま境界線を越えるだけだ。そうすれば、あとはフウカがなんとかしてくれる。散々振り回して疲れているとは思うけど、もう一働きしてもらおう。そう思っていたのだが……
ICを通過したあと(向こう岸にまで飛んでいくとは思わなかったのか、正義実現委員会の姿は影も形もなかった)、おもむろに車は速度を落としていき……やがて道端で停車した。え、なんで?
「……悪いけど、私はここまでね。さっきのでサス(※サスペンション)がイカれたと思う。これ以上は走らせられないわ」
こっちは適当に降伏して、たぶん風紀委員会に引き渡されると思う。アンタらに脅迫されたって言えばそう無下にはされないだろうし……ゲヘナに戻り次第そのマグロ調理してあげるから。無くさないでよ? ここまでしたんだから。
そう言って、フウカはハンドルから手を放した。「はあー……また万魔殿に予算交渉しなきゃ」とボヤいている。う、嘘。ここから徒歩? 格段に近づいたとはいえ、まだゲヘナとの境界線まで多少距離がある。……でも、これ以上無理は言えないか。思えば普段からこっちの都合で振り回して迷惑かけているというのに、今回は本当にいろいろと手を貸してもらった。何ならこのあとも一仕事残っている。
「……あ、ありが「その言葉は全部終わってからにして。アンタらがそれ持って逃げられなきゃ、ここまでの苦労もなんの意味もなくなるから。いい?」――わかった」
「あらあら☆ ……さて、どうしましょうか? ここからゲヘナ自治区までまだ距離はありますし、時期に正義実現委員会も追ってくるでしょうし」
「……そうですね。ここは一つ――散開するとしましょうか」
四人一塊になっていてはいずれ物量に押しつぶされるでしょうし、ならば散開して一人でも逃げ切れることに賭ける方が一番ですわ。
そう言いながら、ハルナはいそいそとその場を離れようとする。言ってることは正論だけど、いつもながらその切り捨ての早さはなんなのよ。まあ私も同じ選択をさせてもらうけど!
「イズミ、それこっちに渡して! 私が一番足速いから、私が運んだほうがいい!」
「ふぇ? う、うん! はいこれ!」
イズミが今まで後生大事に抱えていてくれたクーラーボックスを預かる。中に入った魚と氷の重量が片方の肩に伸し掛かる。……あの子の命の重さだと思うと、凄くずっしりとくるけど……ここまで大事を起こしたんだ。絶対逃げ切ってみせる。
「ふぅ。では誰が逃げ切っても恨みっこ無し、世は弱肉強食ということで☆ では私も♪」
そう言ってアカリも走り去る。こんな状況でも最後まで楽しそうな辺り、ほんと大物だ。
私も逃げさせてもらおう。最後に、ここまで連れてきてくれたフウカに目をやると、素っ気なさそうにしていたけど……ひらひらと片手を降ってくれていた。ほんと、ありがとう!
約束通り声には出さず、私はゲヘナの境界線へと向けて走り出した。
「……へ? あ、あれ? 皆もう行っちゃったの!? ちょ、ちょっと待ってよー!!」
【……正直、この展開は予想外だったよ】
トリニティの市街地はずれ。対峙する集団が2つ。
片方は正義実現委員会の生徒たちと、補習授業部3人を連れた私。いわばシャーレ合同軍。
「――あら、こちらとしては予想通りの展開ではありますわね。正義実現委員会については。先生、貴方がそちらについているのは同じく予想外ではありますが。ふふっ」
対するは、余裕を崩さない銀髪の少女、黒館ハルナ。ニコニコと笑顔を崩さない金髪の少女、鰐淵アカリ。そして「え、えっ? 戦うの? 散開するんじゃなかったの?」と困惑気味に右往左往する少女、獅子堂イズミら美食研究会の3人。
【まさか、その人数で真正面から打って出てくるなんてね。しかも君たちが。……成長したね、ハルナ】
「ふふっ、私はいつもと変わりありませんわ、先生。これはそう……"味変"、というものです。いつもいつも同じ味付けでは飽きてしまいますもの。たまにはこうして、全力をもって抗ってみるのも、また一興。正義実現委員会がどこまでのものか、興味もありましたし」
【そうか。……ジュンコは、どうしたんだい?】
「彼女はいつも通り逃げました。流石の逃げ足の速さ、あっという間に消えてしまいましたわ。今頃どこにいるのやら。……もっとも、それを知れるのはもっと後のことですわ」
ジャキッと音を立てて、彼女の愛銃がこちらに向けられる。
【……ハルナ。君ならもうわかっているだろうけど、一応言っておくよ。――その有様では、抵抗するのは難しい。どうか降伏してくれないかな。悪いようにはしないと約束するから】
ハルナが向ける愛銃からは、煙が上がっていた。心なしか、銃身が多少歪んでいるようにさえ見える。――先ほど聞いた話では、ハルナは自身の神秘をオーバーチャージして放ち、その反動で素晴らしいカースタントを成功させたようだ。その代償に、彼女の愛銃はかなりのダメージを負っていた。あれではまともに撃てるか怪しいものだ。
「確かに、先生のおっしゃるとおり、私の
こういったやり方もありまして。
そう言って彼女は身につけたスカートを広げて見せた。まるでカーテシーを行う淑女のように。――その足元に、音を立てて大小様々な物体が落ちてきた。……まさか、あれは!?
「っ!? いけない!
「――アカリ」
「はぁーい。では、すこぉしばかり……グロテスクに、やらせてもらいますね?」
アズサの警告も早かったが、ハルナはすでに動き出していた。
足元に落ちたIED。そのうちの一つをハルナがこちらにめがけて蹴り上げた。同時に、アカリが自身の愛銃を向ける。
シュポっと気の抜けた音を立てて、榴弾が発射され……空中でIEDと衝突した。
爆発。
予期せぬ先制攻撃が、今宵の決戦の火ぶたを切った。
(ジュンコさん……あとは、託しましたよ)
「はっ……はっ……はっ……!」
走る。走る。走る。
肺が痛い。心なしか目眩もする。走りすぎて足も疲れた。――でも、ここで止まるわけには行かない。
もうすぐゲヘナの境界線だ。そこさえ越えてしまえば、正義実現委員会は手出しできない。エデン条約でピリついてる中、ゲヘナ自治区に入ることはできないだろう。あと少し。あと少し、で……
何か音が聞こえた気がして、私は咄嗟に体を捻った。その横を、何かがすごい勢いで通過した。
とんでもない音を立てて、目の前の壁に何かが衝突した。もうもうと土埃が立ちこめる。その中を、ゆっくりと黒い影が起き上がる。
「きひひ……」
黒い、大きな翼。血が滴るかのような、赤黒い
「きひゃあああああぁぁぁっ!!!」
「……剣先、ツルギ……!!」
正義実現委員会、委員長……人呼んでトリニティの戦略兵器。
キヴォトスでも最高戦力の一人が、私の目の前に立っていた。