ここだけ病弱コハル   作:匿名さん

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その4

歪む視界の中。ぼやけた世界に映る、女の子が1人。

こんなはずじゃなかったのにと、表情で語っている、怯えた少女。あんなに大人っぽかったのに、今では私よりも小さな子に見えた。

 

違う。違うの。あなたのせいじゃない。私の体が駄目なのがいけないの。人よりも弱い体なのがいけないの。だから……

 

 

 

そんな顔をしないで。そんな顔をさせたくなくて、私は、正義実現委員会に……

 

 

 

「……?」

 

意識が戻る。目に映るのはぼやけた世界ではなく、見知った天井。

明かりが落とされているのか、真っ白い天井も壁も、窓から射す夕日に染まって赤く色づいていた。

 

「ここ……救護騎士団の……そっか。私、また……」

 

最後に残った記憶と、現在の状況が、私が発作を起こしてここに――救護騎士団の病室に運び込まれたことを示していた。

体を起こそうと身動ぎして……失敗。一切力が入らない。頭もぼーっとするし、体が熱い。にも関わらず寒気すらも感じる。

 

発作を起こした後はいつもこうだ。私の壊れた体は高熱を発して、しばらくはベッドの住人になることを義務付けられる。今までの経験からして、数日はこの有り様だろう。

 

「やっちゃったなぁ……」

 

「……何を『やっちゃった』んだ?」

 

「はぁ。……興奮しすぎるとこうなるなんてわかってたことなのに。自制できなくて初対面の人の目の前で発作を起こして……はぁ。ふぅ。……あれじゃ自分のせいだって思っちゃう。私が悪いのに。早く謝らな、いと……?」

 

横から飛んできた質問に息切れしながらも答えて……アレ?今誰が質問してきたの? そういえば起きてからあまり周りを見れなかったけど、もしかしてこの病室他に誰かいる……?

どうにか首を動かして声の出どころを向くと、そこにいたのは思いも寄らない人だった。

 

長い黒髪。鋭い目つき。血がしたたっているかのような、真っ赤な光輪(ヘイロー)

 

「ツ、ツルギ委員ちょぅモガッ!?」

 

「叫ぶな。体に障る」

 

正義実現委員会委員長、剣先ツルギがベッドの隣で丸椅子に腰掛けていた。

突然のビッグネームの出現に驚いて声を出した私だったが、途中でツルギ委員長に口を塞がれてしまった。早い。至近距離にいたのに動き出しがまるで見えなかった。

思わず黙った私を見て、ツルギ委員長が口から手を離す。憧れのツルギ委員長に触られちゃった……ど、どうしよう。明日から口を洗わないほうがいいのかな……? いやそんなこと言ってる場合じゃない。

 

「ぷはっ! ツルギ委員長、どうしてここにいらっしゃるんですか?」

 

「可愛い後輩が倒れたと聞いて様子を見に来ては駄目なのか?」

 

「か、かわ……!? い、いえそうではなく! 委員長は今色々とお忙しい時期では?」

 

「後輩に会う時間くらいなら作れる。むしろお前は私より自分の心配をしたほうがいいと思うが」

 

「うっ……はい。その通りです……」 

 

正論すぎて何も言い返せない。言い返す気もないが。

先程よりもベッドに沈み込んだ私は、思わず目を伏せてしまう。

 

「……責めているわけじゃない」

 

ツルギ委員長はゆっくりと私の頭に手を伸ばして、触れてきた。おそるおそる、という表現が正しいような、そんなゆっくりした動きでツルギ委員長の手のひらが、私の髪と頭の羽の上を右往左往する。……ちょっとだけ、くすぐったい。

 

「当時の状況は見張りの者たちから聞いている。浦和ハナコ……あれはなかなか厄介な人間だが、悪意ある者ではない。これはお前もわかっていることだろうが、ボタンがかけ違えられただけのことだ。浦和ハナコにも、お前にも、責任はない」

 

えっと……もしかして、慰めてくれている、のだろうか。私の頭上でフラフラしているツルギ委員長の手を感じながら、私は思った。割れ物注意みたいな感じで触られてるけど、さすがに触れただけで簡単にバラバラになるほど壊れてるわけじゃないんだけどな。

もしかしてだけど、ツルギ委員長、ちょっと緊張してる?……そんなわけないか。

 

「ありがとう、ございます。……でもやっぱり、一度は謝っておかないと。あの人……ハナコ、さんは、ずっと引きずってしまう気がするんです。同じ補習授業部としてこれからも迷惑をかけてしまうだろうから……」

 

「……コハル。正直に言う」

 

立場上声を大にしては言えないが。と前置きして、ツルギ委員長は告げた。

 

「私は、お前の補習授業部行きについては反対していた。それは今もだ」

 

「……え?」

 

ツルギ委員長が、私の補習授業部行きに反対している? それも今も?

 

「もともと、補習授業部はナギサ様――ティーパーティーホスト代行の桐藤ナギサが、ティーパーティーの強権を使い急に作り上げた組織だ。それもわざわざ今の時期に、外部組織のシャーレを巻き込む綱渡りをしたうえで。さらに言えば、お前のような成績不振というにはグレーゾーンな生徒まで何故か入れられている。

……明らかに何かがおかしい。何か企ててる可能性が高い。コハル。正直に言ってほしい。補習授業部への移動に納得しているのかどうかを。それによっては、私がナギサ様に直訴する」

 

え? ツルギ委員長がナギサ様に直訴って……。とんでもない事態の可能性に、私は息を呑んだ。だってそれは、ティーパーティーの決定に、ティーパーティー統制下の正義実現委員会委員長が楯突くことを意味する。ティーパーティーと正義実現委員会の関係は悪くなるだろうし、何より今の時期にそれが起きれば、トリニティ内部の均衡が変わってしまうことなんて、政治に疎い私にも容易に分かることだ。

 

「な、なんだかすごい話になってきてますけど……うん。ツルギ委員長。私は、補習授業部行きについては納得しています」

 

「……」

 

「体が原因とはいえ、テストに出席できなかったことは事実ですから。もちろん、ナギサ様に何らかの思惑があることは間違いないと思います。でもそれが、私やみんなに害があることだと決まっているわけではないので。何か、私に補習授業部でやってほしいことがあるのかもしれませんし。――それに、『疑わしきは罰せず』って言いますから」

 

ナギサ様が何を考えているのか、政治に疎い私にはわからない。けど、それが『悪いこと』だと最初から決めつけてはいけないと思う。先入観で物事を判断するのは、私には『正義の行い』とは思えないから。

 

「……そうか」

 

ツルギ先輩は眩しそうに目を細めた。……? 夕日が目に入ったのかな?

……というか私、正義実現委員会の委員長相手に何高説垂れてるの!? 私よりも『正義』を熟知してる人に!

うわーやっちゃった!穴があったら入りたい……。入った後どうせならそのまま荼毘に付してくれないかしら。ほぼ死体みたいなものだし。

 

「……きひ。それがお前の『正義』だというのなら、これ以上私が邪推する必要もない。……補習授業部で、もし今後、上絡みで何かあったらすぐに連絡しろ。私が対応する。お前は自分の体と、テストの点数だけ気にしていればそれでいい」

 

発作を起こしたばかりで疲れているところにすまなかった。ゆっくり休め。

 

自己嫌悪で固まる私にそう言って、ツルギ委員長は立ち上がり、少し暗く成りかけている病室から去っていった。ゆ、許された……?

 

「コハル。お前が無事に戻ってきて、また正義実現委員会として活動することを、私は期待している」

 

そう言い残して。

 

……ツルギ委員長。トリニティの戦略兵器とすら称される女傑。今まで話したことは数えるほどしかないけれど、私、ツルギ委員長にここまで期待されてたんだ。前線に立てない役立たずの私が。

申し訳無さとともに、少しばかりの嬉しさもこみ上げる。

 

「よーし、ツルギ委員長に期待されてるんだもの。大手を振って正義実現委員会に戻れるように、頑張らないと」

 

そのためにも、まずはこの体をなんとかして、補習授業部の人たちに、ハナコさんにもう一度会わなければ。

一つ息を入れて、私は目を閉じた。さっきまではツルギ委員長の衝撃でふっ飛んでいた気だるさがぶり返し、高熱がたちまち意識を奪い去っていった。

 

結局、私が再び動けるようになったのは5日ほど経ってからのことだった。

 




ひぃん読みやすいように1話三千から五千字程度に収まるよう投稿してるけど、これで本当に読みやすくなってるのかまるでわからないよー
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