ここだけ病弱コハル   作:匿名さん

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ひぃんここからはまだ向こうにも投稿してない続きだよー


その47

円卓は重苦しい空気に包まれていた。

中心人物たる彼女の発言によって。

 

【ナギサを……"潰す"?】

 

「ええ。もっとも……職責上、貴方には看過できないことだとは思いますが――シャーレの、先生」

 

顔の前で両手を組んだまま、私を見つめてくる生徒……古関ウイ。確か、シミコが入っているトリニティの図書委員会、その委員長を勤めているのだったか。直接会うのはこれが初めてだが……古書館なる場所に籠りきりだと話に聞いたことはある。

 

「申し遅れました。図書委員会委員長を勤めさせていただいております、古関ウイと申します――どうせ会うのはこれが最後になりますから、お見知りおき頂かなくて結構です」

 

そして、彼女が極度の人嫌いであるということも。

 

 

 

「ウイさん、流石に先生に失礼ですよ。協力してくださるかもしれないんですから、もう少し態度を柔らかく……」

 

「…………。――失礼いたしました。気が立っているものでして、不躾をお許しください」

 

【い、いや。大丈夫だよ。気にしてないから】

 

隣に座るシスターに宥められて、しばらく沈黙したウイは謝罪を口にした。同時に丁寧に頭を下げてくる。

思わず手を振って不快感はないことをアピールすると、彼女は頭を上げて再びこちらを見つめた。

透き通るような、見透かすような、不思議な目線だった。怒り、悲しみといった、人としての感情が一切感じられない目。凪いだ視線。まるで……

 

そう。まるで、視界に入った道端の石でも眺めているかのような、温度のない視線だった。

 

「すみません、先生。状況が状況なだけに、彼女も平静ではないのです。普段はもう少し「サクラコさん」……と、申し訳ありません。配慮に欠けていました」

 

フォローを入れようとしたのだろう隣のシスター……シスターフッドの長、歌住サクラコを一言で静止したウイは、はぁ……と深くため息をついた。

 

「いい加減本題に入りましょうか。時間は有限ですから。特に、今の状況では」

 

「その前にウイさん、"彼女"は? この場にいないということは……やはり説得には……」

 

「失敗しました。コハルさんがあれほどの仕打ちを受けた今、こちらにつく可能性は大いにあると踏んでいましたが……まさかあそこまで理性的かつ強情だとは……面倒な……」

 

【"彼女"……?】

 

二人だけで通じ合っている会話に割り込ませて貰う。どうやら、この会議にもう一人呼びたかったようだが、断られたようだ。一体誰のことなのか。

 

「……このトリニティにおける最高戦力にして、コハルさんの上司……と言ったら、伝わりますか?」

 

【! まさか!?】

 

「――正義実現委員会、委員長。剣先ツルギ。……今なら口説き落とせると踏んだんですがね……」

 

 

 

「呼びつけておいて言うのもなんですが、よく素直に来る気になりましたね」

 

「よく言う。半ば人質を取ったようなものだろうに。──コハルを返せ」

 

焦りが言の刃を鋭利にする。自身が冷静でないことを自覚しながらも、私――剣先ツルギは、沸き上がる感情を抑えることができなかった。

 

早朝。情報収集のためトリニティの掲示板を開いた私は、そこで二次試験の変更について初めて知ることとなった。

もともときな臭いものがコハルを取り巻いているのは知っていた。その上で、コハルがあの体で頑張っていることをハスミやイチカから聞いていて、その努力を無駄にさせたくなく。コハル本人にも再三釘を刺していたから、何か動きがあればすぐ連絡がくると思っていたが――やられた。まさかティーパーティーが、ナギサ様……いや、桐藤ナギサがこんなにも強引な手を打ってくるとは。どうやら私の目は節穴だったようだ。

 

後悔するのは後からでも遅くない。今は行動するときだ。コハルのことだ、恐らく無理をしてでも試験会場に……ゲヘナに向かっただろう。このキヴォトスでも治安最悪と唱われる自治区に。その上、体調次第では最悪"アレ"を使っている可能性もある。ハスミから聞いた話では、コハルの体調は、発作や慣れない環境もあってかかなり消耗している様子だったと聞いている。すぐにでも迎えにいかなければ、冗談抜きで命が危ない。

……正義実現委員会委員長が、ゲヘナに侵入する。それが今の微妙な情勢にどれだけの影響を及ぼすのか、普段暴れているだけの私でもわからないわけではない。最悪ティーパーティー肝いりの条約がおじゃんになる可能性もあるだろう。そうなれば、委員長から降ろされる……否、もっと重い処分が下されるかもしれない。――知ったことか。そんなものより部下の、かわいい後輩の命の方がよほど大事だ。

 

今の立場を投げ捨てる覚悟を決め、最速で準備を終えた私はゲヘナに向かおうとして……携帯が鳴った。向こうの人嫌いゆえに、鳴ることは未来永劫ないだろうと思っていた、かつて協力を仰いだ際に一応設定しただけの専用の着信音が。

……この早朝に、あの古書館の主から電話だと? 

 

「何のようだ」

 

『よかった、繋がりましたか』

 

「今忙しい。世間話に付き合っている暇はない」

 

『こんな朝っぱらから貴方に世間話を仕掛けるわけないでしょう馬鹿馬鹿しい……その様子ですと、既にコハルさんの状況は知っているようですね』

 

「……どこまで知ってる?」

 

『だいたい全てを。単刀直入に言いましょう、コハルさんはゲヘナに向かい、そこで重傷を負いました「っ!? クソッ!」まだ話は残ってますから切らないように! ……幸い一命はとりとめ、今現地の協力を得てトリニティに帰還している最中です。到着次第、こちらで保護します』

 

「一命は取り留めた、か……よかった、本当に……」

 

安堵で思わず素の声が漏れた。あの子の体でゲヘナに向かうなど、自殺行為以外の何者でもない。案の定重傷を負ったと聞いてゾッとしたものの、最悪の事態も頭をよぎっていたが故に、そうならず心底ほっとした。

 

「……しかし、保護だと? 図書委員会が? コハルの身柄ならまず正義実現委員会(うち)が預かるのが筋だろう」

 

『ティーパーティーの飼い犬共に、今のコハルさんを任せられるとお思いで?』

 

「……何?」

 

会話の雲行きが怪しくなってきた。こいつ、私たちを疑っているのか?

 

『……こほん。失礼な発言でしたね。しかし、あなたや他の側近連中はともかく、他にティーパーティーの息がかかっている可能性を排除できない以上、コハルさんの身柄を渡すことはできません。これは私だけでなく、シスターフッドと救護騎士団の意向でもあります』

 

「救護騎士団に……シスターフッドだと?」

 

表情には出さないが流石に驚いた。いや、救護騎士団はまだわかる。このトリニティにて、コハルと一番結び付きの強い部活と言ったら、実は正義実現委員会ではなく救護騎士団だ。コハルが入学して以降、患者として、彼女の体調と常に向き合ってきた組織である。故に、この事態に直面して即動きだすのは理にかなっている。しかし、シスターフッドまで動くとはどういうことだ。

このトリニティにおいて一番謎めいた組織。慈善団体を謳い、実際その通りの活動を行っているが、どうにも秘密主義な面があり、裏があるのではと勘繰る者も少なくない。その筆頭が、現シスターフッド代表、歌住サクラコ……一体、コハルと何の繋がりが? 何を企んでいる?

 

『とはいえ、あなたもこれで「はいそうですか」と納得するタマではないのは知っています。――ひとつ、話し合いといきましょう。ちょうど貴方に……いや、正義実現委員会に持ち掛けたい話もあります。トリニティ大聖堂の地下にて、お待ちしていますよ』

 

そう一方的に言い放って、通話は打ち切られた。何も発さなくなった携帯を見つつ、少し考える。

 

古関ウイ。図書委員会委員長。余人曰く、引きこもり。人嫌いで、古書館からほとんど出てくることがなく、故にあまり情報が出回らない謎めいた女。

かつてゴールドマグロの伝説を確かめるために協力を仰いだときは、正直塩対応で終わるかと思っていたのだが、途中からやけに協力的になって内心驚いた記憶がある。今思えば、あれはコハルとどこかで知り合って、絆されていたが故の反応だったのだろう。ゴールドマグロの伝説を先んじて調べていたのも、恐らくコハルのために自発的に動いていたと思われる。……一体全体、何をどうしたらあれだけ気難しい古書館の主と心情を結ぶことができるのだろうか、あの子は。そのコミュニケーション力の欠片でも分けてほしいくらいだ。そうしたら私みたいなのでも少しは少女漫画(愛読書)のような……閑話休題。

 

ともかく、今のコハルの状況はわかった。怪我をしたことも、その身柄を古関ウイ達に抑えられていることも。救護騎士団がバックについているなら、これ以上悪いことにはならないと思うが……それでも、組織として信用しがたいシスターフッドの下にいるのは不安が過ぎる。身柄を取り返すためにも、大聖堂に向かわなければ。

 

そうと決まれば連絡を――しようとして、辞める。こういう事態の時は副委員長であるハスミにも情報共有するのが筋だが、今回の件をハスミに伝えれば大変なことになるだろう。確実に。

ハスミのコハルへの入れ込み様は相当なものだ。ハスミの正義……守るべき弱者そのものだからな、コハルは。そんな彼女が、自身を慕い、同じ様な正義を志して、不自由な体を張って動いているのだ。情に厚い性格もあって、それはもう入れ込むに決まっている。

そんな目に入れても痛くない後輩が不当に傷つけられて、命が危うくなったなどと聞けば……どう考えてもろくなことにならないだろう。

いずれ伝えるにしても、今はマズい。少なくともコハルの身柄を取り返してからだ。そう結論付けた私は、ゲヘナに向かおうとしていた足を変え、トリニティの中心へ向けて飛び出した。行き先はトリニティ大聖堂、シスターフッドの総本山――。

 

 

 

このトリニティで一番大きな聖堂なこともあり、普段なら人の姿が多く見受けられる大聖堂も、早朝のためかほとんど人気がなかった。

静寂のみが支配するその地に降り立った私は、荘厳な大聖堂の入り口で周囲を見渡した。……常ならいるはずのシスターフッドの警備すら見当たらない。これは、入っていいものなのか? ――まさかとは思うが、罠ではあるまいな。

遥か昔から秘匿のベールに覆われ、その全貌が掴めない謎めいた組織、シスターフッド。……もし私を呼び出したのが策謀の内だというなら、大した話だが……

 

「――ツルギ委員長」

 

「!」

 

思わず愛銃に伸びようとした手を押し留め、声の主へと振り返る。……声をかけられるまで気付かなかった。この私が。

視線の先にいたのは、シスター服に身を包んだ生徒。顔に覚えはない。その腕に、何かが入った小さな籠を下げている。

 

「お待ちしておりました。まさか上から降ってこられるとは予想の外でしたが……こちらへ。古関図書委員長がお待ちです」

 

手でついてくるように指し示し、彼女は大聖堂の中へと歩を進めていく。……さて、鬼が出るか蛇が出るか。どのみち、行かなければコハルの身柄を確保できない。ついていくしかないか。

少し息を吐き、覚悟を決めた私はシスターの背中を追った。

 

大聖堂の内部、ある種不気味なほどに人気のない中を、シスターと私が進んでいく。……中心部から逸れていっているな。この先にあるのは小さな庭くらいのものだが。そこに古関ウイが待っているのだろうか。

小さな疑念を抱きつつ、大人しくついていく。シスターは迷いのない足取りで進んでいく。流石に迷子になっているわけではないらしい。……ほとんど足音がしない。私から見ても隙のない足運びだ。相当鍛えられている。私に気付かせずに声をかけてきたことと言い、間違いなくただのシスターじゃないな。

 

「……ここで、少しお待ちください」

 

そう言って、シスターは小さな庭の中心で立ち止まった。大聖堂の片隅にある、庭とすら呼べないスペースだ。申し訳程度に草木が生え、あとはベンチと、少しばかり彫刻が施された、偉く古ぼけた水盆が置かれただけの場所。あまり人が訪れないのか、落ち葉で地面のほとんどが埋まっている。

シスターは水盆の前に立ち、腕に下げていた籠の包みを捲り、1本の瓶を取り出した。赤い液体が透明な瓶の中で揺らめいている。栓を開けると、独特な匂いが仄かに香り立った。この匂いは……

 

「……まさか、アルコールか?」

 

「キヴォトスでは俗にワインと呼ばれる物。ですが我々にとっては、神の血です。……本来、生徒がこういった物に手をつけるのは、連邦生徒会によって厳しく規制されていますが、儀式等に用いるため、シスターフッドは特別に製造と保管を許されています。しかし、あまり表沙汰にするのはよろしくないお話ですので……」

 

貴方の同僚方には内緒にしてくださいね?

 

人差し指を口許に当てるジェスチャーをした彼女は、その手に持ったワインを水盆に傾けた。芳醇な赤が渦を巻き、水盆の内側を染め上げていく。――瓶が空になると同時、カチっと不思議な音が響いた。

 

「これは……」

 

「――どうぞ、こちらへ」

 

水盆が回転し、床に沈み込んでいく……否、違う。水盆を中心として、その周囲の床そのものが螺旋状に回転し、落ち葉を巻き込んで下へと潜り込んでいく。

変化が落ち着いたときには、水盆を囲うように、地下へと続く螺旋階段が姿を顕していた。

思わず言葉を失う私を、シスターが手招きして地下へと誘った。

 

 

 

「まさかこんな隠し階段が存在しているとは……」

 

「遥か昔、未だトリニティが一つではなかった頃。シスターフッドの前身組織が、様々な理由でもってこのような隠し通路や部屋をいくつも作りました。この通路も、その内の一つ。もっとも、今では資料が散逸し、把握していないものも多々あるのですが……着きました。ここです」

 

明かりのほとんどない、暗く湿った地下通路を歩くことしばし。通路の行き止まり、所々苔むした石造りの壁の前でシスターは立ち止まった。……パッと見単なる石の壁でしかないが……

 

「ここをこうして……こう……」

 

コツ。コツコツ。

 

壁を構成する、積み上げられた石。その幾つかを、シスターは籠から取り出した木の枝で叩いた。すると、ゆっくりと壁が動き出し。

 

「……最早なんでもありだな」

 

「私も以前、同じことを思いました」

 

思わずぼやいた私に同意したシスターは、先程まで壁だった場所に出現した扉の取っ手を掴むと、振り返って私にこう告げた。

 

「この先に、古関委員長がいらっしゃいます」

 

 

 

揺らめく炎が、カビ臭く湿った空気に熱を与える。

壁に取り付けられた燭台から漏れる光が、暗く淀んだ地下室を幾分か明るく照らしていた。それなりに広い部屋だ。中央には古めかしい円卓が置かれており、それを囲うように椅子が幾つか配置されている。かつては、ここで先人たちが秘密裏に会談でもしていたのだろう。

 

「――遥か昔、ここはユスティナ聖徒会……シスターフッドの前身組織が、他派閥と会談を行っていた会議室だそうです。もう、数百年は昔の話ですがね」

 

先んじて椅子に腰かけていた者が、私の推測を肯定してくる。以前古書館で相対した時より数段凍てついた目が、私の視線と交錯した。

パンッと音をたて、手元で開かれていた本が閉じられる。

 

「ご足労頂きましてありがとうございます、ツルギ委員長。……呼びつけておいて言うのもなんですが、よく素直に来る気になりましたね」

 

「よく言う。半ば人質を取ったようなものだろうに。ーーコハルを返せ」

 




ひぃん本当は向こうで言ってたようにツルギハスミの決着まで書き上げてから移転するつもりだったよー
ただリアルの事情が変わっちゃって執筆時間がとれなくなっちゃって……本当に申し訳ない
どれだけ時間がかかってもエデン条約は完結させるつもりだから、暇な人だけ暖かく見守ってほしいよー
後日告知もかねて向こうでもスレ立てするけどそれが最後かなー
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