ここだけ病弱コハル   作:匿名さん

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その8

「あはは……えっと、色々あったみたいですが、ようやく補習授業部が全員そろいましたので……今日から本格的に活動を始めようと思います。その前に、コハルさんには一応自己紹介をお願いできればなと……」

 

「あ、はい。――改めまして、正義実現委員会から来ました、下江コハルです。生まれつき体が弱くて、皆さんにはご迷惑をおかけするかもしれませんが、どうぞよろしくお願いいたします」

 

深々と頭を下げる。初対面であんな真似をしちゃったからもうみんな知ってるだろうけど、迷惑をかける立場だからお願いしておかないと。

パチパチと拍手の音が響く。見ると、先生が軽く手を叩いて歓迎してくれていた。

 

「あ、ありがとうございます」

 

【コハル。聞いておくんだけれど、補習授業部についてはどこまで知ってる?】

 

「えっと、確か三次まである学力試験を、1回でも全員揃って合格できればオッケーて話ですよね?」

 

【その通り。幸いコハル自身の学力は何も問題ないってハスミからは聞いているよ。だから、問題は体調面。くれぐれも無理をしないで、キツかったら言ってほしいな。必ず助けるから】

 

「!……ありがとうございます。先生」

 

先生の気遣いが目に染みる。実際、私の体調が駄目で試験を受けられなかったら、今回の条件――全員揃って合格が達成不可能になる。迷惑ってレベルじゃないから、ほんとに気をつけないと……。最悪"あれ"を使うことも考慮しないといけないかも。反動が酷いからできれば使いたくないけれど。

 

「え、えーと。他の方の自己紹介はもう互いに済ませてあるのですが、コハルさんのために簡単に。部長を任せられました、阿慈谷ヒフミです。コハルさん、困ったことがあったらなんでも言ってくださいね?」

 

「白洲アズサだ。今回のミッションはそこまで困難なものじゃない。3回もチャンスがある作戦なんてそうはない。3回と言わず1回でクリアしてみせよう」

 

あははと笑う部長さんのヒフミ先輩に、ふんすと頼もしい様子のアズサさん。うん、二人共そこまで成績がヤバそうには見えないから大丈夫そう。

 

「……。えっと、ハナコさん。簡単にでいいので、コハルさんに自己紹介を……」

 

「……」

 

「あ、あれ? ハナコさん?」

 

「……え? あ、ご、ごめんなさい! 聞いていませんでした……。し、失礼ですが何のお話でしょうか」

 

残るはさっきまで私の胸で泣いていたハナコさん。とりあえず落ち着いたみたいで、私の胸から顔を離してはいるんだけど……。

なんかさっきから私の服の裾をぎゅっと握って離してくれない。流石にこれは予想外だ。なんかボーっとしてて心ここにあらずみたいだし。大丈夫かな?

 

「あ、あのですね。コハルさんに向けて簡単にでいいので自己紹介を……」

 

「あ、自己紹介……。コハルさんに……」

 

ハナコさんがこちらを見つめてくるので思わず見返す。……うん、やっぱりすごい美人さんだ。特に瞳。綺麗な緑色をしていて、まるで宝石みたい。こんな人が露出狂の気があるって、世界って広いのね。

そんなことを考えながらハナコさんの目をみていると……ボッ! という音を立てたかのようにハナコさんの顔が赤くなって、翡翠のような瞳がぐるぐると渦巻き出した。え?

 

「あああ、すみません! そういえばまともな自己紹介をしていないのに友だ……! え、えっと……う、浦和ハナコと申します! ……といってももうご存知ですね!? ごめんなさい! え、えーと、えーとえーと……ふ、ふふふっ……」

 

大混乱。そんな3文字がピッタリの様子でハナコさんが取り乱している。……え? えええ!? 急にどうしちゃったのハナコさん!? あなたそんなキャラじゃないでしょ!?

私の困惑をよそに、ハナコさんは暴走したまま言葉を続けた。

 

 

 

「不束者ですがっ、よろしくお願いしましゅっ!」

 

 

 

「へ?」←これは私

 

「?」←これはアズサさん

 

「は、はいぃ!?」←これがヒフミ先輩

 

いやいやいやいやいや結婚の挨拶じゃないんだから! しかも噛んでるし! ほんとどうしちゃったのよハナコさん!? さっきまでの底しれない知恵者感は何処にやっちゃったの!?

 

 

 

 

やってしまった。私の脳内はそんな後悔一色で染まっていた。

 

生まれてこの方、私、浦和ハナコは友と言える者を得られずに生きてきた。

『1を知って10を知る』という言葉があるが、私にとってそれは、呼吸をするよりも容易いことだった。様々な知識をスポンジのように吸収し、テストは何時も満点が当たり前。なんなら一年生の時点で飛び級の条件である上級生向けのテストですら満点だった。

そんな私に対し、周囲は勝手な期待を被せてきた。

 

「流石ハナコさんだわ」

 

いいえ、貴方方の程度が低いだけです。

 

「ハナコさんがいれば我らがシスターフッドの未来も安泰です」

 

勝手に人の未来を決めないでいただけますか。

 

「貴方ならいずれ、ティーパーティーの代表として、トリニティを背負って頂くことが……」

 

…………。

 

集まってくるのは甘い言葉でこちらを利用しようとする輩ばかり。表では外面のいいことばかり言って、裏では醜い足の引っ張り合い。まるで出来の悪いままごとのようだ。

あまりにも吐き気を催すような光景に、気持ち悪くて、バカバカしくなって、私は……この学校という名のお遊戯会から抜け出すことにした。

往来で水着姿を披露した。そのまま広場を歩き回った。シスターフッドの集会にも参加した。周囲の唖然とした顔は今でも思い返すと滑稽だ。ああ、せいせいした。

 

このままいけば、私はトリニティの品位を乱すとして退学も狙えるだろう。――ただ一つ。一つだけ、心残りがあるとするならば……一度でいい。普通の学生として暮らしてみたかった。

友達を作って、一緒にバカをやって、やっちゃったねと笑い合う。そんな、普通の学生生活を送りたかった。

けれど、そんなものはこの箱庭では望めない。

 

 

 

「どうか、私の友達になってくれませんか?」

 

 

 

――初めてだったのだ。

裏も何もなく。なんなら私が傷つけたというのに、被害者ぶることもなく。

笑って手を差し伸べてくれたのは。

 

 

 

だから、そんなコハルさんに。生まれて初めてできた、何の呵責もない対等な友達に、どう接していいかわからないのは仕方のないことですよね? ついテンパってわけのわからないことをほざいても仕方ないですよね?

 

……駄目ですか? いや駄目ですよねどう考えてもこんなのフォローのしようがありませんものね!? 今までの全部独白ですし! かと言ってぶちまけたら重すぎてドン引きされますし! スーパーヘビー級ボクサーの一撃みたいなものですよこんなの! コハルちゃ……コハルさんの体格では木の葉みたいに吹っ飛びますよ! ……何言ってんでしょうね私!?

いやまず重いとかどうこう以前に言い間違えが酷すぎます! なんですか「不束者ですが」って!? 友達相手にそれは重すぎるでしょう! 結婚の挨拶じゃないんですよ!? しかも噛んでるし!! ああああもう穴があったら入りたい……

 

人生で最大級の惨めな思いを現在進行系でしている私は、思わず顔を覆ってへなへなと崩れ落ちてしまった。ううう。生まれ変わったら海藻になりたい……一生を海底で漂っていたい……。

 

コハルちゃ……さん。今どんな顔をしているんでしょう。さぞや引いているんでしょうね……水着姿で徘徊したときはあんなにも開放感があって、周囲の様子なんて気にもしなかったのに。今やコハル……さんの顔を見るのがものすごく怖い。

どうしよう。時って巻き戻せないですかね?  ミレニアムあたりにタイムマシンとかありませんか? ないですかそうですか。……終わった。

ジメジメとした雰囲気を纏って座り込んでいると……ふふっと可愛らしい笑い声がした。

 

「ハナコさん、そんな顔もするんですね」

 

くすくすと笑っているのはコハル……さん。その声に、こちらを嘲笑するような響きは一切なかった。

 

「最初はすんごいえっちな人だと思ってたけど、実際はものすごく理路整然とした考え方ができる人で……かと思ったら、混乱するとそんな可愛い顔になる。全部ハナコさんの一面で、ハナコさんの大切な要素なんでしょうけど……私、今みたいなハナコさんも好きですよ」

 

「」

 

 

……鋤? 椙? 隙? ……え? もしかして好き? え? likeですよね? loveではないですよね? え? ゑ? ヱ?

 

……きゅう。

 

完全にキャパシティオーバーを起こした私の頭は、人生で初めて機能停止したのだった。

 

「え? ちょっとハナコさん!? し、しっかりしてー!?」

 

「え、えーと……あはは……どうして一人は必ず倒れるんでしょうね?」

 

 

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