レオは、そのまま村に残ることになった。
マキノが経営する酒場で、簡単な手伝いをしながらの生活。
床を拭き、皿を運び、樽を転がす。
「助かるわ、レオ」
そう言って笑うマキノの顔は、いつも優しかった。
シャンクスたちは相変わらず頻繁に酒場に現れ、
ルフィはほとんど住み着いているような状態だった。
笑って、食べて、騒いで。
その日常が、当たり前のように続いていた。
――あの日までは。
その日も、酒場は宴の真っ最中だった。
「ガハハハハ!!」
「飲め飲めぇ!!」
シャンクスとその仲間たちが、いつものように騒いでいる。
レオは皿を運びながら、ルフィと並んでその様子を見ていた。
――次の瞬間。
ドンッ!!
扉が、乱暴に蹴飛ばされる。
「……っ!」
空気が、一変した。
現れたのは、無精ひげの大男。
その後ろに、数人の荒くれ者。
山賊――ヒグマだった。
「おいおい……ずいぶん賑やかじゃねぇか」
酒場の空気が、重くなる。
レオは、知っていた。
この後、何が起きるのかを。
ヒグマは、シャンクスに絡み、
そして――
「……ふん」
持っていた酒を、シャンクスの頭からぶちまけた。
酒が床に飛び散り、酒場が一瞬、静まり返る。
だが。
「やられたなぁ」
「お頭、酒もったいねぇぞー」
シャンクスは、平然と笑っていた。
仲間たちも、同じように笑っている。
ヒグマたちは、吐き捨てるように言って去っていった。
――その後。
壊れた机。
床に散った酒瓶。
マキノは黙って片付けを始めていた。
その光景を見て、レオの胸の奥が、じわじわと熱くなる。
(……ふざけるな)
(マキノさんの店だぞ)
(シャンクスだって……)
気づけば、声が出ていた。
「……かっこよくない」
シャンクスが、ん?と振り向く。
「今の、かっこよくない」
隣のルフィも、顔を真っ赤にして叫ぶ。
「そうだ!! ださい!!」
酒場が、しんと静まる。
シャンクスは一瞬きょとんとしたあと、笑った。
「ははは、ただ酒をかけられただけだろ?」
「それが嫌なんだ!」
レオは、拳を握りしめる。
「馬鹿にされてるんだぞ!」
シャンクスは、少しだけ真剣な目で二人を見て、
それでも肩をすくめた。
「……力で全部解決するのが、強さじゃねぇんだ」
その言葉に、レオもルフィも納得できなかった。
ルフィは、ぷいっとそっぽを向き、
店の隅に置かれた小さな箱を引き寄せた。
「もう知らねぇ!」
箱を開けると、中には二つの実が入っていた。
「これ、俺が見つけたやつだ!」
ルフィは一つを掴み、もう一つをレオの前に置く。
「ほら!」
レオは、むすっとしたままそれを手に取った。
正直、何の実かなんて考えていなかった。
ただ、気持ちのやり場がなかった。
――一口。
「……っ!?」
信じられないほど、まずい。
舌が、痺れる。
「な、なんだこれ……!!」
吐き出そうとした、その時。
「うえぇぇぇ!!」
隣で、ルフィも同じように顔を歪めていた。
「まずすぎる!!」
気づけば、二人とも最後まで食べきってしまっていた。
その瞬間。
「……おい」
低い声が、背後から落ちる。
振り向くと、
青ざめた顔のシャンクスが立っていた。
「お前ら……まさか」
酒場中の視線が集まる。
「悪魔の実を食ったのか!?」
その言葉に、レオの背筋が凍りついた。
――やってしまった。
原作を知っているからこそ、
その意味が、痛いほど分かっていた。
こうして。
少年レオは、
ルフィと並んで――
取り返しのつかない一口を、
運命として飲み込んだのだった