港に、朝の風が吹いていた。
帆が上がり、
ロープが外され、
赤髪海賊団は、出航の準備を終えていた。
レオは、分かっていた。
――今日だ。
シャンクスたちが、この村を去る日。
「……行っちまうのか」
呟いたのは、ルフィだった。
いつものように強がった声。
でも、その背中は少しだけ小さい。
シャンクスは振り返り、いつもの笑顔を向ける。
「そりゃあな。海賊だからな」
ルフィは、一瞬だけ黙った。
そして、ぐっと拳を握る。
「……もうよ」
顔を上げ、まっすぐシャンクスを見る。
「もう連れてけ、とは言わねぇ」
レオの胸が、きゅっと締めつけられる。
「仲間を集めて……」
ルフィは、はっきりと言った。
「この海賊団に負けない海賊団を作る!」
シャンクスが、目を細めた。
「ほう?」
ルフィは、ぐっと胸を張る。
「まず一人目の仲間は――」
くるっと振り返り、
ニカッと笑う。
「レオな!!」
「……っ」
一瞬、言葉が出なかった。
胸の奥が、じわっと熱くなる。
(……仲間)
(俺が……?)
ルフィの笑顔は、迷いがなかった。
当然のように、隣にいる前提の顔だった。
レオは、思わず笑ってしまった。
「……当たり前だろ」
そう答える声が、少し震えた。
シャンクスは、その様子を見て、楽しそうに笑った。
「ははは……」
そして、一歩前に出る。
「ほお、俺たちを超えるか」
シャンクスは、ルフィの前に立ち、
ゆっくりと頭に手を伸ばした。
――麦わら帽子。
大切そうに、
それを外す。
「じゃあ……」
シャンクスは、帽子をルフィの頭に被せた。
「この帽子をお前に預ける」
一瞬、空気が止まる。
「俺の大切な帽子だ……大事にしろよ」
ルフィは、ぎゅっと帽子を押さえた。
「おう!!」
シャンクスは、優しく続ける。
「いつか、きっと返しに来い」
「立派な海賊になってな」
ルフィは、力強く頷いた。
「約束だ!!」
「……ああ」
シャンクスは、にっと笑う。
「約束だぞ、ルフィ」
そして――
その視線が、レオへ向けられた。
一瞬、真剣な目。
「……レオ」
低い声。
「こいつは、無茶ばっかやる」
ルフィをちらりと見る。
「だが……間違いなく、でけぇ海に出る男だ」
レオは、黙って頷いた。
「ルフィを頼んだぞ」
その一言に、
胸の奥が、ずしりと重くなる。
それは信頼であり、
託された未来だった。
「……任せてください」
レオは、はっきりと言った。
「俺は、動物王になる」
そして、隣を見る。
「こいつは……海賊王になる」
シャンクスは、一瞬驚いた顔をして、
次の瞬間、豪快に笑った。
「ははは!!」
「いいな……最高だ」
赤髪海賊団は、船に乗り込む。
帆が張られ、
船が、ゆっくりと港を離れる。
「シャンクスー!!」
ルフィが叫ぶ。
レオも、帽子を深くかぶったルフィの隣に立って、
船を見送った。
シャンクスは、最後にもう一度だけ振り返り、
二人に向かって――
親指を立てた。
船は、やがて水平線の向こうへ消えていく。
港に残ったのは、
小さな二人の少年と、
大きすぎる夢。
ルフィが、ぽつりと言った。
「なぁ、レオ」
「ん?」
「絶対、返しに行こうな」
レオは、笑った。
「ああ」
「約束だ」
こうして――
二人の海賊の物語は、同じ港から始まった。