夜の海。
レオは、波打ち際に立っていた。
潮の匂いが、鼻をくすぐる。
「……なあ」
静かに、呼びかける。
海面が、ゆらりと盛り上がった。
――近海の主。
月明かりの下、その巨体が姿を現す。
「前に言ったよな」
レオは、ハコハコの能力を使う。
空間が、ゆっくりと開いた。
箱の中に広がる――
異次元の海。
どこまでも続く水平線。
島も、岸も、誰もいない。
「ここなら、誰にも追われない」
「好きなだけ泳げる」
近海の主は、しばらく黙っていた。
やがて、巨体をくねらせ、
箱の中の海へと身を沈める。
ざばぁん、と水柱。
そのまま、ゆっくりと泳ぎ始めた。
――止まらない。
――戻ってこない。
レオは、少し驚いた。
「……気に入ったのか」
異次元の海を、気持ちよさそうに回遊する影。
近海の主は、時折、跳ねる。
水面を割り、
また潜る。
まるで、
「ここにする」
と言っているみたいだった。
「……そっか」
レオは、肩の力を抜いて笑う。
「じゃあ、ここはお前の海だ」
命令でも、約束でもない。
ただの了承。
「外に出たくなったら、言えよ」
異次元の海から、
低く、短い鳴き声が返る。
了承の合図。
レオは、その場に腰を下ろした。
「……動物王、か」
小さく呟く。
「支配とかじゃないな、これ」
ただ、居場所を用意しただけ。
でもそれで、
一匹の巨大な生き物が、自由になった。
異次元の海で、
近海の主は、悠々と泳ぎ続けている。
もう、誰にも怯えない。
レオは、空を見上げた。
「これでいい」
「自由に生きろ」
ハコハコの世界の海は、
今日から――
近海の主の住処になった
朝の海は、やけに静かだった。
フーシャ村の港。
小さな小舟が、波に揺れている。
「……よし!」
麦わら帽子を被った少年が、満面の笑みで振り返った。
モンキー・D・ルフィ。
10年近く前の面影を残しながら、
その目は、はっきりと“海”を見ていた。
「行くぞ、レオ!!」
呼ばれた少年――いや、もう少年ではない。
レオは、港に立ちながら、小さく息を吸った。
「ほんとに今日なんだな」
「当たり前だろ!」
ルフィは、にっと笑う。
「海賊王になるんだから!」
レオは、苦笑しながら頷いた。
この数年。
レオは、森と海を行き来しながら生きてきた。
森では、傷ついた動物を助け、
居場所を失ったやつを、
ハコハコの世界へ連れていった。
今では、あの異次元には――
海も、森も、草原もある。
そして。
あの海の奥には、
近海の主が、今日も悠々と泳いでいる。
「……準備は?」
レオが聞く。
「肉!」
「それだけかよ」
「大丈夫だ!」
ルフィは胸を張る。
「レオがいるし!」
レオは、思わず笑った。
「信用重すぎだろ」
だが、その言葉は嫌じゃなかった。
港の端で、
マキノが二人を見ていた。
「……本当に行くのね」
「ああ!」
ルフィは元気よく手を振る。
「必ず有名になって帰ってくる!」
マキノは、少し泣きそうな顔で笑った。
「……無茶しないで」
レオは、深く頭を下げる。
「今まで、ありがとうございました」
「ふふ……」
マキノは、優しく言った。
「レオは、ルフィのブレーキ役でいてね」
「……努力します」
次の瞬間。
ルフィが、小舟に飛び乗る。
「行くぞォ!!」
ロープを外し、
船は、ゆっくりと港を離れる。
レオも、船に乗り込んだ。
小舟は、ちっぽけだ。
だが。
乗っている夢は、でかい。
「なぁ、レオ!」
ルフィが、前を見たまま言う。
「最初の仲間、誰だと思う?」
「さあな」
レオは、海を見つめる。
「でも……」
ふっと笑う。
「面白いやつだろうな」
「ははは!」
ルフィは、声を上げて笑った。
その瞬間――
レオの感覚に、
**“海のうねり”**が触れた。
(……ん?)
意識を、ほんの少しだけ向ける。
ハコハコの世界。
異次元の海で、
近海の主が、ゆっくりと尾を振った。
――行ってこい。
そんな感じが、伝わってくる。
「……見てろよ」
レオは、小さく呟いた。
「こいつは、海賊王になる」
「俺は……」
一拍。
「動物王になる」
風が、帆を膨らませた。
小舟は、
**東の海(イーストブルー)**へと漕ぎ出す。
こうして。
世界を揺らす二人の物語は、
同時に始まった