笑ゥぽけっともんすたァ   作:魔の巢

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『私の名はモグロ・フクゾウ、人呼んで「笑ゥせぇるすまん」。ただのセールスマンではありません。私が扱うのは「心」、「人の心」でございます。』

『この世は老いも若きも男も女も、心の寂しい人ばかり。
 そんな皆さんのココロのスキマをお埋め致します。
 いえいえ、お金は1銭もいただきません。お客様が満足されたら、
 それが何よりの報酬でございます。さて、今回のお客様は……』



モンスターボールコレクター
 スキダ・ボルオ (29歳・男・会社員)



『ホーーーッホッホッホ!!』



ボールコレクター

 

 

 カントー地方タマムシデパートボール売り場にて

 

「限定カラーのプレミアボール1つで、お買い上げが10万円です!おめでとうございます!残りはこれ1つだったのでお客様運がいいですよ!」

「は、はい…!ど、どうも…!」

(う、ううっ高いなぁ…でも、限定品だから…これを逃したらもう買えないよ…)

 

 今まさに財布から10万円を取り出し、店員に渡そうとしているどこにでもいるような普通のサラリーマンの男の名前はボルオ。モンスターボールのコレクターである。

 

 懐が寒くなった代わりに左手の紙袋の中身に気をつかうようになった帰り道、少年少女がモンスターボールを野生のポケモンに投げている姿を見て、ボルオは身をゾッとさせる。

 

(うわぁ…そんな投げ方したら…!ほぉら!せっかくの新品のボールに傷が付いてるじゃないか…全くこれだから子供は…)

 

 また別のところにはボールカプセルにモンスターボールを入れてシールを貼っているポケモントレーナーを見かける。

 

(あーあー…せっかくのボールをあんなカプセルに入れちゃって…おまけにシールだって???元のデザインの良さが分からないのかなぁ…)

 

 ボルオは大のモンスターボールマニアで、部屋の中には様々なモンスターボールがずらりと並んでいるのだが、肝心のポケモンはそのボールには入っていない。

 

 ボルオは『ボールを眺める』のが好きなのだ。美しいその球体のフォルムに魅入られ、給料が入ってはそのほとんどをつぎ込んでいたのである。

 

 さて帰り道にボルオがSNSを見ながらボール情報をチェックしていると、ある情報が目に入る。

 

「えっ!?シルフカンパニーが!?ママッマ、マ、マスターボールの限定抽選販売ィィィィ!?対象は1名で、抽選時間は…!いいぃ!?1分間のみィ!!?と、とにかく急いで抽選を…!」

 

 あまりの衝撃にスマホに釘付けになり速足になっていたところ、立っていた黒いスーツに黒い帽子を被った男にドシン!とぶつかって尻もちをついてしまう。

 

「おわっ…!?イテテ…!す、すいません…!」

「おやおやぁ?大丈夫ですかぁ?でも、ながらスマホはいけませんなぁ?」

「は、はぁ気を付けます…」

(き、気味が悪い人だなぁ…)

 

 その男はタレ目にジト目に歯を露出させた笑い顔で、胡散臭さやある種の不気味さを醸し出していた。

 

「おやぁ?そちらの手荷物…大丈夫ですかぁ?」

「へ?…あ、あぁ!!!?」

 

 見ると先ほど買った限定品のプレミアボールがケースから飛び出し、地面に落ちていた。

 

「あーーーーー!!?ぼ、僕の、僕の限定品のプレミアボールがぁー!!??き、傷!傷がついてる!!」

「おやまぁ」

「高かったのに…!って、あぁっ!?マスターボールの抽選時間…!あぁぁぁぁ!!終わってる!!!!そんなぁ…」

「ほうほう」

 

 がっくりと項垂れるボルオに黒いスーツの男は肩を叩いて励ます。

 

「まぁまぁ、たかがモンスターボールじゃないですかぁ」

「た、たかが!?冗談じゃありませんよ!このボールだって昼メシ食うのを我慢して、晩メシだってもやし生活にしてやっと貯めた金で買った限定品だったんですよ!?」

「ホーッホッホ。ということはさぞやそのボールに入れたいポケモンがいるんですなぁ?」

「あ、いやぁ…そ、それは…いないですよ」

「おやぁ?それはどうして?モンスターボールはポケモンを入れるための道具ですよぉ?」

「ぼ、僕はモンスターボールのコレクターなんです。綺麗なまま保管したくて…だからポケモンなんて入れたりなんてしませんよ!」

 

 このボルオは人とポケモンが共存する世界では珍しく、パートナーのポケモンがいない。理由は『モンスターボール』が汚れるから。というもの。

 

「なるほどなるほどぉ。ボルオさんは熱心なコレクターなんですなぁこれは失礼しましたぁ」

「あ、いや…僕の方こそ熱くなってしまって……ってあれ?どうして僕の名前を…?」

「ホーーーッホッホッホ!!実はこちら…」

「あっ」

 

 そう言うと男はボルオの財布を手渡す。

 

「先ほどこの財布も落としてましたよぉ、その時免許証が見えたのです」

「あ、あぁ…なぁんだ…」

「あ、申し遅れました私…こういうものですぅ」

 

 ボルオの目の前に1枚の名刺が差し出される。

 

「…?『ココロのスキマ、お埋めします モグロ・フクゾウ』???えーっと?」

 

「私はセールスマンでございます、心に隙間風の吹いている方をお助けするのが私の仕事でございます…ボルオさん貴方みたいな人のことですよぉ」

「す、隙間風…?は、ははっ…確かに、今の僕はそうかもしれませんね…あぁ、せっかくの限定ボール…それにマスターボール…」

「はいぃ、ところでぇ……そんなボルオさんにいいところをご紹介致しましょう」

「へ…?いいところ…?」

「えぇ、ささ、こっちです」

 

 そう言われてボルオは怪しい男、モグロについて行くと、先ほど散財したタマムシデパートに戻ってくる。

 

「あ、あの…いいところってデパートですか…?」

「えぇ、ただし…これから行くのは秘密のVIPゾーンですぅ」

「VIPゾーン!?」

 

 そのままデパートのエレベーターに乗り、モグロがエレベーターガールに鍵を渡すと、普段では見ることのできない金色のボタンが現れる。そのボタンには『B10階』と書かれており、エレベーターはどんどんと地下へと進んでいく。

 少しして扉が開くと、なんとも煌びやかな大理石で出来た床や天井が作られた場所に辿り着く。

 

「うわぁぁ…すごい、こんな場所があったなんて…!」

「ボルオさぁん?こっちですよぉ?」

 

 手招きされて豪華な黒樫の扉を開けると、ボルオにとっての夢の空間が広がっていた。

 部屋一面にありとあらゆるモンスターボールが陳列されていたのである。

 

「!!?あ、あああああれはァ!?ムーンボールにサファリボール!?あっちには限定モデルのボールに、プレシャスボールに…!あっ!あれはレトロボール!?すごい…!すごすぎるゥッ…!!」

「ホーーーッホッホッホ!!驚くのは早いですよぉ…あちらをご覧くださぁい…!」

「…?…!あ、あれは!!!」

 

 導かれた視線の先にはなんと、マスターボールが豪華な台座に収められていたのである。

 

「マスターボールぅ!!すごい!すごいや!本物ですか!?」

「ホーーーッホッホッホ!!お気に召しましたかぁ?」

「ええもちろん!!あぁ…すごいなぁ…!アレを僕のコレクションに出来たらどれだけいいか…!!」

「なぁるほど、じゃ、あちら差し上げますよ」

「ははは…え…?い、いいいいいッ!?今、今、今!?なんと!?」

 

 ボルオは思わずモグロに詰め寄って今の言葉を問いただす。が、モグロは相も変わらず不気味な笑みを浮かべているままだった。

 

「ですからぁ、あの台座の上のボール。差し上げますと言ったんですよ」

「モ、モグロさん!?あ、あのあのあの…!えっと…おいくらで…?」

 

 その言葉を聞いたモグロはさらに少しだけ口角を上げた。

 

「いいえいいえぇ…!お代は結構。これは私からボルオさんへのプレゼントですよ、これでボルオさんの心の隙間が埋まるのであれば…!」

「ほ、ほんとですか…!!!?ひ、ひひひっ!やった…やったぞぉ…!!」

 

「ただぁし!!」

 

「へ?」

 

 喜んでいるボルオにモグロはずずいっと顔を寄せる。

 

 

 

「いいですかぁ…?あのボールに傷をつけたり、ポケモンを捕まえようとするのはいけません…さもないと恐ろしいことになりますよぉ…?」

 

 

 

「へ…、な、なぁんだそんなことですか!当たり前ですよ!そんなことしたら価値が下がっちゃいますからね!!」

 

「………。ホーーーッホッホッホ!!それなら結構ですぅ。さ、あの大事な大事なボールをふさわしい箱に入れてお渡ししましょう」

 

「イヤッホォウ!!ありがとうございます!モグロさぁん!!」

 

 

 

 その日の晩、ボルオは一睡もせず、ただ自室で貰ったボールを眺めてうっとりとしていた。

 

「あぁぁ…夢みたいだぁ…!僕の、僕のマスターボール…!このボールにくらべりゃ他のボールなんて…!」

 

 その様子を窓の外から怪しい笑顔で眺めるモグロがいたことに、ボルオは気づいていなかった。

 

 

 

 一週間後、とんでもないニュースがカントー地方を揺るがした。

 

 

「おい、聞いたか!?幻のポケモン、ミュウが今カントーにいるらしいぜ!!」

「聞いた聞いた!しかも今タマムシシティらへんにいるんだろ…!」

「くぅー!俺も行ってみるかなぁ!」

「やめとけ、すでにいろんなトレーナーがうじゃうじゃタマムシにいるって話だぜ?それにミュウが確実に捕まえられるかどうかなんて分からねぇだろ?」

「まぁ…そうだよなぁ…はぁ…どんなポケモンでも捕まえられるマスターボールがあればなぁ…」

 

 そう、幻のポケモン、ミュウが現れたとのニュースが出回り、その噂はボルオの耳にも届いた。

 

「へぇ…ミュウねぇ…ヘッ、そんなのより僕はこのマスターボールの方が大事だもんねぇ!」

 

 仕事から帰ってきての日課の手入れで大事なボールを磨きながらテレビを見ていたボルオだったが、そんな時あるニュースが耳に入る。

 

『―なお、幻のポケモンミュウを捕まえ、提供した方にはポケモン研究団体より、マスターボールが3つ贈呈されるとのことです。』

「にゃにぃ!!??」

 

 そのニュースにボルオは飛び上がって驚いた。なんと、マスターボールが3つも手に入るチャンスがあるというのだ。

 

「っ…!マ、マスターボールは…どんなポケモンでも捕まえられるんだったよな…!じゃあ僕はミュウをゲットできるのに一番近いってことなんじゃ…!」

 

 磨いていた手の中のボールを見つめながら握り締め、ボルオはごくりと喉を鳴らした。

 

「…1つのマスターボールが3つに…!?すごい、すごいぞぉ…!これは大チャンスだ…!」

 

 が、ふとある言葉がボルオの頭をよぎる。

 

 

【いいですかぁ…?あのボールに傷をつけたり、ポケモンを捕まえようとするのはいけません…さもないと恐ろしいことになりますよぉ…?】

 

 

「…うっ…」

 

 モグロの言葉を思い出し、冷や汗をかくボルオだったが、ブンブンとまるで雑念を振り払うかのように頭を横に振る。

 

「こ、これはチャンスなんだ…!何か言われたって、そ、そうだな…3つになったマスターボールを1つ分けてあげればいいか!マスターボールには違いないしな…!は、はは、ははははは…!」

 

 そうしてボルオはSNSで情報を調べ始めた。

 

「なになに…?『ミュウの見た目はこんな感じ』…ふぅん、思ったより可愛らしい見た目なんだなぁ…ん…?『真夜中にタマムシデパートの裏の路地で見た』…だって!?あ、こっちも…こっちにも!?みんな同じことを言ってる…!」

 

 ふと時計を見ると、真夜中の12時だった。

 

「………よぉし!」

 

 ボルオは磨き終わったボールを掴んで、夜のタマムシシティへと、駆け出して行った。

 

 タマムシデパートの裏の路地では、同じように情報を見たトレーナーたちがわんさかといて、とてもミュウを探せる状態ではなかった。

 

「うぅ…困ったなぁ……ん?」

 

 きょろきょろとあたりを見渡していると、路地のさらに奥、それも人一人がやっと通れるかというビルの隙間で何かがしゅるりと動いたのをボルオは見逃さなかった。

 

「……!」

 

 周囲のトレーナーたちに気づかれないように人の海を掻き分けて、そのビルの隙間を通り抜けると、広い場所に出た。薄暗いその場所は不思議なことに人が誰一人としておらず、音もシーンとしていて不気味さが漂っていた。

 

「っ…こ、こんなとこにいるわけ、ない、よな…!は、ははは…帰ろ―――」

「ミュウ?」

「!!!?」

 

 帰ろうと振り返ったボルオの目の前に、なんと急にミュウが現れたのである。驚いて腰を抜かしそうになったボルオだったが、何とか持ちこたえて掴んでいたボールをミュウへと投げる。

 

「っ!ええい!くらえ!マスターボール!!!」

「……!ミッ…」

 

 ボールはミュウの頭に当たり、赤い光となってボールの中に収められる。

 

「…っ、はぁ、はぁ…!」

 

 ボールが地面に落ちて、ぐらりぐらりと数回揺れた後、カチッ!という音と共に揺れは収まる。つまるところ、捕獲が成功したという合図だった。

 

 

「や、やった…やったぞぉ!!これで!これでマスターボールが3つになるんだ!あはは、あははははははは!!!」

 

 

 大喜びして、ボールを拾いに行こうとしたボルオだったが、手にボールが触れる前に闇からぬぅっと手が伸びてボールを先に掴む。

 

「な、なにするんだよ!それは僕の……って!あぁ!!!」

 

 ボールを掴んだのは黒いスーツに黒い帽子、タレ目にジト目に歯を露出させた笑い顔を浮かべる…モグロだった。

 

「あ、あ…モ、モグロさん…!」

 

「おぉやおや…ボルオさぁん?私との約束を破ってしまいましたなぁ?」

 

「それは…その…!し、しかしこれで!ミュウを捕まえたからマスターボールが3つになるんですよ!あ…!そ、そうだ!よろしければ1つ差し上げますよ!?」

 

「ホーーーッホッホッホ!!ボルオさぁん…貴方はミュウを捕まえていませんよぉ?」

 

「へ…?そ、そんな馬鹿な!か、返してください!証拠をお見せしますよ!…いけっ!ミュウ!!」

 

 ボルオはモグロからミュウが入っているはずのボールをひったくると、トレーナーのようにボールを投げてミュウを出してみようとした。しかし…

 

「あ、あれ…?」

 

 地面に転がったボールは、プシュッ!という音と共に開いたかと思えば白い煙が出ただけだった。

 

「あれ!?あれあれあれ!!?ど、どうして…!?」

 

「ホーーーッホッホッホ…!!ボルオさぁん?約束を破ったら恐ろしいことが起こると言いましたよねぇ…?」

 

「ひっ…い、嫌だ…!…あ、あぁ!?」

 

 ボールから出た煙はもうもうと立ち込めてボルオを包み込むように集まっていく。

 

「差し上げたボールにも傷が付いてしまいましたぁ…そんな貴方にとぉってもふさわしい罰があります…!」

 

「あ、あぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

「ドーンッ!!」

 

 

「うわぁあああああああああぁぁぁぁ……!!」

 

 

 モグロが人差し指をボルオに振り下ろすと、白い煙に包まれたボルオの姿はたちまち小さく、丸くなっていった………。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

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 朝日が昇るタマムシシティの朝、トレーナーたちがそれぞれ帰路に付きながら口々に愚痴を言っていた。

 

「けっ、ミュウがいる~なんてデマだったのかよ!」

「あーあー…せっかくシンオウから来たのに…交通費が…」

「アタシ、なんかおかしいって思ってたのよねぇ」

 

 ミュウが出た。と言ったのは出まかせだったと証言する者が出てきたのだ。その当人でしか知り得ないアカウントの情報や、合成写真の作成方法などを自らリークし、SNSで謝罪したのだった。

 

「あーあ…早いとこ帰って…ん?」

 

 そんな愚痴言うあるトレーナーの足にコツンと何かが当たる。拾い上げてみれば傷だらけの変なモンスターボールだった。

 

「………。なんだよ、中身はカラじゃねぇか。人の顔みたいな気味の悪い柄で…しかも壊れてら……いーらねっと!」

 

 ポーンと投げ捨てられたモンスターボールは路地の間のごみ溜めに落ちる。すると少ししてかすかに動いたのだ。

 

 

(うぅぅぅぅ…!た、助けて!!誰か!誰かぁぁぁぁぁ!!!)

 

 

 直後そのボールの表面の柄がぐんにゃりと人が苦しんでいるかのような柄へと変貌していった。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

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 その様子を道行くモグロがちらりと一瞥した後、そのボールに背を向けて歩いていく。

 そしてポケットからマスターボールを1つ取り出し、「M」と書かれた文字をペリペリと剥がす。

 

 

 

 

「こちらのマスターボール、本物ではございません…私も一度も『これが本物のマスターボールだ』なぁんて言っておりませんからねぇ…!ご心配になっているそこのアナタ…何卒ご安心くださいねぇ…!」

 

 

 

 

「…モノを大事にするのは大変結構。ですが他に欲しいモノが出来たからと言ってそれ以外のモノをぞんざいに扱ってはいけませんなぁ…?ホーーーッホッホッホ…!」

 

 

 

そう言って、モグロは闇へと消えていった…

 

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