「……はぁ」
今日、もう何度目かもわからないため息が出る。
この世は無常、今のキヴォトスはさらに非常。そんなのわかりきっていたことだが、新天地を求めての第一歩でこれはないんじゃないだろうか。
「はぁ」
何年も前からアビドスの砂漠地帯で活動していたという、ビナーという機械の化け物。
その活動範囲はアビドスの砂漠地帯だけだったらしい。……前までは。
「はぁ」
砂漠地帯が広がったせいか、外観の破損通りに壊れているせいなのか、今のビナーの活動範囲はアビドス全域にまで広がり、手当たり次第に破壊活動を行なっている。
この校舎もいつ襲われるかわからないが、少なくても何日かの猶予はある。今のうちなら逃げれるが、問題はどうやって、どこに行くかだ。
ただでさえ物資が少ない中、この広大な砂漠からどうやって抜け出せばいいのか。そもそも抜け出せたとしてどこに行けばいいのか。
「……生きるって、大変だなあ」
学校の帰り道、たまにドーナツを買って帰っていた思い出が懐かしい。昔の私より、今の私はパン一つ手に入れるにも命懸けです。
一応、低い確率で砂漠を抜け出せる方法はある。
セリカの持つ物資を全部持っていくことだ。だがこの方法にはセリカの承諾が必要不可欠だ。
けれどわざわざ貴重な物資を他人に分け与えるような事はしないだろうし、そもそも助けてもらった手前頼みづらい。
それならば強奪という手段もあるが、それは私の心の中に残っている善性が駄目だと言っている。
そもそも、だ。セリカは強い。
戦闘をその目で見たわけではないが、なんとなくこの人は強いなという雰囲気がある。
だから強奪なんで無理。この話は終了。
「……はぁ」
「そんなにため息を吐かれると、こっちまで気分が下がるわよ」
「あ、ごめんなさいセリカ」
「まったく。……はいこれ」
セリカは何かがみっちりと詰まったバックを私に手渡した。
「?これって」
「私が持ってた水とか食料。これだけあれば砂漠も変えられるでしょ」
「は、え?なんで、セリカだって余裕がないんじゃ」
「……いいのよ。もう私には必要ないから」
「必要ないって……」
戸惑いながらも、セリカの装備が妙に整っていることに違和感を感じた。
それはまるで何かと戦いにいくような装いだった。
「……まさかあなた、あの化け物と戦うつもり?」
セリカは答える事はしなかったが、その表情は明らかだった。
「っバカなのあなた!あんなのと戦ってなんになるのよ!」
「何も残らないでしょうね。でも、このまま何もしなかったらこの学校は破壊される」
「いいじゃない壊れたって、あなた以外誰もいない学校よ!あなたがそう言ったんじゃない」
「そうね。私だけしかいない、空っぽの学校。守ったって何かあるってわけじゃない」
「なら」
「でも」
「でも、みんなと一緒にいた、たった一つの場所だから」
「---」
「……あなたは早くここから去った方がいいわよ。いつあのデカいのが来るか分からないし。戦闘になったらあなたがいる方とは真逆の方にできるだけ移動するからさ」
「……なんで、今なの?戦うだけなら私が来るより前からできたじゃない」
「あー、それは。……あなたが来てくれたから、かな」
「は?」
「悪い意味じゃなくてね。あなたが来るまで私、息巻いてはいたけど覚悟ができてなかったの。でも、アビドスっていう学校が、私たちっていう存在を記憶してくれる人が来てくれたから、ようやくって感じ」
……なんだそれは。どんな理由だ。
それじゃあまるで、私が来たから死んでしまうような物じゃないか。
誰がどう見たってわかる。セリカがビナーと戦うのは勝算あってのものじゃない。
全ての諦めて、せめの一矢報いたいという自滅願望的なものだ。
「なんか、ダシに使ってるみたいでごめんね。とりあえず明日までにここから去った方がいいわよ。私は先に行って来るから」
セリカが背中を向けて去っていく。
けど、別にいいんじゃないだろうか。
必要なものを向こうからくれたのだ。こんなに都合のいい事はない。
死にたいやつは勝手に死なせればいい、そんなやつに構えるほど私には余裕はない。誰かに手を差し伸べられるほど、私は強くない。
さっさとこんな砂漠から立ち去って、次の場所を見つけよう。
そうすれば。
そうすれば、どうなる?
セリカは死ぬ。それがなんだ。
会って一日も経っていない関係に、なんの未練がある。
でも、助けてくれた。
助けてくれたからなんだ?腹は膨れるか?喉は潤うか?
お腹は空いてるし、喉もカラカラ。……だけど。
お前が助けに行っても、二人仲良くあの怪物に殺されるのがオチだ。
ーーーだけど、それでも。
"『 』も、私の生徒だからね"
それでも、助けてくれる人を、私は知っている。
・ビナー
アビドス自治区で暴れる巨大な機械。
もとは綺麗は純白の装甲に覆われていたであろう機体は、約70%が破損しており、内部の機構が丸見えの箇所もある。
どのような目的で活動していたのかはもはや分からないが、時折り金属が軋み擦れる不快な音でありながら、どこか寂しさを感じる咆哮を鳴らす。