【未来予知】による悲劇の美少女救済(沼らせ)修行道 〜武芸に生きるため自分勝手に世界滅亡の種『魔女』たちを助けた結果、執着されて救世主と崇められる〜   作:ドラゴニック人参

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1話

 

 ――ここは、王都に居を構えるテイラー商会、その商会主の邸宅。貴族街に最も近い一等地の広大な敷地に、庭園を備えた豪華絢爛な屋敷がそびえている。

 

 そして、そんな贅を凝らした屋敷からは……その外観に似つかわしくない鈍い音が、定期的に鳴り響いていた。

 

 その正体は果たして――――

 

 

 

「――お坊ちゃま、そろそろです。ご指定された時刻になりますよ」

 

「……ん、ああ。ありがとう」

 

 中庭にいた俺はかけられた声に振り返る。そこにいたのはうちの屋敷に勤める侍女だ。

 

「お坊ちゃま、こちらを。冷水で濡らしたタオルと、良く冷えたレモン水にございます」

 

 礼を言って受け取り、汗を拭う。そしてレモン水を一息で。

 

 ……ふう、効くな。

 

「それにしても、お坊ちゃま」

 

 ん? いつもあまり喋らん侍女が珍しいな。

 

「どうした?」

 

「いえ、ただ……今日はいつもよりも、さらに精をお出しになっていると思いまして」

 

「何を見て……ってああ、あれか」

 

 侍女の視線を追っていくと行きついたのは、中庭に一本立つ大木から吊り下げられたサンドバックだ。

 

 フレイムタイガーの強靭な皮に、ミスリルを加工した際の削り粉を詰めた特注品。

 

 しかし、そんなサンドバックがいまや……。

 

「まさか……これが破れるなんて」

 

「ああ。いつもは壊さないよう気をつけてるんだが、今日はちょっと興奮してしまった」

 

「いえ、それでもこれは……。たとえ劣化してたとしても、A級モンスターの皮膚を素手で……?」

 

 侍女は大きな穴が開いたサンドバックを見て、慄くようにそうこぼす。おっと、心無し視線が化け物を見るそれのように見えるぞ。

 

 しかし、もう時間だ。そろそろ準備をして行かねば。

 

「じゃあ、俺はちょっと出かけてくる。悪いがこのサンドバック、修繕するように手配してもらえないか?」

 

「え、ああはい、もちろんでございます! そのようにさせていただきます」

 

 慌てて頭を下げる侍女。その隣を通り過ぎようとしたとき、また声を掛けられる。

 

「それで、お坊ちゃま。本日のお帰りはどれくらいになられますか? ご夕食の準備は……」

 

「ああ、そうだな……」

 

 すこし考えて、答えた。

 

 

 

「――――時間は分からん。上手くいけば、これから生まれて初めての死合だからな。すぐに終わるか、長引くものか……」

 

 

 

「っは、え? 試合……?」

 

「しかし、まあ。もし俺が勝って帰ってきたなら、やはり肉を食いたいな。肉は身体を作るし、それに旨い。死闘の後にはぴったりだ」

 

「あ……? ……お肉、お肉でございますねっ? 承知しました、そのようにご準備を……」

 

 

 

 と、いうことで。

 

 中庭を出た俺は気合が入るよう道着に着替え、王都の通りを闊歩する。じろじろと道行く者に見られるが構うものか。俺が憧れる強者というのは、周囲に惑わされることなどないものだ。

 

 おっと、そろそろ目的の場所に着くぞ。詳細な地点までは分からんので、ここからはずっと気を張っていなければ。

 

 そう自身に喝を入れる俺の前にあるのは。貧民街に立ち並ぶ、古くひび割れた家屋の数々だ。

 

「夢で見たのはまさにこんな建物だったな。どれも同じような見た目で、違いが分からんが」

 

 そう呟きながら、ところどころが砕けた石畳の上を進んでいく。

 

 すれ違う者たちは明らかに商人街の者より身なりが貧しい。それに、俺を怪訝な目で見るのは一緒だが、どこか危険な色を感じるな。

 

「スリなり追い剥ぎなり、出会えば己の拳を試す機会にもなる……が、今はそんなことしてる時間もないか」

 

 独り言をこぼせば、これまたすれ違う者に怪しげな視線を向けられる。

 

 そうだろうな、こいつらからすれば「何言ってんだ」だろうな。間違いない。なにしろ、俺でさえまだ疑ってるような状態なんだ。

 

 まさかこの俺が、生まれてこの方ろくに魔術を使えなかった俺が――――――【未来予知】の魔術に目覚めるなんて。

 

 今でも鮮明に思い出せる。あれは一週間前、いつものように自室のベッドで眠りについた後の話。

 

 その日の夢はいやにリアルだった。色も、触覚も、匂いでさえも、まるで現実と見分けがつかないほどのそれ。ただの夢というには納得できないほどの現実感で、自分が知らないところで実際に起きた事を覗き見てると言われたほうがよほど納得できた。

 

 様々な場面がつぎはぎのように流れて、時間も進んだり戻ったり。時には、似たような場面でも登場人物の行動が微妙に異なるバージョンを見ることだってあった。

 

 そんな不可思議な夢の中で、ただ一つ。俺のすぐ身近な場面、自宅での出来事が流れたものだから、そのことは目に焼き付いたものだ。

 

 そうして、明らかに一夜を超えるほど長い時間の旅路を経て。

 

 目覚めた俺が最初にやったことは。自宅での場面――なぜかいつそれが起こるのかは感覚的に分かった――が実際に起こるのか確認することだった。

 

 しかして、その結果は――。

 

「やはり、貧民街のことは分からんな。あの景色は俺の記憶の中にしかないし、誰かに聞いて回ることもできん。……ただ、俺の家での出来事を見事当ててみせた以上、あの夢は【未来予知】である可能性が高い」

 

 で、あればだ。自宅の未来の次に直近の、夢で見た未来。

 

 ――――学園で同じクラスの少女が、不埒者に凌辱されたうえに殺される。

 

 そんな出来事が、実際に起きてしまうということ。

 

 だから、俺の目的は。

 

「あの夢が真に【未来予知】なのか確かめたうえで。――ついでに、あの暴漢と拳を交え、鍛えた技が実戦で通用するのか試してみようじゃないか!」

 

 

 

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