【未来予知】による悲劇の美少女救済(沼らせ)修行道 〜武芸に生きるため自分勝手に世界滅亡の種『魔女』たちを助けた結果、執着されて救世主と崇められる〜   作:ドラゴニック人参

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10話

 

 そして、明くる日。

 

 まだ誰も働いてない早朝から娼館に出勤した俺は、一階の受付前で拳を突きながらその時を待つ。

 

「この時間は誰もいないから集中できていいな……」

 

 フォームを意識しながら、突く。

 

 自然に握られた拳は、人間がもっとも力を込めやすい経路をたどって、いくつもの筋肉から力を受け取り、そして。

 

 びゅおっ……と、空気を裂いた音を残して静止する。

 

 こうして、正しい突きの動きを毎日体に覚え込ませる。その中で改善点が見えてくるから、それを直して再び体に叩き込んで、また直すべき場所を見つけて……と、その繰り返しだ。

 

 研いだ刃のような集中と、毎日少しずつ強くなっていく実感がある。心地がよいな。

 

 と、今日も基本の鍛錬から積んでいると。

 

 上階から降りてくる足音が。

 

「――来たか」

 

 視線を向けると……。

 

「……来たか、って。私を待ち伏せしていたのですか? こんな早朝、誰もいない時間を狙って――」

 

 不快そうな表情を浮かべる、どこか退廃的な雰囲気をまとった絶世の美少女――一番人気の遊女であるサクラコ。

 

 普段と違って目立たない外套で頭まで隠した格好をしてるが、薄暗闇に浮かぶような真っ白の肌や、どこか気だるげで淀んだ空気はいつも通りだ。

 

 これから近いうちに彼女が「魔女」、人類の天敵になると知ってると、本当にそんな風に見えてくるな。

 

 ……よし。じゃあ、目論見通り彼女と接触できたから、ここからは交渉の時間だ。

 

「本当はこんな待ち伏せみたいな真似する気はなかったんだが。あいにく、お前がまったく捕まらんのでな。客を取っているか、取っていなくとも俺の前には一切現れん」

 

「当たり前でしょう? あなたのように得体のしれない男が、無遠慮に私たちの世界へ上がり込んできたのですから。誰だって、軽々にその目に触れないようにと気をつけるものです」

 

「ふむ。ここの遊女たちにはけっこう受け入れられてると思っていたが」

 

「そういう子もいるみたいですけれどね。私を初め、そうでない子もいるでしょう。フウカのあの異様な態度を見れば、あなたには警戒すべきなにかがあると思うのが自然ですから」

 

 冷たい視線だな。言葉の通り、俺を信用してない。

 

 それに、引き合いに出されたのはまたフウカのことか。マキナの時もそうだったが……あれは本当に、俺が何か妙なことをしたわけじゃないのだが。

 

 まあ、口で何か言っても信用されることはないとマキナの件で学んだからな。なら気にしても仕方ないと、俺はサクラコから向けられる棘を意に介さず――早速本題を切り出すこととする。

 

「そんなことよりも。俺がここで待っていた理由を話させてくれ」

 

「……」

 

 無言で、品定めするように見られる。さっさと言えと、そういうことだな。では遠慮なく――

 

「今日、サクラコは久々の休暇だろう? 休暇のたび、護衛を連れてふらふら街を巡っていると、そうフウカから聞いている。――今回は、この俺に護衛を任せてくれ」

 

 そう、告げると。サクラコは表情を変えず、しかし考え込むように無言が続く。

 

 そして。

 

「いつもの護衛……ヤエはどうしましたか?」

 

「ああ。俺から頼んで、代わることを承知してもらった」

 

 俺が用心棒になる前から、この娼館でただ一人働いていた男のことだ。今は基本俺がいない夜間担当で、昼間は力仕事などいろいろやっているらしい。

 

「ずいぶんと、用意が周到なことですね。余計にその思惑が怪しいのですが…………まあ、いいでしょう」

 

 お。意外と簡単に受け入れてくれたぞ。もう少し苦戦するかもと思っていたんだが。

 

 サクラコは気だるげに息を吐くと、俺から視線を外して歩みを再開する。入口に向かいながら呟く。

 

「……逆に、都合がいいかもしれませんね。情もなにもない、新入りの方が」

 

 俺に聞かせたつもりはないのだろうが……どういう意味だ? 親しくない俺の方が都合がよい、とは。

 

 すこし考え込むが、入口の扉が開かれた音に思考が戻される。

 

 まあ、別にいいか。ついていっていいというのだから、俺の目的は問題なく達せられるわけだし。

 

 俺はただ――――「魔女」と成るお前が、俺の拳を鍛えてくれるのかどうか。それだけ知れるのならば、どうだっていいのだから……!

 

 

 

 と、いうことで。早速貧民街に繰り出した俺たちだったが。

 

「――これ、どこに向かっているんだ? まだ時間が早いから、店のひとつも開いていないが」

 

「……」

 

 なにやらひどく面倒そうな視線を向けられているぞ。

 

「聞こえなかったか? ならもう一度――」

 

「――聞こえていますよ。ただ、ひどく面倒だと思っただけです。ヤエはあなたのようにいちいち話しかけてきませんから」

 

「ふむ。なら、黙ろうか」

 

「……」

 

 「なんなんだこいつは」という目で見られている気がする。

 

 別にそこまで行き先を知りたかったわけではないからな。ただ、サクラコがなにを考えどんな行動をするか知れば、魔女としての覚醒度合いやら何やらを知る助けになるかと思っただけで。

 

 話してくれないならくれないで、行動だけ見ているから別に大丈夫。

 

 ということで、俺たちは再び無言になって通りを歩いていたのだが。

 

 ――不穏な気配をまとった影が、脇の路地から突如飛び出してくる。

 

 早速来たぞ……!

 

「オン、ナァアアアアッ!!」

 

 ぼろぼろの格好の男が、瘴気をまとってサクラコへと突進する。よしきた、魔女の尖兵だな!

 

「なんですか……!?」

 

 さすがにサクラコも驚いている。サクラコの影響で尖兵化してるはずだが、意図してやってるわけじゃないみたいだな。

 

 よし、それだけ分かれば十分だ。人体の限界を超えた速度で向かってくる男に対し、俺は素早く構えを取る。

 

 あとは――さあ、俺の腕の肥やしになってくれ!

 

 

 

 ――――と。そんなことが、貧民街の端にあるこの丘へ来るまでに……なんと三度も繰り返されて。

 

 いつもどこか世界を恨んでいるような、そんな濁った静けさをまとっていたサクラコが。

 

 小走りでここまで来たせいで頬を紅潮させ、息を荒らげて、そして言うのだ。

 

 

 

「――な、なぜ! どうしてこんなにも襲われるのですか!? やはりあなたが何か……っ、いえ、すべて返り討ちにはしてくれましたが……!」

 

 

 

 ふむ。確かにサクラコからすれば、いつもとの違いは護衛が俺であることだが。

 

 とはいえ、本当に俺は関係ないぞ。

 

 原因はお前だと、真実を語ってみようかな?

 

 

 

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