【未来予知】による悲劇の美少女救済(沼らせ)修行道 〜武芸に生きるため自分勝手に世界滅亡の種『魔女』たちを助けた結果、執着されて救世主と崇められる〜   作:ドラゴニック人参

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11+12話

 

 ……まあ、ネタバラシは冗談として。フウカに気をつけるよう言われているしな。

 

 それよりも、道中ずっと会話もなかったし、せっかく向こうから話しかけてきた好機を逃す手はない。

 

 しかし「なぜこんなに襲われるのか」か。さて、なんと言ったものか。

 

「…………うぅん。今日は……天気もいいからな。みんなテンションが上がっているんだろう」

 

「テンションでこうなってたまるものですか……! それに今あなたは、一瞬なにかを考え込みましたね。やはりなんらかの事情を知っているのではないですか?」

 

「まあ、実を言うと知っているが。言っても信じてもらえんだろうし、フウカから口止めもされてるからな」

 

「! フウカから……? いったいそれは…………いえ。どうせ聞いても教えてもらえないのでしょうね。では聞き方を変えます」

 

「うん?」

 

「あなたには――からくり時計亭を害する意志がありますか?」

 

 ほう。

 

「そんな意思はもちろんない。俺にもフウカにもな。ただ、そう伝えたところでお前は信じられるか?」

 

「遊女の人を見る目を馬鹿にしないことですね。たくさんの人の醜い欲望を吐き出される……そんな職だからこそ、分かることも多くあるのです」

 

「ふむ。そういうものか」

 

 どこか淀んだ空気を出しながらそう言うサクラコ。

 

 いまの言いようからするに、サクラコは遊女という仕事を好んではいないみたいだ。厭世的な雰囲気もそれが原因か?

 

「それで。そんなサクラコから見て俺はどうだ。いま嘘を吐いてたか?」

 

「…………あなたはどうも、表に感情が出にくい人のようですね。いまこの場では判断がつきません。ですが、人の内側が見える、なにかそういったイベントがあれば」

 

「ほう、イベント。そうだな。……――じゃあ、例えば」

 

「?」

 

「――こういうのはどうだ」

 

 そう言って俺が指を差した先では。

 

 ――五人のゴロツキたちが、こちらを目指して丘を上がってくる。

 

「! また、新手が……?」

 

 しかも、あの中には尖兵が数人は混ざってるな。今日はここまで散発的な襲撃しかなかったが、ここに来て大盤振る舞いだ。腕が鳴る……!

 

「笑って、いるのですか? やはりこの襲撃はあなたの…………いえ、違う。この闘争心は偽りではない。……あなたは自殺志願者なのですか?」

 

 俺が自殺志願者? ははは、それこそまさかだ。

 

 確かに俺は己で己の道を選ぶことに命を賭けてるが、死を選ぶことでそれを為そうなどとんでもない。

 

 困難を排し、進む先を切り開くことにこそ――この拳を鍛えた意味があるというもの。

 

「では、尋常に」

 

 もはや駆け足十歩ほどの位置に敵が来たところで。ギリ、と拳を握り、腰を落として――

 

「――待ってください。あなたが嘘吐きでないことは……分かりましたから」

 

「ん? そうか、良かった。だがそれはそれとして、どちらにせよ俺の拳が必要だろう? 悪漢どもをこのままには――」

 

「いえ……これ以上の手出しは不要です。私がここに残るので、あなたは娼館に帰ってください」

 

「なに? どういう意味だ。ならサクラコはどうするんだ?」

 

「私は初めから――彼らと会うことが目的、でしたから」

 

 なんだって? まさか、もう魔女として覚醒を……尖兵を集めようとしてるのか?

 

「マキナさんの目を盗んで外に出るには護衛が必須。ヤエと外へ出たら適当に撒いてジゴウのところへ向かうつもりでしたが、いくつも予定が崩れました。護衛があなたに代わり、向こうから私たちのもとへ」

 

 やがて眼前で足を止めたゴロツキたちを前に、サクラコはどこか疲れたように薄く笑った。

 

「彼らの……いえ、ジゴウの一番の狙いは私ですから。これ以上からくり時計亭へ迷惑をかけるというなら、私が自ら出向くのが筋でしょう」

 

 ……それは。その、諦めは。

 

 ――気に食わない。他でもないこの俺の前で、どうしようもない力に屈すると、そう宣言するのか。

 

 これを見過ごし、俺一人で帰れというのか。

 

「ですから、あなたがここに残る必要はありません。私がなんとかしますからあなたは帰って…………代わりに、娼館の用心棒を続けてくれませんか? どうかみんなを――」

 

「――いいや」

 

「……え?」

 

 ふふ、舐められたものだ。

 

 力無き者に情けをかけられ、それで大人しく尻尾を巻いて帰ると?

 

 いや、魔女だから力無くはないが。しかし、少なくとも自分の力に自覚がなく、自身を犠牲にするつもりで。

 

 別に俺がどうにかする義理はないんだが。……純粋に、気に入らない。

 

 ということで。

 

「――お前たちは、ジゴウのところのろくでなしだな?」

 

「っ! ちょっと……!」

 

 ほら見ろ、ろくでなしで間違いないぞ。

 

 安い挑発に乗るゴロツキが五人。うち、魔女の尖兵が二人か。

 

「んだテメエ? ヒョロヒョロしたガキが、淫売の騎士気取りかァ!?」

 

「ハハハハッ、傑作だな!」

 

 尖兵二人を先頭にして、やつらは悠々と距離を詰めてくる。自分たちが負けると考えてない浅はかな行動だ。

 

「……あなたはっ。今からでも、できるだけ情けなく頭を下げてください! 私がなんとか取りなしますから……!」

 

「もう遅いぜ? サクラコ。お頭からはお前と大半の遊女さえ無事なら、あとは好きにしていいと言われてんだ。うぜえガキ一匹殺して景気付けと行こうやッ!」

 

「その後は娼館を攻める! サクラコや一部遊女の客ども――狂った連中は馬鹿にできねえ力だったが、今やうちの戦力は膨れ上がった。好き放題女を犯してやる……!」

 

「……っ。あなたたちのように下衆な者がいるから、私たちは、私は……!」

 

 サクラコからゆらゆらと薄ら暗いオーラが。深い諦観と、世界への怨嗟……そんなものを煮詰めたような魔女の瘴気。

 

 さっきまで心配してた俺のことも眼中から失せたような世界の恨みようだな。

 

 あの尖兵の男が言った「戦力が膨れ上がった」というのも、おそらく日に日に高まるサクラコの力によるもの。

 

 実際に敵は、この間の男と同じハッキリと意識を保った尖兵二人と他三人。中々の戦力を相手に多対一だが――これまた素晴らしい経験になるだろう!

 

 魔力を持たない俺が魔力を用いて拳を振るうための(わざ)、その鍛錬として――

 

「ふふ。嬉しいな、こうも連日腕を試す機会が訪れるとは。やっぱり魔女の側にいるのが正解だ」

 

「あ? 意味わかんねえことを……。恐怖で気でも狂ったか!?」

 

 狂うものか。むしろ、興奮で冴え渡ってるぞ。

 

「未来で破滅に立ち向かう偉人の業は、お前たちのような小物相手だと役不足だろうが……! さあ、尋常に――」

 

 構えた拳が次第に魔力を帯びる。周囲の大気を吸い込むように渦を巻き、ときおりバリバリと稲妻を散らす。

 

「な……なんだ? これは、魔力か……ッ?」

 

「おいおい、お前魔術師だったのか!? ……だが構いやしねえ! 今の俺たちには女神の加護があるんだ! こんなちゃちな竜巻程度……!」

 

「………………いや、これは。おい、これはもう……ッ」

 

 女神か。確かにサクラコはそう言われてもおかしくない容姿だが、その力はどちらかというと怨嗟に満ちた呪いの類だぞ。

 

 だが、安心するといい。その強力な呪い、俺の拳で祓ってみせよう。

 

 さあ――――とある未来で、偉大な剣鬼が魔を引き裂いたこの業は。

 

「おいッ!! 逃げ――」

 

「もう遅い――――操魔拳法、其の一。『嵐竜涙掌』」

 

 魔力と武の技術を合わせた掌底。巻き込んだ空気とともに、強力な風雷を前方へと撃ち出す業。

 

 未来の記憶通り目の前に生じた横向きの竜巻は、その全体に紫電をまとって飛んでいく。

 

 そして、呆けた顔のゴロツキどもを飲み込むと、いとも容易く視界外まで吹き飛ばして――

 

「烏合を一網打尽、だな」

 

 嵐の後の空のように。

 

 清々しい太陽の下で最後に立っているのは。

 

 ――――俺とサクラコ、ただ二人だけなのであった。

 

 

 そうして。

 

 ジゴウ一味が伸びている丘からの帰り道にて。

 

「――それで、ジゴウたちに目をつけられた私たちは。せめてまだ水揚げ前で、魔術の才能もあるフウカだけでもと、理由を告げずに家を追い出したんです」

 

「なるほど。でもそれを俺に言っていいのか? フウカに告げ口したら思惑が外れるぞ」

 

「……言わないでしょう? あなたは。私たち遊女が覚悟を持って、家族を運命から逃すために為した行いを、無碍にするようなことは」

 

 ふむ。確かにそうだ。

 

 しかしそうか。フウカは捨てられたと思っていたみたいだが、そういうわけではなかったのだな。

 

 これでよく分かった。からくり時計亭があの男たちに目をつけられた経緯も、いまどういう状況にあるのかも。

 

 それでも俺のやることは変わらないが――

 

「俺に話す気になったのは。それで俺が逃げることはないと分かったからか?」

 

「はい。それに、あなたが想定以上の力を持っていたので、これからも力を貸してもらうためできるだけ誠実にありたかったというのも理由です。……あとは」

 

 ん? 言い淀んだかと思ったら……少しだけ、魔女の瘴気が濃く――

 

「――――もう、全部メチャクチャになってほしかったから。……かも、しれませんね」

 

 そう言ったサクラコは……どこか破滅的な願望に身を焦がす、世界滅亡の未来で何人も見たような顔をしていた。

 

 ふうむ。なにかいろいろ思うところがありそうだが……俺にできるのは、結局はこの拳を振るうことだけだからな。

 

 ただ、サクラコの望みとも被るし、これからもからくり時計亭の用心棒は続けさせてもらう。

 

 あとは、そうだな……。

 

「――それで。私もこれだけ話したのですから……あなたも、いい加減目的を話してくれませんか? なぜ商会の御曹司が貧民街の娼館になどこだわるのです」

 

 ……。

 

 フウカには絶対人に話さないようにと念押しされているが。誠意を見せられれば、まあこちらも、それを返すのが筋か。

 

 よし。なら――

 

「――俺はたまに未来が見える。それで知った。サクラコが近い将来、『魔女』という災厄そのものになると」

 

「……は?」

 

「そして、この街を、世界を――破壊し尽くす」

 

 そう真実を告げて。どんな反応をするかと、サクラコを見ていると。

 

 なんと彼女は……ふっ、と。暗い目で、小さく笑って言うのだ。

 

「それは良いですね。きっと未来の私はさぞや――――すっきりしていることでしょう」

 

 

 

 ふむ。サクラコがそこまでの者なら。周囲の人を力で屈服させて終わらせるような人物なら。

 

 きっと俺はこんな悠長なことはしてなかったろう。

 

 適当にサクラコを痛めつけ、さっさと魔女に覚醒させて、屠っていた。

 

 だが実際は、同じ娼館の仲間のことを考え、身を張り、その道を閉ざさぬようにと考えを巡らせている。

 

 ふむ。同じ道を貫き通すことを望む者として、尊敬に値する行動だ。

 

 「武芸者とは武を極めるのみにあらず、その志をこそ極めるべし」とは、俺の憧れであるあの人の言葉。であるなら。

 

「――力が足りないことを嘆いてるなら、今回は俺に託せばいい。そして、これから己を磨けば自ずと……サクラコもその周りも、我を貫く力が身につく」

 

 そうだろ? と視線を向けると。

 

 ぽかん、と。俺を見て、その美麗な顔に似合わず口を開けるサクラコ。

 

 なんだ? なにか変なこと言ったか?

 

「あなたは……」

 

「なんだ」

 

「――……っぷ、ふふ、あはははっ! それはもしかして、慰めているつもりなんですかっ? あんまりにも不器用で……」

 

 なぜ笑うのだろう。

 

 ずっと厭世的な雰囲気をまとっていたサクラコが、大きく口を開けてカラカラと笑う。瘴気もどこか薄くなっている?

 

 なんて、まじまじと観察していたら――

 

 

 

「あなたはきっと良い人なんですね……ファウスト。だから特別です。今日のことと、これから用心棒を続けてもらうお礼として。――いつでも一度だけ……あなたはタダで、お相手しますから」

 

 

 

 「本当は私、高いんですよ?」と。

 

 今だけはどこか年相応に、サクラコはそう言って笑うのだった。

 

 

 

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