【未来予知】による悲劇の美少女救済(沼らせ)修行道 〜武芸に生きるため自分勝手に世界滅亡の種『魔女』たちを助けた結果、執着されて救世主と崇められる〜 作:ドラゴニック人参
……ふむ。行ってしまった。
しかし……いまサクラコ、もしかして泣いてたか? 俺の目はきらっと光る雫を見逃さなかった。
問題はその理由だが。
「とにかく、追うか。あいつを一人で出歩かせるのは危ない」
ジゴウ一味に狙われるかもだからな。……ということで。
「テイラーくん、っフウカも行くよ! サクラコお姉さまのあんなとこ、初めて見たもん……!」
「ふむ。確かに、親しいフウカがいた方いいか。それじゃあ――」
「――待ちな。あんただけで行くんだ、ぼん」
ん、この声は……。
「マキナか」
「そうだよ。まったく、このデリカシーなし男は……」
なんだ、いきなり出てきて失敬な。まあ確かに俺に女性の機微なんて分かりはしないが。
「……で? なんで俺だけなんだ? それこそフウカがいた方が、デリカシーある対応できると思うが」
「っそ、そうだよマキナさん! フウカもサクラコお姉さま心配だしっ」
「なんだい、フウカは分かってたんじゃないのかい? ……まあ、知らないならそれでいいけどね。けど、やっぱりあんたはデリカシーがないね、ファウスト」
「だからなんで」
「…………最近のあの子はずいぶんと楽しそうだったんだよ。あんたが来て、一緒に街に出てから」
「?」
そうなのか? そういえば、さっきリーンもそんなこと言ってたような。
「ずっとあの子には負担をかけ続けてきた。美しく、教養もあって。あの子がいなきゃうちはもっと火の車だったよ。それこそ、貧民街の常である飢えと病にも悩まされてただろうさ。……それを、あの子はずっと一人で」
話が見えてこない。それと俺一人で行くことになんの関係が――
「――だからね。せめてあの子には……あたしが奪っちまったたまの青春くらい、味わわせてやりたいのさ」
「青春……?」
「……! そ、それって……もしかしてお姉さまが!? いやでも……」
なんだフウカ。なにか分かったのか?
「余計なこと言うんじゃないよ、フウカ。あんただってサクラコには感謝してるだろう? ……今日くらい、譲ってやってれないかい?」
「あうぅぅ、でもでも、サクラコお姉さまあんなに美人だしテイラーくんが……。でも、たしかにお姉さまにはいっぱい可愛がってもらって……」
置いてけぼりなんだが。もはや俺一人でもフウカがいてもどっちでもいいが、とにかく早く追いかけないとサクラコが危ない。
早く答えを……と思ったところで。うんうん唸っていたフウカが、まるで苦渋の決断を下すように言った。
「……わ、わかったよぉ! じゃあ、じゃあ、テイラーくん! ……っお姉さまを、お願い……っ!」
ふむ。そこに如何なる葛藤があったのかは知らんが。しかし、同行者なしでいいと決まったのならば。
「――よし、任された。サクラコは必ず、傷一つなく連れ戻すと誓うぞ」
少し膝を曲げて、ぐっと足に力を溜める。
こうして離れてる間にけっこう距離を開けられただろうし、けっこう真面目に追わなきゃな。ショートカットもしようと大気に浮かぶ魔力へと手を伸ばして。
そうして――――強く地を蹴った俺の身体は空に飛び出して、そのまま高速で空中を駆けた。
目標ははっきりと知覚してる。ここ最近でいちばん濃い瘴気。まだ魔女化はしてないみたいだが、ほっとけば時間の問題だ。
……魔女と戦うのは非常に魅力的だが。しかしさすがに、仲も悪くない少女がその人格を失うのを黙って見過ごすのはな。
サクラコに寄ってくる尖兵だけでひとまず満足してる。だから――
「待ってろ、サクラコ。お前自らの手で家族を殺し尽くすような未来は俺が――」
ということで。
爆速で空を駆けた俺は、眼下で光る艶やかな黒、サクラコの姿を見つける。場所は、いつぞや一緒に来た丘のてっぺん。幸運なことにチンピラに襲われることもなかったみたいだ。
よし、じゃあ。速度を緩めて、サクラコの目前に……着地。
「……きゃっ!?」
かわいらしい悲鳴とともに顔を上げたサクラコは、赤く腫らした目で俺を見た。
「……っファウスト」
一瞬、どこか嬉しさが滲んだ驚きを顔に浮かべた気がしたが。すぐにその表情が消えたかと思うと、サクラコは顔をしかめて下を向く。
「……なにをしに来たのですか。放っておいてくれますか」
「いや、一人にしてたら危ないだろ。ただでさえ狙われてるんだから」
「そうですね、きっとジゴウたちのところへ連れ去られてしまうのかもしれません。……でも、もうどうでもいいんです。このままあそこにいるより、よっぽど――」
ふうむ。マキナの言っていた通りか。
あそこでの生活はこいつにとって負担で、さっきそれが限界を迎えた。そのきっかけがよく分からんが…………たぶん俺のせいなんだろう。なら――
「――悪かった」
「……え?」
俺が下げた頭にサクラコの視線が刺さる。効果があるか謎だが、俺の行動がサクラコを傷つけたというなら謝罪せねば。
そんな思いからの行動だったんだが、サクラコはどうにもお気に召さなかったらしい。頭を下げ続ける俺に向かって刺々しい言葉が飛んでくる。
「……ッ頭を、上げてください」
「許してくれるって感じじゃないな」
「当たり前ですっ。そんな……自分のなにが私にこうさせたかも分かっていないくせに……!」
ぐうの音も出ない。何が悪いかも分かってないのにとりあえず謝るなんて、普通は失礼な行為だ。
「やっぱり帰ってください……! そんな形だけの謝罪、なんにも意味ないですから……っ!」
……でも。
「帰るわけにはいかない。それに…………なにが悪かったのか、それを聞くことすら躊躇われた」
「……え?」
「だってサクラコ。――俺を見るたび、『なにも聞かれたくない』って、一瞬目をぎゅっと閉じるだろ」
「――!」
そう言った途端。
目を大きく見開いたサクラコは、なにかを言おうとしたのかぱくぱく口を動かして。それでも声が出なくて結局口を閉じる。
そうして、少しすると。
「ぁ、はは……。なんですかそれ。ずっと私のことなんか興味ないって態度していたくせに。それが心地良くって……でもあれを見られたのが……どうしても、胸の奥からズキズキ痛くて……っ」
今度こそ勝手に口から零れたというように、ぽろぽろと言葉を紡ぐサクラコ。「はぁ……」と大きく息を吐く。
そして。
「気が変わりました。もうここで――――くだらない未練はすべて断ち切ります。最後に話を聞いてくれますか?」
諦めたような、疲れたような。そんな、いつものどこか退廃的で厭世的な笑顔を浮かべて。
サクラコは言葉を紡ぎ始めた――