【未来予知】による悲劇の美少女救済(沼らせ)修行道 〜武芸に生きるため自分勝手に世界滅亡の種『魔女』たちを助けた結果、執着されて救世主と崇められる〜   作:ドラゴニック人参

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16話

 

 それから。

 

 大人しくなったサクラコと丘を降りながら、俺たちはいろんな話をした。

 

 どうも彼女、ここ最近はずいぶん疲れてたみたいだな。家族への恩返しのためとはいえ、毎日の望まない仕事。休みも他の娼婦たちより少ないみたいだし。

 

 それに何より、大切なはずの家族にときおり黒い気持ちを抱いてしまうのが一番つらいんだとか。

 

「――ふうむ。要は……雑念か」

 

「なんですかそれは……。また貴方お得意の武芸ですか?」

 

「心の在りようという意味で言えば、俺の目指すところも同じってことだ。確固たる我を貫く上での雑念を捨てる――――その実現がすなわち、精神の到達点だ」

 

「……どうすればそれを実現できると?」

 

 貧民街の通りを歩きながら、隣の俺を見上げる視線に言葉を返す。

 

「師曰く、健全な魂は健全な体に宿る――つまり、俺の場合は体を鍛えまくっている」

 

「……。期待した私がバカでしたね」

 

 冗談ではないぞ。まあ、武芸者でもないサクラコにそのまま適用はできないか。

 

 そうだな、もっとお前向けに言い換えるとするなら。

 

「外から惑わされない、絶対に揺るがない自信に繋がるなにかを持てればいいんじゃないか」

 

「自信、ですか。難しいですね」

 

 そうか?

 

「人より優れているというなんらかの自負、少しはあるだろ? それを軸にするだけでいい」

 

「私が優れているところ……」

 

 サクラコって案外自己評価が低いよな。妙に後ろ向きだし。あるだろ色々。逆にいまないなら、これから自分の強みを作るために努力すればいいだけだ。

 

 そんな風に軽い気持ちでアドバイスしただけだが、サクラコはずいぶん真剣に考えてるようで。眉をしかめながら、しばらく無言で歩いてると。

 

「………………あの、あれ……」

 

「ん?」

 

「私、人より少し…………――――か、かわいい……かもしれません……」

 

 うつむきながらそう言ったサクラコの頬は、あの丘で見たのに負けず劣らず真っ赤だ。

 

 恥ずかしがってるのか? おかしなやつだな、事実として――

 

「確かに容姿はサクラコの優れたところだな。父の趣味で美人を集めたうちの侍女にも、お前より綺麗な者はいないし」

 

「ななッ……」

 

 なんでそんなびっくりした顔で見るんだ。

 

 ほら、見開いた目は形がよくてクリクリと大きいし。艶を帯びた髪に、すべすべで白い肌。形のいい鼻筋に、赤くぷっくりした唇も。

 

 いわゆる、お人形のような美貌というやつじゃないか。

 

「ま、まさか。口を開けば修行だ鍛錬だとしか言わないファウストが、人の見目を判断できたとは……」

 

「失敬な。俺はこう見えて商家の息子だ。人や物の美醜は幼い頃に叩きこまれてるぞ」

 

 父と違って、過剰に重きを置いてるつもりはないが。

 

 それに、武芸に生きる上でも美しさは大事だぞ。

 

 美しさとは、人や物の比率・配置・動きから生まれ、人間の感覚に働きかけるもの。

 

 そこには自然とそうあるべしという真理だって含まれているんだ。どこにどれだけ筋肉をつけるべきかだったり、どう体を動かすのがもっとも効率的かなんて話にもつながる……!

 

 そう、つまり。

 

「突き詰めれば、武だって美しさに繋がるわけだな……! そう考えると、武芸者と美とは切っても切り離せないものなのかもしれない……――」

 

「……結局そういう話に帰結するのではないですか。まったく、これだから武芸バカは」

 

 武芸バカとは。なんだか俺に対して遠慮がなくなってきたな。別にいいが。

 

「…………でも」

 

 ん?

 

「そう、ですか。……ファウストは私のことを――……美人だなんて、思っていたんですね」

 

 なんて言ったかはよく聞こえなかったが。それでも、視線を向けた先のサクラコは。

 

 ――これまでで一番やわらかい表情で、どこか恥ずかし気に微笑を浮かべていた。

 

 魔女の瘴気だって、いつの間にかすっかり消えて。……そして、俺は思ったのだ。

 

 サクラコが魔女化しなかったのは良いんだが。…………これもしかして、修行のための尖兵まで消えてしまうのでは!?

 

 

 

 そんな俺の心配は。

 

 娼館が見えてすぐ、杞憂だったと知る。

 

「――オラ、淫売どもォ!! さっさとサクラコだせェ!」

 

 虫のように集るのは、二十を超えたチンピラたち。さらに、瘴気をまとった尖兵が幾人も。

 

 良かった。魔女本人とは独立して、尖兵はずっと残るんだな!

 

 いやまあ、世間様に迷惑かけるという意味では良くないが。ぜんぶ俺が倒すんだから、鍛錬代わりにすることくらいは許されるよな。

 

 なァ……!

 

 

 

 ということで。拳についた血を払いながら呟く。

 

「呆気ないな。この間やったやつの方がいくぶんか歯応えあったぞ。まあ、多対一かつ守る者がいる戦いというのは得難い経験になったが」

 

「あなたは……すこし強すぎますよ。本当にただの商人の子ですか?」

 

「これこそ俺が突き詰めてるところだからな。お前の外見と同じだ」

 

「んんっ……。そ、そうですか」

 

 軽口叩きながら、地面に転がるチンピラたちを邪魔にならないよう転がしてると。

 

「――テイラーくん……! 無事、だよね!? 良かったっ、それにありがとう……!」

 

「ファウストぉ! もうっ、あんたがいないから大変で! ……こんなんじゃもう曲技団も観に行けないしっ」

 

 フウカにリーン、それに他の娼婦たちやマキナがやってくる。

 

 みんなひとしきりジゴウ一味を罵って、その後はすぐサクラコへと駆け寄った。

 

「サクラコお姉さま! よかった、何事もなく帰ってきてくれてっ」

 

「フウカ。ごめんなさいね、心配をかけて」

 

「もうっ、ほんとだよ! これからは、悩んだり嫌になったりしたら、すぐフウカに教えてっ!」

 

「フウカ……。えぇ、ありがとう。これからはもう少し、あなたたちを頼るように気をつけます」

 

「! さ、サクラコお姉さまがすっごく素直! めずらしい………………えっ、まさかテイラーくんとなにか……っ?」

 

 愕然とするフウカの後ろからきたのは……マキナか。

 

「よくやったね、ぼん。ちゃんとサクラコを連れ帰ってこれたじゃないか。それに」

 

 意味深に言葉を止め、じいっとサクラコの顔を見て。

 

「――うまくやってくれたじゃないか。でも、うちの稼ぎ頭と駆け落ちなんかはするんじゃないよ」

 

「ま、マキナさん……! 違います、私たちはそういうのでは……!」

 

「ほらずいぶん狼狽えて。……でも、良かったよ。あたしたちはずっとあんたばっかりに負担を……。ぼんのおかげでもなんでも、あんたの毎日が少しでも楽しくなってくれれば……」

 

「マキナさん……」

 

 倒れた男たちを背景にして、ずいぶん賑やかだ。サクラコの帰還やならず者の打倒に、みんなどこか高揚してる。

 

 なにやらフウカだけは、どんよりした視線を俺に向けてるが。

 

「……テイラーくんは間違えない。どんな問題も解決してくれる。でもでも、その結果まわりがどうなるかって言ったら、火を見るより明らかだったぁ……っ」

 

 まあいいか。それよりも。

 

 いま俺の頭に浮かぶ考えはこれからのこと。

 

 サクラコはたぶんもう大丈夫そうだ。なんでか知らんが瘴気が止まったから、魔女化も尖兵の発生もたぶん気にしなくてよくなった。

 

 そうなれば後は、今日までですでに尖兵化してるやつら……と。考えを巡らしていたその時。

 

 たくさんの家族に囲まれ気恥ずかしそうなサクラコが、まるでそれから逃げるように言う。

 

「……ファウスト。自分だけ関係ないみたいな顔をしていませんか? あなたはこの娼館の用心棒で――――っその、顔。なにを……?」

 

 気づいたか? ああ、そうだ。俺はからくり時計亭の用心棒だ。

 

 そして用心棒になった目的は、サクラコという魔女の力に集る存在で腕を磨くこと。ついでに魔女による世界滅亡を防ぐのも。

 

 そして。どちらの目的にも適う、俺の次の行動とは――

 

 

 

「今度は――――こっちから攻めに行くぞ。ジゴウとかいうチンピラを」

 

 

 

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