【未来予知】による悲劇の美少女救済(沼らせ)修行道 〜武芸に生きるため自分勝手に世界滅亡の種『魔女』たちを助けた結果、執着されて救世主と崇められる〜 作:ドラゴニック人参
と、いうことで。貧民街を歩き回ることしばらく。
……一向に見つからんな。まずいぞ、そろそろことが起きる時間では。
俺は人が行き交う通りで頭を悩ませる。
「うぅむ……貧民街は広大だからな。俺一人で探すのは無理というものか。であればもう、人に頼るしかない」
道行く住民に聞くのだ。あの……名前までは覚えてないピンクの髪をした同窓の少女を、誰か見かけなかったか、と。
よし。そうと決まれば善は急げ。さっそくその辺を歩いてる男にでも……と口を開きかけた、その瞬間だった。
「――ちょっと。そこの、ぼん」
「ん?」
突然背後からかけられた、婀娜っぽい声。
振り返るとそこにいたのは。
「なんだ、ご婦人。いまのは俺のことか?」
すこし露出の多い服を着た妙齢の女性に、それを守るように立つ男が一人。どちらも俺をまっすぐ見てるし、俺に話しかけたので間違いなさそうだ。
この忙しい時にいったいなんの用で、と聞こうとする前に。ご婦人は自分から口を開く。
「あんたみたいのがねえ、こんなとこに来るもんじゃないよ。はやく帰りな」
「ん? それは……どういう意味だ?」
「どうもこうもないよ。気づいてないのかい? あんた――――大勢に狙われてる」
声を少し低くして、ご婦人が告げる。
ふむ。確かに、ここで行動すればするほど後ろがやかましくなっていくなとは思ってたが。やはり尾けられてたか。
しかし、分からないのはその理由。分からないなら、知ってそうな人に聞いてみよう。
「わざわざ教えてくれたこと、感謝する。気をつけるよ。ちなみに……なぜ俺が狙われてるのか理由を聞いても?」
「気をつけるって……ほんとに帰る気あるのかい? それに理由なんて、そんなの明白じゃないか!
「! なるほど、服装か。考えてもなかった……」
ここでも、俺の生まれが足を引くわけか。むかし身代金目的に誘拐されて以降、こういう場所には絶対近づくなと釘を刺されてはいたが。
「はぁ。金持ちのぼんは危機感が足りないったらないよ。分かったらとっとと帰った帰った。危なくないとこまでは、あたしとこいつで送ったげるから、これに懲りたら二度とここには――」
「いや。俺はまだ、帰る気はないぞ」
「……は?」
ご婦人の言葉を遮ると、バカを見る目が向けられる。
いや、俺も分かっている。このご婦人が親切で声を掛けてくれたことも、帰るまでの護衛を買って出てくれたことも。
ただ、俺には重大な目的があるから帰れん。自身の力を確かめる好機……この生まれごときに邪魔されるのは我慢ならん。
「あんたっ、何言ってるんだ……! さっきも言った通り、大勢のゴロツキがあんたを狙ってるんだよ!? ぼんにはどんな目に遭うのか想像もできないような――」
「――ご婦人。お気遣い、感謝する。ただ俺は――――その、ただの金持ちの
「……ぼんを、やめる? あんたみたいに恵まれたやつが、なにを……」
生活に困ることなく、ただひかれた道を辿るだけ。周囲は俺の親に怯え、俺の人格を認めず、ただの付属品としかみなさない。
挙句――――ふふ、あの夢で見た光景には笑ったな。
たしかに世界が滅亡しようというとき、あちこちで恨みを買う悪徳商人とその家族など、真っ先に八つ裂きにされるだろうな。まさか、殺される瞬間の感覚までリアルに感じられるとは思わなかったが。
ただまあ、それもこれもすべては……俺に、自分で自分の道を掴み取るだけの力がなかったがゆえ。何にも屈さない、折れない、我を貫き通すために必要な――
「――俺だけの拳を手に入れる、そのために。だから――――教えてくれないか、ご婦人」
そうして、ちょうどよいとばかりに俺は尋ねた。
「――ピンクの髪をした小柄な少女、彼女はもうじき暴漢に襲われるだろう。俺はそこに行きたいんだ。なにか、知ってることはないか?」
「ピンクの……!?」
ひどく驚いた様子のご婦人。さては知っているな? あの同級生の少女のことを。
さあ、さあ。それなら教えてくれ。
――俺がただ一人の絶対強者へと至る道程…………その、記念すべき一歩目を刻む場所を!
そうして。
俺を狙っているというゴロツキを一瞬で振り切り辿り着いたのは、貧民街の中でもさらに奥まった場所。
かのご婦人が言っていた。「あの娘はきっと、そこにいる」と。気になるのは、そのあと続けて言った「辛いことがあった時はいつもそうだから」という言葉だが。
しかしまったく……このギリギリの場面でご婦人に出会えたのは、まさに天運というほかないな。
「グ、ギひひぃ……ッ! 女ァ!」
「――な、なんで……帰るとこも無くなって、襲われて。フウカだけがこんな目に……ぃ。もうぜんぶ……どうでも……――」
路地裏で剣を抜いた、明らかに正気でない男。そして彼がいま押し倒したのは、学園でも見覚えがあるピンクの。
そこまでを、彼女らの
――――【未来予知】の存在を確信した俺は、空気中の魔力を足場に、全力で地上に向けて踏み切る。
結果。
「ッギ、……ッッ!」
俺の拳を受けて、凄まじい勢いで吹き飛ぶ男。
建物をいくつも突き破って、轟音とともに飛んでいく。
そして、呆然とする少女……フウカというのかな。彼女は俺を見て呟く。
「ぇ……テイラー、くん? どこから……というか、フウカを助けて……?」
よし無事だな。じゃあもうフウカは終わり!
ここからが本命――
「――ガアアアアアアアアア!」
男を吹き飛ばした先で、紫の毒々しいオーラが爆発する。
「おぉ、おぉ、禍々しいなァ! 腕が鳴る……!」
ではとうとう、お楽しみの死合――――「魔女」の尖兵討伐と行こうじゃないか!