【未来予知】による悲劇の美少女救済(沼らせ)修行道 〜武芸に生きるため自分勝手に世界滅亡の種『魔女』たちを助けた結果、執着されて救世主と崇められる〜 作:ドラゴニック人参
さて。それじゃあお相手も荒ぶってきたところで。
俺も本腰を入れて……と?
「……んで」
男の方に向かいかけた足を止めて振り返る。
地べたにうずくまるフウカの、その幼さが残る顔。絶望、悲しみ、怒り――色んな感情でグチャグチャなまま、俺のことを睨みつける。
「――ッなん、で……! このまま、放っておいてくれなかったの!?」
「んん?」
「フウカもう、行くとこも待ってる人も、全部なくなって……! もう、どうなったってよかった……最期はここでって……思ったのに、ぃ……ッ」
「なんだ? どうどう……」
急にどうした。本命はあっちの男とはいえ、良かれと思って助けたんだが。夢でもこんな場面は見てないぞ。
しかし悪いな。なにがあったか知らんが、もう俺の興味は向こうの男に一直線だ。
なので。
「まあ、命あっての物種だろ。俺はアイツを片付ける。とっととどこかに逃げてくれ」
「! そんな、無責任……! テイラーくんみたいに恵まれた人にはわかんないんだ! フウカがどれだけ……っ。学園で虐められても辛いことがあっても、家族のためにずっと頑張ってきたの! ――でも、その家族から捨てられたんだよ!? フウカもう、……っ!」
俺はすでにフウカに背を向け、男のもとへと足を進める。
が、その言葉はちゃんと聞いてたぞ。なにやら辛いことがあったということは分かったし、もしかするとさっきのご婦人が関係するのかも、などと思いはしたが。
でも全部あとでな。――今は、俺の腕試しが先だから!
……とはいえ。俺の初陣に邪魔を入れる訳にはいかないので。
「なにがあったかは知らんが、お前に俺から言えることは一つ。――少年よ、折れず曲がらぬ鋼がごとき我を持つのだ。さすれば道は開かれん……だな」
「……ぇ?」
これは俺が憧れた人の台詞だ。俺の行動の指針にもなっている。
要は……。
「何事も自分の力で切り開く。自分の行動の理由は自分で決める。責任だって自分で取るんだ。そうすれば……自分にとって本当に大切なことを、見失わずに済むだろう――」
「な……なにそれ。フウカ、そんなの……。フウカが、きめる……」
「じゃあ、はやく逃げるように」
「っあ、待っ……テイラーくんっ!」
フウカの声から棘がなくなり、戸惑いが取って代わる。その影にちらっと見えたのは、感謝や好意……か。
まあ、そんなことはどうでもいい。昔、親の顔色伺う日々の中で身につけた、他人の感情を推し量るスキルも、もうどうだっていいんだ。
今はほら、そんなことよりも――!
「邪魔ずるなああぁぁあぁあ゛あ゛!!」
「そうだよなァ! 死合だ、死合!」
禍々しいオーラとともに飛び出してきた男に、俺は構えを取る。
しかし凄まじいスピードだな! どう見ても格もなにもないそこらのゴロツキだというのに、あな恐ろしや「魔女」の力。
「っと、馬鹿正直に受けはせんぞ! まずは敵の戦力把握からが鉄則!」
技術もなにもなく、手にした剣に紫のオーラをまとわせ振り下ろしてくる。こんなの避けるのは簡単だ。
しかし問題は、その威力。俺は後ろに跳び退り、男の剣が地面に触れるのを見る。
直後、揺れる地面に轟音――
「――きゃ、きゃああっ!」
「ん? まだ帰ってなかったのか。……しかし確かに、年頃の少女が悲鳴を上げるに足る威力だ」
思い切り叩きつけられた剣が、大量の土砂を巻き上げる。土煙を叩くように、空からいくつもの砂や石が降ってきた。
そして、晴れた視界の先に広がる地面の大穴。
「グ、ひひィ! 邪魔者は、ゴロス……!」
「そんなに力が増すなら『魔女』さまさまかと思ったが、知能が下がりそうなのはイヤだな……」
強くなれてもアホになったら本末転倒だからな……なんて思ってると。
「……テイラーくん! もう、いいから! フウカのことは置いて逃げてよ!」
「俺が、逃げる?」
「フウカは、フウカのことはもういいから……! テイラーくんって魔術使えなかったよね!? こんな化け物むちゃだよ、死んじゃうよ……っ!」
ほう。さっきまでは呆然自失って感じだったが、俺の心配までできるようになったか。
「だがあいにく、俺はこれくらいで死なん。鍛えてるからな」
「鍛えてるとか、そういう問題じゃないよ!? 剣を振っただけでこんな爆発したみたいになるんだよ! それに、さっきテイラーくん言ってたもん!」
さっき言ってた? なんのことだ?
「――自分の行動は自分で決める……そう言ってたよ! だから、フウカのために危ない目になんて……」
「――ああ。そのことなら大丈夫だ」
「え……?」
自分に危険が迫るこの状況で、赤の他人である俺を心配するなんて。フウカはずいぶん人間出来たやつみたいだな。
ただ、悪いが俺はお前みたいな聖人君子じゃない。救える者は救うつもりだが、ここに来た一番の目的は【未来予知】の真偽確認と腕試し。
だから、フウカが心配することは何もないと、そう伝えようと思ったが。
……あの男、次撃の準備に入ったか。じゃあ、あんまり話してる余裕はないな。返答は端的に――
「俺は、俺のためにここにいる。――フウカを襲う
フウカを守りたいのでなく、あの男と戦いたい。だから気にせず逃げればいいと、そう言ったつもりだった。
そして、再び振るわれる男の剣を、今度はさっきよりも紙一重でかわしてみせる。
よし。この速度には慣れてきた。初めての殺し合いだから、念のため二回こいつの攻撃を観察したが、もう大丈夫そうだな。
「……次は、正面から」
ひりつく殺意に唇をひとなめし、高ぶる戦意を落ち着かせる。
平常心だ。
そんな金言が、今だけは……。
「――無理だろ、それは……! この状況、胸が躍って仕方ない!!」
……俺がそう、心を猛らせる一方。
もはや思考を向けてすらなかった背後の少女が、なにごとかを呟いて――
「……もう、なんにも残ってないと思ってたのに。――テイラーくんだけは、フウカを捨てないでくれるんだ……」
まさか、たまたま救った同級生がヤンデレの素質アリとは思うまい。