【未来予知】による悲劇の美少女救済(沼らせ)修行道 〜武芸に生きるため自分勝手に世界滅亡の種『魔女』たちを助けた結果、執着されて救世主と崇められる〜 作:ドラゴニック人参
ふむ。なにやらフウカが言ってるがまあ……いいか。
それより今は……!
「――お前だよなァ!」
「雑魚、ゴロスぅううう゛!」
さっきまでの爆発的な斬撃を、通常攻撃として連発してくる。ドゴンドゴンと轟音をまき散らして、近所迷惑だぞ。
よし、それなら。
……全身の感覚を鋭敏に。師と仰ぐあの方の言葉を思い出すんだ。「武の神髄は世界を感じること」だ。
目で見て、耳で聞いて、鼻で臭いをかいで。毛穴ひとつひとつで空気の振動まで感じろ。
そうすればほら、見えてくる……。
「ヒヤハアアアァァァ――!」
「あ、危ないテイラーくん……っ!!」
景色がゆっくりと流れるように。空気の粘性を割いて俺に向かってくる剛剣がはっきりと見える。
ふむ、確かに込められてる力はとんでもないが……剣筋も体幹もブレブレ。いちおう手を切らないよう、空気中の魔力でコーティングだけしておいて――
「――余計な力みをつついて、流れを崩してやれば」
集中した意識の中で遠く少女の悲鳴を聞きながら、俺の指先が振り下ろされた剣の腹に触れる。とん、と軽く力をかけてやればあら不思議。
「ガ、ァアアア!」
斬撃の軌跡が面白いようにぐにゃりと曲がり、空を切る。またまた地面を揺らす衝撃。
だが今回はそれだけじゃないぞ。ほら――
「ガ、あ、ぁああッ!? 腕があ!?」
うん、上手くいったな。
「え……。テイラーくんは無事で、相手の腕が……――折れてる!?」
そうフウカが驚いた通り。俺の視線の先では、地面に剣をついたまま男が腕を上げよとしない――いや、上げられない。
なぜならば、彼の腕は見事なまでに、関節じゃない場所でぐにゃりと曲がって使い物にならなくなってしまったから。
「グアァアア、俺の腕ぇ!!」
「な、なんで? テイラーくん、攻撃なんて……」
ふふふ、不思議だろう。
「これが――――武芸だ」
「ぶ、武芸…………? ……うーん、あんまり良くわからないけど……とっても凄いんだね! テイラーくん……!」
うむ、凄いのだ。師匠から受け継いだこの技は! 相手の力が強ければ強いほど、それを意図せぬ方向へ流してやれば、人間の可動域を超えた動きで体を傷つけさせることができる。
……ただフウカ、なんか適当に返事してないか? 理解してないけどとりあえず全肯定みたいな空気を感じた。
まあいいか。俺は別に武芸を広めたいわけじゃない。ただ、俺が師匠から受け継いだこの武で、何にも曲がらぬ俺を持ちたいだけ。
ということで。
「初の実践、非常に有意義だ。ほら、腕はもう一本あるんだ。――続けようじゃないか」
「グオオォオオ、ゴロス! 絶対ゴロズゥウウウ゛!!」
うんうん、いい気迫だ。これならまだまだ俺の武を試すことができそうだぞ。
さあ。もっと、もっと……もっとだ――!
――と。
……気づけばもう、日が暮れ始めてる。どこかでカラスが鳴く声も聞こえる。
俺が家を出たのが昼過ぎで、この場所にたどり着くまでの時間を差し引いても、ずいぶん長い間戦ってしまったみたいだ。
だが、おかげで。
「俺の武が、お前程度のやつになら十分通用すると分かった。礼を言うぞ。まあ――」
――もう、聞こえてないかもだが。
「ぅ、ガ、ァ……」
地面に転がる、ボロ雑巾のような魔女の尖兵。体のあちこちが曲がり、内出血の跡が多数。口からは血をこぼし、まとっていた魔女の力ももはや弱々しい。
ここまで痛めつければ、魔女の力もいずれは消える。殺しはしないが、無実の少女を犯し殺そうとしたんだから、これくらいの痛みは負ってもらわないとな。
さて。それじゃあ、【未来予知】が本物と分かって、腕試しまでできたことだし。
そろそろ帰る――
「――あ、あの……!」
「……んん?」
急に掛けられる声。視線を向けると、俺と尖兵の男からけっこう離れたところにフウカがいる。こっちに走り寄ってくるぞ。
まだいたのか。とっくに逃げてると思ったのに。
「なんだ? 見ての通り、お前を襲った男はもうこの有様だ。襲った理由も……まあ詳細は省くが、一時的に精神がおかしくなってたからで、もう心配ない」
「そっ、そうなんだね……っ」
やってきたフウカは、走って上がった息を整えている。その後、地面に倒れ伏しぴくぴくしている男をじいっと見る。
……ああ、しまった。これは見せないようにした方がよかったか? 凄惨な未来でこういうのを見慣れてる俺と違って、普通の女の子は耐性ないだろうしな。
まあ、怖がって逃げてくれるなら面倒もなくていいか……なんて気楽に考えていたんだが。
視線を上げて俺を見たフウカの目は……なぜか、ドロドロとした良くわからない情動で塗りつぶされていて。その強烈な感情が向いているのは――
「――あ、の。テイラーくん、ほんとうに……ありがとう…!」
「ん、ああ……確かに俺が助けたからな、うん。どういたしまして」
「ほんとに、ほんとに、フウカ、テイラーくんに救われたの……っ。きっとこの世界でただ一人、テイラーくんだけが……――」
あの男から守ったことに対して言ってるんだよな? にしてはどうも重さが……。まあ、貞操と命を守ったと思えばそんなものか?
しかしそれより、さすがに初めての実戦で疲れたから、俺はそろそろ帰りたいんだ。
「うん、フウカ。その感謝は受け入れる。ただ、別にこれ以上の礼はいらんからな。俺はもう疲れたから帰る」
「そっ、そうだよね! 疲れてるよねっ。だってこんな、この人を――――こんなになるまで、やってくれたんだもんね……ふふっ……」
んん? ボロ雑巾を見て怖がるどころか、なぜ陶酔した表情を。
どうなってるんだこいつ。実はちょっとヤバいやつなのか?
……まあいいか。フウカも納得してくれたみたいだし、さっさと帰ろう。
と、思ったその時だった。
「あっ。ま、待って、テイラーくん!」
「ん?」
焦った顔で呼び止めてきたフウカ。次いで、言うか言うまいかと、葛藤するような表情に。
「なんだ? 言いたいことがあるなら言えばいい」
「テイラーくん……」
そう背中を押してやると。心が決まったのか、俺をまっすぐ、例のドロドロとした瞳で見つめながら。
「あの、実はフウカ……」
それでも、どこか申し訳なさそうな表情を浮かべて、フウカは言った。
「どこにも、行く当てがないの。こんなこと言うの不躾だってわかってるけど、それでもお願い……。フウカもいっしょに連れてって、テイラーくん……っ。――――そうしてくれたら」
「!」
なんだ? 急に雰囲気が……。
「フウカ、テイラーくんのためになんでもするよ。ほんとになんでも、なんだって――――望むなら、体だって……ね……?」
最後、フウカの顔にあったのは。
……得体の知れない献身に、わずかな恥じらい。
そして、アメシストのような瞳が――――鈍く光り、陶然と蕩けるさまだった。