【未来予知】による悲劇の美少女救済(沼らせ)修行道 〜武芸に生きるため自分勝手に世界滅亡の種『魔女』たちを助けた結果、執着されて救世主と崇められる〜 作:ドラゴニック人参
夢を見た。
いやに現実味があって、色味も質感も匂いも本物そのもののそれ。すぐに気づいた。また【未来予知】だ、と。
まったく、俺の魔術だというなら好きに使えたらいいのに。発動のタイミングもその効果も、自分では何も制御できないというのだから困ったものだ。
さて、と。俺は夢の中の景色を注視しながら、いったいどれだけ未来の光景なのかと考えたところで。
瓦礫まみれの崩壊した街……貧民街の一角でとある人物と向かい合う。
真っ黒で長い髪に、華奢な体。恐ろしいほどに整った顔の、年上の少女。しかし彼女は……体に濃い紫の、泥のように蠢く魔力をまとっている。
――「魔女」か、と。
そう思ったところで、夢の中の俺が彼女へと急接近する。戦闘かとわくわくした俺は、しかし拍子抜け……。拳を交えることもなく、戦闘の間合いよりもさらに近づき、それでも止まらない足。
どこまで行くんだと訝しんだ直後だった。
至近でみつめあう瞳と瞳。なにごとかを囁く口。
そして……。
そのまま、重なるように顔が近づいて――――――
「……ふむ。なぜあんなことになったかはよく分からんが。やはり確かなようだな。――近いうち、貧民街で魔女が覚醒する」
ベッドの上で体を起こした俺は、そう呟く。
また、武を磨くよい機会だ――!
ということで。
さっさと朝の支度を済ませて学園へ行き、何事もなく一日を過ごした俺は――――今日一日、なぜかずっと付きまとってきたピンクの頭を見下ろす。もう今日の講義をすべて終え、学園の敷地内を出口に向かって歩いているが、いったいどこまでついてくるのか。
そんなことを思っていると、視線に気づいた少女――フウカが俺を見上げて、キラキラと瞳を光らせ見つめ返してくる。その様はどこか、主人の命を待つ忠犬のようだ。
「――テイラーくん、どうかしたっ? 荷物持とっか?」
「おお……。実際にそれっぽいセリフまで」
別にいらないが。
しかし、もはや断ることすら煩わしい。どうせいらないと言ってもすぐに別の提案をしてきてキリがないから、無視して歩くだけでよかろう。
「いらない? じゃあじゃあ、喉乾いてないかな。食堂からジュースでも貰ってくるよ!」
「……いらない」
「そっか、いらないんだね。うーんじゃあ……」
言っても言わなくても変わらん。もういいか、適当にあしらえば。
かわいらしく眉を寄せた顔で考え込むフウカをつれて、俺は構わず足を進める。
まったく。今日一日ずっとこんな調子だからな。普段俺は学園で一人だったものだから、ずっとフウカがついてくることがどうにも違和感だ。
いつものごとくクラスの貴族連中から小ばかにされたときは、あわや無礼討ちかという騒ぎになったし。まさか小柄で女の子らしい容姿の彼女が、我を忘れて貴族をボコるとは。
……彼女としては、住む場所を借りている恩を返すため、侍女の真似事でもしているつもりなんだろうが。事前にそういうのはいらないと言ってあるというに。
「フウカ」
「あっ、はい! なに? なにか頼み事あった!?」
「いや違う。それ……そういうの、別に俺はいらないからな。召使いみたいなの」
「えっ……」
途端に顔を曇らせるフウカ。
「も、もしかして。今日一日、迷惑だった……?」
「迷惑とは言わないが。負担だろ、フウカにとっても」
おぼろげな記憶にある限り、フウカは学園でも優等生だったはずだ。俺と違って魔術もちゃんと使えるんだろうし、落ちこぼれの世話なんてしてる暇ないのでは。
そう、彼女を気遣ったつもりだったのだが。
「っそんなこと、ないよ!」
おお……大声。
「フウカ、ぜんぶ自分がやりたくてやってるんだから! 恩返しとか……は、もちろんあるけど! でもでも、これはほんとにフウカのやりたいことなの……!」
「そうなのか?」
「うん、そうなの! だからねっ。もしテイラーくんも迷惑じゃないって思ってるなら……」
そうして、フウカはどこか湿度の高い目つきで俺を見て言うのだ。
「――どうかフウカを、おそばに置いて」
……ふむ。まあ、別に本人がいいって言うなら。
「俺から、ことさらに拒む理由はないが」
そう言った途端。さっきまでの様子が嘘のように、フウカの顔がぱっと花開く。
「よかった……! それじゃあ、明日も明後日も、その先もずうっと! テイラーくんのために働かせてね――!」
なんか俺との温度差が凄いが……まあ、いいか。もう気にしない。
「じゃあフウカ。早速というか、別にこちらから頼むつもりもないが、俺は今日これから行く場所がある。ついてきたいのなら勝手にしてくれ」
「! うん、もちろんっ。どこにだってついていくよ! ちなみに、どこに向かうのか聞いてもいい?」
「ああ、行き先くらいなら」
昨日経験した実践の味を忘れないうちに次なる戦いへと、そう胸を高鳴らせて。
俺はフウカに告げた。
「貧民街にある、からくり時計亭という娼館。目的地はそこだ」
その直後だった。
フウカの表情が一瞬で驚きに変わる。そして、その顔のままぽつりと呟いたのだ。
「からくり時計亭は――――フウカの、前のおうち……」
最初のヒロインであるフウカは魔女じゃないですが、次は魔女出します。舞台は娼館なので……曇らせがはかどる予感。