【未来予知】による悲劇の美少女救済(沼らせ)修行道 〜武芸に生きるため自分勝手に世界滅亡の種『魔女』たちを助けた結果、執着されて救世主と崇められる〜 作:ドラゴニック人参
ふむ。
からくり時計亭の軒先にて、俺は声を荒らげるマキナと、逆にいつもより静かなのに妙な威圧感があるフウカを見比べる。
「ちょっとぼん、こら! なんとか言ったらどうなんだい!?」
「なんとかとは?」
「だから! フウカに何をしたかって話さ! 元に戻さなきゃじゃないか!」
別に俺はなにもしてない。助けただけだし、それを望んでたからマキナも昨日フウカの居場所を教えてくれたんじゃないのか?
「……テイラーくんの光に気付づいたら、もう前までには戻れないよ。マキナさんたちに追い出されて真っ暗闇の中だったフウカを、テイラーくんは明るく照らしてくれたんだよ――?」
「ッ。それは……」
苦々しい顔でうつむくマキナ。
「あたしが悪いのは分かってるけど、でもだったら……どうしたらよかったっていうんだい……ッ。どうせ弱ってるとこにつけ込んで、金か顔か汚い手を使ったんだろう……! 居場所なんて教えなけりゃよかったよッ」
まあ住む場所を提供はしたから、金でつけ込んだといえば完全に否定はできんか。
だが。
「俺が行かなかったなら、フウカは死んでたぞ」
「それも怪しいもんさ……! あんたみたいにキレイな顔したぼんになにができるっていうんだい!?」
「テイラーくんは、フウカを助けてくれた。すべての闇を払って……――」
「ほら、この……闇とか光とか……なんかふんわりしたことしか言わないじゃないか! 詐欺師の手口だよこれは!」
ふうむ。らちがあかんな。
別に俺のことをどう思ってくれても構わんが、このままでは中に入ることも、ましてや魔女になる少女を探すこともできん。
ああ、ほら。騒ぎを聞きつけてきたのか、娼館の中から何人もの娼婦たちが顔を覗かせ始めたぞ。悪い印象を持たれては余計にやりづらくなる。
「どうしたものか」
マキナらをある程度信頼させる方法などないものか。
未だ言い合いを続けるフウカとマキナを見ながら、そんなことを考えていた――その時だった。
どこか異質な視線を感じて、娼館の上階を見上げた俺の目に入ってきたのは――
「!」
最上階の窓から下に垂れる、濡羽色の長い黒髪。その隙間から見えるのは、血色の薄い真っ白な顔だ。
間違いない。……あれは夢で見た少女だ。
人形のように整った顔には、どこか気だるげで退廃的な空気がつきまとう。
それに、視線がぶつかったと思えば……。
「――値踏みしているな? 俺を」
薄く笑って見せると、彼女は俺を視線の刃で貫く。
ハハハ、いいぞ。世界を滅ぼす魔女が俺を見定めている。どうだ、お眼鏡にはかなったか?
――お前と拳を交えられるだけの、その力は見出せたか?
「…………っと、ちょっと! 聞いてるのかい、あんたの話してんだよ、ぼん!」
「マキナさん、フウカの要求はふたつだよ。テイラーくんに謝ることと、テイラーくんの頼みごとをすべて受け入れること」
「マキナ。あの、最上階から覗いている少女と話をさせてくれ。いま、すぐにだ」
「ダメだ、会話が通じやしないよ……ッ」
地団駄を踏むマキナに、俺たちは二人揃ってなんだこいつと視線を向ける。それが余計に彼女を腹立たせるらしいが、そんなことより早くあの魔女と――!
と、気持ちを昂らせていたからか。
――背後から近づいてくる、異様な気配に気がついたのは。
これは……昨日も感じた気配。フウカを襲ったあの男がまとっていた、魔女の尖兵たる――
「――――邪魔ァ! どけよ小僧!」
見なくても分かるぞ。そんな濃い瘴気を漂わせていればな!
俺は視線を向けず、隣のフウカの手を引いて。乱暴に、しかし異様な速度で横薙ぎにされた腕を回避する。
「んん? なに避けてくれちゃってんだよぉ……」
後ろを振り返ると。
俺を睨むのは、いかにもチンピラといった風情の若い男。しかしどうも、貧民街のゴロツキというには羽ぶりの良さそうな格好だが。
そう、疑問に思った直後だった。
俺の後ろから、憎々しげな声が。
「――また来たね……! ジゴウんとこのもんが! 何度来たってあたしの返事は変わりはしないよ、帰ってくれ!」
「つれねえな……! だが、今日は手ぶらじゃ帰れねえ。俺も、多少手荒なことをしたって構わねえと言われてるからなぁ!」
ふむ。揉め事の匂い。
……修行とマキナ懐柔のダブルチャンスだな!