【未来予知】による悲劇の美少女救済(沼らせ)修行道 〜武芸に生きるため自分勝手に世界滅亡の種『魔女』たちを助けた結果、執着されて救世主と崇められる〜 作:ドラゴニック人参
「――オラ、ガキどもは帰った帰った! 俺らはこれからお楽しみだァ!」
「アニキ、今日は無理やり襲っちまっていいんすよね?」
「おお、もちろんいいぜ? 俺らは娼館を守る、娼婦どもは俺らを気持ちよぉくする――――ギブアンドテイクってやつさ!」
瘴気を秘めた男と、その後ろに従う下っ端二人、計三人か。
下っ端にはなにも言うことないな。手応えありそうなのは、やっぱりこの瘴気の男。
「あの人、テイラーくんに手荒なことを……。それに、まだマキナさんにも謝ってもらってない……」
「フウカ案外見境ないな。別に気にしてないぞ。……ただ、ちょうどいいから俺はこのチンピラどもの相手をしようと思う。鍛錬になるし、マキナを懐柔できるかもしれない。一石二鳥だ」
「そう? ……じゃあそれ、フウカも手伝っていいかな? この人たち前からからくり時計亭に来てたみたいだし、ちょっと気になって……」
ふむ。
まだマキナとなにやら言い合いしているチンピラどもを見やる。
尖兵化している男は譲らないが、他のやつらならいいか。
「後ろの二人ならいいぞ。だが、フウカは戦えるのか?」
「魔術ならちょっとは使えるから大丈夫! じゃあ、あの二人はフウカがもらうねっ」
そうか。まあ、貧民街の出身で学園に入れたなら当然魔術は使えるか。
じゃあ早速……と思ったところで。ちょうどあっちも話は終わったみたいだな。
「――もう、帰ってくれ! 何度も言ってるけど、あんたらみたいなやつらに頼る気も、食い物にされる気もないんだよ!」
「へっ、今日も吠えるな。だが、さっきも言った通りただで帰る気はねえ。こっからは手荒に行かせて――――って、あん?」
いよいよ手が出るかというところで。脇に退いていた俺が、マキナを庇うように前に出る。
「さァ。手合わせ願おう……!」
「……はぁ? おいガキ、いまなんて言った? 俺は冗談が嫌いなんだ。謝る機会は一度だけだぜ?」
ふむ、意外と冷静だな。昨日戦った魔女の尖兵は理性が飛んでる感じだったが、こいつは普通に会話ができる。
魔女の影響が薄いのか、あるいは影響を抑え込めるほどこいつが強いのか? 願わくば後者であってくれ。
そんなことを考えながら、次第にチンピラのこめかみに青筋が浮くのを眺めていると。
「――ちょっと、ぼん! あんたなにしてるんだい、さっさとフウカ連れて逃げな! 子どもの手に負える相手じゃないよ!」
「いいや。こんな好機、逃すつもりはないぞ。それに見ろ――フウカもやる気だ」
「なんだって!?」
俺たちが視線を向けた先には、光をまとった両手を掲げるフウカ。
「アニキ、ピンクのガキの方は魔術師すよ!? これまずいんじゃ……」
「撤退しますか、アニキ!?」
目の色を変えるのは下っ端の二人だ。やはる特筆すべきこともないゴロツキらしく、魔術というわかりやすい力に怯えている。
だが、しかし。
「お前ら、俺の舎弟なら情けねえとこ見せるんじゃねえよ。もう何回も見せてるだろ? ――俺には、これがある」
尖兵の男が片腕を持ち上げると、さっきから漂わせている瘴気が見る間に凝り集まり、毒々しい紫のオーラとなる。
昨日見たのと同じ……いや、それ以上か! 素晴らしい力だ……。
「こいつがあれば、俺らに負けはねえ。いいか、俺らは手に入れたんだよ。――この街で、どんな無法も通せる力をよ!」
「……う、ウオォオオオ! アニキ!」
「さすがっす!!」
ハハハ、盛り上がってきたな。俺も嬉しくなってきたぞ……!
「……ぼん、頼むから逃げておくれ! ここにいちゃフウカが……!」
「テイラーくん……。あの人だけは、フウカじゃ倒せそうにないけど……」
マキナは縋るように、フウカは申し訳なさそうに俺を見る。
「はっ、もう遅いんだよ! すぐに謝らなかった時点でもう許しはしねえ! この俺に無礼を働いた報いを受けさせてやるぜ……!」
そう凄んで、嗜虐的な笑みを浮かべるチンピラ。
確かにかなりの力を感じるし、昨日みたいに力を流すだけでは対処しきれないかもしれないな。
だが、それならば。――ちょうどいいから、【未来予知】によって得た新たな力、あれを試してみようか。
体質上ろくに魔術を使えない俺が、戦闘のバリエーションを劇的に増やすことを可能とした技術――
「――――じゃあな、ガキィ! 後悔して死ね!」
「ぼん……! ダメだ!!」
「テイラーくん――!」
「――知っているか? とある学者によると、魔力は『波』と『粒子』、その二つの性質を併せ持つそうだ」
この世界の誰も、
その特異な性質を利用すれば、こんなことができてしまうわけだ――
「――――は? なんだ、これは……なッ、ぁああああ!?」
「あ、アニキ!? いったいどうし――ッ」
「ウワアアァ――!?」
貧民街にこだまする悲鳴。
誰も、何が起こったか分かっていない。
ただ一人、俺だけは笑みを浮かべながら言った。
「できるだけ、抵抗してくれ。やはり実戦が一番成長できるからな――」
「ひっ、ヒイイィィィイ! やめてくれぇええええッ!」
……と、いうことで。
わずかな間、街にチンピラたちの悲鳴が響き渡ったのち。
娼館の中へと招かれた俺は、こちらを見るたくさんの目に視線を返して言った。
「――――今日から、このからくり時計亭で用心棒をすることになった。ファウスト・テイラー、修行中の武芸者だ。よろしく頼む」
そう、拳を合わせて軽く頭を下げる。そんな俺の先にいるのは、どこか扇情的な衣服を身にまとった、年齢も体型も様々な女性たち。
すなわち、娼館で働く遊女たちだ。
俺は頭を上げて、彼女らの視線がおおむね好意的であることを確認し、続きを隣の少女に振る。
「じゃあ、フウカ。次はお前だ」
「うんっ。……みんな、改めましてだけど。不肖フウカ・ブルーム、新しい職を得て帰ってきました! 今のフウカの役目はテイラーくんのお世話と布教活動――――正確には、テイラー商会付きの侍女だよ!」
ざわつく周囲。
「なんでまたフウカちゃんが? なんとか逃したって話じゃ……」
「それがね、なんか戻ってきちゃったみたい。でもでも――」
「ねえ、いまテイラー商会っていったよね!? あっちのイケメンくんの名前じゃん! これってさあ、玉の輿ってやつ!?」
姦しい。やっぱり、女性っていうのはどこでもこうなんだな。
うちの侍女連中も俺がいる前では大人しいが、裏では噂話に花を咲かせているしな。
しかし、ものすごい盛り上がりようだ。収拾つかなくなりそうだぞ。
なんて思っていたら。
「――あんたら、みっともない真似はよしなッ! 客人の前だよ!」
ビリビリと、空気が震えるような怒声。
目を吊り上げたマキナのひと睨みで、遊女たちはたちまち静まり返る。
「最初からそれくらい大人しくしてな! まったく。…………悪いね、ぼん。うちのはこんなのばかりでね」
「いや、なかなか新鮮でいいぞ。俺を意識する存在がこれだけたくさんいる状況は初めてだ。気配を断つ訓練に使えるかもしれん」
「なんだいそりゃ……。あんたもよく分かんないね。あのチンピラ追っ払ってくれたときも、結局何したのか検討もつかなかったし……」
「なにしたかも分からんやつを用心棒にするとは、物好きだなあんたも」
「そりゃ、この子からあれだけ頼まれたらね……。負い目もあるし」
マキナがそう言って俺の隣のフウカを見遣る。
フウカは「頑張った」と言わんばかりに握り拳を作り、上目遣いでアピールしてくる。
「…………それに」
ん?
「本人にゃ言わないけど、最悪ぼんがいてくれれば、ご立派な実家がなんとかしてくれそうだしね……。……修行かなんだか知らないけど、金持ちの道楽も役に立つなら受け入れるさ」
独り言のつもりだろうが、今の俺は例の新技術のおかげで耳が鋭いんだ。まあ別に、どう思われても気にしないが。
無事娼館に潜入できたし、ここまで全部上手くいっているからな。フウカに全部任せて正解だった。【未来予知】のことは誰にも言わないよう言われているが、魔女に近づけるならなんでも従おう。
ただ、その魔女見込みの少女――サクラコ、だったか。彼女の姿が見えないな。
「……サクラコお姉さまは一番人気の遊女だから。もしかしたら今もお客さまを取ってるのかも?」
「ほう、そうなのか。まあ、用心棒を続ければこれから話す機会はいくらでもあるだろ」
耳打ちしてきたフウカにそう返し、俺は改めて遊女たちに向かい合う。
そして、告げるのだ。
「――これからは荒事があればいつでも俺を呼んでくれ。ちなみに、敵は強ければ強いほど嬉しい。修行になるからな……!」