【未来予知】による悲劇の美少女救済(沼らせ)修行道 〜武芸に生きるため自分勝手に世界滅亡の種『魔女』たちを助けた結果、執着されて救世主と崇められる〜   作:ドラゴニック人参

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8話

 

「――オラ、ガキどもは帰った帰った! 俺らはこれからお楽しみだァ!」

 

「アニキ、今日は無理やり襲っちまっていいんすよね?」

 

「おお、もちろんいいぜ? 俺らは娼館を守る、娼婦どもは俺らを気持ちよぉくする――――ギブアンドテイクってやつさ!」

 

 瘴気を秘めた男と、その後ろに従う下っ端二人、計三人か。

 

 下っ端にはなにも言うことないな。手応えありそうなのは、やっぱりこの瘴気の男。

 

「あの人、テイラーくんに手荒なことを……。それに、まだマキナさんにも謝ってもらってない……」

 

「フウカ案外見境ないな。別に気にしてないぞ。……ただ、ちょうどいいから俺はこのチンピラどもの相手をしようと思う。鍛錬になるし、マキナを懐柔できるかもしれない。一石二鳥だ」

 

「そう? ……じゃあそれ、フウカも手伝っていいかな? この人たち前からからくり時計亭に来てたみたいだし、ちょっと気になって……」

 

 ふむ。

 

 まだマキナとなにやら言い合いしているチンピラどもを見やる。

 

 尖兵化している男は譲らないが、他のやつらならいいか。

 

「後ろの二人ならいいぞ。だが、フウカは戦えるのか?」

 

「魔術ならちょっとは使えるから大丈夫! じゃあ、あの二人はフウカがもらうねっ」

 

 そうか。まあ、貧民街の出身で学園に入れたなら当然魔術は使えるか。

 

 じゃあ早速……と思ったところで。ちょうどあっちも話は終わったみたいだな。

 

「――もう、帰ってくれ! 何度も言ってるけど、あんたらみたいなやつらに頼る気も、食い物にされる気もないんだよ!」

 

「へっ、今日も吠えるな。だが、さっきも言った通りただで帰る気はねえ。こっからは手荒に行かせて――――って、あん?」

 

 いよいよ手が出るかというところで。脇に退いていた俺が、マキナを庇うように前に出る。

 

「さァ。手合わせ願おう……!」

 

「……はぁ? おいガキ、いまなんて言った? 俺は冗談が嫌いなんだ。謝る機会は一度だけだぜ?」

 

 ふむ、意外と冷静だな。昨日戦った魔女の尖兵は理性が飛んでる感じだったが、こいつは普通に会話ができる。

 

 魔女の影響が薄いのか、あるいは影響を抑え込めるほどこいつが強いのか? 願わくば後者であってくれ。

 

 そんなことを考えながら、次第にチンピラのこめかみに青筋が浮くのを眺めていると。

 

「――ちょっと、ぼん! あんたなにしてるんだい、さっさとフウカ連れて逃げな! 子どもの手に負える相手じゃないよ!」

 

「いいや。こんな好機、逃すつもりはないぞ。それに見ろ――フウカもやる気だ」

 

「なんだって!?」

 

 俺たちが視線を向けた先には、光をまとった両手を掲げるフウカ。

 

「アニキ、ピンクのガキの方は魔術師すよ!? これまずいんじゃ……」

 

「撤退しますか、アニキ!?」

 

 目の色を変えるのは下っ端の二人だ。やはる特筆すべきこともないゴロツキらしく、魔術というわかりやすい力に怯えている。

 

 だが、しかし。

 

「お前ら、俺の舎弟なら情けねえとこ見せるんじゃねえよ。もう何回も見せてるだろ? ――俺には、これがある」

 

 尖兵の男が片腕を持ち上げると、さっきから漂わせている瘴気が見る間に凝り集まり、毒々しい紫のオーラとなる。

 

 昨日見たのと同じ……いや、それ以上か! 素晴らしい力だ……。

 

「こいつがあれば、俺らに負けはねえ。いいか、俺らは手に入れたんだよ。――この街で、どんな無法も通せる力をよ!」

 

「……う、ウオォオオオ! アニキ!」

 

「さすがっす!!」

 

 ハハハ、盛り上がってきたな。俺も嬉しくなってきたぞ……!

 

「……ぼん、頼むから逃げておくれ! ここにいちゃフウカが……!」

 

「テイラーくん……。あの人だけは、フウカじゃ倒せそうにないけど……」

 

 マキナは縋るように、フウカは申し訳なさそうに俺を見る。

 

「はっ、もう遅いんだよ! すぐに謝らなかった時点でもう許しはしねえ! この俺に無礼を働いた報いを受けさせてやるぜ……!」

 

 そう凄んで、嗜虐的な笑みを浮かべるチンピラ。

 

 確かにかなりの力を感じるし、昨日みたいに力を流すだけでは対処しきれないかもしれないな。

 

 だが、それならば。――ちょうどいいから、【未来予知】によって得た新たな力、あれを試してみようか。

 

 体質上ろくに魔術を使えない俺が、戦闘のバリエーションを劇的に増やすことを可能とした技術――

 

「――――じゃあな、ガキィ! 後悔して死ね!」

 

「ぼん……! ダメだ!!」

 

「テイラーくん――!」

 

 

 

「――知っているか? とある学者によると、魔力は『波』と『粒子』、その二つの性質を併せ持つそうだ」

 

 

 

 この世界の誰も、()()()()知らないことだが。

 

 その特異な性質を利用すれば、こんなことができてしまうわけだ――

 

「――――は? なんだ、これは……なッ、ぁああああ!?」

 

「あ、アニキ!? いったいどうし――ッ」

 

「ウワアアァ――!?」

 

 貧民街にこだまする悲鳴。

 

 誰も、何が起こったか分かっていない。

 

 ただ一人、俺だけは笑みを浮かべながら言った。

 

「できるだけ、抵抗してくれ。やはり実戦が一番成長できるからな――」

 

「ひっ、ヒイイィィィイ! やめてくれぇええええッ!」

 

 

 

 

 

 

 ……と、いうことで。

 

 わずかな間、街にチンピラたちの悲鳴が響き渡ったのち。

 

 娼館の中へと招かれた俺は、こちらを見るたくさんの目に視線を返して言った。

 

「――――今日から、このからくり時計亭で用心棒をすることになった。ファウスト・テイラー、修行中の武芸者だ。よろしく頼む」

 

 そう、拳を合わせて軽く頭を下げる。そんな俺の先にいるのは、どこか扇情的な衣服を身にまとった、年齢も体型も様々な女性たち。

 

 すなわち、娼館で働く遊女たちだ。

 

 俺は頭を上げて、彼女らの視線がおおむね好意的であることを確認し、続きを隣の少女に振る。

 

「じゃあ、フウカ。次はお前だ」

 

「うんっ。……みんな、改めましてだけど。不肖フウカ・ブルーム、新しい職を得て帰ってきました! 今のフウカの役目はテイラーくんのお世話と布教活動――――正確には、テイラー商会付きの侍女だよ!」

 

 ざわつく周囲。

 

「なんでまたフウカちゃんが? なんとか逃したって話じゃ……」

 

「それがね、なんか戻ってきちゃったみたい。でもでも――」

 

「ねえ、いまテイラー商会っていったよね!? あっちのイケメンくんの名前じゃん! これってさあ、玉の輿ってやつ!?」

 

 姦しい。やっぱり、女性っていうのはどこでもこうなんだな。

 

 うちの侍女連中も俺がいる前では大人しいが、裏では噂話に花を咲かせているしな。

 

 しかし、ものすごい盛り上がりようだ。収拾つかなくなりそうだぞ。

 

 なんて思っていたら。

 

「――あんたら、みっともない真似はよしなッ! 客人の前だよ!」

 

 ビリビリと、空気が震えるような怒声。

 

 目を吊り上げたマキナのひと睨みで、遊女たちはたちまち静まり返る。

 

「最初からそれくらい大人しくしてな! まったく。…………悪いね、ぼん。うちのはこんなのばかりでね」

 

「いや、なかなか新鮮でいいぞ。俺を意識する存在がこれだけたくさんいる状況は初めてだ。気配を断つ訓練に使えるかもしれん」

 

「なんだいそりゃ……。あんたもよく分かんないね。あのチンピラ追っ払ってくれたときも、結局何したのか検討もつかなかったし……」

 

「なにしたかも分からんやつを用心棒にするとは、物好きだなあんたも」

 

「そりゃ、この子からあれだけ頼まれたらね……。負い目もあるし」

 

 マキナがそう言って俺の隣のフウカを見遣る。

 

 フウカは「頑張った」と言わんばかりに握り拳を作り、上目遣いでアピールしてくる。

 

「…………それに」

 

 ん? 

 

「本人にゃ言わないけど、最悪ぼんがいてくれれば、ご立派な実家がなんとかしてくれそうだしね……。……修行かなんだか知らないけど、金持ちの道楽も役に立つなら受け入れるさ」

 

 独り言のつもりだろうが、今の俺は例の新技術のおかげで耳が鋭いんだ。まあ別に、どう思われても気にしないが。

 

 無事娼館に潜入できたし、ここまで全部上手くいっているからな。フウカに全部任せて正解だった。【未来予知】のことは誰にも言わないよう言われているが、魔女に近づけるならなんでも従おう。

 

 ただ、その魔女見込みの少女――サクラコ、だったか。彼女の姿が見えないな。

 

「……サクラコお姉さまは一番人気の遊女だから。もしかしたら今もお客さまを取ってるのかも?」

 

「ほう、そうなのか。まあ、用心棒を続ければこれから話す機会はいくらでもあるだろ」

 

 耳打ちしてきたフウカにそう返し、俺は改めて遊女たちに向かい合う。

 

 そして、告げるのだ。

 

 

 

「――これからは荒事があればいつでも俺を呼んでくれ。ちなみに、敵は強ければ強いほど嬉しい。修行になるからな……!」

 

 

 

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