※ご指摘を頂き、1月30日にデュエル内容の一部を変更致しました。
ストロング石島の敗北はデュエル界に大きな衝撃を与えた。公式戦でこそないものの3年間無敗だったチャンピオンが学生、しかもあの榊遊勝の息子に敗れたのである。その上、未知の召喚法を使用されてだ。プロアマ問わず注目せざるを得ない。
また、デュエルの模様が全国中継されていたのもあって、口頭でもネット上でも加速度的に広まっていった。街を歩けば必ず誰かがその話題を口にしている程である。忘れ去られていたチャンピオンとその息子は、今まさしく時の人となっていた。
当事者たちに嫌でもそう実感させる光景が遊勝塾の前に広がっている。
「おぉ、すげえ!」
「これ、みんなウチの塾に入りたい人?」
塾舎の外にまで並んだ長蛇の列を目の当たりにして、2人の子供が感嘆の声を上げた。遊勝塾の数少ない塾生、原田フトシと鮎川アユである。遊勝塾にこれ程人が集まっているところなど、彼らは見たことがなかった。下手をすれば、ここ3年の塾生を除いた訪問者の合計より多いかもしれない。なにせ閑古鳥すら寄り付かないような有様だったのだから。
また2人はここに来るまでにも周囲の変化を充分感じている。
今まで同年代の相手に自分がどこのデュエルスクールに所属しているかを話せば、一切興味を示さないかバカにしてくるかの2択であった。もっとも、2人とも面倒見のいい上級生と楽しくやれる環境を気に入っていたので全く気にはしていない。
それが今や1度も話したこともない相手までもが、新しい召喚法について根掘り葉掘り聞き出そうとしてくるのだ。変化を感じないはずがない。
いい加減辟易してもおかしくない状況だが、彼らの瞳は陰りなく輝いていた。純粋に誇らしく思っているのだろう。素直なよい子達だ。
そうしてしばらく二人は子供ながら感慨深げに行列を後ろから眺めていたが、列の途中に見知った顔を見つけてさらに表情を明るくする。
「空矢兄ちゃん!」
大きく手を振ってフトシが呼ぶと空矢は2人を一瞥し、話をしていた相手に断りを入れてから歩いてきた。ずっとそうしていた為か、2人の許にやって来ても営業スマイルのままである。
「2人ともそろそろ来る頃だと思ったよ」
「ひょっとして待っててくれたの?」
「一応。ほら、ウチにはLDSみたいにバッジなんてないから、列を無視して入るのも一苦労だからね」
そう言う空矢は、遊勝塾と書かれた取り急ぎ作った感のある腕章をつけていた。どうやら並んでいる人間に塾の説明などをしながら2人が来るのを待っていたらしい。ちょっとした気遣いだが、それでも2人は少し嬉しそうだった。
それから2人は空矢の先導で並んでいる人間を横目に歩き始める。稀にこちらを見てくるものはいたが、文句がありそうなものはさすがにいなかった。
「にしてもテレビ見たけどホント、カッコよかったよなぁ。遊矢兄ちゃんのあの……ペンデュラム召喚、だっけ?」
「確かにそんな名前らしいね、あの召喚方法。兄さんはよく覚えてないみたいだけど」
興奮気味に語るフトシに対して空矢の返答はどこか煮え切らない。遊矢が召喚する時にそう叫んでいたので取り敢えず名前は間違いないのだろうが、覚えていないのに使ったというのは正直不気味な現象だった。
「けどホントビックリしたんだから。テレビつけたら遊矢お兄ちゃんが出てるんだもん」
「そうそう。何でおれ達も呼んでくれなかったんだよ!」
「ごめんね。僕達も驚いてた所為で2人にまで気が回らなくって」
2人からの苦情に空矢は謝るしかない。とはいえ、空矢も柚子から連絡があって初めて知ったのだ。その後彼は一緒に居た母親にすら伝えずに慌てて飛び出している。このことで誰かを責めるとしたら、誰にも伝えなかった遊矢であろう。
「塾長もリアルソリッドビジョンシステム入れるのに業者が来て初めて兄さんが出るのを知ったらしくて、本当に余裕がなかったんだよ」
「あ、ってことは新しいの来たんだ」
「うん、しかも最新型。柚子の話だと、設置が終わってから塾長がずっと頬ずりしてるって」
明るい話題に3人とも自然と表情が綻んだ。LDSなど大手のデュエルスクールでしか導入していない最新型を日常的に使えるなど、今まで夢にも思わなかっただろう。維持費という夢のない話は塾長以外には関係なかった。
「遊勝塾の救世主だね、遊矢お兄ちゃんは」
「本当に。兄さんには心から感謝しないと」
空矢の返答を聞いた2人の頭に疑問符が浮かぶ。空矢の声の調子がやけに明るかったからだ。それこそ背景に花でも舞っていそうなくらいに浮かれている。遊勝塾の危機が去ったからだと理由づけても、違和感は拭いきれなかった。
「空矢兄ちゃん、何かいいことあった?」
「ん、別にそんなことないけど」
そう言いつつ、半分だけ2人へと向けた顔は蕩け気味である。いよいよ2人の疑念は強まった。とはいっても、たとえ理由を説明されたとしても2人には理解出来ないだろう。小学生相手に苦悩を悟られるような失態を榊兄弟は犯していない。
得心がいかない2人は少し顔を寄せて密談を始めた。
「ねえ、空矢お兄ちゃん絶対おかしいって」
「あれじゃん。泣き過ぎてちょっと頭おかしくなったんじゃ」
「その話はもういいから」
突如振り返った空矢に2人は声にならない叫びを上げる。今の空矢は少し前とは打って変わり、いわゆる目だけは笑っていない顔をしている。散々周りに絡まれたのは2人だけではない、ということだ。
「言っておくけど、泣いてないから。分かった?」
空矢の言葉に2人は無言で何度も頷く。むしろ泣かせそうだった。
2人の肯定を確認すると空矢は穏やかに微笑み、再度振り返ってまた歩き始める。危難が過ぎ去って2人は安堵の息をつき、次いで疲れた顔を見せた。はっきり言って面倒くさい。そう顔に書いてあった。
その後も少し談笑は続いたが、あまり広い建物でもない上に途中から関係者用の通路を使ったので直ぐに目的地へと到着する。
そこでは柚子が多数の入塾希望者に翻弄されていた。
「柚子お姉ちゃん!」
「あ、2人とも来てくれたんだ。空矢もお疲れさま」
「いえ。見るからにそっちの方が大変ですし」
柚子と空矢は苦笑を交わす。嬉しい悲鳴とはいえ、明らかに遊勝塾の処理能力を越えていた。仮に全員が入るようなことになれば、講師の数も足らないだろう。クリアしなければならない課題は多かった。
「何だか大変なことになっちゃったわね」
「そうですね。しかも遊勝塾じゃなく、実質兄さんが目当てですから困ったものです」
「本気でそう思ってるなら少しは顔引き締めて言いなさいよ」
柚子の言う通り、空矢は語尾に音符がつきそうな程浮かれている。スタジアムから帰ってからというもの、終始この調子だった。遊矢の話題が出る度に締まりのない顔になるのだが、本人に自覚はないらしい。現に、今も指摘を受けたことで慌てて眉間へと皺を集めていた。幸い、ペンデュラム召喚が褒められる分には感情が動かないらしく、接客を任せるには支障はない。どちらにせよ一時的なものだろうと本人含めて誰も深く考えていなかった。
なにより、今は目の前の問題である。列にすらなっていない人だかりを見て、柚子は思わずため息をこぼした。
「クリップボードでもあればもう少しマシなんだろうけど」
「そんなものウチには必要なかったですからね。他にも模範試合の準備とかやることはたくさんあるんですが、これじゃ動けませんし、どうしたものか」
「仕方がない」
2人が悩みを吐露したのと同時に裏の扉が開き、下駄の音を響かせて1人の巨漢が入ってくる。まるで扉の外で出てくるタイミングを窺っていたような登場の仕方だった。
「試合の相手はこの男権現坂が引き受けよう」
白い歯を見せて快諾する権現坂の姿は好漢そのものである。男気と頼もしさに満ち溢れていた。
そんな彼を空矢と柚子は半目で見詰めている。そうして無言のまま数秒過ごした後、互いへと視線を戻した。
「とはいえ、いつまでも待たせるわけにもいきませんから取り敢えず全員入れて、模範試合の後で入塾希望者には教室で書いてもらったらどうですか?」
「それもそうね。人数を把握するだけなら、適当な紙に名前だけ書いてもらえばいいしね。じゃあ空矢は」
「この男権現坂を無視するとはけしからーん!」
やたら子供じみて聞こえる叫びが、2人の会話を中断させる。まさか放置されるとは思っていなかったらしく、今にも地団太を踏みだしそうだった。実際にそんなことをすれば床と権現坂が無事では済まないだろうが。
「アユちゃん、フトシくん」
「はーい、任せて柚子お姉ちゃん」
「ほらほら、部外者はあっち行って」
「ぶ、部外者!?」
柚子の意を受けた2人に権現坂は抵抗出来ずに押し出されていく。そもそも塾生でもないのに関係者用の扉から入ってくる時点でおかしかった。恐らく1度任されたことで味をしめたのだろう。だが、普通に考えればわざわざライバル塾の跡取りに模範試合の相手を頼むわけがなかった。
晴れて関係者のみとなった室内で2人のため息が重なる。
「じゃあ、ここは僕がやっておきますから、柚子は模範試合の準備を頼みます」
「うん、お願いね」
「それ、ちょっと待って欲しいんだけど」
決まりかけていたところで唐突に横槍が入った。その声に2人は硬直したが、瞬時に立ち直ると揃って室内へと顔を向ける。決して居てはならない人物が申し訳なさそうに佇んでいた。
「榊遊矢だ!」
「すげぇ、本物だよ!」
「サインください!!」
突然のスターの登場によって、ただでさえ歪だった列が完全に崩壊する。それこそ獲物を見つけた餓狼の群れのように外で待っていたものも含めた全員が受付近くに殺到し始めた。
「どうか落ち着いて! 危ないですから押さないでください!!」
「ちょっと遊矢! まだ出てこないでって言ったでしょ!!」
「ご、ごめん」
案の定収拾がつかなくなり、それでもどうにか混乱を収めようとしている2人へ遊矢は頭を下げた。その実、想像以上の人気に満更でもないらしく、床へと向けた顔は少なからずニヤついている。
それを感じ取ったのか柚子は青筋を立てるも、事態の収束に追われていたのでその場では不問に処された。
その後、有無も言わせず遊矢を奥へと連れ込むことで問題を解決した柚子に全力で叩かれたことは言うまでもない。
「――で、一体何の用だったのよ?」
地に伏す遊矢を傲岸に見下ろしながら柚子が心なしか低い声で問いかけた。くだらない用件だったらただでは済まさないと言外に語っている。
「どう考えてもあれは兄さんが悪いです」
空矢も擁護せずに目を細めて遊矢を睨んでいた。しなくともよい大変な思いをする羽目になったのは彼も同じである。頂点にあった兄の評価も幾分か落ちたようだ。
ちなみに、受付には今誰も居ない。誰かが応対するより梯子を外してしまった方が鎮まるだろうという考えからだ。つまりは話を聞くのにあまり時間をかけられないということでもある。
「痛ったぁ……。何もいきなり殴ること」
「「さっさと話す」」
「はい」
全く同時に凄まれた遊矢は迷わず床に正座した。今までそこに倒れていた彼に汚いなどという言葉が思い浮かぶはずがない。容赦なく突き刺さる視線に落ち着かないようではあったが、それでもおずおずと話し始めた。
「いや、そのさ。模範試合の相手のことで話があって」
「何よ、わたしが相手じゃ不満だって言うの?」
柚子の目がさらに一段厳しいものとなる。自分が相手をする予定であったものをわざわざ変えて欲しいと言われているのだから、彼女にとって面白いわけがなかった。
幼馴染の冷たい視線に遊矢は一瞬怯みかける。が、どうにか持ち直すと真摯な表情で2人へと向き直った。
「空矢に相手して欲しいんだ」
「え、僕ですか?」
問い返した空矢に対し、遊矢は真剣な顔のまま首肯する。遊矢の想定外の申し出に柚子も空矢も表情から険が抜けていた。
そもそも模範試合の組み合わせは誰も何も相談することなく自然と決まっていたものである。というのも、今まで遊矢が空矢との対戦を避けていた為、遊矢と柚子が対戦するのが当たり前となっていたからだ。空矢と柚子は忙しかったのもあって今回もそうなるものだと思い込んでおり、実際そうなるはずだった。
「な、この通り。頼むよ2人とも」
遊矢は顔の前で手を合わせて頭を下げる。
何故空矢との対戦を希望するのか、その理由について彼は話さなかった。だが、話されなくとも大体の見当をつけることは出来た。察しがついてしまった以上、文句を言えるわけがない。
いかにも仕方がないといった風に息を1つこぼした後、柚子は頬を緩めた。
「主役がそう言うんならしょうがないわね。2人とも頑張ってよ」
「柚子! ありがとな」
心底嬉しそうに礼を述べられた柚子は顔を赤くし、受け流すようにして体ごとそむける。そしてそのまま早足気味に歩き出し、2人を残して去って行った。この後は空矢が1人でやるはずだった受付業務へと戻ったのだろう。
残された榊兄弟はしばらく柚子の背を見送っていたが、やがて視線を交錯させるとどちらともなく笑みを浮かべた。ただし、不敵なという修飾が頭につくものを。
「いいんですか? 兄さん目当てで来てくれた人達の前で恥をかくかもしれませんよ?」
「そんなこと言って、また負けて涙目になっても知らないからな」
「いつの話をしてるんですか。というか、その言葉そっくりそのまま返します」
「お、俺は空矢と違って負けたからって泣いたことなんかない!」
遊矢は力強く断言した。思いっきり目を泳がせながら。
どこか懐かしいやりとりに空矢は破顔する。3年前まではこうして互いに軽口を叩きながらデュエルばかりしていた。失われた時は多くそれらは決して戻ってこないが、再び積まれ始めたものがきっと埋めてくれることだろう。
そんな風に思わせてくれる光景だった。
**********
「――レディース・エーン・ジェントルメーン!」
突如、デュエルフィールドに声が高らかに響き渡った。延々と修造の説明を浴びせられ、注意力散漫となっていた入塾希望者たちは一斉にそちらを向く。注目の先には、両手を開くように掲げて立つ本日の主役の姿があった。
「本日は遊勝塾にお越し頂き、誠にありがとう御座います」
主役から少し離れた場所に立つ少年が折り目正しく一礼する。自然と全員の注意もそちらへと向かい、主役以外の存在もしっかりと認識させることに成功した。
「この塾で教えるのはエンターテイメントデュエル。すなわち、お客様に興奮と感動をお届けするデュエルで御座います」
「僭越ながらまず我々が皆様に興奮と感動をご提供することで、範を示したいと存じます」
交互に口上を述べる2人。声の調子や間の取り方など2人の息はよく合っており、ショーの始まりを思わせるそれは見るものの期待をいやが上にも高めていった。
「本日のデュエルを相勤めますのは私、榊遊矢と」
「その弟、榊空矢に御座います」
それぞれ己の胸に手を当てるという大仰な動作で自己紹介する。それと共に観客達はざわついた。2人が兄弟だと気付いていたものは余りいなかったらしい。「そう言われれば似てるかも」などと無責任な言葉がそこかしこで交わされ始めていた。
「「どうぞ皆様、最後までお楽しみください」」
客席の混乱に構わず、2人は肘を曲げた腕を胸の前に置くという形で揃って一礼する。狂いなく同時に行われた動作は様になっていた。練習なしの即興としては中々の出来栄えである。証拠に、お情けではなく普通に程よい拍手が2人へと送られた。
「いいぞ、遊矢、空矢! よ、日本いッ」
1人テンションのおかしい奴がいたが、顔を赤くした娘によって早々に沈められる。身内がこの程度で騒いでいたら遊勝塾のレベルが低くとられかねなかった。
それからゆっくりと頭を上げた2人は、互いへと向き直る。悪戯を成功させた子供のように2人で笑みを交わした。周りの目がなければハイタッチしていただろう。とはいえ、まだ何も始まってはいなかった。彼らに馴染みの深い言葉で言えば、お楽しみはこれからなのである。
「アクションフィールド、オン! フィールド魔法《プレイン・プレーン》を発動!!」
かすかな駆動音を聞き取った空矢がタイミングを合わせて宣言した。時を同じくしてデュエル場の内に光が立ち込め、その姿を変えていく。
形作られたのは平原であった。数本の木とまばらな茂みがあるだけの開けた場所で、遠く彼方地平線まで見える。そのように基本は緑で構成されていたが、2人が立っている場所だけは人工物らしく、石造りの円状の広場になっていた。そこを起点として、小川と言うよりは水路に近い水の流れが四方に向けて走っている。
最新型というだけあって、ソリッドビジョンだということを忘れてしまいそうになる程のリアリティに満ちていた。澄み渡った青空には鳥が飛び交い、清らかに流れる小川には魚が泳いでいる。そのような動物はもとより、草木の1本1本からも呼吸を感じ取れそうな程だ。本物以上に本物らしいと言ってもあながち間違ってはいまい。
2人も驚きと共にしばらく周囲を見渡していた。前までのソリッドビジョンに不満があったわけではないが、これを知ってしまえばもう戻れないだろう。久しぶりに1世代前のハードでゲームをした時に、どうしても画質の荒さが気になってしまうのと同じだ。
そうして2人はいつまでも眺めていそうだったが、自分達ばかり楽しむわけにもいかない。不意に目が合って我に返ったらしく、お互い苦笑を浮かべた。直ぐにどちらともなく2人は身構える。
「戦いの殿堂に集いしデュエリスト達が」
「モンスターと共に地を蹴り、宙を舞い」
「フィールド内を駆け巡る」
「見よ! これぞデュエルの最強進化系!」
「アクション――」
お決まりの口上を述べる榊兄弟は、先程以上に絶妙な掛け合いを見せた。なにせ遊矢が空矢に初めて教えたものなのだから、ある意味当然とも言える。
そこまで述べたところで遊矢は指を鳴らす形を作った左手を掲げ――
「「デュエル!」」
――2人の声が重なったのと同時に指を弾いた。それに合わせて頭上にたむろっていたアクションカードが四方八方へと飛び散っていく。今、3年という長い幕間がようやく終わろうとしていた。
「先攻は俺でいいよな?」
「ええっ、普通そこは弟に譲りませんか?」
「俺は兄の特権を行使! 《
モンスターを召喚することで遊矢は強引に先攻を奪う。現れたのはその名の通りボート状の胴体を持ったアメンボだ。シルクハットに水玉の蝶ネクタイ、さらには鼻眼鏡と6つの白手袋まで装着しており、格好は手品師などのものである。そこまでしても若干の気色悪さを拭いきれていなかったが。
「カードを1枚伏せて、ターンエンド」
「強引に先攻を奪ったくせに様子見なんですね」
半眼を向けてくる空矢に対して遊矢は乾いた笑いを返すしかなかった。彼の経験則上空矢の相手をする場合、1ターン目はどれだけやっても慎重過ぎるということはない。
「まあ、いいです。僕のターン、ドロー。……さて、早速いきますか。《名推理》を発動します」
「え?」
発動されたカードに遊矢は呆気にとられた。理由は単純で、知らないカードだったからである。さらに言えば、よく知っているはずの空矢のデッキに知らないカードが入っていたからだ。
「まず相手は任意のレベルを宣言します。その後僕のデッキの上から通常召喚が可能なモンスターが出るまでカードをめくり、それ以外のカードは墓地に送ります。そして、該当したモンスターのレベルが相手の宣言したものと同じなら墓地に送り、それ以外なら僕のフィールドに特殊召喚されます。というわけで、選んでください」
「あ、うん。……え~と、ならやっぱ8かな。いやでも7も怖いし、5も出てくると困るんだよなぁ」
遊矢は腕を組んで唸る。知っているものと変わってはいるものの基本的な作りは変わっていないと推測したらしい。それ故に頭を抱えそうな勢いで悩んでいた。しかし、これにもプレイ時間1分のルールが適用される為、いつまでもそうしているわけにはいかない。
遊矢は徐々に下降していた頭を上げると、眉を寄せたままの顔で空矢へと向き直った。
「よし決めた。俺が宣言するのは7だ!」
「7、ですね。じゃあいきます。1枚目、魔法カード《神の居城―ヴァルハラ》……いきなり落ちますか、普通」
1枚目を見るなり空矢は急な目眩でも起こしたように頭を押さえる。デッキ改造後、最初に落ちるカードとしては縁起が悪すぎた。
「気を取り直して2枚目、《究極時械神セフィロン》って、抜くのを忘れてましたね、これ。ともかく通常召喚不可なので次、3枚目」
3枚目を見たところで空矢の動きが止まる。どうやら通常召喚可能なカードのようだ。何が出るのか分からない緊張感に、対戦相手の遊矢はもとより観客も思わず固唾を呑む。そのように少し間をおいてから空矢はめくったカードを皆へと示した。
「レベル8《幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト》です。残念でしたね」
「はあッ!?」
全く想定外のカードに遊矢が絶叫する。無論、そんな彼に構うことなく《名推理》の処理は行われ、1体の最上級天使が旋律を奏でつつ特殊召喚された。紅のドレスを身にまとった人型の天使であり、ハープのような形状をした翼が特徴的である。
「それ柚子のエースモンスターだろ! 何で空矢が持ってるんだよ!?」
「何でって、予備を交換してもらったからに決まってるじゃないですか」
「柚子ぅぅッ!」
空矢の返答を聞いた遊矢は観戦用の窓を睨んだ。この上ない程恨めしそうである。そんな呪われそうな視線を一身に受ける柚子はというと、弁明するでも怒るでもなく困ったように笑っていた。
「って、空矢はああ言ってるが、本当なのか柚子?」
「うん、本当よ」
「いやでも、お前な」
あっさりと肯定を返した柚子に、逆に修造が戸惑いを見せる。いくら予備のカードとはいえ、自分のエースモンスターを他人に渡すなど普通は抵抗があるものだ。だが、彼女は特に気に病んだ風もなく、至って平然としている。
「ほら、空矢って今まで絶対にデッキをいじらなかったじゃない。それが昨日突然、デッキを作り変えたいから協力して欲しいって頼まれて、断れなかったの」
娘が語った理由を聞き、修造は納得したように頷いた。誰も直接聞いたことはないが、空矢がデッキをいじりたがらなかった理由は明らかである。デッキを作り変えると言った彼の心の内を慮れば確かに断れなかった。
ただ理由は他にもあるようで、「それに」と彼女は続ける。
「空矢に頼られるなんて初めてだったから嬉しくって。色々おまけしちゃった」
照れ隠しなのか茶目っけを多分に含んだ口調で柚子は言った。同い年であり、しかも柚子には遊矢と違って戸籍上の関係などもなかったが、それでも彼女は空矢のことを弟のような存在だと思っている。だから、空矢に、独りで何でも抱え込みその上独力で解決しようとする彼に頼られたことが嬉しく、つい甘やかしてしまったようだ。
その対価を今遊矢が身をもって肩代わりする羽目になったわけだが。
「特殊召喚した《プロディジー・モーツァルト》の効果を発動。1ターンに1度、光属性天使族モンスターを1体手札から特殊召喚出来ます。《光神テテュス》を特殊召喚します」
稀代の天才の名を冠した天使は主の命を受け、指揮を執るのに似た仕草を見せた。すると、右手に翠色の光が宿り、そのまま地面へと放たれる。光を受けた地面にいずこかへと繋がった穴が開き、そこから大きな翼を持った純白の女性天使が躍り出る。
「速攻魔法《手札断殺》を発動。お互いに手札を2枚墓地へ送り、デッキからカードを2枚ドローします」
空矢が発動したのはメジャーな手札交換カードだ。発動がそれ程制限されないという利点はあるものの、相手も交換できる上に自分は《手札断殺》を発動した為に3枚使って2枚ドローと1枚分余計に損をするという欠点を有している。相手が使ってくれるならば少し嬉しいカードだ。
だというのに、ドローする遊矢の表情は優れない。
「《テテュス》の効果発動。自分のドローしたカードが天使族モンスターだった時、そのカードを相手に見せることでさらにドロー出来ます。《
《手札断殺》の効果でドローした分も含め、空矢は一気に4枚のカードを手札に加えた。3枚使ってのことなので結果的に1枚分しか得をしてないが、充分驚異的だった。《テテュス》の恩恵を受けられるという一点だけをとっても天使族は優遇されていると言える。
「このターン、僕はまだ通常召喚していません。《光天使スケール》を召喚」
2体並んだ女性型天使の横に、金色の巨大な物体が現れた。天秤を連想させる姿をしており、両腕から下がっている棘のついたものは一応皿に見えなくもない。
展開された天使の攻撃力は1500、2400、2600であり、《アメンボート》の3倍から5倍超という非常にふざけた状況だった。遊矢の額に一筋の汗が流れる。
「い、1ターン目からモンスター3体って……いきなり飛ばし過ぎだろ!」
「下級が1体混じっているから別に普通ですよ。大体、これからは兄さんだって他人のこと言えなくなるんですからね」
空矢は呆れ気味に兄へと返した。確かにペンデュラム召喚ほど手っ取り早い大量召喚法はないだろう。それに惹かれたからこそ、これ程多くの入塾希望者が集まったのだ。ため息でもつこうとしたのか、空矢は一瞬兄から注意を逸らす。
それだけで充分だった。
遊矢は素早く反転して小川の方へと駆け出す。目的が何であるかは考えるまでもなかった。しかし、虚をつかれた空矢も呆けるようなことはなく、次の瞬間には立ち直っている。
「バトル! 《光天使スケール》で《アメンボート》を攻撃します!!」
「《アメンボート》!」
名を呼ばれただけで主の意を介したアメンボは、狭い小川へと半ば強引に浮かんだ。遊矢が飛び乗るや否や、水面を滑るようにして移動を始める。狭さの為に本調子とはいかないが、それでも結構な速度が出ていた。とはいっても、水面より宙を滑った方が速く、天秤状の天使はみるみる距離を詰めている。
「《アメンボート》の効果発動! 攻撃表示のこのカードが攻撃された時、このカードを守備表示にすることで攻撃を無効にする」
《アメンボート》の両翅が閉じられ、身体に青く弱い光が宿った。直後天使が突進して来るも、見えない壁にでもぶつかったように弾き飛ばされ、よろめいた飛行で空矢の許へと戻っていく。
ちなみに、今空矢は遊矢の背を追って走っていた。さすがに女性型天使に担がれたり、しがみついたりするのは抵抗があるらしい。
「続けて《テテュス》で攻撃します。ホーリー・サルヴェイション!」
元々浮き上がっていた女性天使はさらに高い位置へと昇り、その身から光の波動を放った。光そのものである攻撃は一息に遊矢へと迫る。襲い来る白の暴威を防ぐ手立てを《アメンボート》は持ち合わせておらず、灼き尽くされるのは必定だった。
「アクション
小川に沈んでいたアクションカードを遊矢は《アメンボート》の速度を落とすことなく拾い上げ、即座に発動する。同時に力を得たアメンボが急加速すると直ぐ後方で爆音と共に水飛沫と土埃が舞い上がり、ほとんど吹き飛ばされるような形でさらに加速した。文字通り間一髪である。
遊矢は1つ吐息をこぼすと、どこか満足げな表情で顔についた水滴を拭った。
「《プロディジー・モーツァルト》で《アメンボート》に攻撃」
間髪をいれずに放たれた第3波によって《アメンボート》は為す術なく打ち砕かれる。
勿論乗っていた遊矢もただでは済まなかった。余波によって吹き飛ばされ、言葉にならない叫びを上げながら近くの茂みへと落下する。たとえライフポイント上は無傷であっても、時としてこんな目にあってしまうのがアクションデュエルの奥深さだ。
「カードを1枚セットしてターン終了です」
空矢は兄の方に一瞥もくれず早々にターンを終える。澄ました顔をしているものの、このターン全くダメージを与えられなかったのは結構悔しかったようだ。
自分のターンが来たのを察してか、遊矢も嵌まっていた茂みから脱出して来る。葉やら小枝やらに全身まみれており、森で散々迷った末にどうにか脱出した人間のような風体だった。
そんな有様だというのに、彼自身は笑みを浮かべている。
「やっぱ凄いよ、空矢は」
出てくるなり遊矢は漠然と空矢を褒めた。少し前ならば言う方も受ける方も複雑な心境となっていただろう。今なら遊矢はただ純粋な感嘆から発することができ、空矢も少しはにかみながら受けることが出来た。
「今のはただ運が良かっただけですよ。来たのが《プロディジー・モーツァルト》じゃなかったら今の手札だと2体が限度でしたから。柚子に余計感謝しないと」
その言葉は謙遜でないだろう。《名推理》で何が出るかは運任せであり、今回はたまたま最良に近い結果となったに過ぎなかった。
「でもやっぱり凄いって。お客さんの掴みは上々だし」
その言葉にも偽りはない。観客達は再度、前以上にざわついていた。
彼らの目当てはペンデュラム召喚、その一点のみである。そうでなければ、お世辞であっても中堅とすら言い難い遊勝塾に入りたがるわけがなかった。それが空矢のデュエルを見て変わろうとしている。思わぬレベルの高さに、遊勝塾自体への興味も増していっていた。
「後は兄さんがしっかり決めれば完璧ですね」
「分かってる。任せとけって」
そう返す遊矢から特別気負った様子は見られない。既に打開策を手札に握っているようだ。それは1つしか考えられない。
「お楽しみはこれからだ!」
ドローしながら遊矢が例の言葉を口にすると、客席は今までになく沸き立った。声援に応えるように彼は手札から2枚のカードを提示する。
「俺は《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》と《EMシルバー・クロウ》でペンデュラムスケールをセッティング!」
遊矢の前方両脇に青白い光の柱が2本出現し、その中に二色の眼を持つ赤い竜と顔に星などをペインティングされた灰色の狼が姿を現した。それと共に観客からペンデュラムコールが巻き起こる。
「いくぞ、ペンデュラム召喚! 現れろ俺のモンスター達よ!!」
残り2枚の手札を掲げて遊矢が高らかに述べた。ストロング石島を破ったあの状況を思い起こさせる光景に、全員が息を呑む。伝説の再現とすら言えた。皆の期待を一身に背負い、揚々と遊矢はカードをデュエルディスクにセットする。
――そして鳴り響く電子音。
「……は?」
空矢は声を漏らしたが、他の全員は逆に言葉を失っていた。
大量召喚どころか、場には1体のモンスターも現れていない。デュエリストなら誰しも1度はうっかり聞いてしまったことのある音から察するに、エラーが発生しているようだ。つまり、ペンデュラム召喚は成功していない。
予想外の事態に観客も動揺するが、何より当人が1番焦っていた。2度、3度とセットし直すが、その度に無情な電子音が響き渡る。
「何でエラーなんだよ、ペンデュラムカードを置いてるのに」
いよいよ混乱して遊矢は途方に暮れた。さらに耳聡い一部の観客は彼の口から出た単語を聞き逃さず、ざわめきが余計に大きくなる。不穏な空気が流れ始めていた。
困り果てている兄を空矢は心配そうに見詰めているが、彼に出来ることは何もない。どうしようもない現実にやりきれなくなったのか、空矢は空を見上げようとした。
ところがその途中、彼の視線はある一点で釘づけになる。それから瞬時の停滞を経て、気がつけば空矢からため息が漏れていた。
「兄さん、ちゃんと《オッドアイズ》と《シルバー・クロウ》のスケールを見ましたか?」
「へ、スケール? 今お前の場に居るだろ」
「そういうボケいりませんから。石島戦の時、スケール1の《星読みの魔術師》とスケール8の《時読みの魔術師》でペンデュラムスケールをセッティングって言ってましたよね?」
「あ、うん、確か。テレビではそう言ってた気がする」
遊矢はどこか他人事のように肯定を返す。何故だか本人もほとんど覚えていない為、曖昧な返事しか出来ないのも仕方がなかった。
「わざわざ設定されてるんですから、何か意味があるでしょう。例えば、少ない方以上多い方以下のレベルを持つモンスターを召喚出来るとか」
「いや、でも、《オッドアイズ》のスケールは4だけど、レベル4の《ウィップ・バイパー》も出せなかったから違うと思う」
「じゃあ、以上以下じゃなくって間なんじゃないですか?」
告げた瞬間、兄を見る空矢の目が半分程に細められる。
遊矢の前方に展開されたままになっている青い柱。そこで手持無沙汰そうにしているモンスターの下には数字が出ていた。書かれている数字はそれぞれ4と5。そう4と5なのである。
「間って、じゃあ今何も召喚出来ないじゃん!?」
「事前に確認しなかった兄さんが悪いです。それより、そろそろ1分経つので次に移ってください」
発覚した事実に堪らず出された遊矢の絶叫を空矢は無造作に切って捨てた。デュエルに関してはたとえ遊矢相手であろうと容赦がない。
弟の無慈悲な言葉に遊矢は少し涙目になった。それでも実際に時間は迫っており、肩を落としたままデュエルを続ける。
「取り敢えず《テテュス》だけでも。《EMウィップ・バイパー》を召喚……って、あれ?」
召喚されたシルクハットをかぶった蛇を見て遊矢は戸惑った。無論、ソリッドビジョンの不具合ではない。初使用でいきなり不具合があったら大問題だ。
困惑している遊矢に空矢は眉を
何故なら、召喚された《ウィップ・バイパー》は、
EMウィップ・バイパー
ATK1700→2000
攻撃力が上がっていたのである。
言うまでもなく、勝手にモンスターの攻撃力が上がるなどあり得ない。必ず何らかの理由があるはずだった。
少しの合間、謎が解けずに遊矢は唸っていたが、程なく何かに思い当ったらしい。固く結ばれていた腕を解き、自分のデュエルディスクを見詰めていた。
「そっか、ペンデュラム効果……。よし、行ける! 《シルバー・クロウ》のペンデュラム効果。このカードがペンデュラムゾーンにセットされている限り、自分フィールドの『EM』モンスターは攻撃力が300アップする!!」
「ッ!」
その言葉だけで後の展開まで予測することが空矢には出来る。故に、直後には反転して走り出していた。目星はついているらしく、脇目も振らずに直進している。彼の先には川沿いに佇む1本の木があった。
「アクション魔法《テールウィンド》を発動! 自分のモンスター1体のレベルを1つ上げ、攻撃力をターン終了時まで300ポイントアップさせる。さらに《ウィップ・バイパー》の効果! モンスター1体の攻撃力と守備力を入れ替える。俺は《プロディジー・モーツァルト》を選択!!」
遊矢は時間を惜しむように早口で矢継ぎ早に宣言を行う。いつの間にか手札に加わっていたアクション魔法は、茂みに落ちた時に拾ったもののようだ。まさしくけがの功名である。
だがそれでも一連の処理を終えた時点で既に空矢は目的の木の下へと辿り着いていた。
EMウィップ・バイパー
LV4→LV5 ATK2000→2300
幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト
ATK2600→2000
「バトル! 《ウィップ・バイパー》で《プレディジー・モーツァルト》を攻撃!!」
紫の蛇がドレスをまとった天使へと飛び掛かる。女性型と言っても人間の3倍近くある巨体なので回避は出来ず、何処からか取りだしたタクトを操って旋風を呼ぶことで迎撃した。真っ向から迎え撃った為、露骨に攻撃力の差が現れる。旋風の中心を構わず突き進んだ蛇は相手の胴へと体当たりし、大型天使を光の粒へと帰した。
空矢LP4000→3700
両者通して初めてライフが動いた。先制を決めた遊矢は肘を下ろしながら拳を握りしめ、決められた空矢は間に合わなかったアクションカードを手にしたまま眉間に皺を寄せている。
「やっぱり兄さんみたいにはいきませんね」
「アクションカードの扱いに関しては空矢もまだまだだって。ま、モンスターの向き不向きもあるけど」
「ほっといてください」
口元に手を当てた遊矢がこれ見よがしにニヤつきながら言うと、空矢は頬を少し赤めてそっぽを向いた。今、空矢は《テテュス》に抱き止められる形で宙に浮いている。木の上という高い所に手が届かず、体当たりしても落ちてこなかった為だ。背に腹は代えられず恥を捨てたというのに結局間に合わなかったのだから、踏んだり蹴ったりである。
「空矢ぁぁああ!! 《プロディジー・モーツァルト》が下級モンスターに戦闘破壊されるってどういうことよ! ちゃんとやんなさいよ、ちゃんと!!」
「こ、こら柚子、お客さんの前なんだから落ち着けって、な?」
本気で踏んだり蹴ったりだった。打って変わって震えている遊矢を見れば、背後の窓から聞こえてくる怒号の主を顧みようなどと空矢が考えるはずもない。彼に出来るのはデュエルに
「兄さん、どうぞ続きを」
「あ、ああ……。俺はエンドフェイズに《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》のペンデュラム効果を発動。このカードを破壊してデッキから攻撃力1500以下のペンデュラムモンスターを手札に加える。《時読みの魔術師》を手札に」
二色眼の赤竜が咆哮を上げ、青い柱もろともに消滅する。破壊されたというのに物悲しさはなく、むしろ次へと繋げることが出来た誇らしさすら感じられた。
その間に空矢は地へと下ろしてもらい、真っ直ぐ遊矢の方へと歩き始める。行きの時と同じで目的地だけを見詰め、決してよそ見をすることはなかった。
「俺はこれでターンエンド。《テールウィンド》の効果が切れて《ウィップ・バイパー》のレベルと攻撃力は元にもど」
不意に遊矢の宣言が止まる。遮られたのだ。あの忌々しい電子音に。
EMウィップ・バイパー
LV5→4 ATK2300→2000
「また何かやったんですか兄さん?」
「いやいやいや、何もしてないって!? 《時読み》だって手札に加えられたし、《ウィップ・バイパー》の攻撃力だってちゃんと元に戻っ」
言い訳する遊矢を否定するように再度電子音が響く。
遊矢を見る空矢の目から益々温度が失われていった。このままではただでさえ乏しい兄の威厳がミクロレベルにまで粉砕されることだろう。
原因不明の事態を打破できるはずもなく、遊矢は再び途方に暮れた。前回は何だかんだ言って助けてくれた弟も今回はダメージ源でしかない。遊矢は半ば放心状態にあった。
そんな遊矢を救ったのは、皮肉なことに危機に陥れたのと同じ存在である。散々響いたものとは異なる高めの音が連続して鳴ったのだ。催促された遊矢は我に返ると慌ててデュエルディスクを確認し、しかしそこでまた固まる。
それから少し経ってから、顔を上げた遊矢は笑っていた。ただしそれはどんな表情を浮かべていいか分からなかったので取り敢えず笑っているといった感じの代物である。
「なんか、破壊されたペンデュラムカードは墓地じゃなくってエクストラデッキに行くみたい」
「兄さんはいつの間に眠ったんですか? デュエル中にエクストラデッキへ加わるカードなんてあるわけないじゃないですか」
「いや、だってほら! ディスクがそう指定してるし」
遊矢が必死に自分のディスクを指さすので、空矢は訝しみながらも自分のディスクを操作した。墓地やエクストラデッキの枚数などの公開情報はデュエルディスクで確認出来る。数回のタッチで遊矢のエクストラデッキの情報を引き出すと空矢は眉根を寄せた。
「確かにありますね」
「だろ。ホント、ペンデュラムカードって分からないことだらけで凄いな」
「ええ、そうですね」
遊矢の感想に対して空矢は満面の笑みを浮かべて賛意を示す。惚れ惚れする程見事に笑っているが、逆にその所為で見るものの不安を煽っていた。
「おかげで散々グダグダやって、お客さんもだいぶ減ったんじゃないですか?」
「げ!?」
後ろを見ぬまま為された空矢の指摘を受け、遊矢は露骨に表情を
水分を喪失していく兄の姿に、空矢は吐息をこぼして眉間へと手をやってから首を小さく左右へと振る。いかにも呆れているといった動作だったが、大仰に過ぎる上に遊矢からは手で隠れて見えない口元は綻んでいた。
「僕が場をもたせますから、次はしっかり決めてくださいよ」
「頼む、空矢! 次こそはバーンと決めるから」
「信じてますよ」
微笑んで
「僕のターン、ドロー。《テテュス》の効果発動。ドローした天使族モンスター《幻奏の音女セレナ》を公開することでさらに1枚ドローします。メインフェイズに移行して《セレナ》を通常召喚」
右にだけ翼を生やした天使が旋律を口ずさみながら召喚された。大きさとしては先に居た光神と同じ程度で、もう1体とは比べるまでもない。攻撃力はたったの400であり、少なくとも攻撃要員でないのは明白だった。
「レベル4の《セレナ》と《スケール》でオーバーレイ・ネットワークを構築。可憐なる天上の舞い手よ。奔放たる美技もて、我らに希望を授けたまえ」
突如、地面に銀河を思わせる渦が出現し、片翼の音女と天秤状の天使がそれぞれ光球となって呑まれていく。神秘的な光景に空矢以外の皆が魅入られていた。
「エクシーズ召喚。ランク4《フェアリー・チア・ガール》!」
宣言と共に水色の髪をした少女が渦から飛び出してくる。蝶の翅に似た4枚の翼を生えていること以外はチアガールの格好をしているただの女の子にしか見えなかった。攻撃力も1900と高くはなく、あまり強そうには見えない。
しかしながら、このモンスターの登場が今日1番のどよめきを呼んだ。LDSですら最近ようやく教え始めたエクシーズ召喚をこんな所で目にするとは思っていなかったのだろう。
「《チア・ガール》の効果発動。1ターンに1度、オーバーレイ・ユニットを1つ取り除くことで、デッキからカードを1枚ドロー出来ます。《テテュス》の効果を発動。ドローした《
2枚目を引いたところでドローは止まった。アクションカードを含めて7枚まで増えた手札を見ながら、口元を覆うようにして手で押さえて熟考の姿勢に入る。そうは言っても時間制限もある為、精々10秒程で手を下ろした。
「凄いアド損ですが、まあ大丈夫ですかね。セットカード《光神化》を発動。手札から天使族モンスターを1体攻撃力を半分にして特殊召喚します。《天空騎士パーシアス》を特殊召喚!」
眼を開けていられない程の閃光が
「《天空騎士パーシアス》をリリースし、手札から《天空勇士ネオパーシアス》を特殊召喚。このカードは自分の場の《天空騎士パーシアス》1体をリリースして特殊召喚することが出来ます」
半人半馬の天使から再度輝きが発せられ、その身を変貌させていった。人の要素も馬の要素も捨て去り、身体に結晶を有する超常的な存在へと生まれ変わる。
再び空矢の場へと3体の天使が並んだ。複数の上級天使という荘厳な光景に心を打たれたのか、空矢の場を凝視する遊矢は小刻みに震えている。
「場をもたせるって、これどう見ても仕留めにかかってるじゃん!」
「兄さんが次のターンを迎えられるかについてまで責任持てません」
さも当然のように空矢は無責任なことをのたまった。実際にその通りでもあるので遊矢に反論の余地はない。第一、何と言い返されたところでやること自体は変わらなかった。
《ウィップ・バイパー》を手に巻きつけた彼は、右へと方向転換して走り出す。目指しているのは空矢が取った所とは別の木のようだ。
駆け行く遊矢とは対照的に空矢はゆったりと歩きながら後を追う。そうして徐々に遠ざかっていく兄の背へと向かって、彼は至って自然な態度で問いかけた。
「ところで、兄さん。僕はメインフェイズを終了しようと思いますが、何かありますか?」
「あ、それなら俺は《ウィップ・バイパー》の効果発動! 1ターンに1度、モンスター1体の攻撃力と守備力を入れ替えることが出来る。《テテュス》を選択」
「了承です。メインフェイズ終了宣言時に相手が効果を発動したので、終了宣言は無効となってメインフェイズを続行します」
光神テテュス
ATK2400→1800
自分のモンスターが弱体化したにも関わらず、空矢は事務的に処理を宣言していく。だからと言って淡々とはしておらず、どちらかと言えば必死に笑いをかみ殺しているといった方が近かった。勿論実際に表情が変化しているわけではない。
遊矢も何やら不穏な気配を感じ取ったようだ。足は止めぬまま、少し引きつった顔を弟へと向ける。
「空矢まさか」
「手札から永続魔法《一族の結束》を発動。自分の墓地に存在するモンスターの種族が1種類のみの場合、自分フィールドのその種族のモンスターは攻撃力が800ポイントアップします」
「絶対本気で仕留めにきてるだろ!?」
遊矢が全力で抗議するが、空矢は目を明後日へと逸らして答えなかった。彼の弁護をすると、前の遊矢のターンで散々にやらかしてしまった以上、前のターン以上の状況から逆転でもしないと盛り上がらないだろう。成功の為にはどうしてもこの危機を遊矢に凌いでもらう必要があった。
光神テテュス
ATK1800→2600
フェアリー・チア・ガール
ATK1900→2700
天空勇士ネオパーシアス
ATK2300→3100
だとしてもやり過ぎな感は否めないが。
それとは別問題として空矢のプレイングは些か分かりにくいものだったようだ。入塾希望者の数人と制御室から観戦しているアユとフトシは首を傾げている。
「何でこのタイミングで発動したの? 最初から発動しとけばよかったのに」
「そうそう、だって《ウィップ・バイパー》があの時に効果を使わなかったら《一族の結束》発動出来ないでバトルフェイズに入ってたじゃん。シビれるくらいおかしいぜ」
「《ウィップ・バイパー》の効果はあのタイミングで発動するしかなかった」
両脇から出された疑問に対して権現坂が簡潔に答えた。けれども、それだけ告げられて分かるようならば初めから悩んでなどいない。ほとんど間をおかずに権現坂が詳細を補足した。
「《ウィップ・バイパー》の効果は1ターンに1度、自分か相手のメインフェイズに発動出来るもの。空矢がメインフェイズの終了宣言をした以上、遊矢にはあのタイミングしか残されていなかったのだ」
別に虚々実々の駆け引きの末に誘導されたなどというわけではない。《ウィップ・バイパー》の効果を把握さえしていれば誰でも出来るプレイングだった。ただそれが分かったとしてもまだ疑問は残る。
「じゃあ、何で最初から《一族の結束》を発動しなかったの? だって、そっちの方が確実でしょ」
「《ウィップ・バイパー》の効果は、その発動前に適用されている永続効果を再度計算せずにステータスを固定する力がある。仮に《一族の結束》が先に発動されていた場合、《テテュス》の攻撃力はターン終了時まで1800のままだった」
権現坂の説明は要点を簡単にまとめたものだ。しかし、子供達には上手く伝わらなかったようで表情は晴れない。このカードゲームでも指折りの難解なルールが絡んでいるので無理なかった。そもそも単にデュエルする分にはどんな難解な状況に陥ったとしてもデュエルディスクが勝手に処理してくれるので何の問題もない。
「遊矢とストロング石島のデュエルで最後《バーバリアン・キング》に《ウィップ・バイパー》の効果を使っただろう?」
「「うん」」
権現坂からの確認に2人は頷いた。録画した映像を何度も繰り返し見ているので、どういう順序で何が起こったかを大まかにならば暗唱することすら2人とも出来る。
「あの時も《バーバリアン・キング》は《バーバリアン・レイジ》でパワーアップしていたが、攻撃力と守備力を入れ替えた後、攻撃力は1100のまま《バーバリアン・レイジ》の効果は再計算されなかった。あれと同じだ」
そうして実際の例を出されてもなお2人の疑念は消えなかった。何故そうなるかと理由を考えてしまうからだろう。そういうものだと納得してしまう以外に理解する方法などなかった。
だがしかし、それでも2人は考えた末にある結論に達したらしい。代表してアユが権現坂に確認を取った。
「要するに空矢お兄ちゃんがチャッカリしてるってこと?」
「まあ、そういうことだ」
子供が導き出した真理に権現坂は首肯する。枝葉のことなど関係なく、1番重要な部分を的確に押さえていた。チャッカリしているという褒め言葉とは違う評価を後輩に抱かれた空矢には気の毒ではあるが。
制御室でそのようなやり取りが行われていることなど当の本人は当然知るよしもなく、その後も普通にデュエルは続けられている。
「バトルです。《チア・ガール》で《ウィップ・バイパー》を攻撃」
宣言を受けて、可憐な妖精は両手を後ろに流した体勢で遊矢に向かって走り出した。動作自体は緩慢であるのに何らかの力が働いているのか距離はみるみる縮まっていく。その時、遊矢はまだ木の少し手前に居り、アクションカードは上の方の枝に引っかかっていた。先程の空矢の状況と同じであり、そのままならば間に合わない。
が、さすがに役者が違った。遊矢は手にした紫の蛇をその名の通り鞭のようにしならせ、枝からアクションカードをいとも簡単に叩き落とす。舞い落ちるカードを空中でキャッチし、直ぐさまデュエルディスクへとセットした。
「アクション魔法《奇跡》! 対象モンスターは1度だけ戦闘では破壊されず、俺が受けるダメージも半分になる」
発動と同時に妖精は石につまずいて地面から足が離れる。結構な速度で移動していたのもあって彼女は相当な勢いで射出され、ちょうど落下位置にいた遊矢の胸部へと頭突きをかます形となった。
「ごふッ」
遊矢 LP4000→3650
遊矢は押し倒された挙句、激しくむせている。普通に攻撃されるよりダメージは少ないとはいえ、これでは奇跡ではなく喜劇だった。
「続けて《ネオパーシアス》で《ウィップ・バイパー》を攻撃します」
続けざまに命が発せられ、天上の勇士が動き出す。他の多くの天使と同じく宙を滑るようにしての移動であったが、元々が馬の身体をしていただけあって速度は群を抜いていた。颯爽と平原を駆けていく様は、姿こそ変われども依然として聖騎士の突撃を連想させた。
図らずも遊矢は身動きが取れない為、紫の蛇が自主的に迎え撃ち飛び掛かる。そのまま突進の速度を微塵も緩めることも出来ずに弾き飛ばされて消えていった。
遊矢 LP3650→2550
「《ネオパーシアス》の効果発動。このカードが相手に戦闘ダメージを与えた時、デッキからカードを1枚ドロー出来ます」
空矢は引いたカードを一瞥し、そのまま手札に加える。もっとも、ダメージステップ中には《テテュス》の効果も使えないので当たり前のことではあった。
ここに至ってようやく遊矢は回復したようで、仰向けに倒れた状態から反動をつけて一気に立ち上がる。距離はそれなりにあるものの正面から空矢と対峙した。遊矢を護るモンスターは既におらず、ライフポイントは光神の攻撃力を下回っている。
「じゃあ、
終幕を任された大翼の天使はその場で上昇を始めた。天高く、木々を眼下に捉えることが出来る程の高みへと昇った彼女は、胸の前で何かを抱きしめるように両手を交差させる。祈りを捧げるようにゆっくりと瞳を閉じ、刹那、フィールドが白に包まれた。
眩い白光がフィールド全体を埋め尽くすという明らかな演出過剰となっているのは、これが通れば遊矢の敗北が決するが故である。光は中々収まらず、デュエルがどうなったか外からは窺い知ることは出来なかった。
「え、え、どうなったの? 遊矢お兄ちゃん負けちゃったの?」
「そんなぁ、まだペンデュラム召喚見てないのに。空矢兄ちゃんも空気読んでくれよ」
「まだ負けたと決まってはいない。時が来れば自ずと結果は知れる」
悠然と構えた権現坂が慌てる2人を諭すもののあまり効果はない。この状況で落ち着いている方が難しかった。他の観客達の様子も皆似たようなものである。結末が見通せないことで全員が浮足立っていた。光は依然としてデュエル場全体を覆い隠しており、未だに終わりは見えなかった。
「――
幕が唐突に引き裂かれる。
打ち砕かれるようにして光は瞬時に霧散し、先と変わりない平原が視界へと突然戻って来た。変わらず対峙している兄弟の姿もある。当然ライフも変わっていなかった。
「さらに《EMコール》の効果によって、守備力の合計が攻撃を無効にしたモンスターの攻撃力以下になるようにデッキから『EM』モンスターを2体まで手札に加える。守備力300の《EMトランポリンクス》と守備力2300の《EMカレイドスコーピオン》を手札に」
観客が立ち直っていない中、遊矢は追加で手札補充まで行う。これで手札は計4枚。何かを期待するには充分な枚数だった。
「役者は揃いつつあるみたいですね。カードを1枚セットしてターン終了です。この瞬間、《ウィップ・バイパー》の効果が切れ、その後《一族の結束》の効果が再適用されます」
光神テテュス
ATK2600→2400→3200
このターンの攻勢は凌いだものの、遊矢が圧倒的劣勢であるのは変わりない。相手の場には高い攻撃力を誇る天使が3体も存在しており、どこか神聖な雰囲気すら醸し出していた。実は1番攻撃力が低いモンスターですら遊矢のデッキに入っているどのモンスターより攻撃力が高い。それこそ以前の彼ならばサレンダーすら選択肢に入ってしまうような状況だった。
だがなお遊矢は目をそむけずに正面から向き合っている。彼にそうさせるのは皆の期待だ。観客からの、仲間からの、そして対戦相手である弟からの期待。人によってはただ重荷と感じてしまうそれを、遊矢は己の原動力へと変えることが出来た。
「俺のターン……ドロー!」
誰もが息を呑む。このドローが勝敗を決するということを全員が理解していた。引いたカードを見た遊矢は一瞬目を
「レディース・エーン・ジェントルメーン! 大変長らくお待たせいたしました。これより本日のメインイベントを執り行います」
本日2度目の掛け声の後、口上を始める遊矢。場所が場所ならばスポットライトが彼へと当たっていただろう。既にこの場は遊矢のステージへと変わっていた。
「まずは《時読みの魔術師》をペンデュラムゾーンにセッティング。このカードは自分フィールドにモンスターが存在しない場合にペンデュラムゾーンにセッティングすることが出来ます」
先のターン、二色眼の竜が身を捧げることで呼び寄せた魔術師が青い柱と共に姿を現す。黒のコートに身を包んで紅のスカーフで口元を覆った彼は、華やかなモンスターが多い遊矢のデッキにおいて異質な存在であった。故に、果たす役割の大きさも知れる。
「《時読み》のスケールは8。もう片方の《シルバー・クロウ》のスケールは5なのでレベル6と7のモンスターが同時に特殊召喚出来るってことですね」
「その通り! ……と言いたいところなのですが、残念ながら《時読みの魔術師》にはデメリットがあるのです。もう片方のペンデュラムゾーンに『魔術師』または『オッドアイズ』と名のつくカードが存在しない場合、このカードのスケールは4となります」
首を左右に振って否定した遊矢の言葉通り、黒づくめの魔術師の下に表示されている数字は石島戦で宣言された8ではなく4であった。それを自身の目でも確認し、空矢は顔を顰める。これでは前のターンの二の舞だ。
「残念ですが4と5の間のレベルを持つモンスターは存在しませんので、今のままだと私はペンデュラム召喚が出来ません」
そう口にして遊矢は大仰に肩を竦める。散々引っ張っておきながら期待外れとしか言いようがなく、観客達も落胆の色を隠さなかった。
そうした失望溢れる周囲の反応を見渡して、しかし遊矢は悪戯げに笑んでみせる。
「ですが、心配ご無用。彼が主役たちの舞台を整えてくれます。《EMトランポリンクス》を召喚」
勿体つけて召喚されたのはその名が示す通り背中がトランポリンとなっている猫に似た生物だ。先程手札に加えられたカードであり、場の銀狼の効果で若干上がるとはいえそれでも攻撃力は600に過ぎない。つまりはステータス以外に意義があった。
「《トランポリンクス》が召喚に成功した時、私はセッティングされたペンデュラムカードを1枚手札に戻すことが出来ます。《シルバー・クロウ》を手札に」
銀狼は天に向かって吠えた後、青い柱の内から姿を消す。同時に今まで遊矢を陰ながら支えていた力も消え、《トランポリンクス》の攻撃力も300へと戻った。ペンデュラム効果の存在を主に気付かせたことも含め、充分過ぎる程に役目は果たしたと言えよう。
「《シルバー・クロウ》の代わりを勤めるのは、皆さんもご存知の彼です。私はスケール1の《星読みの魔術師》をペンデュラムゾーンにセッティング」
銀狼の消えた青い柱の内に新たに現れたのは、先日のデュエルでチャンピオンに引導を渡した純白の魔術師だ。対となる黒づくめの魔術師と同じくその存在は遊矢の他のモンスターとは性質を異にしており、青い光の内に黙して佇む姿は神秘的ですらある。
「そして、『魔術師』がセッティングされたことによって《時読みの魔術師》のスケールは4から8に戻ります。これにより私はレベル2から7のモンスターを同時に特殊召喚可能に」
黒白一対の魔術師が揃ったことによって舞台は整った。今度こそ伝説の再現が行われることは疑う余地もない。
だというのに、そこに熱狂はなかった。不自然な程の静謐が一帯を支配している。皆が皆、言葉を忘れたように青白く照らし出されたフィールドへと見入っていた。
「揺れろ魂のペンデュラム。天空に描け光のアーク。ペンデュラム召喚! 現れろ、俺のモンスター達!!」
青い柱の間に同色の巨大なペンデュラムが出現し、柱の間で大きく揺れる。その軌跡は光となって残り、やがて上空に巨大な円が描かれた。さらに、作り出された円陣の内に一回り小さな円が現れて光が満ちる。そこから4色の光がフィールドに降り注いだ。
今度はフィールドへと出された灰狼。赤と黄2色の縞模様を持つ蛇。瞳に星が入っているなどやけに可愛らしくデフォルメされた赤いサソリ。そして遊矢のエースモンスター、赤と緑の2色の眼を持つ竜が1度にフィールドへと現れる。
「すっごい! これが遊矢お兄ちゃんのペンデュラム召喚!」
「シビれるぅぅぅ!!」
制御室ではアユとフトシが興奮して飛び跳ねていた。その隣にいる権現坂は言葉こそ発しなかったものの満足げに頷いている。
当たり前ではあるが、ようやく成功したペンデュラム召喚に熱狂しているのは何も彼らだけではなかった。一瞬前の静寂が嘘のように沸き返り、興奮や歓喜の声はもとより指笛の音までも聞こえてくる。
「このままでは私のモンスターでは太刀打ち出来ませんが、彼の力が変えてくれます。《EMパートナーガ》の効果発動!」
遊矢が手のひらで示すように紹介したのは縞模様の蛇だ。尾の先についた手袋で赤い竜の突起部分を掴むと身体を伸ばし、他の「EM」モンスター達の足や尾に自身を巻きつけていく。
「このカードが召喚・特殊召喚された時にモンスターを1体選び、フィールド上の『EM』モンスターの数×300ポイント攻撃力をアップさせます。私の場には『EM』モンスターが4体。よって1200ポイント、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》の攻撃力がアップします」
一回りすると蛇の顔の下にあたる部分が開き、赤い竜へと抱きついて力を注いだ。結束の力を受け取った竜は雄々しく吼える。
オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン
ATK2500→3700
「これで《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》は大きな力を得ました。ですが、主役の力はまだまだこんなものでは御座いません。《EMカレイドスコーピオン》の効果発動。カレイドサーチ!」
続けて紹介されたのは赤色のサソリだった。特殊な形状をした尾を3体の天使へと向けると、そこから一筋の光が放たれる。天使達は全く動じていないので害はないようだ。光線を出し終えたサソリは自分の場の赤い竜へと尾を向け、今度は太い光が放たれる。
「1ターンに1度、自分フィールドのモンスターを1体指定することでそのモンスターはこのターン、相手フィールドの特殊召喚されたモンスター全てに攻撃出来ます。カレイドミラージュ!」
光を当てられた竜の姿が渦状に歪み、そこから分かれ出るようにして赤と青の光球が飛び出した。2つの光球はそれぞれ元となった竜と同じ形状をとり、赤い竜自身も姿を元に戻す。3体に分かれた二色眼の竜は揃って天へと向かって雄叫びを上げた。
「空矢の場のモンスターは3体とも特殊召喚されたモンスターだから、つまり」
「攻撃力3700で怒涛の3連撃ィ! いいぞ遊矢、熱血だぁぁあああ!!」
観客と一緒に居た修造が叫ぶと、多くの歓声が続いて上がる。圧倒的な連続攻撃によって行われる殲滅はデュエルにおけるロマンの1つだ。
「では、フィナーレと参りましょう! まずは《光神テテュス》に攻撃!」
遊矢が宣言したのを受け、空矢は己の手札を一瞥した。
が、小さく笑みを作ると手札ごと手を下ろす。恐らく、手札のアクションカードを使おうとしたが、《星読みの魔術師》の効果でペンデュラムモンスターが攻撃する場合はダメージステップ終了時まで魔法カードを発動出来ない為に諦めた、といったところであろう。
そんな弟の様子を見て遊矢は眉を
それはともかく、まずは赤い光によって形作られた竜が宙へと舞い上がると、落下の勢いも乗せて純白の天使目掛けて
空矢LP3700→2700
「《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》の効果によって相手に与える戦闘ダメージはなんと、2倍になります。続けて《天空勇士ネオパーシアス》を攻撃!」
青い光によって作られた竜は地表近くを滑空し、自身の敵手へと真正面から迫った。対する天上の勇者も挑戦を受け入れ、迫り来る敵手に向けて自らも突進を開始する。2体は軌道を逸れることも速度を落とすこともなく、丁度中間あたりの地点で激突した。先と同様に爆炎が上がり、灰すら残さずに消滅していく。
空矢LP2700→1500
「次の攻撃で《フェアリー・チア・ガール》を倒せば、遊矢お兄ちゃんの勝ちね!」
「空矢兄ちゃんに勝っちまうなんて、シビれまくりだぜ!!」
見えてきた遊矢の勝利に後輩2人は目を輝かせており、フトシに至っては身体を波打つようにくねらせていた。空矢はカードに精通していて遊勝塾では1番強い存在だと2人からは思われている。遊矢の勝利は彼らにとっては大番狂わせなのだ。
この2人以外の面々も、あの局面をひっくり返すことに成功したことに多かれ少なかれ昂りを見せている。
「さて、いよいよ最後の攻撃、なのですがその前に一言お許しください」
遂に終局という場面で突然遊矢が切り出した。折角盛り上がっていたところに水を差すような真似に彼以外の全員が眉を寄せる。エンターテイナーとしてはあるまじき行動だった。
「本日の対戦相手、榊空矢は我が弟ながら私の知る中では屈指のデュエリストです」
「……い、いきなり何を言い出すんですか!?」
突拍子もなく褒められ、空矢は石化するも数瞬で我に返って遊矢へと怒鳴る。弟の抗議を受けると遊矢は何故だか笑みを深め、胸に掛けたペンデュラムを握りしめて少しだけ持ちあげた。
「単にデュエルが強いということではありません。私が知る彼は、どのような状況であろうと勝ちを諦めない強さと逆境に向き合う勇気を持っているのです。私は彼のそういったところを心から尊敬しています」
臆面もなく兄は弟のことを褒めそやす。ただ弟の方は素面で受けることは出来なかった。顔を紅潮させて俯いている。口は固く結ばれ、握りしめた拳は震えていた。
「そんな彼の兄として恥じないデュエリストでありたいと私は思っております。だからこそ、彼には全力で挑み、勝ちたいのです!」
決意を表した遊矢は強い眼差しを空矢へと向ける。逃げも隠れもせずに正面から向き合っていた。先日スタジアムで生まれ変わった姿そのままである。言葉は飾ってこそいるものの内容自体は直情的に訴えかけるようなものであった。
言い終えてから数秒の空白を経て、遊矢は表情を緩めて観客へ向けて笑顔を作る。
「それでは皆様! 見事私が勝利を収めることが出来た暁にはどうか拍手喝采でお迎えください。では参ります。《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》で《フェアリー・チア・ガール》を攻撃! 螺旋のストライクバースト!!」
主の命を受けた二色眼の竜は1度大きく首を逸らした後、残った最後の敵へと向けて渦巻く黒の奔流を放った。もし呑みこまれたならば華奢な体の少女など、一片も残さずに消し飛ぶことだろう。対する少女は迎撃することも逃げることもせずにひたすら右往左往していた。
勝敗を決さんと迫る攻撃を前にしても空矢は下を向いたまま中々反応を示さなかったが、やがて小さく嘆息する。
「変わろうと思って、行動を起こして変わったつもりになっていても、実際には難しいんですね」
口元が自嘲気味に歪められた。先日公園で気落ちしていた姿そのままである。深く根付いてしまったものを変えることは、彼の想像していた以上に困難なことだった。
「ただそれでも」
呟いてようやく空矢は面を上げる。強い意志を表情に乗せて彼もまた兄と正面から対峙した。変われたわけではない。しかし変わることを決意していた。
「ダメージステップに手札から《オネスト》を発動! 自分の光属性モンスターが戦闘を行う場合、このカードを手札から墓地に送ることで相手モンスターの攻撃力分、攻撃力をアップさせます!!」
少女の背へと光が集い、巨大な純白の翼を形作る。それこそ聖典の1節を切り取ってきたような光景だった。彼女を女神と説明されれば思わず信じてしまうだろう。他の天使とも一線を画した神々しさがあった。
主の決意をその身へと宿し、彼女もまた惑うことを止める。間近に迫った脅威を真っ向から見据えた。
フェアリー・チア・ガール
ATK2700→6400
神翼を有した妖精は1度その場で羽ばたくと、押し寄せる暴威へと自ら突き進む。彼女を護るように光がその周りを包み込み、白と黒が激突した。
ただし拮抗したのは刹那のこと。次の瞬間には一筋の光が総てを貫いていた。
遊矢LP2550→0
**********
「――で、何か言うことは?」
「ごめん」
「すみません」
床に並んで正座する榊兄弟。2人の前には巨大ハリセンを肩に担いで睥睨する少女が居た。その姿は金棒を担いだ鬼を彷彿とさせる。
遊勝塾のデュエル場近く、観戦用の窓のある廊下に3人の姿があった。他の面々は結構距離を置いた所から遠巻きに様子を窺っている。
「最後の話、私達にはよく分かったわよ。空矢の気持ちも遊矢の気持ちも。だから、デュエルの結末にも納得してる」
目を閉じた柚子が穏やかな口調で2人へと語りかけた。眉間に皺が寄っているし、こめかみ辺りが引き攣るように動いているが、あくまで穏やかにである。
「でもね。見学の人達は2人の事情なんて知らないのよ。で、その場合どう見えると思う?」
聞かれて2人は顔を柚子に向けたまま目線だけで会話を為した。程なく結論が出たらしく、2人揃って笑みを取り繕って彼女へと向ける。
「最高潮になっていたところで、兄さんが突然水を差すように負けても仕方がないとも聞こえる言い訳を始めて」
「ホントに手札1枚であっさり空矢に返り討ちにされてしかも反射ダメージで敗北」
「白けるに決まってるでしょこのバカ兄弟!!」
紫電一閃。兄弟同時に床へ倒れることとなった。常人にはどちらから叩かれたのかも判別不可能な一撃である。
一方、いつの間にかハリセンを何処かへと引込めた柚子は顔の前で拳を震える程握りしめていた。
「そりゃね、ペンデュラム召喚には特定のカードが必要だって途中でわたしにも分かったから、ほとんどは帰っちゃうだろうなぁって思ってたわよ。でも、盛り上がれば8分の1、10分の1くらいは入ってくれるんじゃないかって思うじゃない。それがどう!?」
マントでも翻すような動作で柚子は腕で廊下を示す。その先には反対側で苦笑いしながら3人を眺めているいつものメンバー以外誰も見えなかった。
「あんなに居たのよ、あんなに! 最大のチャンスだったのに!!」
悪鬼羅刹も裸足で逃げ出しそうな剣幕の柚子。当たり前だが、そんな状況で顔を上げることなど出来ようはずもなく、榊兄弟は倒れ伏したまま冷や汗を流し続けていた。こんな結果になってしまった責任は2人にそれぞれあり、一応2人ともにそれぞれいくらか弁明の余地がある。だが、柚子にそんなことは関係なかった。彼女が言及したいのはそんな些事ではない。
柚子は深いため息をこぼすと、そのまま押し黙った。急に様子が変わったので2人は少しの間戸惑ったが、どちらともなく立ち上がる。2人が再び居住まいを正したところで柚子が告げた。
「エンタメデュエルを掲げてるウチがお客さんのことを忘れちゃダメでしょ」
「ホントごめん」
「返す言葉もないです」
怒鳴られるよりもよほど
もっとも、塾長ではなく柚子が説教している時点でそんな大事にならないのは明らかだが。それ以前に、修造の姿は何故だかこの場にない。
すっかり
さらにしばらくしてから柚子は小さく息をつくと表情を緩める。
「まったく……。これで本当に1人も入ってくれなかったら、こんなもんじゃ済まなかったわよ」
冗談混じりではあるが物騒なことを口走る柚子。故に2人は初め怯えるように肩を竦み上がらせた。しかし、程なくその言葉が意味することに気がついた彼らは呆然と彼女を見上げる。
「柚子それってもしかして」
遊矢からの問いかけに対し、柚子は顔を脇に向けた。とは言っても答えを拒否したわけではない。彼女の視線の先、遊勝塾の面々の後ろから1人の少年が歩み出てきた。青い髪をしたもの静かそうな男の子。榊兄弟にとっても全く知らない相手ではなかった。
「君は確か、この前見学に来てくれた」
「石島戦を生で見てすっかり遊矢お兄ちゃんのファンになったんだって」
「あの時の遊矢兄ちゃんホント、カッコよかったもんなぁ。あ、今日のデュエルも最後のターンはシビれまくりだったぜ!」
駆け寄って来たアユとフトシが嬉々とした様子で語る。そう言う2人も遊矢のデュエルの虜となったようだ。それから少し遅れて男の子もまた榊兄弟の間近まで歩み寄ってくる。彼の瞳も2人と同様に輝いていた。
「ぼく、凄いと思った。何万人も居るお客さんがデュエルで、遊矢兄ちゃんのデュエルで1つになって……ぼくもあんなデュエルが、遊矢兄ちゃんみたいなデュエルがしたいって、心からそう思った!」
興奮のあまり上手く言葉がまとまらないのだろう。だからこそ、彼の抱いた感情は十二分に相手へと伝わった。
そして、憧憬の眼差しと手放しの賞賛のコンボは遊矢の許容限界をあっさりと超えた。これ以上ない程に頬が緩んでいる。もし仮に遊矢に若い女性ファンなどというものが居たならば、見た途端に醒めてしまうこと請け合いなだらしない顔だった。直後、彼にハリセンによる裁きが下ったのは言うまでもない。色んな意味で幻滅しそうな光景であった。
ただファン1号はその程度では動じない。まるで気にした様子もなく今度は空矢の方へと向き直り、やはり満面の笑みを浮かべた。
「空矢兄ちゃん、ぼくやりたいデュエル見つかったよ!」
「……そっか。ちょっと羨ましいな。僕は兄さんみたいにはなれないから」
彼の純粋な志は空矢にとって眩し過ぎたらしい。微笑みを返しながらもどこか寂しそうだった。空矢のデュエルスタイルは遊矢とは大きく異なる。彼のデッキはどちらかというと、主役をひきたてる敵役の方が似合っていた。
勿論、空矢がそんな反応を見せた理由を相手が分かるはずもなく、首を傾げる。それを見た空矢は苦笑を浮かべ、「何でもない」と言ってごまかすように彼の頭を撫でた。
「一口にエンターテイメントデュエルと言っても、その内容は行う人間によって千差万別。お前はお前の形のエンタメデュエルをすればいい」
空矢の内心を見透かすように、やたら威厳ある声がかけられる。驚いた空矢がそちらを向くと、いつの間にか白ランをまとった巨漢が近くまで歩いて来ており、彼に向けて白い歯を見せていた。その姿を捉えて、空矢は益々目を丸くする。
「あれ、まだ居たんですか権現坂?」
「というか、お前いつ来たんだよ?」
「お前ら、けしからんにも程があるぞ!!」
榊兄弟からのあまりにぞんざいな扱いに権現坂は当然激怒した。裏方として頑張っていた彼に対してあんまりな態度である。まあ、遊矢は本当に権現坂が来ていることを知らなかったのだろうが。
とにもかくにも、思いがけず愚弄された権現坂は眉を逆立て眼を見開き、仁王さながらの形相で睨みつけた。何故だか遊矢の方を。
「このような屈辱を受けるとは、最早堪忍ならん! デュエルだ遊矢!!」
「お、やるのか権現坂。言っとくけど、ペンデュラム召喚をマスターしたんだからもうお前にだって負けないからな」
「ふん、その思い上がり、俺の不動のデュエルで正してくれる」
双方不敵に言葉を交わすとそのままデュエル場の方へと出ていく。誰にも機械の操作を頼まなかったので、普通のスタンディングデュエルをやるようだ。今、修造は入塾の確認を保護者に取っている為、アクションデュエルをしていいか聞けないというのが理由だろう。
「あれぜってー遊矢兄ちゃんとデュエルしたかっただけだよな」
「模範試合の相手も自分でしようとしてたもんね」
そのように談笑しながらフトシとアユもデュエル場の方へと出ていった。スタンディングデュエルならば近くで観戦した方が得である。
あっという間に人が少なくなった。慣れない新入りは咄嗟に反応出来ずに取り残される。いきなりのデュエルなど遊勝塾では日常茶飯事とはいえ、いきなり対応出来るはずがなかった。見かねた空矢が彼の肩に手を置いたことでようやく我に返る。
「まあ、いつもこんな感じで賑やかというか喧しい上に突拍子もないことが多いけど、大丈夫そう?」
「……大丈夫。ぼく、ここで遊矢兄ちゃんや空矢兄ちゃん達と一緒に強くなるって決めたから」
宣誓する彼は本当に嬉しそうだった。迷いなど微塵も感じられない。聞くだけ野暮であったことは明瞭だ。誓いを果たすべくこの塾で研鑽を積んでいくことだろう。
それ程までの熱意を持っているのだ。無論、迎える方も応えねばなるまい。
空矢は心からの笑顔を彼へと向けた。それだけでも想いが相手へと伝わるであろう、感情のこもった笑みである。
そして――
「これからよろしく、タクヤくん」
「……え、ええっと」
「タツヤくんでしょうがアホ空矢!!」
――今日1番の快音が鳴り響いた。
……どうしても綺麗にまとめさせるつもりはないらしい。まあ、その方が彼ららしいが。
デッキを使いこなせていない状態の人間とのデュエル考えるのは辛い。
デッキのお披露目が目的ですから、キーカードを含めほとんどのカードを使ってません。ターン跨いでのエクシーズやら、《オネスト》決着なんてものが許されるの最初だけでしょうし。《光神化》から《パーシアス》経由の《ネオパー》とか正気の沙汰じゃないwww
ただ、さすがにキーカードが影すら出てないのはまずいと思って早々に落としました……
というわけで、空矢のデッキは「神の居城―ヴァルハラ軸推理ゲート」略して「ヴァルハラゲート」です。《名推理》の時点で「インフェルノイド」と勘違いしてくれた人がいたら取り敢えず成功。実際に使う場合の構築ではなく、小説用になるべくカードの種類を入れるようにしてます。
何だか唐突にボケたりと主人公のキャラがまだ分かりにくいとは思いますが、出来ればもう少々お付き合いください。設定上の性格を上手く表現出来るように精進します。
※修正した点ですが、《時読みの魔術師》は自分フィールドにモンスターが存在する場合に発動出来ないことを失念しておりました。
修正前は《トランポリンクス》を出した後で《時読み》《星読み》を同時にセッティングしていたのですが、《時読み》を発動した後に《トランポリンクス》を出す形に変更しました。
ミスを犯したことをお詫び申し上げます。