転生ユニちゃんは笑いたい 作:夜明けの鐘楼
未来が見えるというのは酷な話だと思う。
ましてや逃れられない結末が待っているのなら尚更だ。
覚悟こそ幸福だという言葉があるがとてもそうは思えない。
ましてや、二度目の人生があまり良く無い未来が待ち受けていると知っていたら尚更だ。
それが私こと、ユニに待っている絶望の未来である。
――――碌な未来がねぇ…………!
突き付けられた現実を前に思わず打ちひしがれて、ベッドをバンバンと叩いてしまう。
何故『家庭教師ヒットマンREBORN!』の世界に転生してしまったのか、何故未来編のヒロインであるユニになってしまったのか。
疑問は尽きないし正直色々なものを吐き出してしまいそうになる。
この身体の利点なんて予知能力くらいのもので、デメリットは短命の呪いや大空のアルコバレーノ、そしてマフィアの家系である事だ。異能があるにも関わらず貧弱で小さい少女の身体はデメリット以前の問題である。
「
幼い口から出たのは汚いスラング。
自分で言うのもなんだが本来の歴史通りの私のように振る舞うなんて絶対に出来ない。
前世の記憶、と言っても前の自分がどんな人間だったかなんていうのはあまり覚えてない。男だったかもしれないし女かもしれない、歳をとっていたかもしれないしもしかしたら幼かったかもしれない。
ただ前の私はこの世界の事を知っていた。それだけは分かる。
正直なところ原作知識という名のこの世界の知識もあやふやで完璧に記憶出来てるわけではない。それでもこの世界で優位に立ち回れるだけの知識はあった。
が、それがどうしたって話でもある。
仰向けになってベッドに寝転がる。
この世界の超常の力、死ぬ気の炎は人体から生成するにはボンゴレファミリーの死ぬ気弾や主人公の沢田綱吉の成長によって生み出された小言弾、あるいは死ぬ気丸が必要だ。それ以外にも方法が無いわけではないがリスクが高過ぎるし難度も酷過ぎる。
改めて分かるのがボンゴレファミリーが死ぬ気の炎というエネルギーを独占してるようなものだという事だ。本人達にそのつもりはないだろうがきちんとしたマニュアルがあるというのはそれだけで強いんだ。
「ボンゴレファミリーが最強のマフィアだというのも分かる話だ」
じゃあもう一つの方法、リングを使っての死ぬ気の炎は現時点だと割とありな手段だ。
未来世界だと
ちなみにリングの強さが分かってるのもボンゴレファミリーです。
そりゃ最強のマフィアって呼ばれますわ。お母さんのジッリョネロファミリーも知ってるけど方針からそこまで勢力を強めてないし。いや、ボンゴレは2代目からの方針転換と初代霧の守護者の暗躍で強大になっていったからか。
「欲を言えばAランク、最低でもCランクは欲しいなぁ。間違いなく無理だろうけど」
ミルフィオーレファミリーだと
でもAランク、推定Aランクのリングってミルフィオーレの量産品を除けばヴァリアーリングやヘルリングぐらいしか出てないしどれもこれもがお宝といっても過言じゃない代物だ。ヴァリアーリングの素材だってボンゴレ2代目が残した至宝『虹の欠片』という、貴重品を使って作られている。
多分Aランクのリングは手に入らないだろう。一度も記述が無かったBランクも難しい。
CやDも同じく不可能。お金も無いし、お母さんがリングの事を知っているから絶対に私の手元に置くことはしないだろう。
危険物ですからねリングって。だからこれは私の願望でもあるのだ。
「本当、どうしたら良いんだろう」
思考が悪い方向へ、ネガティブな方向へと進んでいくのが分かる。
転生者が幼少期から何か行動を起こして良い方向に話を進めていくなんていうのがよくあったけど、私の場合はどう足掻いてもダメだ。力はあるけど物理は無い、エネルギーはあるけどそれを生かすハードが無い。未来を見る力はあってもその未来を変えられるだけの力も無い。
無い、無い、現状を変えるだけの力が何も無い。
本当、笑えない。
「ユニー、入るわよ」
扉の外からお母さんの、アリアの声がした。
どうやら今日は帰って来たらしい。
「あら、まだ起きてたのね」
「…………眠れなかっただけ」
部屋の中に入って来たお母さんに不貞腐れたように呟くと、立ち上がって駆け寄る。
するとお母さんはぎゅっと私を抱き締めた。
「何か悲しい事でもあったのかしら?」
「…………うん。ちょっとね」
やっぱりと言うべきか、お母さんは私の悩み事を見抜いてるかのように優しく語りかけて来た。
お母さんの体温の温かさを実感しながら、考えていた事を悩んでいた事を話すか迷う。
でも話さないと心配するだろうから、全部は話さず一部だけ話す事にした。
「お母さんは悲しい未来を見た時、どうしたら元気になるの?」
「…………そう、ね。私もユニと一緒で昔は、ううん、今も悲しい未来を見た時は落ち込んでいたわ。でも、私のお母さん、ユニのお祖母ちゃんが教えてくれたの」
お母さんは昔を、お祖母ちゃんの事を思い出しながら言う。
「うれしいときこそ、心からわらいなさい。周りを幸せにしたいのなら自分も心の底から笑えないとダメだからね」
「そう、だね」
「だからユニも、辛い未来を見た時は嬉しい事を思い出して。今は難しくても、私は貴女の笑顔が大好きだからね」
お母さんの、お祖母ちゃんの言う通り嬉しい時に心の底から笑えたなら辛い未来を見た時でも立ち直れるだろう。
でも、今の私ではそれが無理だということも分かっていた。
本当、何で前世の記憶なんかあるんだ。こんなものが無ければ私だって諦めることが出来た。諦められたんだ。
「…………お母さん、今日一緒に寝ても良い?」
「ええ、良いわよ」
私はお母さんの腕の中で抱かれたままベッドに入る。
未来を視る力、予知能力。ご先祖様であるセピラから受け継いだ私達の異能――――或いは呪いは逃れられない運命として現実を突き付けてくる。
お母さんは私が見た絶望の未来を見る事が出来ない。もうそれだけ先の未来を視る力が無いから。
短命の呪いは確実にお母さんの命を蝕んでいる。
――――何とかしたい。
お母さんはジッリョネロファミリーの、マフィアのボスだ。
世間一般では悪人で、存在しない方が良い人間なのかもしれない。
でも、私にとってはたった一人の大切なお母さんだ。
死んでほしくない。人間なんだからいつかは死ぬってのは分かっている。それでも死ぬのはしわくちゃのお祖母ちゃんになってからで、孫とか曾孫とか家族に見守られながら安らかに幸せに眠ってほしいんだ。
どうして前世の記憶があるんだ。どうして短命の呪いが解けるって事を知ってしまったんだ。
知ってしまった以上、戻れないだろ。
「何とか、しなくちゃ」
眠りについたお母さんに聞こえないような小さな声で呟く。
これは我儘だ。本来の私なら絶対にしないであろう我儘だ。
私はお母さんに死んでほしくない。例え決められた運命に反逆する行為だとしても、平穏な未来へと続く道をかなぐり捨てる行為だったとしても、私はお母さんに生きていてほしい。
でもどうやって?
ジッリョネロファミリーの人達はダメだ。彼等ではお母さんを救えないし、今の私と接点がない。
アルコバレーノの皆もダメ。会った事はあるけど彼等もアルコバレーノの呪いを解決する手段を持っていない。
ミルフィオーレは論外、間に合わない。
ボンゴレもダメだ。9代目は優しいけど別のマフィアである以上、どうにかするなんて事は出来ない。
誰が居る? 頼ることが出来て、間に合う可能性があって、共犯者になってくれる人は――――、
「…………居る」
たった一人だけ、居る。
強さもあって潜在能力も成長性も高くて、何よりこんな無理難題を頼んでも引き受けてくれる人が居る。
とはいえ、色々と問題はある。
今の彼が頼れるだけの強さがあるか、初対面で関係を築けていない相手にこんなお願いをしても断られないか、何より周囲を通じてお母さんに私の企みがばれないかとか。
でもこの問題を解決するものがたった一つだけある。
そしてそれは今、お母さんの胸元にあった。
「大空のアルコバレーノのおしゃぶり」
アルコバレーノのおしゃぶりの中でも特別な役割を持っているこれを、
これの力を使えばちょっとした願いなら叶う。
未来で造られたものを過去の世界に送っても問題無いようにしたり、未来の記憶を過去の世界に伝えたり、起こった出来事を過去に遡って無かったことも出来たりする事が可能なのだから。
産まれた年代がずれている人を同じ年代で産まれていた事にする事だって出来る筈だ。
「私の年代を、沢田綱吉の年代と同じにして」
私の企みを、共犯者になってくれる唯一の人物。
この世界の主人公にして救世主、彼が産まれた時代に私が産まれた事にする。
そして家庭教師に出会うよりも前に会って力を私が望む方向に目覚めさせれば良い。
お願いを聞いてくれるかは分からない。でも、彼が優しい人だと知っている。
欲に塗れた願いじゃなく、お母さんを助けたいってお願いなら聞いてくれる筈だ。
それでもダメだというのなら、この身体を差し出すつもりだ。
大空のおしゃぶりが私の思いに呼応して、死ぬ気の炎が灯り世界を再編する。
――――これは私がお母さんの呪いを解く物語だ。