転生ユニちゃんは笑いたい 作:夜明けの鐘楼
私の未来視はあまり良い未来を見せる事はない、なんて事は無いが大抵良い未来ではない。と、いうのも私がそういった自分にとって都合の良い未来を見ないし歩まないのが一つ、未来を見る時点で良くない事が起こると分かりきってるってのが二つ。
そして最後に予知そのものが滅茶苦茶疲れるからそう何度も使えない。
見る未来によってはこっちの精神も疲弊するし、本当に必要な時にしか使用出来ないという欠点もある。一応普通に振る舞う事は出来るが、戦闘とか激しい運動とかはもっての外。
はっきり言って欠点が多過ぎる。
まあそもそもの話、未来を見まくっている時点であまり好ましくない未来でしかないのだが。
「…………死ぬ」
その事実を身を以て思い知らされた私はソファーに突っ伏していた。
体調は絶不調。熱も多分ある。鼻血が出て来る。鼻の穴の中にティッシュを詰め込んでいるせいで呼吸がし辛い、乙女としての尊厳も失った気分だ。
それでも、こんな有様でもまだマシなのだろう。
アルコバレーノの力を使った世界の改変に加えて予知を使ったんだから。
「…………酷いです、最悪です、糞です」
ぐわんぐわんと世界が揺れている。
実際に世界が揺れているわけじゃない、自分の体調が絶不調過ぎて視界が回っているだけだ。
「本当に、死にそう」
今にも嘔吐してしまいたいくらい、本当に気持ち悪い。
乙女の尊厳を死守する為、何とか堪えているけどもう意識を保っていられない。
「だけど、今までで一番良い未来が見れた」
世界改変後に最初に見た未来。
私と同い年ぐらいの少年が同じ場所に居るというものだった。
年齢は恐らく4歳ぐらいで重力に逆らっているような、けれどもどこかふわふわとしてそうな琥珀色の髪を持っている異国の血が混ざった日本人の男の子だ。
悪く言えば情けない、良く言えば優しそうな少年は未来の私の隣でぐすぐすと涙を流していた。
間違いなく沢田綱吉だ。私が知る姿よりもかなり幼いけど、間違いなく沢田綱吉だった。
どうやら近い未来で私と彼は出会うらしい――――ただ一つ、懸念点があるとするのなら二人とも縄で両手両足を縛られた状態で密室の中に閉じ込められている事だ。
それに加えて、それより先の未来が見えない。
「シチュエーションはこれ以上ないほど最悪だし、すっごく不安だけど…………それでもまだマシだ」
私の予知の欠点、それは先の未来が見れない場合がある事だ。
そしてそういう時は非常に良くない事が起きている。しかし、未来が見れない事は決して悪い面ばかりではない。
未来が見えないという事は結末がまだ定まっていないという事でもあるのだ。
つまり、この予知は分岐点でもある。私が沢田綱吉を味方につけ、お母さんの呪いを解く為の試練と言っても過言ではない。
ただもうちょっとだけ、私に優しい未来があっても良いのではないかと思うところも大いにあるが。何で一番良い未来が、私が求める結末へ向かう筈の未来が苦難と困難に満ちているんだ。
「この予知は回避出来ない。なら出来る対策はしておかないと」
熱に魘されている今出来る事は私と沢田綱吉、未来の二人の服装や持ち物を注視する事ぐらいだ。
二人とも縄で縛られているのもあって持ち物は着ている服と靴ぐらいだ。
鞄とかも持っていないし、本当に服の中とかに刃物を隠すしかない。
でもどうしたら良いのか。刃物なんか持ち歩けるわけないし服の中に隠していたら怪我だってしかねない。
何かないか子どもの自分でも隠せるような小さな刃物を怪しまれないように持ち運べて、拘束された状態でも使えるようなものが何か――――。
「…………ないわけじゃない、な」
その為には自分で自由に使えるお金が必要だけど、何とかするしかないか。
一先ず体調をとっとと治して、お母さんに日本に連れて行って貰えるよう頼み込むとしよう。
今の頭で考えても碌な事にならない。
後で冷静になってからしっかり計画を練って考えれば良い。
「あ、ダメだ。意識が…………」
身体に襲い掛かる眠気、というよりは
+++
「ユニ、ここが日本よ」
飛行機の中で14時間近く過ごした後、私はお母さんに手を引かれて空港から出て外の景色を視界に納める。
前世では良く見知った、今生では初めて見る街並みに思わず息を飲む。
「おお、ここが…………日本ですか。思ってたよりも和、って感じじゃないんですね」
「昔や田舎なら兎も角、都会はどこも同じようなものよ」
まあお母さんの言う通りなんだが。
でもネットが発達する全盛期ちょっと前の時代なら日本の事を侍や忍者の国だって思ってる人も居ないわけじゃない。
実際、暗殺剣*1が受け継がれているんだからそう間違いじゃない。
「でもいきなり日本に行ってみたいだなんて…………まあお母さんも仕事があったから丁度良かったんだけど何かあったのかしら?」
背骨の中に氷柱を突き刺されたような感覚に陥る。
お母さんの予知能力は弱まっている。だから私が見た予知をお母さんが見る事は出来ない。
けど、私よりも長く予知能力を持っていた事もあってか感が非常に鋭い。
だからなのか、私が何か未来を見た事で日本に行きたいという事を見抜いている。
それがどんな未来なのかは分かってないかもしれないが。
世界の改変の方も気付かれて、はないと思いたい。寝てる時にやったし私が主体になってやったから大丈夫な筈。
「それよりもお母さん。これからどこに行くの?」
「ええ、並盛町っていうところに行ってね。ちょっと取り引きをして来ないといけないの」
並盛町、その単語に思わず息が止まる。
その町で会うお母さんの取り引き相手なんて、ほぼ間違いなくボンゴレ関係者だ。
超直感の持ち主が居ない事を祈りたいけど、多分そう上手くはいかないかもしれない。と、いうかボンゴレ関係者が居て私と沢田綱吉が誘拐されてた辺り、かなりのアクシデントがあるかもしれない。
さっきおやつと一緒に買って、靴の中に隠したものを見抜かれなければ良いのだけど。足の中違和感凄いから気付かれないように歩くのも苦労する。動きやすいようボーイッシュな格好にしたけど、これじゃあ差し引き0だ。
「大丈夫?」
「――――うん。大丈夫」
本当は全然大丈夫じゃない。けど細かい事を態々言わなくても良いだろう。
よくよく考えれば沢田綱吉と会う以上、ボンゴレ関係者に会うのは必然だ。
彼の父親は沢田家光、ボンゴレファミリーのNo.2だ。いや、正確には門外顧問だから違うのか。でも実質的には二番手だし強ち間違いでもない筈。
いずれにせよ、沢田綱吉との出会いは近いのだから余計な事は考えないようにしよう。近い内、私は彼と共に何者かに閉じ込められるわけなんだし、今はそれを対処する方を考えよう。
母さんに悟られないよう考えながら車に乗って目的地に向かう。車に乗ってる中、必ずしもボンゴレ関係者と会うわけじゃないと思ったが向かっている先が何処にでもあるような普通の住宅街である事に気付いてしまう。
そして、極々普通の住宅街にある公園に車を停め、そこで待っていたアロハシャツを着たお爺さんの所へお母さんは近付いていった。
「お久しぶりです。ボンゴレ
「久しぶりだねドンナ・ジッリョネロ。そちらがきみの――――」
「ええ。子どものユニです」
一見何処にでも居そうな普通のお爺さんにしか見えない。
イタリア人の老紳士が日本に居る時点で普通とは言えないけど、少なくともこの人があの泣く子も黙るボンゴレファミリーのボスだとは思えない。
だけど、それ以上に目を引いたのは彼の後ろに居る3人だ。
ボンゴレⅨ世から距離を取っては居るけど、いつでも駆け付けられる距離に居る筋骨隆々の男性。そしてその男性と比べると小柄で温和そうな女性が、彼女の息子と思わしき子どもと遊んでいる。
その子どもは私が予知で見た子どもと同じ顔、同じ髪型をしている。
間違いない。彼こそが沢田綱吉だ。
「初めまして。私はティモッテオと言うんだ」
お母さんのスカートの裾を握り締める力が強まる中、ボンゴレⅨ世がしゃがみ込んで私と目を合わせる。
「…………ユニ・ジッリョネロ」
「彼が気になるのかい?」
「…………うん」
この人の前では私の企み等、見透かされていてもおかしくない。
けど、私には彼しか頼れる人が居ないんだ。
そんな思いを理解したのか、それとも何かしら考えがあったのかは分からない。が、ボンゴレⅨ世は沢田綱吉の方に視線を向けた。
「子どもは子どもと遊んでいるのが一番だ。私はきみのお母さんと話をするから、その間一緒に遊んでおいで」
ボンゴレⅨ世に背中を押されるような形で、私はゆっくりと沢田綱吉の方に歩みを進める。
そして彼の前まで来た時、沢田綱吉は視線を此方に向けた。
「――――初めまして。私はユニ・ジッリョネロと言います」
私のあいさつと自己紹介を聞いて沢田綱吉は少し戸惑ったように呟く。
「え、っと…………英、語?」
そう言えば転生してからイタリア語しか喋ってなかったよ。