転生したら扇の息子だったんだが   作:とある外郎売り

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アニメのブームに乗って書いて見ました。承認欲求の獣なのでなにかしら反応ください




第一話 転生したら扇の息子だったんだが

 

 

 頭に響く赤子の声が自らのものであると気付くのに数秒を要した。

 

 やりきれない思いを胸に燻らせながら安酒を流し込み床に入ったところまでは覚えている。

 

 プールで溺れた時のような窒息感で目が覚めた。救急車を呼ぼうとスマホに手を伸ばしても思うように体が動かない。

 

 窒息感と相待って半ばパニックになってしまい、大人気なく泣き喚いてしまった。

 

 しばらく喚き散らしていれば息を吸えるようになった。

 

 僅かに落ち着いたので周囲の様子を探ることにした。と言うのも、俺のいる場所が自室ではなく、また何人かの女性の声がしたからだ。

 

 看護師の声だろうかと思い耳を覚ましてみれば、清子(きよこ)様とか元気な男の子ですよとか言った声がして──その声には安堵や祝福の色が含まれていて──この赤子のような泣き声が自分のものであると理解した。

 

 とは言ってもまだまだ状況の整理が追いつかず混乱している内に、何かをちょんぎられた感覚と共に体を持ち上げられた。そう思えばなにやら柔らかい布に包まれ、誰かの腕の中で横抱きにされる。なんかこの態勢落ち着くな。

 

 お、目開けそう。

 

 ようやく開けた目に飛び込んできたのはぼんやりとした肌色で、それでも腕の柔らかさと俺ともう一人の誰かに向けられた声から、それが女性の顔だとはっきりわかる。

 

「……よく、頑張りましたね」

 

 掠れた声だった。泣き疲れた喉を押し出すように、奥へいる誰かへ向けて労いの言葉をかけている……はずなのに、どこか無機質に感じてしまうのは何故だろう。

 

 俺は出産現場に立ち会ったことがないが、彼女は……おそらく産婆だろう、とにかく赤子の命を預かる立場なのだから、理性的に努めようとしているのだろうか。

 

 視界がゆっくりと焦点を結ぶ。薄暗い空間。木目の天井。重たい梁。やけに広い和室を無理やり分娩室に仕立てたような、不格好な光景。消毒液の匂いの奥に、古い木と畳の匂いが混じっている。

 

 なんとなく理解はしていたが……ここは病院ではないようだ。

 

 産婆が、俺をもう一人の女性の元へゆっくりと手渡した。体を包む白い布……おくるみだろう。目が覚めると知らない天井。思うように動かない体。女性に軽々と持ち上げられているこの現状。

 

 泣きじゃくった後の気だるい頭で導き出した結論は、つまり俺が赤子になっている、と言うことだ。眠っている間にみている悪夢かな?とも思ったが、この息苦しさとおくるみ越しに感じる手の温度が、イマが現実であると如実に伝えている。あるいは、そう思い込みたいのかもしれない。

 

 俺を抱く女──清子は、まだ青白い顔をしていた。額には汗が張りつき、黒髪は乱れている。けれどその腕は、震えながらも確かに力強かった。

 

「……男の子、です。清子様」

 

 産婆がもう一度告げる。俺は再び男として生を受けたらしい。今回は、どうなんだろう。

 

 清子はゆっくりと、腕の中の俺を覗き込んだ。その目は。

 

 安堵、諦念、そして──背筋の凍るような、濁った喜色。この目には見覚えがあった。子を子として見ていない、何かに取り憑かれた大人の目だ。

 

 ……またか、と思った。分不相応な期待を投げかけられるのは嫌いだ。この瞳を持った人間は、往々にして自分の期待にそぐわないモノを痛めつけるから。

 

「……この子は」

 

 清子は何かを言いかけて、言葉を飲み込む。障子の向こうで、足音がした。規則正しく、強く踏み鳴らされた音。察するに、清子が言い淀んだ理由は、障子の奥で立ち止まった人間にあるようだ。

 

 証拠に、部屋の空気が一瞬で変わった。

 

 顔は見えない。だが、空気でわかる。強いプレッシャーが廊下越しに滲んでくる。まるで獣の縄張りのように。え怖。一応成人を迎えていた俺でも恐怖で涙が溢れ出る。殺気?怒気?何やらわからないが尋常でない雰囲気であることは分かる。

 

「……旦那様がおいでになられました」

 

 産婆のひとりが小さな声で伝える。一変して静まったこの部屋の中では声を張り上げる必要はない。が、彼女が声を潜めたのはひとえに障子の奥にいる何者かを刺激しないようにするためだとなんとなく理解した。もしかして現代日本じゃない感じ?なんか化け物みたいなやつが出てくんのか、と身構えたその時。

 

 障子が、すっと開いた。

 

 男だった。少なくとも初老は超えている。髪を後ろで括っていて、男の雰囲気も合わさって獣の尾のように見えた。ぎょろりとした目は、強膜が黒く、瞳孔が黄に染まっていた。その特徴的な相貌に見覚えがあった。

 

 冷えた視線が部屋を横断する。その視線が向けられているのは清子ではなく──俺。

 

「……呪力は」

 

 第一声がそれだった。じゅりょく。今どう考えても呪力って言ったよな?お屋敷の一室のような分娩室。男の顔。前世では経験したことのないようなプレッシャー、そして呪力というワード。点と点が繋がる。マジか。ほぼ確信しているが信じられない、というより信じたくない中で、大マジだよ。と某目隠しのようなツッコミを入れてしまう。

 

 父親の顔は整っている。だがそこに感情はない。あるのは底無しの自己愛と自己憐憫。カスの乙骨。

 

 この男の名前を、俺は知っている。

 

 禪院、扇。

 

 その息子に、転生したのか……!!

 

 扇の声を聞いて、清子の俺を抱く腕の強さがわずかに強くなった。顔には出していないが、怯えているようだ。呪力の確認。あのプレッシャーが、今の俺にも宿っているのか?なんて巡る思考の中で、ある家訓が閃く。

 

 ──ゼンインケニアラズンバ──

 

 あれ、これ呪力ないと死ぬ?呪術廻戦(げんさく)では、禪院扇の子供は真希と真衣の二人だけ。少なくとも、息子がいたなどという設定は聞いたことがない。

 

 実際の日本でも、昭和中期あたりまでは子供の間引きが行われていたらしい、ましてや禪院家、禪院扇の子供であるのならば……出来損ないは殺される可能性がある。いや、真希が生きているから大丈夫か?分からない。クソ、取り敢えず呪力を、呪力を絞り出せ……!いやどうするの!?助けてゴジョセン!

 

「まだ、確認は……」

 

「今すぐだ」

 

 俺が腹に力を込めている間に事はどんどん進んでいく。部屋の空気が張り詰める。清子の呼吸が浅くなるのがわかる。待って、と叫びたいのに、俺の喉から出るのはただの泣き声だ。

 

 畳の上に、影が落ちる。

 

 扇が一歩、近づいた。

 

 その瞬間──僅かに、扇が放っていた(プレッシャー)()()()。腹を中心に伸びた触手(じゅりょく)が、扇の動きに微かに遅れ、唸るように揺れて──見える。青。空間に満ちる大気とは別の概念、呪力。

 

 腹が熱い。血が通るように。火口からマグマが噴き出すように。

 

 俺の丹田から、煮えたぎった呪力が胎動する──!!

 

 

 

 ──ずおっ

 

 

 

  熱とも冷たさとも違う感覚。血流とは無関係に、全身を駆け巡る「圧」。身体がきしむ。小さな骨が悲鳴を上げる。これが、

 

 畳が、障子が、灯りが、揺れる。

 

「――――ッ!?」

 

 初めて、扇が目を見開いた。産まれたばかりの赤子が、今の扇を超える程の呪力を顕にしたからか。あるいは、部屋を覆い尽くすこの呪力に怯えたからか。いや、扇だけではない。産婆たちが、悲鳴を上げる暇すらなかった。

 

 全員がその場に縫い止められたように動けない。呼吸すら浅くなっていた。

 

 呪霊がいるわけじゃない。誰かが殺気を放っているわけでもない。ただ──俺一人から滲み出る呪力が、この現象を引き起こしている。俺が、あらゆるモノをねじ伏せている。なんか凄い全能感を感じる……!!が、清子が怯えているようなので呪力を押し留める。栓が開けてからは簡単だ。息をするようにそれを操れる。

 

「…………は。は、は──!!!!」

 

 呵呵大笑。扇が堪えきれないように笑った。予想を遥かに超える逸材だったのだろう、今の彼の脳内はよほどバラ色に輝いていると見える。

 

哉真人(ヤマト)だ。これの名前を、禪院哉真人とする!」

 

 対して清子の方は虚ろな目をしている。禪院家の男児は碌な大人にならない。手に抱いている我が子もいつか自らを蔑むようになるのだと諦めているのか。

 

 そんな混沌とした一室の中に、俺は生まれた。

 

 力を持って生まれたのだ。真希や真衣が生まれているのかは知らないが、真希に依らずとも、弱者を虐げ続けるこの家はいつか破滅するだろう。そのいつかのときに死なぬよう、精々己の好きなように生き足掻いてみよう。

 

 

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