好奇心の下僕   作:かんぱにい

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ブレーズ・パスカル『パンセ』


二つのものが、人間にその本性のすべてを知らせてくれる。本能と経験。

翌日。

前日に高まっていた気分が急降下しているのがわかる。

その理由は監視カメラだ。

上を見れば、あらゆる場所にカメラが設置してある。

これには思わずげんなりしてしまった。

あの場所を想起させるからだ。

 

流石に昨日の今日で敷地内の全てに出向いたわけでもない。

それに、プライベートな空間……私室やトイレにはなかった。

そう考えればまだマシとも言えるが、過剰なことはやはり気にはなる。

教室、廊下、通学路、マンション内部。

あの場所で培った、視線に対する感覚は、場所が変わったくらいでなくなるものではない。

 

「はぁ……」

 

思わず溜め息がこぼれる。

他の生徒は多少落ち着いてはいるが、まだまだはしゃいでいる様子だ。

 

「ちょっと、これみよがしに溜め息をつくの、やめてくれない?」

「ん、ああ、悪い堀北。監視カメラが気になってな。どこに行っても見張られているようでどうにも気分が悪い」

「そうかしら。確かに学校にまで監視カメラがあるのは珍しいけれど、常識の範囲内でしょう」

「そういうものか……」

 

長いことホワイトルームにいたせいで、拒絶反応が出ているようだ。

まあ何か目を付けられるようなことがしたいわけではないが。

 

 

授業に集中してしまえば、監視カメラも気にならなくなると考えていたが、それは誤りだった。

今更高校1年の、それも4月に学習するような内容など、とうの昔に終わっている。

流石に居眠りなどはしないが、ペンを握ったまま、何もせず授業を受けることになってしまった。

 

「……っと、ちょっと! あなた、聞いてるの?」

「……ん、ああ、堀北か。どうした?」

「どうしたもこうしたもないでしょう。もう昼休みよ? いつまでぼーっとしているつもり?」

 

時計を見ると、既に昼休みに入って15分が過ぎていた。

教室には、ほとんど人がいない。

どこへ行ったのだろうか。

 

「そうか、ありがとう堀北。ところで、他の人はどこに行ったんだ? 姿が見えないが」

「知らないわよ。学食にでも行ったんじゃない?」

「学食……そういえば昼食は買いに行くものだったな」

 

栄養バランスのみを突き詰めたような味気ない食事が、毎日決まった時間に出るのがホワイトルームである。

 

「はぁ……いつまで中学生気分なのかしら?」

「残念だが、俺はホワイトルーム出身だから中学校は行ってない」

「堂々と不登校宣言するとはいいご身分ね」

「終戦で日本の貴族位はなくなってるぞ」

 

確かに親父は元政治家で、今なお権力を振りかざすような男だが、俺が仮に問題を起こしたとして、それをなかったことにするとは思えない。

いや、自分にも影響が及ぶと分かればその時は対処するだろうが。

 

「それだけ軽口を叩けるなら保健室に行く必要はなさそうね」

「安心してくれ。生まれて此の方、医者の厄介になったことはない」

「馬鹿は風邪ひかないって言うものね」

「自慢じゃないが、俺はこの学校にいる誰よりも能力が高いと自負している」

「コミュニケーション能力の欠如が見られるわ」

「……」

 

そう言われると何も言い返せない。

学校に来てから実際話し相手になったのは、堀北と須藤の二人しかいないのだ。

仕方がないので、今日はとりあえず購買を覗いてみることにした。

 

 

「あんぱんだけか……」

 

購買に行ってみたはいいものの、授業初日ということもあってか、手に入ったのは菓子パンひとつだけ。

男子高校生の、というかホワイトルームで底上げされた俺の基礎代謝を満たすには全く足りない。

 

帰りに何か食べ物を買おうと考えながら歩いていると、ふと背後に気配を感じた。

 

「あの、綾小路くん、だよね?」

「ん? ああ、櫛田か」

 

声をかけてきたのは櫛田桔梗。

自己紹介でみんなと友達になりたいと言っていた、顔立ちの整った女子である。

他の男子生徒が鼻の下を伸ばしていたことをよく覚えている。

なお、堀北も別ベクトルで美人ではあるが、会話が成り立たないので人気はなさそうだ。

 

「えっと、綾小路くんは自己紹介で私が言ったこと覚えてる?」

「もちろん。みんなと友達になりたい、だったよな」

「うん! ……だから、連絡先を交換したいんだけど、ダメ、かな……」

「そんなことはないぞ。櫛田みたいな可愛い子に言われて断る男はいない」

「あはは、ありがとう!」

 

異性から可愛いと言われることに慣れているのだろう。

俺が褒めたことで恥ずかしがる様子はない。

 

「あれ? 綾小路くん、堀北さんの連絡先は持ってないの?」

「……なんでそう思うんだ?」

「だっていつも話してたでしょ?」

「別に仲がいいわけじゃないぞ。隣の席だから話す機会があるだけだ」

「そっかぁ。私は堀北さんとも友達になりたいんだけど、断られちゃって。ねぇ綾小路くん、私と堀北さんが友達になるの手伝ってくれない?」

「もちろんいいぞ……と、言いたいところだが……」

 

可愛らしく首を傾げる姿は、男子の庇護欲を掻き立てるだろう。

 

「何かろくでもないことを考えてるだろう」

「えっ!?」

「俺と連絡先を交換したいって言った時と今で目が違う」

 

あの目はホワイトルームで俺を見る研究者と同じだ。

親父に従いつつも、どうにか自分に利益をもたらそうと画策する、そんな目。

 

「まあ、そこはどうでもいいんだけどな。もし本心から堀北と仲良くなりたいんだったら、『友達になって』っていうんじゃなく自然と話しかけた方がいい」

「……そっか。ありがとう綾小路くん」

 

櫛田は何か言いたげではあったが、言葉を飲み込み最後まで笑顔で歩いていった。

 

ちなみにあんぱんは美味かった。

 

 

 

HRが終わり、俺は体育館にいた。

というのも昼休みに、放課後に部活動紹介なるものがある旨の放送があったのだ。

一人で行っても良かったが、どうせなら説明役がいた方が良いと考え、堀北を誘った。

堀北の性格上、すぐに誘っては断られるだろうと思い、放課後に誘うことにした。

 

「なあ堀北」

「……何かしら」

「俺は何の部活に入ればいいと思う?」

 

数回話してみてわかったが、堀北に対してYesかNoで答える質問をすると、十中八九Noと返ってくる。

基本的に会話を続けるつもりがないのだ。

逆に、そうでない質問をすれば大抵は返事がくる。

 

「……はぁ? 自分で考えなさいよ」

「何度も言うが、俺は部活が何なのかすらよくわかってない。堀北なら知ってるだろ?」

 

知らない、とは口が裂けても言えないだろう。

中学校にも部活動はあったはずなので、知らないはずもないのだが、それはさておき。

自分の能力にかなりの自信を持っている堀北鈴音という少女は、能力をひけらかすことはしないが、能力が劣っていると思われることを嫌がっている。

加えて、一度吐いた言葉を飲み込むこともないだろう。

 

「…………はぁ、いいわ。付き合ってあげる」

「いいのか? 助かる」

「気が変わっただけよ。あなたのためじゃないわ」

 

 

 

体育館には、既に少なくない人で溢れていた。

中にはクラスメイトの姿も見える。

 

 

「しまったな。もっと早く来ていればよかったか」

 

生徒会の挨拶が終わり、各部活動の紹介が始まると、体育館前方は興奮の坩堝にあった。

遅れて入ってきた俺たちは、騒ぐ声に遮られて紹介が聞こえなくなることも多々あった。

 

「球技にチャレンジしてみるか……? 陸上も水泳もある……。どうするべきか……」

「本当に優柔不断なのね。とてもじゃないけれど役に立つとは思えないわ。まあ部費を集めるための餌にはなるんじゃないかしら」

 

国の管理下にあるだけあって、数多くの部活動が存在するらしい。

サッカーや陸上などの運動系はもちろん、茶道や裁縫など、文化系の部活もある。

中には兼部も可能なものもあった。

恐らくは部員不足なのだろう。

高度育成高等学校は、決して入学者が多いわけではない。

1学年40×4の160人しかおらず、更に言えば全員が部活動に入ることもない。

堀北曰く、リソースの奪い合いということらしい。

 

「……それで? 条件はあるの?」

「ん?」

「だから、部活動に求める条件よ。まさか、何も考えてないわけ?」

「あ、すまん。そうだな……正直活動日が多すぎるのは困る。あとは……買わないといけないものが多いと抵抗がある」

「全く、やる気というものが微塵も感じられないのだけど……まあいいわ。運動部なら水泳、文化部ならほぼ条件通りね」

 

運動部はやはり、ユニフォームやシューズなど、購入しないといけないものが多いらしい。

文化部でも消耗品があったり大会があると、やはりポイントを消費せざるを得なくなるようだ。

 

「うーん……。見学でもするか」

 

 

頭を悩ませていると、いつの間にか部活動紹介は終わっていた。

壇上には、上級生らしき人が立っていた。

鋭い眼光で、壇上から1年生を見下ろしている。

しかし、どこかで見たことのある雰囲気だ。

 

登壇からしばらくは騒がしかった体育館は、段々と男の風格に呑まれ、静かになっていった。

 

「私は生徒会長を務める、堀北学です」

 

なるほど、合点がいった。

恐らくは隣にいる堀北鈴音の兄なのだろう。

気が変わった云々は口実で、おそらく2年ぶりの再会なのだろうと、こっそり様子を伺うと、堀北は青白い顔をしていた。

 

「私たち生徒会もまた、1年生から生徒会入りを募ることになりますが、原則として部活動との兼部は認めていません。もしも生徒会への加入を希望する場合、部活動の所属は控えてください」

 

この言葉で、生徒会への熱が冷めていくのを感じた。

そもそも特に入りたいわけでもなかったが、せっかくの部活動の機会を制限されるのは言語道断である。

 

「それから──私たち生徒会は、甘い考えによる立候補を望まない。そのような人間は当選することはおろか、汚点を残すことになるだろう。我が校の生徒会には、規律を変えるだけの権利と使命が学校に認められ、また期待されている。そのことを理解出来る者のみ、歓迎しよう」

 

先ほどまではどこか説明じみていた生徒会長の口調が、冷徹なものへと変わる。

考えるに、後半があの生徒会長の本音なのだろう。

 

「堀北? 大丈夫か?」

「……」

 

こちらの言葉が届いていないのか、ふらふらとした足取りで体育館を出ていく。

声を掛けても良かったが、あの様子ではスルーされるのがオチだろう。

と、考えていると、俺の方が声を掛けられた。

 

「おっ、綾小路じゃねぇか」

「須藤? それに池と山内。来てたのか」

「おうよ!」

 

こちらを見つけ、ニヤッと笑う須藤。

グッと力を入れた須藤の腕には力こぶができていた。

 

「須藤はバスケ部に入るんだったな。2人はどうするんだ?」

「いや? 俺たちは別に?」

「そうか。須藤に着いてきたのか」

「それもあるが……1番の目的は運命の出会いを見つけるためだぜ!」

「運命の出会い?」

「可愛い女の子だよ! お前も興味あるだろ?」

「……まあ、な」

 

池と山内の2人は、自己紹介同様彼女を欲してここまで来たらしい。

さすがに部活に入りもせずに仲良くなることはないと思うが……。

 

「綾小路こそどっか部活入るのか?」

「いや、俺はまずいくつか候補を見学してからだな。今月末までには決めたいところだが」

「そうか。バスケはどうだ?」

「うーん、球技は得意じゃないしな」

 

半分は事実で半分は嘘だ。

ホワイトルームでは球技はなかったから、得意とは言えない。

ただ、やろうと思えばそれなりに動くことはできるだろう。

 

「そういやさ、Dクラスの男子でチャット作ったんだけど、綾小路も入るか?」

「いいのか? なら遠慮なく」

 

ピロンという電子音とともに、新たな連絡先が追加される。

なんとも不思議な感覚である。

あの場所では同世代の人間と関わる機会がなかった。

いや、正しくは、関わりを持ってもいいと思った頃には、自分以外は皆脱落していた。

そう考えると、やはりホワイトルームから抜け出せたのは僥倖と言える。

1週間後、俺はとある女子生徒に呼び出されていた。

 

「あの、綾小路君っ! えと、昨日はありがとうございました!」

「気にしなくていい。……それで、これは?」

「クッキーです! お礼に持ってきたんですけど……嫌、でしたか?」

「そんなことはない。ただ、クッキーを食べるのは初めてかもしれないと思ってな」

「え」

 

驚いた顔をする小柄な女生徒──王美雨。

何があったのかというと、時は月曜日にさかのぼる。

 

 

 

「綾小路君」

「平田か。珍しいな、1人でいるのは」

「あはは。僕だって四六時中誰かといるわけじゃないよ」

 

体育でペアとなった平田洋介は、時折俺に話しかけるようになった。

とはいえ、ほとんど挨拶を交わす程度。

平田の周囲には常に誰かしらが付き添っているからだ。

 

「それにしても、綾小路君は運動神経抜群だね。僕も自信があったんだけど」

「何、昔取った杵柄ってやつだ」

 

平田は一瞬きょとんとした表情を見せ、クスリと笑った。

 

「ははっ、面白いね綾小路君」

「別にボケたつもりはないんだが──」

「みーちゃん!!」

「きゃあぁぁ!!」

 

階段の上から悲鳴が響き渡る。

足を滑らせたのか、落下してくる女子。

あのままでは背中を強く打ち付けて脊髄損傷になる。

 

「危ない!」

「っと」

 

急いで落下地点に滑り込み、怪我しないようにキャッチする。

 

「大丈夫か、えっと、王」

「……はっ、えっと、はいっ!」

 

若干頬を赤らめた王だが、どうやら衝撃は殺せたようだ。

 

「足は捻ってないか?」

「大丈夫です! あの、恥ずかしいので……」

「ああ、すまん」

「みーちゃん、大丈夫?」

 

上から降りてきたのは井の頭。

心配してか王よりも青い顔をしている。

 

「うん、平気。あ、綾小路君が助けてくれたから」

「気にするな」

「本当にありがとうございました!!」

 

礼を言って頭を下げると、2人揃ってパタパタと駆けていった。

あの様子なら捻ったわけでもなさそうだ。

 

「あ、そうだ平田」

「ん? どうかしたかい?」

「空から女の子が」

 

ふと、先週の金曜日にやっていたアニメのセリフを思い出した。

そして俺は人生一の笑いを起こすことに成功したのだった。

 

 

──なんてことがあったわけである。

 

「まあとにかく、ありがたくいただくとする」

「あ、はい! それじゃ!」

 

またしても耳まで真っ赤になった王は、あっという間に教室の方に走っていってしまった。

 

 

「どうだったの綾小路君? 告白でもされた?」

「そ、そうなの綾小路君!?」

「違うぞ佐藤。助けたお礼にクッキー貰っただけだ」

「なーんだ」

 

俺が教室に戻って開口一番にからかい始めたのは、どこかお嬢様という感じがする、松下千秋。

つられた様子で慌てているのが佐藤麻耶。

平田同様、体育で俺に興味を持ったらしく、ちょくちょく話しかけられるようになった。

 

松下はどこか俺を値踏みするように見ているが、特にちょっかいをかけられることもないので放置している。

一方の佐藤からは、むしろ好意しか感じないので、逆にどう反応していいのかわからないのが現状だ。

 

「それにしてもクッキーなんて、かなり好感度高いんじゃない?」

「そうなのか?」

「そうだよ! だってお菓子だよ? しかも手作りの」

「すまないが、料理には詳しくないんだ。包丁を握ってまだ1週間の新人なもんでな」

 

ちなみにこれも半分は本当、もう半分は嘘だ。

料理の経験は皆無に等しいが、ナイフ術としてなら軍人だろうが制圧できる。

などと考えていると、2人が押し黙ったことに気付いた。

 

「あのさ……自己紹介の話って本当なの?」

「ああ、嘘偽りない」

「そっか……」

「ホワイトルーム、だっけ。そこでは何をしてたの?」

「天才を創り出す施設、と言えばいいか。頭脳、身体能力、とにかく優秀な成績こそ絶対だった」

 

今となっては懐かしさすら感じる場所である、が、俺にはもう関係ない。

今は青春とやらを謳歌することが先決だ。

 

「そういうわけで、お菓子を食べるのも初めてだな。……美味いな」

「じゃあさ、私が料理とか教えてあげよっか?」

「千秋ちゃん!? な、なら私も!」

「いいのか?」

「もちろん!」

 

まだまだ修行中、どころか料理初心者の俺にとってはありがたい申し出である。

 

「どうする? 今日の放課後から始めちゃう?」

「すまん、今日は先約がある。バスケ部の練習が休みらしくてな」

 

俺がホワイトルームを出て、最も変わったことと言えば、教わる側から教える側になったことである。

無論、あの場では途中からアウトプットがメインになっただけであり、またこの場で教師になったわけでもない。

ただ須藤の勉強の面倒を見ることになっただけである。

 

 

 

授業中、教師は生徒を一切咎めない。

私語だろうとスマートフォンを触っていようと、一切何も言わないのだ。

とはいえ、流石に居眠りはまずいだろうと思った俺は、居眠り第1号の額にデコピンを放った。

 

「あがっ! 何すんだ綾小路!」

 

手加減したつもりだったが、少し赤くなっている須藤の額。

ここまでやるつもりはなかったが、まあ過ぎたことだ。

 

「居眠りだけはやめておけ、須藤」

「お前には関係ねぇだろうが!」

「そうだな。でもあれだろ? 赤点取ると部活停止させられるって聞いたことがある」

「チッ……だとしたらなんだよ。いい子ちゃんぶって勉強しろってのかよ!」

「須藤、放課後はできるだけバスケの練習に使いたいだろ」

「たりめーだ」

「でも授業は出なきゃいけない。なら授業中に全部覚えてしまえばいい」

 

結局のところ、効率だけを考えるのなら1度で覚えるに越したことはない。

 

「はぁ? んな事できたら苦労しねぇよ!」

「そうか、だったら俺が教えるのはどうだ?」

「ああん?」

「須藤のことだ。テスト期間中にバスケの腕が鈍るのは嫌だろう? どんなものでも、『継続は力なり』だ。なんなら30分あればいい」

 

須藤のことだ。

嫌いな勉強ということに対して、恐らくはそれ以上集中力も続かないだろう。

 

「……本当にそれだけでいいのかよ」

「十分だ」

「言ったからな」

「ああ、もちろん」

「……つーか、めちゃくちゃ痛ぇんだけど」

 

それは、ほんと、すまん。

 

 

 

「あ〜あれか。綾小路君、よく須藤君にデコピンなんかできたね。みんなびっくりしてた。私なんか関わるのも嫌だよ」

「そう悪いやつじゃないぞ。須藤は上から目線だとか見下されるのが嫌なだけだ」

「そういうことじゃないんだけどなぁ」

「だって須藤君、目付きも態度も悪いじゃん。いきなりキレて殴ったりしてきそうだし」

「話せばわかる」

「見た目が怖いの!」

 

今須藤がいないからとはいえ、散々な言われようである。

 

「そうだ。佐藤も松下も、分からない所があれば教えられるぞ。料理を教わる対価だ」

「いいの? やったぁ!」

「えぇ〜? 須藤君にはタダで教えるのに?」

「──降参だ。なんでも言うことをひとつ聞こう」

 

楽観的な佐藤に対して、やはり松下は抜け目のない性格をしている。

 

こういう他愛もない瞬間を、青春と呼ぶのだろうか。

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