月曜日、俺と佐倉は生徒指導室に呼び出された。
理由というのは他でもない、土曜日の1件である。
俺と佐倉が着席するなり、呼び出した張本人──茶柱先生は頭を下げた。
「すまなかった、佐倉」
「え、えと……」
教師が頭を下げているということが落ち着かないのか、ちらっとこちらに目をやる佐倉。
俺としても少し驚きだ。
確かに教師とはいえ、一見生徒に興味のなさそうな茶柱先生が、佐倉に対して謝るとは思っていなかった。
「本来ならば学校側が早々に対処すべき案件だった」
茶柱先生はそう言うと、机の上に組んだ両手を一度ほどき、ゆっくりと顔を上げた。その表情には、いつもの厳しさとは異なる、どこか苦い色が滲んでいる。
生徒指導室に流れる沈黙が、重く胸にのしかかる。
「被害が表に出ていなかったとはいえ、相談の機会を作れなかったのは、我々大人の落ち度だ」
佐倉は小さく肩をすくめ、膝の上で指を絡めている。視線は床に落ちたままで、声を出すこともできない様子だ。
土曜日の出来事が、まだ彼女の中で整理しきれていないのだろう。
「怖い思いをさせた。……本当に、すまない」
再び頭を下げる茶柱先生の姿に、佐倉は慌てたように顔を上げた。
「い、いえ……その……」
言葉を探すように口を開き、結局何も言えずに俯く。その横顔には、まだ不安の影が残っていた。
茶柱先生は一度咳払いをしてから、淡々と、しかしはっきりと言葉を続けた。
「例の男は、その場で逮捕された。現在も勾留中だ。少なくとも在学中、敷地内に近づくことは一切できない」
その言葉を聞いた瞬間、佐倉の肩から、ふっと力が抜けた。
強張っていた背中がわずかに丸まり、浅かった呼吸が、ようやく深くなる。
「……そう、ですか……」
小さな声だったが、そこには確かな安堵が滲んでいた。
だが、茶柱先生はそこで話を終えなかった。
「それからもう一つ。男はポイントを不正に大量保有していた。約150万ポイントだ」
「……え?」
佐倉が思わず顔を上げる。
「それらは、卒業後に賠償金として佐倉に支払われる予定だ」
一瞬、言葉の意味が理解できなかったのだろう。
佐倉は目を見開き、ぽかんと口を開けたまま固まっていた。
「……ひゃ、150……まん……?」
安心が完全に驚きへと塗り替えられた表情を見て、俺は内心で小さく息を吐いた。
茶柱先生は、佐倉の驚いた表情を一瞥すると、少しだけ声の調子を落とした。
「……補足しておくが、その賠償金には口止め料の意味合いも含まれている。今回の件を公にせず、学校側としても穏便に処理するためだ」
佐倉は一瞬、戸惑ったように視線を泳がせたが、やがて小さく頷いた。
「……わかりました」
その返事は、どこか大人びて聞こえた。
「今日はもう戻っていい。佐倉、無理はするな」
そう促されると、佐倉は椅子から立ち上がり、ぺこりと頭を下げる。
扉へ向かう足取りはまだ慎重だったが、入室したときよりも確実に軽くなっていた。
俺も立ち上がり、彼女と並んで退室しようとした、そのとき。
「……綾小路。お前は残れ」
背後から、低く呼び止める声がかかる。
佐倉は一瞬振り返ったが、何も言わず、静かにドアを閉めた。
生徒指導室に残されたのは、俺と茶柱先生だけ。
扉が閉まる音が、やけに大きく響いた。
ドアが閉まったのを確認すると、茶柱先生の表情から先ほどまでの柔らかさが消えた。
感情の温度が一気に下がり、いつもの鋭く冷静な視線に戻る。
「……随分と思い切ったことをしたな」
探るような視線が、まっすぐこちらに向けられる。
「お前が佐倉を危険に晒した。違うか?」
俺は肩をすくめ、淡々と答えた。
「結果的には、そう見えるでしょうね。ですが、制御できない状況ではありませんでした。想定外が起きれば、すぐに手を打つつもりでしたし、実際──問題は起きていません」
言葉を選びながらも、後悔の色は混ぜない。
「荒治療に見えるかもしれませんが、あれが一番確実に終わらせる方法でした」
室内に、張りつめた沈黙が落ちた。
茶柱先生は腕を組み、椅子の背にもたれかかる。
「……結局、お前の狙いは何だ」
探るというより、確認に近い声音だった。
「最初から隠していません。目標はひとつ──ホワイトルームを終わらせることです」
一切の迷いなく答えると、茶柱先生はわずかに目を細めた。
「そのために、佐倉を利用する価値があると?」
その問いに、俺は即答しなかった。
一拍置いてから、軽く息を吐く。
「どうでしょうね。人の価値なんて、事前に測れるものじゃない。今はただの小さなきっかけでも、いつか思わぬ形で作用することもある」
視線を天井へ向け、淡々と続ける。
「蒔いたものが芽を出すかどうか──それを知っているのは、せいぜい運命の神様くらいでしょう」
茶柱先生は、それ以上追及しなかった。
短く息を吐き、視線を逸らした。
「……用は済んだ。もう下がっていい」
事務的で、感情を切り離した声音だった。
俺は椅子から立ち上がり、ドアへ向かいかけてから、ふと思い出したように振り返る。
「ああ、そうだ。一つ言い忘れていました」
茶柱先生の眉が、わずかに動く。
「あなたも、俺の計画に含まれています。使えるものは全部使う主義なんで──そのつもりで」
それだけ告げて、俺はドアノブに手をかけた。
背後から返事はない。
だが……わざわざあんな煽るような言い方をしたのだ。
それでも無言を貫くというのなら、肯定と取らせてもらう。
生徒指導室のドアを閉めると、廊下の静けさがやけに際立った。
そして、その静かな廊下の壁際に──佐倉が立っていた。
「……」
一瞬、思考が止まる。
まさか、盗み聞きでもしていたのだろうか?
反射的にそんな考えがよぎり、次の瞬間には否定する。
ここは生徒指導室だ。プライバシー配慮の名目で、壁は防音仕様。
外に声が漏れることはまずない。
……こんなことに気がつかなかったのは、給湯室だけ例外だったせいか。
「佐倉」
声をかけた途端、佐倉はびくっと肩を跳ねさせた。
「ひゃっ……!?」
明らかに驚いた様子で、慌ててこちらを向く。
その反応を見て、盗み聞きの線は完全に消えた。
「……もう帰ってもよかっただろ」
そう言うと、佐倉は一瞬だけ視線を彷徨わせ、指先をぎゅっと握りしめる。
「う、ううん……」
小さく首を振ってから、意を決したように続けた。
「い、一緒に……帰りたかったから」
声はか細いが、はっきりとした意思があった。
その言葉に、俺は一瞬だけ返答を迷い──そして何でもないことのように頷いた。
「そうか」
廊下に並んで歩き始めたものの、会話は続かなかった。
沈黙が、やけに長く感じられる。
俺も佐倉も、雑談が得意なタイプじゃない。
話題を探す視線が宙を彷徨い、結局どちらも口を開かないまま、靴音だけが一定のリズムで響く。
「……あ、暑いね」
耐えきれなくなったのか、佐倉が小さく呟いた。
ぎこちなく、それでも勇気を振り絞ったような声だ。
「もう6月の後半だしな」
我ながら、面白みのない返答だと思う。
それでも佐倉は、ほっとしたように小さく頷いた。
再び沈黙。
こうして考えると、女子と二人きりで、目的もなく話す機会自体がほとんどない。
堀北は、会話が成立しないというか、無言が通常運転だ。
櫛田に至っては、こちらが聞き役に回ることが大半で、雑談というより愚痴の処理に近い。
そういえば椎名とは、多少話すか。
もっとも、内容は決まって本の話ばかりだが。
普通の会話、ってやつは、案外難しい。
しばらく歩いたところで、佐倉が立ち止まった。
横目でこちらを窺いながら、言い出しづらそうに唇を開く。
「……い、今更なんだけどさ」
一拍置いて、意を決したように続けた。
「名前で……呼んでも、いい?」
一瞬だけ考え、俺は頷く。
「構わない。俺もそうする。……むしろ、デート中からそうしておけばよかったな」
冗談めかして言うと、佐倉は目を見開き、すぐに顔を赤らめた。
「そ、そんな……」
その反応に、少しだけ空気が和らぐ。
だが、廊下の分岐に差しかかったところで、俺は足を止めた。
「悪い。俺は生徒会室に用がある」
「生徒会室……?」
不思議そうに首を傾げてから、すぐに小さく笑った。
「そっか。じゃあ……ばいばい」
「ああ。またな」
校舎内で別れ、それぞれ違う方向へ歩き出す。
俺は背を向けたまま、目的地へと進路を変えた。
そのまま、生徒会室へ向かう。
軽くノックをしてから、生徒会室のドアを開いた。
中に足を踏み入れると、まず視界に入ったのは部屋の奥に並ぶ上級生たちだった。
机を挟んで座るその面々は、生徒会の役員だろう。
以前、部活説明会で司会をしていた橘先輩の姿もある。
一方、入口側には一年生が二人。
クラスは違うが、何度か校内で見かけたことがある。
今日はたまたま用があって来ているだけだろう。
ふと、片方の生徒に見覚えがあることに気付いた。
5月、茶柱先生に呼び出されたとき、一瞬だけ顔を合わせた生徒だ。
名前は知らないが、確か一之瀬という苗字だったはず。
壁際に立たされるような位置取りから、今が面接中であることは容易に察せられた。
……タイミングが悪かったか。
そう思いつつも、目的の人物を探して奥へと視線を走らせる。
だが、見当たらない。
「一年D組の綾小路です。堀北先輩、いらっしゃいますか?」
少し間を置いて、奥に座る男子生徒が応じた。
「今は不在だ。何か用件か?」
「いえ。それなら、また来ます」
踵を返そうとしたところで、声がかかる。
「待て。じきに戻る」
「そうですか。……ちなみに、あなたは?」
問いかけると、男は面倒くさそうに名乗った。
「南雲雅。生徒会副会長だ。それで、Dクラスが生徒会長に何の用だ?」
「生徒会長じゃありません。“堀北先輩”本人に用があるだけです」
その一言で、生徒会室の空気がわずかに変わった。
「ほう……つまり、お前は堀北先輩と個人的な接点がある、というわけか?」
南雲先輩は椅子に深く腰掛けたまま、顎に手を当ててこちらを眺めた。
からかっているというより、純粋に品定めしているような視線だ。
「そんな大層なものじゃありませんよ。ほんの少し、二言三言やり取りしただけです」
「それで終わり、とは思えないがな」
南雲先輩は小さく鼻で笑い、身を乗り出す。
「むしろ、そこまで言うなら気になる。何を話した?」
室内の視線が、静かに俺へ集まるのを感じる。
入口側に立っている一年生たちも、成り行きをうかがっているようだった。
「内容が内容なので。プライバシー的に、ここで話すつもりはありません」
そう告げると、南雲先輩は一瞬だけ目を細め──やがて、面白そうに口角を上げた。
「それなら、綾小路──」
南雲が続きを言いかけた、そのときだった。
「待たせたようだな」
低く落ち着いた声が、生徒会室に響く。
振り向くと、入口に立っていたのは堀北先輩だった。
「いえ、特に。少しお話があるのですが、今よろしいですか」
「構わない」
短くそう答えると、堀北先輩はすぐに踵を返す。
その様子に、橘先輩が思わず声を上げた。
「えっ? ちょっと待ってください、面接は──」
「俺の判断はすでに決まっている」
堀北先輩は足を止めず、淡々と言い切る。
「推薦する価値があるかどうかは、あとはお前たちで確かめろ」
そう言い残し、俺に視線を向ける。
「行くぞ」
「はい」
俺は一礼だけ残し、堀北先輩の後を追って生徒会室を出た。
背後で、生徒会室の空気がざわめくのを感じながら。
生徒会室を出て、廊下に出たところで堀北先輩が足を止める。
俺は一歩遅れて並び、その背中に向けて口を開いた。
「誘っておいてなんですが……さっきの判断、あれでよかったんですか?」
「問題ない」
即答だった。
「生徒会には優秀な人間しかいない。本当に必要な人材なら、誰かが拾い上げるだろう」
ちらりと横目だけこちらに向ける。
「それで。要件は何だ」
「ポイントをください」
一瞬、空気が凍った。
「……ふざけているのか?」
「いえ。至って真面目です。デートに使います」
「……時間を割いただけ無駄だったな」
堀北先輩は小さく息を吐き、歩き出す。
「噂って、怖いですよね」
その一言で、先輩の足が止まった。
「例えば──女子生徒に生徒会長が暴行を加えた、なんて話」
ゆっくりと振り返る視線は鋭い。
だが俺は、肩をすくめるだけだった。
「もっとも、品行方正で知られる生徒会長です。事実無根なら、何の問題もないでしょうけど」
沈黙が、廊下に落ちる。
その静けさの中で、俺は先輩の反応を待った。
「……俺を脅すつもりか?」
低く抑えた声が返ってくる。
視線は鋭いが、感情が揺れた様子はない。
「いえ、全然そんなつもりはありません。録画も録音もしてませんし」
俺は即座に否定した。
「単純に、ポイントが足りなくなりそうで。それなりの理由を並べれば、分けてもらえるかなと思っただけです」
堀北先輩はしばらく黙ったまま、俺を見下ろす。
やがて、短く息を吐く。
「……分かった」
その言葉に、内心で小さく息をつく。
「ただし、条件がある。着いてこい」
堀北先輩に続いて、生徒会室へと戻る。
「失礼しました」
ちょうど入口で、先ほど面接を受けていたスキンヘッドの一年生とすれ違った。
入れ替わるような形だ。
室内に入ると、入口側に立っていたもう一人──一之瀬は、まだそこに残っていた。
表情は変わらないが、空気が張りつめているのが分かる。
「橘」
堀北先輩は迷いなく告げる。
「綾小路を、新しい生徒会役員とする」
「え?」
思わず声が重なった。
俺と、橘先輩の二人同時に。
「……聞いてないんですけど」
「条件があるとは言ったはずだ」
「いや、俺、部活に入ってるんですが」
「辞めろ」
即答だった。
「ええ……」
さすがにそれは理不尽じゃないか。
そもそも俺がポイントの話を持ち出したのが発端とはいえ、飛躍しすぎている。
「……そこにいる2年の副会長は、元サッカー部だ。今も顔を出している」
「……つまり、部員ではなくなるけど、それ以上口出しはしない、と」
「顧問の許可が下りればな」
逃げ道は、一応用意されているらしい。
「ですが……」
橘先輩が困惑したように口を挟む。
「今日、面接に来た葛城君と、一之瀬さんはどうなるんですか?」
あの男子生徒は葛城というらしい。
「なら、推薦したい者はいるか?」
堀北先輩は室内を見渡す。
「俺は、どちらも推薦しない。立候補も拒否する」
本人を前にして言う言葉じゃないだろ、それは。
しかも、生徒会長の目の前で、異議を唱えられる生徒がいるわけもない。
「一之瀬帆波」
名指しされ、一之瀬の肩がわずかに震えた。
「理由は……理解しているんじゃないか?」
一之瀬は唇を噛みしめ、何も言わない。
必死に感情を押し殺しているのが、痛いほど伝わってくる。
……見ていられなかった。
「──じゃあ」
俺は一歩前に出る。
「俺が、一之瀬を推薦します」
その言葉で、生徒会室の空気が一瞬、止まった。
「……本気か?」
堀北先輩の視線が、真っ直ぐこちらを射抜く。
試すような目だった。
「ええ。本気です」
間を置かずに答える。
「理由は?」
「一之瀬がBクラスの人間であること。それも理由の一つです。ですが、それ以上に──」
視線を、入口側に立ったままの一之瀬へ向ける。
「彼女には、ここに入ろうとした意思がある。生徒会に立候補するってのは、そう軽い決断じゃない」
葛城はすでに部屋を後にしている。
残っているのは、一之瀬ただ一人だ。
「それを理由も告げずに切り捨てるのは、さすがにどうかと思いました」
一之瀬は驚いたように目を見開き、すぐに視線を落とす。
だが、握りしめた拳が微かに震えているのを、俺は見逃さなかった。
「以上です」
短くそう締めくくり、俺は堀北先輩の返答を待った。
堀北先輩と、俺の視線が正面から交差する。
探るような眼差しだった。俺の胸の内──別の意図や打算が隠れていないかを、読み取ろうとしているのかもしれない。
だが、残念ながら深い考えなどない。
あれ以上の理由は本当に存在しなかった。
強いて挙げるなら、一之瀬帆波という一生徒に恩を売れる、という程度だ。
しばらくの沈黙の後、堀北先輩は小さく息を吐き、結論を口にした。
「分かった」
そして、淡々と告げる。
「1年Bクラス一之瀬帆波。1年Dクラス綾小路清隆。両名を、生徒会役員とする」
その瞬間、一之瀬がはっと顔を上げる。
「あ……ありがとうございます!」
声は少し震えていたが、深く頭を下げるその姿には、抑えきれない安堵と喜びが滲んでいた。
生徒会室の空気が、ほんのわずかに和らぐ。
──どうやら、話はひとまず決着したらしい。
生徒会室を出て、廊下に足を踏み出した、その直後だった。
「待って!」
背後から、慌てた声が飛んでくる。
振り返ると、一之瀬が小走りで追いかけてきていた。
「綾小路君……本当に、ありがとう」
立ち止まった彼女は、息を整えながら、まっすぐこちらを見る。
先ほどまで抑え込んでいた感情が、ようやく溢れ出たような表情だった。
「気にしなくていい」
そう答えると、俺は軽く手を振る。
「たまたまだし、深い意味もない」
一之瀬は一瞬だけきょとんとした顔をしてから、苦笑する。
それでも──彼女の表情には、確かな救われた色が残っていた。
一之瀬は、少し照れたように笑ってから口を開いた。
「すごいね、綾小路君」
「……?」
突然の評価に、思わず首を傾げる。
「生徒会長から、直々に推薦されるなんて」
「いや、あれを推薦と呼んでいいかは、かなり怪しいと思うが」
率直にそう返すと、一之瀬は小さく吹き出した。
「あはは……確かに」
けれど、その笑顔には、さっきまでの緊張はもうなかった。
一之瀬は胸の前で手を握り、真剣な表情になる。
「この恩は、必ず返すから」
「そのときが来たら、遠慮なく受け取らせてもらう」
冗談とも本気ともつかない調子で返すと、一之瀬は少し安心したように笑った。
「じゃあ、また明日ね!」
そう言い残して、彼女は足取りも軽く去っていく。
生徒会に入れたことが、よほど嬉しかったのだろう。
……一方で、俺の胸中はというと。
「放課後、確実に潰れるな」
生徒会役員になった以上、自由な時間が減るのは避けられない。
正直、あまり喜ばしい話ではなかった。
気づけば、太陽はずいぶんと傾いている。
西日が差し込む廊下には、俺の影がやけに長く伸びていた。
今日一日が、思った以上に遠くへ来てしまったような、そんな感覚だけが残っていた。