TS転生クソボケユメ先輩(死亡済・幽霊)が原作のn倍ホシノの脳を焼いていた話   作:死刑囚

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リハビリがてらお試し投稿。
遅まきながら、ホシノ周りのストーリーって良いですよね。
なお、与太考察や大筋に関わらないところでの過去改変などありますが、当二次創作ではそういうルートを辿ったということでひとつ、よろしくお願いいたします。


ユメのロスタイム

 

 ……失敗した。間違えた。何もかも過ちだった。

 それに気づいた時には、たった一人の後輩を、独りにしてしまうことが確定していて……全て、何もかも手遅れだった。

 

 ――いたい。くるしい。つかれた。……つらい。

 

 全身から力が抜けてゆく。指先を動かすことすらできないし、いつも振り回していたあの盾を持ち上げる力なんてどこにも残ってない。ゆっくりと、ヘイローが壊れる――いや、渇いて、枯れてゆく感覚、と表現したほうが近いだろうか。その感覚が、もう動かない足元から迫り上がってくる。

 

 ――あつい。さむい。やっぱりあつい……つらい。

 

 もうじき私は死ぬのだろう。『なんで、こうなってしまったのか?』――答えは私にはわからない。結局、バカのままだった私には分からないけれど……その理由ならわかる。

 運命に導かれたから、そうなるシナリオだったから――『原作』の結末に、抗いきれなかったからだ。

 何せ、それをずっと知っていた。この自我が――『梔子ユメ』、として目覚めた時から、ずっと。どうにかそれを覆そうと、なんとかそれを好転させようと、思いつく限りのことをやってきて……結局、本来辿る末路と同じところにたどり着いた。

 ああ、納得する。

 

 ――ずきずきする、じんじんする、たえがたい……つらい。

 

 私、梔子ユメは何をどうやっても、ここで終わるのが決まっていたらしい。その強固な運命(シナリオ)は、『梔子ユメ』というテクスチャの下敷きが『俺』という……かつて、ブルーアーカイブ(この物語)を知っていた存在になっても変わらなかった。

 そうしなければならない、と突き動かされ、梔子ユメ(わたし)には才能なんて欠片もない戦闘の訓練をしてきた。

 そうしなければならない、と急かされ、アビドスを、ホシノを狙う大人たちと渡り合えるように頭に知識を詰め込んだ。

 

 運命を、変えるために――けれど、現実は無情だった。

 

 確かに強くはなったけれど、私一人が強くなったところで、何にも影響は与えられなかった。

 確かに賢くはなったけれど、私が入学するよりもずっと前から、山積みにされた九億の借金の総量は大して変わらなかった。

 やること為すこと、何の意味もない。私の結末もそうだ。ホシノちゃんに与えた影響もそうだ。きっと、私が『俺』でなくとも、何も変わらなかったのだろう。

 もっと時間があれば、もっと私が上手くやれていたら。もっと好転していたことは多かったはずなのに。意識が、朦朧としてゆく。

 ああ、納得する。

 

 ――はきそうで、なきそうで、喉が締め付けられるようで……嗚呼。ホシノちゃん。

 

 そうだ、ホシノちゃん。ごめんね、私が悪かった。私がバカだった。

 私の唯一、好きで、好きで、大好きな、愛すべき後輩。ホシノ。小鳥遊ホシノ。未だ一年生なのに、全部を押し付けてしまう――やっぱり二年前だから、昔の姿の――二年前?

 二年後ではなく? 何から数えて二年前? 思考がまとまらない。

 私の後輩はたったひとりの、星3STRIKER生徒の推し、ホシノちゃん――ほしさん、ってなんだ? すとらいかー? おし? ああ、私の……神秘が枯れてゆく。梔子ユメのテクスチャが剥がれてゆく。オシリスの神秘に覆われていた、もう一つの神秘……この世界を、かつて小窓から俯瞰していた『観測者』という神秘が顔を出す。

 

「ああ。私は――」

 

 今際の際で、納得する。前世も、今世も馬鹿だったことを痛感する。

 私は――俺は、もっと上手くやれるはずだったのに。もっと上手くやらなければならなかったのに。そうすれば、ホシノを悲しませることになんて、ならなかったはずなのに。

 知識があるから上手くやれる、なんて思い上がって。結局何一つ……自分の運命一つすら、本来の筋書きから変えることはできず。

 

「――ごめんね、ホシノちゃん」

 

 黒天を覆う砂嵐。その中に佇む雷と嵐の化身。神の如き異形。

 『梔子ユメ』というテクスチャに覆われていた、この私/俺の命を奪うもの――セトの憤怒。

 ユメであった私と、その内側に有った俺に許される限りに鍛え上げた実力であっても、たった一人ではやはり足元にも届かなかった異形の怪物。私が涸れ尽きるまで、この砂嵐を巻き起こし続けるであろうそいつを、仰向けに眺めながら。

 まだなんとか動いていたスマホに、『原作』通りのメッセージを吹き込んで、持ち上げた腕を冷たい砂へと落として。

 それきり、”私である俺”――梔子ユメの意識は、永遠に途絶えて――。

 

 

 

 

『――ほぇ?』

 

 ――そして気がついたら、私。梔子ユメは、前世から数えて二度目の死を迎えたあと……幽霊になっていました。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

『……待て待て待て、何がどういうこと? 錯乱でもした? 私の意識……記憶は、はっきりしてるの? ……私は誰か、思い出せる?』

 

 記憶に欠落は、おそらくない。自分のことも思い出せる。

 私は――梔子ユメ。

 アビドス高校二年、年齢――享年? は、十七歳。

 好きなものはホシノちゃんで、嫌いなものは……戦ったり、争ったり、奪ったりすること。

 特技は……悲しいことに、なし。

 特筆すべき点として――

 

『……そこは忘れてない、みたい。私は……梔子ユメ。アビドス高校二年、ホシノちゃんの先輩。そして……『ブルーアーカイブ』ってゲームのある世界から、こっちに落っこちてきて。梔子ユメ(わたし)になった、元男(おれ)

 

 俺は――梔子ユメになった『誰か』である。

 前世の名前は思い出せないが、それは間違いない。

 好きなものは小鳥遊ホシノ、嫌いなものはユメ(わたし)と同じ。というか――梔子ユメとして生き、振る舞う中で、梔子ユメそのものの口調や声音が独り言(モノローグ)や思考にまで染み付いてしまったりしている、というのが実情である。

 精神的にはまだまだ男のままのつもりだし、『梔子ユメ』としての愛する後輩は、『俺』としての唯一無二の推しでもあった故、ホシノに良いカッコを見せようとして空回りしたのなんかは、良い思い出である。

 まあ問題は、そんな『俺』が『ユメ(わたし)』に染まった原因は、我がラブリーエンジェル後輩であるホシノであるのだが。

 何せまだ付き合いの浅かった頃に少し、そう、ほんの少し……頼れる感を出そうとして、男っぽく喋った日に、それはもう似合わない、らしくない、今すぐやめてくれ、とこき下ろされたのだ。

 結果、梔子ユメである俺は半泣きでそれらしく振る舞うことになった。

 

『まあ、私自身、こう……この声と顔で男の振る舞いをするのは似合わないと思うから、それは良いんだけど……それにしても。記憶や思い出はちゃんと残ってるなら、私は私、っぽい。安心は、したけど……それはそれとして……今はいったいいつで、ここはどこなんだろう?』

 

 確かに私は――梔子ユメは死んだはずだ。『原作』通りに、砂漠の真ん中で。

 その証拠、と言うべきか。こんな真っ昼間の砂漠に突っ立っているのに、暑さの欠片も感じないし、喉の渇きも、空腹も感じない。

 そしてそんな俺がぼけーっと突っ立っている此処は、どうやら私が死んだその場所のように見えるが――あるべきものがない。つまり、私の死体が。

 死んですぐ目覚めたのなら、こう……*暑くて干からびそう〜*な状態の、私の抜け殻があるはずだ。ついでに言えば、愛用していた盾も。しかしそれらは、目の届く範囲にはない。

 であれば、考えられるのは二つ。

 

『ひとつ、私が目覚めたここは、ただ似てるだけの別の場所です。砂漠なんてあっちもこっちも風景は変わらないし、コンパスがないと帰り道も分からないからね!』

 

 私が死んで、再度目覚めた時に場所が変わった、という説。

 一応、これは私の名誉のために言うが――流石に、前世の諸々のことを覚えているのに、肝心のその時にコンパスを忘れてきた、なんてことはなかった。

 我が事ながらこのユメ先輩ボディ、気をつけているのに何度も騙されはするし、不良たちにはナメられて絡まれるし、ポンコツのアホなのは否定しようがないし――どこもかしこも抜けたところばかり。しょっちゅう忘れ物をしてしまってホシノちゃんに怒られるのは、最期までどうにもならなかった。

 ならなかったが……それでも、多少は『原作』からマシになっていた筈だ。アビドスの借金増に繋がる詐欺の類は回避し切った――私個人の負債については目を瞑る――し、不良にだって攻撃されはしたが、説得して帰ってもらったりした。

 その上、ホシノちゃんにポスターを破られた『あの日』からは特に注意して、ずっとコンパスや非常食は携帯していたのだ。

 ただ、それも結局……意味はなかったが。『セトの憤怒』にコンパスも、非常食も、持ってきた荷物のほとんど全部をめちゃくちゃに消し飛ばされ、帰り道を探すどころか奴の砂嵐の中から出ることすら叶わなかったのだから。

 そう、原作での真相がどうだったのかは知らないが――こっちでの私は、セトの憤怒によって無限の砂嵐に囚われ、一矢報いることすら出来ずに、擦り潰されて力尽きた。それが、私の死因。

 

『うぅ……ホシノちゃんに馬鹿にされるぅ。やんなっちゃうよ……でも、ほんとの事は言えないよね……』

 

 その事実を遺さなかった理由?

 そんなものは……自明だろう。『原作』通りか、それともあっちも偽装なのかは分からないが。ただの事故死であるならともかく、明確に『謀殺された』と死の真相を知れば――私の自惚れでなければ。ホシノちゃんは、私の敵討ちに出るはずだから。

 憎しみに囚われ、その生をこの何もない砂漠に縛りつけられ……そして、私と同じように、たった一人で死ぬ。

 そんなことが許容できるか。

 どうしても、それだけは、避けなければならなかった。それを避けられるなら、底抜けのバカだと思われたって構わない。私は運命を覆せなかったけれど、でも。

 

『……でも、きーみーのー、えがーおー……すなのー、ひーとーつーぶー、さえー……』

 

 良い歌だよね、『青春のアーカイブ』。前世……死んだのは二回目だし、前世の前世? そこから抱えてきたその歌を歌ってみるけど、声は出ない。正確には、喉を震わせている感覚はあれどメロディは喉から出ず、耳にも音は届かない。当然か、身体がなければ声帯も無いのは自明というもの。死人に口なし(梔子)、散々擦られてきた通り名は体を表す感じになってしまった。

 ただ、私が――そして、『俺』が、やりたくて、目指したのはそこだった。ホシノの、夢も笑顔も、何一つ奪わせたくなくて。それが叶わないのなら、せめて、いつか……ホシノちゃんが、アビドスのみんなに救ってもらえるように。

 

『……で、これかぁ。うーん、不甲斐ない先輩だぁ』

 

 考えていても、堂々巡りな気がする。自罰的思考に陥りそうだった――死ぬ前の数週間はずっとそんなだった気もするが――思考を無理やり切り替えて、別のことへ向ける。

 つまり、私の死体がそこに転がってない二つ目の理由だ。

 

『二つ目の理由! こっちはもっと明白――私が死んでから、なぜか幽霊になるまでの間で……ホシノちゃんが私の身体と盾を見つけて、持ってってくれた。……こっちだと、死んでからは最低でも一ヶ月は経過してる、ってことになるのかな』

 

 原作だと、確か。ホシノちゃんが私を見つけるまで、三十三日だったはず。身体を持って帰ってくれたと言うなら最低でもそのくらいの時間は経過しているだろうし、それ以上の時間が経っていてもおかしくない。それこそ年単位とか――

 

『――って、もしかして。もう原作、終わってたりしないよね!? それどころか、まかり間違って”捻れて歪んだ”側だったりしないよね、この世界……!?』

 

 今のところ、空は真っ赤でもなければ、色彩が輝いているわけでもない。ただ、実は目覚めたのが全部終わった後で、キヴォトスにはもう誰もいませんよ、なんて言われても困るわけだ。

 私の目的は、徹頭徹尾……ホシノちゃんを守って、ホシノちゃんに幸せに過ごしてもらうこと。そのついでに、ほんのちょっとで良いから、私である俺の欲望……というか。ちょっと良いカッコをしたり、ちょっとスキンシップしたり。少しのご褒美が欲しかっただけだ。

 まあやっぱりと言うべきか、ホシノちゃんに絡みに行ってもわりと邪険にされちゃったけど。……どうしよう、『原作』と違って、こっちでは本気で嫌われてたりしたら。

 

『やだなぁ……あ、でもその場合、ホシノちゃんは私に縛られることなく、私を忘れて暮らしていけるのか。それならそれで……!』

 

 ……だめだぁ。前世で言う、やっぱつれぇわ、って感じ。ホシノちゃんに嫌われてたくはない。『原作』くらいで……いや、あれは行きすぎか? なら少しで良いから、好意を向けててほしい。

 ただ、それでも。

 

『……やっぱり最優先は、ホシノちゃんの幸せ、かなぁ』

 

 そうだとするなら――ここに留まっていてはいけないだろう。

 今がいつかも分からない、キヴォトスのどこで何が起こっているのかも。少なくとも、空の色からして、最終編の真っ最中でないことだけは確かだが……その上で、確かめにいかなくちゃならない。

 幽霊である俺に何が出来るとも思わないけど、何の理由もなく”こう”なる筈はない。何か、すべきこと……あるいは、出来ることはあるはずだ。それを見過ごして、こんなところで呆けている訳にはいかない。

 

『うんっ。幸い、痛みも疲れも感じない身体っぽいしね、今。というか身体が無いわけなんだけど――むしろ色々と軽くて良いかも。おっぱいとか』

 

 ユメ先輩の、そしてあるいはかつての俺、つまり我々プレイヤーの夢が詰まった、私の胸は……重かった。それはもう、とんでもなく。

 俺が私になって一番苦労したことの一つかもしれない。重くて、暑くて、汗も溜まるし動けば跳ねる。ついでに――肌感覚が、という意味で――敏感。アビドスの気候や服の下に入り込んでくる砂粒とは相性が最悪で、なんなら死の間際でも全然慣れてはいなかった。

 ホシノちゃんには何度も『暑苦しいんです!』って言われたっけ。その割に、こっちがスキンシップを控えてたらあっちから寄ってきてくれて……なんだか、懐き切る前の野良猫みたいで可愛かったなぁ。だからって、抱きついたりしたら引き剥がされるんだけどね。

 とはいえ、今となってはもうスキンシップも出来ないが……その分、そういった諸々のことに悩まされなくて良い。

 

『なんで幽霊になってるのか、なんで幽霊になれているのか。なーんにも分からない、けど……まあ、折角だし有効活用させてもらっちゃおう!』

 

 どうせ、『転生者』という神秘か、『オシリス』の神秘か……そういう、訳のわからないことが原因だろう。なら、この私の頭で考えたところで答えが出るわけがない――自分で言っていて悲しいけれど。私の頭はよくないし、前世は……多少はマシだったし、そのおかげで色々と考えられているけど、そんな天才だった、って訳でもない。

 元より、身体を動かす方が性に合っているタイプだしね、私。

 

『そうと決まればれっつごー! 目指すは……とりあえずアビドスのほう、か、な……』

 

 ただ、まあ。

 身体を動かしてもどうにもならない環境だと、どうしようもない。

 今みたいに……砂漠のど真ん中で、コンパスも持っていない状況なんかは、特に。

 

『……ひぃん!! ホシノちゃぁん、助けに来てぇ〜〜!!』

 

 声にならない声をあげて、歩き出してみる。

 死なないのだから――厳密には、もう死んでいるのだから、時間さえかければどこかにはたどり着くだろう。

 そうして、半泣きになりながら歩き出した私/俺は――知らなかったのだ。

 

 まさか私が色々と手を尽くした結果。ホシノちゃんが……原作のn倍くらい、私にあんなに脳を焼かれているなんて。





 クソボケユメ先輩はクソボケらしく『まあいっても好かれてMAXが原作くらいまでじゃないかな』くらいの感じです。
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