TS転生クソボケユメ先輩(死亡済・幽霊)が原作のn倍ホシノの脳を焼いていた話   作:死刑囚

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なんだか予想以上に長くなったので纏めて時間をかけるか、
前後編に分けるか悩んでるうちに時間が経っていました。
とりあえず前後編でいきます。

やっぱりキヴォトス人の脳を焼くなら武力って必要だよね、のお話。


小鳥遊ホシノの追想-04(前編)

 

 ――キヴォトスの空が、真っ赤に染まった。

 

 夏の一件も片付いて、まだまだ減らない借金を返しながら。先生があっちこっちに呼ばれては、色んな事件に巻き込まれているのを見て。今度は、私たちが先生の助けにならないとね、なんて話していた矢先の出来事。

 切っ掛けがなんなのか、原因がなんなのかは分からない。またカイザーの仕業かと思って――実際にあいつらは事態の裏で先生を拉致していたらしく、カイザー離反組とヴァルキューレ、SRTの生徒が活躍したらしい――はいたものの、空の異変自体はカイザーとは関係なく。原因不明の怪現象として……『虚妄のサンクトゥム』は現れた。

 

「うへ〜。大変なことになっちゃったねぇ。300時間以内に、全部の虚妄のサンクトゥムを壊さなきゃなんだっけ」

「それだけじゃないわよ、ホシノ先輩。壊すにしても、アレを守ってる奴らがいるって話じゃない。うち……アビドスの担当する一本にも、『守護者』? ってのがスタンバイしてるらしいですし」

 

 アヤネちゃんがメインで参加して色々と聞いてくれたところによると、あの『虚妄のサンクトゥム』は全部で六本。それを全部へし折らないと、キヴォトスが滅亡するらしい。

 いきなり滅亡、なんて言われても困るよねぇ。規模の大きな学校と違って、こちとら弱小校なのだ。持っている情報にも、知っている事柄にも、私たちとは差がありすぎる。

 ただまあ、とはいえ――おそらくだけど。この怪現象が、きっと、シロコちゃんを行方不明にしてしまった原因なのだろう。

 

「はやく片付けて、シロコちゃんを探さないとですね……」

「そうですね、ノノミ先輩。……流石に、この事態と何の関係もない、なんて楽観は出来ません」

 

 『虚妄のサンクトゥム』六本のうち、私たちが担当するのは便宜上『第一サンクトゥム』とされた、アビドス砂漠に出現した塔だ。攻撃に当たっては、行方不明になっているシロコちゃんを除いた私たちアビドス高校組と、手伝いに来てくれた便利屋。それに、ミレニアムから補助要員として数人出向して来てくれている。小塗マキちゃんと生塩ノアちゃんって言ったっけ。

 私たちは彼女たちのサポートとオペレートを受けて、虚妄のサンクトゥムとその守護者へ攻撃を行う。

 そして、その攻撃対象である守護者が――。

 

『いい? もう一回確認するよ! 私たち第一サンクトゥム担当が攻略する守護者は『ビナー』! 見た目は機械の白い大きな蛇……なんだけど、何だか今は様子が違うみたいだね! 色が変わってるし!』

 

 『砂漠の大蛇(おおへび)』。あれの正式名称は、ビナーと言うらしい。

 なんでも特異現象の調査? か何かだそうで、先生はミレニアムの生徒と組んで、『大蛇』を始めとした、その特異存在と戦っていたらしい。うへ〜、薄情だね。話してくれたら私たちだって手伝ったのにさ。

 ただまあ、ここまでくると奇妙な因縁というか、運命のようなものを感じてしまう。よりにもよって、またアレと対峙することになるとはね。

 ……通信越しに、マキちゃんの注意喚起が響く。

 

『最大の脅威になるのが、ビナーの口から発射される熱線だよ! 絶対に直撃しないように気をつけて! それと――』

「……頭部より少し後ろにある、二対三列……六門の砲台から発射されるミサイルと、巨体での体当たりや押し潰し。それに伴って巻き上げられる砂嵐は、こっちの体力も気力も削いでくる。ミサイルは初速が速いから、あいつに近付いているほどダメージが大きくて回避しづらい。他の注意点としては……装甲がめちゃくちゃ堅いから、生半可な攻撃じゃ通用しない。力尽くで防御を貫くか、装甲……防御力を下げる手段が必要。そんなところだっけ、マキちゃん?」

『あ、うん……え、もしかしてホシノさん、すっごく詳しい……?』

「ま、それなりにはね〜」

「いや全っ然それなりってレベルじゃないでしょ先輩!?」

 

 おお、セリカちゃんのツッコミはやっぱり良いねえ。他の子もだけど、セリカちゃんはいつも反応が良いからつい、ね。

 ……っと、それはともかく。

 

「まぁまぁセリカちゃん。おじさんも別に、大蛇のことを調べてたわけじゃないよ。ただちょっと、交戦経験があるってだけでね」

「交戦経験? それは、先生と一緒に?」

「んや、もっと前かな〜。ま、色々あったんだよ」

「……ホシノ先輩。それって、やっぱり……」

 

 返答はしない。曖昧な笑みをノノミちゃんに返す。まあ多分、それだけで理解してくれたことだろう。

 今はもう、懐かしい記憶。私の中に降り積もった、大切な欠片のひとつ。先輩がいなくなって私一人になった以上、もう一度あの『大蛇』と渡り合う、なんて考えてもみなかったけれど……いざこうなってみれば思い出すしかない、輝かしい日々の一幕。ただ無邪気に、あの人に恋焦がれていた過去のこと。

 それは、私が――あの人の。梔子ユメの、『本気の、全力』を、初めて見た日だった。

 

 

 

 

『ごめんね、ホシノちゃん。お休みの日に悪いんだけど、学校まで来られるかな?』

 

 突然モモトークに届いた、先輩からの呼び出しメッセージ。

 珍しいことだ。基本的に先輩は、休みの日……というか、『自由に過ごせる日』を大事にしている。

 メリハリは大事だよね、という先輩のスタンスで設けられたこの定期的な休息日に、私はお魚を見に行ったり、買い物に行ったり。……そして偶に、勇気を出して誘えた日には、先輩と遊びに行ったりなんかしている。

 ……とはいえ、今日は特にやりたいこともない日だった。先輩とも会えず――いつもいつも先輩を誘うわけにもいかないし――、何をしようかとベッドに寝転んでいただけだった私は、メッセージを見てすぐに身嗜みを整えて家から飛び出した。

 学校までは遠くない。ほんの少し、弾む心のままに校門を潜り、生徒会室の前で急停止。すー、はー、と息を整え、バッグの底に隠してある手鏡で、おかしなところが無いか確認して。

 その上で、何事も無かったかのような平然とした顔を取り繕って、がらりと扉を開く。

 

「お疲れ様です、ユメ先輩。珍しいですね、どうしたんですか」

「ホシノちゃぁん……ごめんね、お休みの日に呼び出しなんかしちゃって……」

 

 部屋に入った私が見たものは、何枚かの紙の資料を机の上に広げて、頭を抱えて突っ伏しているユメ先輩だった。

 ……これも珍しい。先輩は、あまりそういう悩んでいる姿を私に見せない。専ら、ぽわぽわと笑っているか、もしくは私に怒られてひんひんと半泣きになっているかのどちらかだ。

 だと言うのに、今日は頭を抱えてうんうんと悩んでいる。おそらく、先輩が私を呼び出したのも、その悩んでいる問題に絡んでのことだろう。

 

「……何か問題でも起こったんですか?」

「残念ながらね。……ホシノちゃん、『砂漠の大蛇』って知ってる?」

「蛇……ああ、あれですか? 以前、私と先輩とで旧アビドス本校舎に行ったときに回収した資料に残ってた……」

「そう。砂漠を泳いでいる、機械仕掛けの白い蛇体。あれのことだよ」

「なら……はい。目撃したことはありませんが、知ってはいます」

 

 『砂漠の大蛇』。旧アビドス生徒会の保管していた資料に残されていた、砂漠に棲息するという脅威だ。最低でも数十年前からそこに存在している、巨大な機械の蛇。

 何を目的とした、どんな存在なのかは分からない。資料も散逸して散り散りになり、探すことも出来ないからだ。それでも、私たちはアビドスに対する潜在的な脅威として、その存在だけは知っていた。

 

「それで、それが何か? 旧生徒会の資料でも、以前に目撃されたのはかなり前だと書いていましたし……私も見たことがありませんが」

「……それがね、ホシノちゃん。その大蛇が今、アビドス自治区に()()されてるんだって」

「――はあっ!? ……って、誘導……!?」

「うん、誘導。ゲヘナのお友達から情報を貰ったんだけど……ホシノちゃん、じゃあ『雷帝』については、詳しいかな」

 

 『雷帝』……ゲヘナの支配者、暴君雷帝のことだろう。今のゲヘナ自治区に足を向けることは無いが、それでもその噂だけは聞こえてくる。その殆どが、悪い噂であるが。

 

「ゲヘナの雷帝周りが、今とってもきな臭いことは知ってるよね。幸いにして、今のところアビドスへのちょっかいは無かったわけだけど……」

「それが始まった、と?」

「正確には、雷帝のシンパが作戦行動を行ってるらしい、って情報だね。『砂漠の大蛇』を誘引して、敵対的な学校の自治区に突っ込ませて、暴れさせる。これがもし、『大蛇』を捕まえて解析するために持って帰る、とかなら問題なかったんだけど……」

 

 ユメ先輩は、明らかに疲れたような表情で、もう一度溜息を吐いた。

 

「問題は、ゲヘナの子たちが『大蛇』を暴れさせたまま誘引して、他の学区に持っていこうとしていること。そしてその道中にはアビドス自治区があって、これを見過ごすと私たちのアビドスが滅茶苦茶になる……ってことかな」

「だ……ッ、大問題じゃないですか!?」

「そう、大問題なんだよ」

 

 成程、これは溜息も吐きたくなるというものだろう。

 ゲヘナの雷帝、その噂は聞いていた。だが、こうも無遠慮に、他の学校までもを害しようとするなんて。

 けれど、溜息を吐いて何が解決するという訳でもなく。ざり、と耳鳴りがし、私は先輩に詰め寄った。

 

「……ッ、そんな落ち着いている場合ですか!? どうするんですか!」

「うん、どうするかはもう決めてるよ。だからホシノちゃんを呼び出したんだから」

 

 先輩は、焦る私の頭をぼふ、と撫でて。

 

「――私たちはアビドス生徒会。なら、アビドスを守るために戦わなくちゃ。……準備は終えてある。十五分後に出発するから、ホシノちゃんも準備、よろしくね」

 

 

 それから、およそ一時間後。

 私とユメ先輩は、アビドス砂漠に取り残された、放棄された旧市街地を訪れていた。

 十五分の準備の後、先輩はいつもの大型サンドバイクの背部にタイヤ付きの追加コンテナを設置――というか、もはや追加コンテナを牽引するような形にして、アビドス高校を緊急発進。

 私はと言えば、先輩の座席の真後ろに設置された後部座席に座って……先輩の背中に抱きついて運ばれた。

 何度かこうして先輩の背中にしがみついて二人乗りをしている訳だが、毎度どうしてかその間の記憶が曖昧である。温かいことと柔らかいことと、意外としっかりしているんだ、なんてことと、あとはいい匂いがしたことは覚えているが、それ以外についてはいつも覚えていられない。

 バイクから降りた後は毎度、心臓がばくばく言っているのだが、それと関係しているのかもしれない。うん、きっとそうだと思う。

 

「すぅ、はぁ、ふぅ……っ、先輩、ここは?」

「旧市街地区の、ショッピングモール脇の立体駐車場……の、屋上だよホシノちゃん。他より高くて車輛の乗り入れが出来る場所は、覚えておくと役に立つよ!」

「……何の役に立つのかは分かりませんが、覚えておきます」

 

 先輩はバイクをスタンドさせると、双眼鏡を片手に少し歩み出た。

 ――ああ、此処からならばよく見える。最早見間違いなどとは言えない、天に向かってのたうつ巨大な白い影。『砂漠の大蛇』と、その付近で戦闘をしているらしい小さな人影。

 ユメ先輩は、双眼鏡を覗きながらぼそりと言う。

 

「うん、情報通り。ちょっとずつ、こっちに近付いてきてるね……尤も、全員が全員、そうという訳じゃないけど」

「と、言うと?」

「ホシノちゃんも見てみる? はいっ」

 

 手渡された双眼鏡を覗き込み――成程、理解する。

 『砂漠の大蛇』の足元には、およそ一個小隊(約五十人)ほどの、どう見ても通常通りではない特別な制服に身を包んだ、特殊装備のゲヘナ生。中には大型戦車も数台確認でき、その連中が『大蛇』へ散発的に攻撃を仕掛け、誘引しているようである。

 対して、その連中と向き合って戦闘をしているのは、こちらもゲヘナ生。姉妹だろうか、低身長と高身長の白髪二人組が必死の形相で抵抗を行なっている。

 

「奥の改造制服が元凶で、手前の少数が味方……というか、先輩の聞いた話が本当なら、白髪の二人は『雷帝』への抵抗勢力、ってことですかね」

「うん、そうだね」

「そして……実力で言えば、手前の二人の方が上ですよね、先輩。ただ数の差と、多分砂漠だから……環境に上手く対応できてない。見過ごす訳にも行きませんし、救援しないとですよ、先輩」

「勿論。ただ、やっぱり相手はゲヘナっていう学校だから……最初に勧告はしないと、かな。ホシノちゃん、耳を塞いでおいてね」

 

 私が双眼鏡を覗いている間に何を準備していたのかと思えば、ユメ先輩は牽引してきたコンテナから、大きなスピーカーを取り出して設置している。バッテリーを繋いだそれにマイクを接続して、先輩はこほん、と咳払いをする。

 

「――アビドス砂漠にて戦闘行為中の他学園生に告ぐ。こちらはアビドス高校生徒会、生徒会長の梔子ユメである。貴君らの行動は、アビドス高校の主権を著しく侵害している、敵対的行動である。直ちに武器を捨てて戦闘行為を中止し、退避せよ。繰り返す、こちらは――」

 

 どぉん、と、先輩の発言を遮る砲撃音。

 返答は言葉ではなく、戦車の主砲であった。――瞬間、きゅいん、という甲高い音。いつの間にか引き抜かれていた先輩の拳銃から放たれた銃弾が、細い碧色の尾を引いて砲弾を貫通し、中空で爆発させる。

 

「……やっぱり聞く耳持たず、かぁ。……あんまり気乗りしないんだけどなぁ」

「……先輩?」

 

 ユメ先輩はがっくりと肩を落とすと、少しだけ目を瞑って、そして開いて。はあっ、と大きく一つ息を吐き、無造作に髪を掻き上げると――黒い、飾り気のないヘアゴムを取り出した。

 先輩は私に背を向けると、豊かで柔らかい髪を一纏めにし、ヘアゴムでくるくると器用に縛った。……ポニーテール、今まで先輩がそんな髪型にしたことは見たことがない。

 ……いつの間にか、ユメ先輩の纏う雰囲気が、変わっている。

 

「……()()()

「……ッ!?」

 

 名前を呼ばれて、ぞくり、と背筋が震えた。いつもの気の抜けた感じがない、しん、と響き渡るような声音。

 先輩は私に背を向けたまま、コンテナへ近寄って、それを開く。覗いてみれば……その中には多数の弾薬や手榴弾、使い捨てのロケット砲。飾り気のないタクティカルベストに頑丈なコート、無骨なコンバットブーツ。

 先輩は、取り出したそれらを身に着け、装いを変えてゆく。

 

「これからすぐ、作戦行動を始めるよ。目的はホシノも理解してる通り、あの改造制服のゲヘナ生の排除と捕獲、こっちに味方してるゲヘナ生の保護。そして、『砂漠の大蛇』の撃退」

「っは、はい……!」

「とはいえ、現実的に、二人であの『大蛇』を始末できるとは思えない。撃退だけでもね。だからやる事としては、彼女たちのやった逆。砂漠の奥深くに誘引し直して、離脱する。それが第一目標だ」

「わ、分かりました。……ただ、ユメ先輩。もしも、それが出来なかったら……?」

 

 ……装備を整えたユメ先輩は、まるで別人のようだった。

 いつもの制服の上からタクティカルベストを着込み、その上に黒い防弾コートを羽織り、腕捲りをして。スニーカーは履き替えて、丈の高いコンバットブーツを装備している。

 髪は硬く結い上げられ、ポニーテールに纏められ。そして、私の方へ振り向いたその目は、まるで私を射通すように真剣そのもので。

 いつもの先輩らしくない、けれどどうしようもなく似合っているその姿に、胸の奥がどくんと震える。

 

「もしも誘引出来なければ、その時は……『大蛇』が諦めるまで、戦うだけだよ。退けば、アビドスに危険が迫る。仮にも生徒会を名乗っている身だからね、それは許容できない――ホシノもそうでしょ?」

「は、はいっ」

 

 にっ、と口端を持ち上げて薄く笑った先輩は、次いで、コンテナから取り出した装備を盾に取り付けた。銛のように返しのついた鋭利な棘と、先輩が盾投げに用いる鎖の巻き取り装置が備わった外部フレーム。いつもより一回り大きくなった盾は、いつもとは比べ物にならないほど、敵を攻撃するための意志を滲ませていて。

 そして。

 

「あとは、そうだね。改造制服たちはともかく、『大蛇』との戦いじゃ指示を飛ばすと思う。その時は――()に従ってくれ。流石に、余裕が無くてね……いつか似合わないって言われたけど、今回ばかりは許してくれるかな、ホシノ」

「は、ひゃいっ……!」

 

 まずい、まずいまずい。すごくまずい。

 心臓がばくばくして、うるさい。頬が、いや、顔全体が熱い気がする。

 今から戦闘だって言うのに、ふわふわと、身体が浮き上がるような感覚が止まらない。先輩の顔を直視できない。

 戦装束に身を包んだ、謂わば()()態勢の凛々しいユメ先輩。そのユメ先輩が『俺』なんて言って、なんというか、これは犯罪だ。重罪だと思う。しかも再犯だ。ちょっと卑怯すぎる――なんて思っていた私に、何かが投げ渡された。

 手の中の、少し重量のあるそれを広げてみる。

 

「……タクティカルベスト?」

「そ、俺と同じのだね。ホシノが強いのは、俺が一番よく知ってるけど……今回はその上で、装備を充実させておくべきだ。俺からのプレゼントだよ、ホシノ」

「――っ! あ、ありがとうございます、先輩……!」

 

 嬉しい。まずい。頬がニヤつくのを抑えられていない気がする。

 この人は本当にもう、人の気も知らないでこんなことばかり。私をどうしたいんだろうか。

 ……おずおずと広げたそれは、先輩の着ているものと同じもの(お揃い)だった。ただ、サイズだけは私に合わせて小さかったけど。

 悶々とする私をよそに、ユメ先輩はコンテナのガンラックに上半身を突っ込んで、がちゃがちゃと何かを探している。

 ――あった、という呟きの後、引き摺り出されたそれは、ひどく見慣れた形をしていた。

 

「っ、ショットガン……!?」

「そ、ホシノがずっと使ってるのを見て……良いなぁって。どう? お揃いだよ。……あ、嫌だったら言ってね?」

 

 長い銃身に、白くペイントされた本体。差し色は……ピンク色でなく、先輩の髪と同じターコイズ色。18.5mm、12ゲージの口径も、そのフォルムも、ひどく見慣れたそれは――私の愛銃(Eye of Horus)と全く同じ機種のショットガンで。

 先輩は、私のものと瓜二つなそれを得意げに肩に担いで笑った。

 

「……オシリスの連枷(Flail of Osiris)。アビドスを、そこに住む人たちを、そして俺たちの学校を守るため。その為なら、俺は戦うことを厭わない――相手には、悪いと思うけどね」

「わ、っ……私は、いいと思います。生徒会長らしくてっ、その、今の先輩も」

「そう? なら俺も嬉しいな。――さ、そろそろあの二人を助けに行かないと。行くよホシノ、俺の後ろに乗って」

 

 先輩は、コンテナを切り離したバイクに跨り大きくエンジンを噴かす。私は急いで後部座席に飛び乗って、先輩にしがみ付いた。

 ぶおん、と低くエンジン音が唸り、砂を吹き飛ばしてタイヤが回る。アスファルトを踏み締めて急加速したバイクは空へ躍り出て、そのまま地上五階ぶんの高さを落下した。がつん、と突き抜ける衝撃を、サスペンションと剛性の強いシャシー、そして先輩の腕が受け止める。

 

「あちらさん、俺らに気づいたみたいだね。――飛ばすよ、ホシノ!!」

「……っ、はいっ!」

 

 更に加速するバイクは、ひゅんひゅんと音を立てて飛来する銃弾を軽やかに躱してゆく。巻き上げられる砂が棚引いて、背中へ流れてゆく。

 どぉん、と重低音を響かせて砲弾が放たれる。万魔殿制式採用型戦車、その主砲は56口径8,8cm砲。そこから吐き出された褪金色の合金へ、しかし先輩はハンドルを曲げることなく直進をする。

 

「せ、先輩!? 回避を――」

「ううん。この程度なら……迎撃したほうが早いッ!」

 

 がちゃり、と先輩が銃を構える。私と同じモデル、長銃身の散弾銃。

 ――きゅいん、という甲高い共鳴音。

 それが、三回。

 躊躇いなく引かれたトリガー。強烈なバックファイアによって巻き上がる砂煙と、その中を貫いて吐き出された銃弾は……無数に分かれることなく。

 

一発(スラッグ)弾……!?」

 

 三重の、青く輝く尾を引いて飛翔し。真正面から砲弾を貫通し――

 

「ごめんね。だけど、潰させてもらうよ」

 

 ――そのまま、砲を放った直後の制式戦車、その砲身へと突入し、一際大きな破砕音を奏で、砲塔をすら貫いた。

 衝撃で、玩具のように跳ねて転がる制式戦車。遅れて巻き起こる爆発と、立ち込める黒煙。鉄の圧し折れる異音とともに、装甲が抉り取られたように吹き飛び、開いた傷跡から煤だらけの乗組員が這々の体で這い出している。

 あれでは最早、あの戦車は修理すらも叶わないだろう。

 

「な――んっ、て威力……! それに何故スラッグ弾なんて使ってるんですか、先輩!?」

「ずっと拳銃(ハンドガン)を使ってきたから、かな。反動さえ抑え込めるなら、威力以外は取り回しが似てると思わない?」

「その理屈はどうかと思いますよ……!」

 

 ただの一撃で、敵部隊には動揺が走っているようだ。同時に、白髪の二人組は信じられないものを見たような顔で先輩のほうを見ている――気持ちは、分かる。私自身、この人が強いことは知っていたけれど、それでも同じ気持ちだからだ。

 それでもどうにか、敵戦車はこちらへ砲塔を向けていて。しかし先輩は、それを意にも介せずに平然と。

 

「残り三台か――流石に放置は出来ないな。ホシノ、少しだけハンドルお願い。無理そうなら、乗り捨てて構わないから」

「は……? ちょっ、せんぱ――先輩ッ!?」

 

 そこからの光景を、忘れられる筈もない。

 立て続けに響く砲撃音と、放たれる砲弾たち。ユメ先輩はそれらを睥睨すると、徐に、バイクの座席を蹴って飛び出した。

 慌てて、先輩のぬくもりの残る座席へ移動してハンドルを握る。そんな私を置き去りに、虚空へ身を踊らせた先輩は――砲弾を飛び石のように踏み付けにしてぐん、と跳ね上がり、黒いコートをばさりと広げる。

 

「恨んでくれて構わないよ。でも、俺にも守りたいものがある」

 

 盾の投擲。乾いた空気を貫いて飛翔したそれは、一台の戦車へと突き刺さる。アタッチメントとして取り付けた銛の穂先のような棘が、盾を車体に固定している。

 ――じゃらり、という鉄の擦れる音。がきん、という歯車の噛み合ったような音とともに、中空へ浮かんでいた先輩の身体が、急速に、穴の空けられた制式戦車へと引き摺られてゆく。装着された、鎖の巻き上げ機構。それが駆動したのだろう。

 

「――まずは一つッ!」

 

 尋常ならざる速度で空を駆けた先輩は、その勢いのまま、右脚を蹴り上げる――鉄と鉄が衝突したような、鈍く響く破砕音。砲塔に叩き込まれた蹴りは、どれ程の重さがあるのかも分からない戦車を、軽々と横転させる。

 きゅいん、という甲高い音――引き金を引く(トリガー)。放たれた三発の銃弾は、やはりそれぞれ輝く尾を引き、露わになった戦車底面を軽々と貫通し――爆発。

 

「次いで二つ目――隙だらけだッ!」

 

 間を置かず、重なるように、三度の澄んだ共鳴音。

 こうまで何度も見れば分かる、あれがユメ先輩の力の一端。銃弾に力を込めて撃ち出す……特異なのは、その力を何重にも込めることが出来ている、という点だ。

 一度力を込めるだけなら、ただの強力な一撃。けれどそこから二度、三度と重ねて力を封入し、そして放った弾丸は尋常ならざる威力を内包していて――ああ、やはり。

 ひどく無造作に、戦車の分厚い側面装甲を貫いて、機関部を滅茶苦茶に破壊した。

 

「や……やつを止めろッ!! 撃ち落とせっ、相手は一人だぞ!?」

「ごめんね、君たちを憎んでいる訳じゃないけど……相手をしている時間も惜しいんだ。『大蛇』の始末がある――」

 

 重い音を立てて破壊した戦車の残骸の上に着地した先輩は、じろりと眼下の改造制服たちを見下ろす――気圧された彼女たちが後退るのを、笑うことはできない。

 先輩は、もはや鉄の塊と化した戦車の残骸を蹴り、虚空へ向けて腕を振り抜いた。垂直に飛んでゆく盾は、暴れ回る『砂漠の大蛇』の装甲の隙間へと突き刺さる。

 ざりざりと、金属音を立てて巻き上げられる鎖。その勢いのまま、先輩は弧を描きながら飛び出した。のたうつ蛇体を掻い潜り、スイングの勢いに乗って、その身体は一時『砂漠の大蛇』の頭上を越えて空へ溶ける。

 力尽くで引き抜いた盾が腕に戻り、先輩はくるくると回転しながら放物線を描き続ける――がこん、と響く重い音。まだ残っている戦車の砲身が先輩の方を向く。慌てふためく改造制服たちが、手持ちの火器を一斉に空へ向ける。

 

「う、撃てッ! 撃て、何としてでもあれを叩き落とせ!!」

「!? 避け、せんぱ――ッ」

 

 砲撃音――の前に響き渡る、どぱぁん、という破裂音。力を込めただけの空砲。弾丸は発射されない。けれどそのトリガーの衝撃で、先輩の身体はがくん、と奇妙に空中で静止し……その鼻先を、砲弾が掠めてゆく。

 次いで、連続した二度の発砲音。反動でくるくると回転した先輩は、脚を空へ向けて、逆さに向いた状態で、残る制式戦車へ照準を付けた――間違いない。ユメ先輩は、四肢の動きとショットガンの反動だけで、完璧な空中制動を行なっている。

 そして――地上と空の狭間で碧い星が咲いた。先輩の盾からぶわりと広がった力の奔流が輝く壁となり、撃ち上げられた銃弾のすべてを弾き落とした。

 

「駄目です!! 攻撃が通りません――うわあああっ!?」

「〜〜っ!! 退避っ!! 全隊退避ぃーーっ!!」

 

 背筋が震える。口の中が、からからに渇いている――見惚れてしまう。これを、あのユメ先輩が。

 強いというのは分かっていた。この人の強さ、凄さを疑ったことなど、一度矛を交えて以降はない。

 けれど、まさか、ここまで鮮烈だなんて。

 

「……ユメ、先輩」

 

 その姿から目が離せない。碧色に輝く光に照らされた、不敵に笑う先輩の顔に、どうしようもなく胸が高鳴る。いつもの先輩と、今の先輩、どっちの先輩の姿も、脳裏に焼き付いて消えてくれない。

 ああ、もう、誤魔化すことも、隠すこともできない。

 私は、小鳥遊ホシノは――あの人に、梔子ユメに、どうしようもなく恋してしまっているんだと。

 

「三台目――ッ、そこの二人! 今のうちに撤退しろッ!」

 

 構えたショットガンから吐き出されるスラッグ弾が光の壁に接触し、それを絡め取って巨大な杭と化す。――止まらない。真っ逆様に砂漠へと突き立ったそれは一度だけ大きく光ると、膨れ上がり炸裂する。

 砂の大津波。それが、改造制服たちを飲み込んで吹き飛ばしてゆく。その合間を縫って、白髪の生徒二人が退避してゆくのがちらりと見えた。どうも片方がもう片方を掴み、悪魔のような翼を広げて飛んで逃げたようだ。

 それを尻目に、コートの裾を翻し――砂塵を切り裂いて、先輩がふわりと、私の元へと戻ってくる。何事も無かったかのように、平然とした顔のまま。

 

「ふう。お待たせ、ホシノ。……? どうした? 何かあった?」

「ふぇッ!? い、いえっ、その、あの……か、かっこよかったですっ……」

「――、ふふ、そうかな。なら、俺もホシノにかっこいいところを見せられて良かったよ」

 

 だめだ。背筋がぞくぞくする。なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ。

 いつもと違う声音、いつもと違う笑顔。だめだ、かっこよすぎる。

 先輩のいつも浮かべている、柔らかく朗らかな笑みと違った、大人びた微笑み。目を薄く細めて、口の端だけを少し上げた……ひどく澄んだ、月のような微笑み。

 ――そうして私の心を乱しているのに、この人はそれに気付きもしないで。

 

「……さ、ホシノ。前哨戦は俺だけで片付けちゃったけど――ここからは、ホシノの力も貸してもらうよ。流石にアレは、俺一人じゃ無理だ」

「私は……先輩ほど、強くはありません。けれど、でも。先輩が求めてくれるなら、何処でだって、何とだって戦いますよ」

「ありがと、ホシノ。大好きだよ――さあ。アビドス高校対『砂漠の大蛇』の、()()()の開幕だ」

 

 ――だからッ!! そうやって人の心を弄ばないでくださいッ!!

 叫ぶわけにもいかず。私はそれを噛み殺して、熱い頬を無視して、ゆっくりと愛銃に弾を込めた。





SANABIはいいぞ。(准将とソン少佐をインストールされたクソボケを見ながら)

Q:クソボケはハイランダーにこの装備を持っていかなかったんですか?
A:持っていかなかった(臨戦装備は戦うための装備であり、ハイランダーには交渉に行ったため)。
 原作での死因は(今のところは)『遭難』であり、暗殺されるとは思ってなかった、というのもあります。
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