TS転生クソボケユメ先輩(死亡済・幽霊)が原作のn倍ホシノの脳を焼いていた話   作:死刑囚

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「ブルアカみゅーじっく♪3D LIVE」、神とさせていただきます。
めちゃくちゃ最高でした――(現地行きました)。
ホシノに叫んじゃいましたよね。まさか私の方が脳を焼かれるとは。ちょっと泣いちゃいました。

今回もお待たせいたしました。
一つ注意点……というか、デカグラマトン編(鋼鉄大陸イベント)とアビドス三章の時系列が確定難しかったので、この小説では『鋼鉄大陸編→アビドス三章』の順に発生したものとしてます。
もしそうじゃない根拠がどこかにあったりしたら……クソボケのせいでクソボケ・バタフライ・エフェクトが発生したものとしてください。


小鳥遊ホシノの喪失

 

『ホ〜シノちゃんっ! おはようっ、もう起きてたかな?』

『……はあ。そもそも居眠りなんかしてませんよ、先輩じゃないんですから。それで、何の用なんですか』

『そうそう! 今日は学区の見回りの日でしょ? 楽しみだから早く来ちゃったんだ! ――そうだ! 終わったら遊びに行かない? カラオケとか!』

『なんでいきなり……歌なんて知りませんし歌いませんよ、私は』

『えーっ……ホシノちゃん、ぜーったい歌上手いのに!! 勿体ないよ!』

 

 ――夢を、見ている。

 懐かしい、世界がきらきらと輝いていた頃の夢。

 先輩との訣別が待っているなどとは露ほども思わず、ただ二人でずっと生きていくのだと思っていた。積み重ねる日々も、約束の数々も、遠い日々の彼方の――青春の輝きを閉じ込めた宝石箱のような、まばゆい思い出の夢を。

 

『ホ゛シ゛ノ゛ち゛ゃ〜〜ん!!』

『ああもう、暑いんですからくっつかないでください! それで、何なんですか!? まさかまた、先週言ってた与太話じゃないですよね! 冷蔵庫にチェスを百連敗したとかいう!』

『冷蔵庫じゃなくて()()()だよぉ……、じゃなくって! チェスじゃなかったらいけると思ったんだけど……』

『……だけど?』

『……将棋とオセロでも百連敗ずつしちゃって、合計三百連敗になっちゃったんだよ〜……!』

 

 覚えている。

 ユメ先輩はお気楽そうに見えて――実際にお気楽な人なのだけど、馬鹿じゃない。馬鹿じゃないのだけど、しかし、素直で純真な人なのだ。だから、そういう盤上ゲームにはめっぽう弱い。

 私も別に、頭抜けて強いという訳ではないけれど、ユメ先輩には負けたことがない。家電に負けた、というのはよく分からなかったけど、どうせオンライン対戦の相手のアイコンか何かの話だろう。

 ……ユメ先輩の話がとっちらかって、あっちこっちに飛んでいくのも慣れたもので……その落ち着きのない話を聞いているのが、どうしようもなく好きだった。

 

『はあ、はあ……げほっ、はぁ……少しは迫れたと、思ったんですがね……!』

『少しは、どころじゃないよホシノ。照準の速さも足運びも、すごく上達してた。私もひやっとしたよ』

『そんなっ、暑そうな黒コートをっ、着てるくせにっ、汗一つ掻いてないで……っ、よく言えますね……はぁ――ふふっ。やっぱり強いですね、ユメ先輩』

臨戦(こっち)で訓練つけてほしい、って言ったのはホシノでしょ。まあ、もう訓練は終わりだし――あ、そうだった忘れてた!! ホシノちゃんホシノちゃんホシノちゃんっ!!』

『……ああ、もう。どうしたんですかユメ先輩。私、まだ少し立ち上がれそうには……』

『じゃじゃーんっ! 見てみて、これ! アビドスの――』

『――アビドス水族館の特別優待チケット!!?!? しかも明日の!? う、うへっ、せ、せんぱいっ、こんなお宝どこで……』

『昨日、たまたま銃撃戦から助けた犬のお爺ちゃんがそこのオーナーさんらしくってね? オープンしたてでまだお客さんもあんまりだから、ってチケットくれたんだ! でね、ホシノちゃ――』

『――大好きですユメ先輩っ!! うへ、絶対明日一緒に行きましょうね!! 約束ですよっ!!』

 

 ――覚えている。

 我慢できなかった私が先輩を引っ張って、学校に二人で泊まったことも。

 まだ日が昇る前、薄明るくなり始めた頃に、二人で学校を出発したことも。

 朝ぼらけの、緋色と紫色の入り混じる空と海を横目に。きらきらと暁の光の輝く海岸の道路を、先輩のバイクに二人乗りして。歌詞のついてない曲を流しながら、まだ涼しい風を全身に浴びて。

 先輩の背に、手を回して抱きついて。伝わってくる体温も、鼓動も、息づかいも、全部全部――覚えていて。

 だけど、この夢の最後は。

 

『――いい加減、そんな楽観的なままでやっていけるなんて考えは捨ててくださいッ!!』

 

 あの日。あの日は、何があったんだっけ。

 そうだ、ちょうど……カイザーローンが、利子を十倍に引き上げてきたんだ。返済能力があって、実績もあるから、これまで見逃してた分を徴収する、なんて言って。

 連中は他にも、このアビドスを手に入れるために色んな嫌がらせをしてた。ユメ先輩の活躍で市街地に残ってた人も日に日に減っていってて、調べてみればカイザーPMCが住民に嫌がらせを仕掛けてた。私とユメ先輩がいつも通ってた雑貨屋さんもシャッターを壊され、店を荒らされ……思い出ごと、何もかも踏み躙られて。

 ユメ先輩は困ったように笑って、これからも頑張らないとね、なんて言ってたけど――私は、どうしても怒りが抑えきれなくて。

 

『もう付き合ってられません! 生徒会は終わりです! ――先輩なんて知りませんッ!!』

 

 謝れるはずだった。ごめんなさい、って言って、頭を下げて、また元通りに、先輩と一緒に過ごせるはずだったんだ。

 喧嘩するのだって初めてじゃなかった。私が怒る時もあったし、ユメ先輩が怒る時もあった。怒って、少しだけ距離を置いて、翌日にはまた元通りになるのがお決まりだった。

 だからあの時だって、先輩に……ポスターを破ったことを謝って、その筈だったのに。

 

『ホシノちゃん!』『ホシノちゃーん!』『ほ、ホシノちゃぁん……』『ホシノ』『ホーシノちゃんっ!』「――先輩!」『ホシノちゃん』『ホシノ!』『わっ、ホシノちゃんっ』「――ホシノ先輩っ! 起きてくださいっ!」『ホシノちゃん――』

 

 目を開けて、身体を起こす。

 ぼんやりと滲んだ目元を擦れば、声をかけてきた子の姿がはっきりと鮮明になる――アヤネちゃん、私の可愛い後輩だ。

 良い夢だった。あの人は夢の中にしかいないのだから、あの人が出てくる夢は全部良い夢だ――それが、自分の罪を突きつけてくるものだったとしても。その、良い夢の残滓を、伸びをして振り払う。

 ちらりと、窓の外を見る――案の定、あの日の流星は、窓の外のどこにも見当たらなかった。

 

「うへ、おはよ〜。どったのアヤネちゃん、なんだか慌ててる?」

「は、はい。その……ハイランダー鉄道学園の生徒が、来ていまして……」

「あ〜……この前の。あのパヒャパヒャしてた子たちかな?」

「はい、その方たちと、後は眼帯の……スオウさんがいらしています」

「そっかそっか〜。なら、おじさんも行かなきゃねぇ。先生は?」

「いらっしゃってます。お疲れの様子じゃありませんでしたけど……」

「うへ〜、流石だぁ。おじさんだったら、一ヶ月は寝込んでるねぇ。なんだっけ、また何か解決してきたんでしょ? 鋼鉄大陸だっけ」

 

 少し古びた廊下を軋ませ、アヤネちゃんとお話しながら歩く。向かう先は近くの教室、対策委員会の本部。果たして、そこにいたのは緑色の髪の双子と、眼帯の生徒。双子の方は……どうにも子供っぽくて邪気はない。眼帯の方は、何か含むものがありそうだけど――理性的で、常識的で。まだ、話ができそうな相手だ。

 

「もっとも、あんたたちが武力行使に出たところで――勝つのは私だがな」

「――ん」

「ちょっ、シロコ先輩リラックスリラックス! みんなも止めて、最近シロコ先輩強くなって止めるのが難しいんだから!!」

 

 ――砂漠横断鉄道。彼女たちと、その後に入ってきた『私募ファンド』の連中の語ったことについては、別段おかしなことはなかった。いや、アビドスの土地や権利がまた勝手に売買されてる、ってことには思うこともあるけれど。少なくとも今現在、アビドスに敷設されている鉄道網の権利が相手方にあって……それを根拠として、この前みたいな工事をしてた、ってことについては、理解できた。

 私募ファンドの本題がそこではない、ということも。

 

「アビドスには二つの生徒会組織がある、と?」

「あ〜……、私がどっちにも所属してるからか。アビドス生徒会は形骸的に名前が残ってるだけで、今の生徒会は『対策委員会』で合ってるよ」

「事情は理解しました。生徒会であるのなら、我々としてはどちらでも構いません――では、こちらをご覧ください」

 

 ただ、でも。

 

「『売主セイント・ネフティスと買主アビドス生徒会は、砂漠横断鉄道の施設使用権を百万円で売り渡し……乙は契約金の一部として一万円を即座に支払うことを約束する。本契約の締結後、二年以内に残金をすべて支払い――乙が本契約に基づく支払いの遅延をした場合、乙は甲に対して遅延存在金を――』」

 

 いくら探しても見つからなかった、ユメ先輩の痕跡が。

 こんなところから転がり出てくるだなんて、思ってもみなかった。

 

「『――アビドス生徒会長、梔子ユメ』……ッ!?」

 

 ユメ先輩の字。忘れるわけがない、間違えるはずもない。何度も何度も、ずっと横で見てきた筆跡。これは間違いなく、ユメ先輩が、ユメ先輩の意思でサインしたものだ。

 ――けど、私は知らない。こんな契約書があったことも、それ以前に、そんな契約をユメ先輩が進めていたことも。ユメ先輩の意思があるのは、わかる。では、何故? なんでユメ先輩は、こんな契約を結ぼうとしたんだ?

 分からない。……考えたいのに、頭が真っ白になって動かない。分かるのは、私募ファンドの連中は、この契約を破棄させたがっているってことだけだ。

 百万円の支払い。アビドスの負っている借金に比べれば微々たるものだけど、それでも安い契約じゃない。私は、この契約を破棄したくない――意図は分からないけど、ユメ先輩が結ぼうとしたものだから。ただ、でも、そのために、後輩たちに借金を背負わせるのも、したくない。

 

「では、この契約は破棄するということでよろしいですね? ――ホシノさん、ここにサインを」

「ぁ、う……ちょ、ちょっと待ってもらえる、かな。急かされても、私、困っ、どうしたら……」

 

 言葉が出ない。掌に汗がじっとりと滲んでいる。

 後輩たち(みんな)のことを思えば、破棄するべきだ。でも、先輩の意思を――意図を、知りたい。

 堂々巡りになって、喉が縛られたように呼吸が苦しくなる……肩に、大きな手が置かれた。

 

“――少し、考える時間を貰えませんか?”

“生徒たちにとっては急な話です。期限は二日後とはいえ、どうするか話し合う時間はあるでしょう?”

「……二日、後? 先生、それって……」

 

 ちりちりと、脳のどこかが焼け焦げるように痛む。二日後。今から数えて、明日の明日。そこは何か、特別……いや、違う。決して、忘れてはいけなかった、日付のような気がする。

 私の疑問の声に答えるよりも早く、太ったロボットの男は感心したような声をあげた。

 

「おや、ご存知でしたか。流石はシャーレの先生、事情通ですね」

“ええ、まあ。それなりには”

“私のことを手伝ってくれる、優秀でかわいい事情通(謎の美少女工作員ちゃん)がいるものでしてね”

「……結構。先生はご存知のようですが、明言しておきますと――その契約書が交わされたのは、二年前の二日後。その日になれば、契約は自動的に無効になるのです」

 

 契約破棄を阻止したければ、二日後、アビドス中央駅旧庁舎で行われる総会に来い、と言い残して――私募ファンドは去っていく。残されたのは、対策委員会のみんなと、私と、先生だけ。

 ――セリカちゃんが叫んでる。怪しい、それはその通りだろう。今になってこんな契約書が発見されて、しかも期限は二日後で。そして、そこに記されているのがユメ先輩(生徒会長)の名前だなんて、何か裏がなければ逆におかしいだろう。

 だから――。

 

「……ホシノ先輩。この問題の鍵は……二年前のアビドス生徒会長、梔子ユメさんにあるような気がしています。ですが私たちは……当時のアビドスで、何が起こったのか知りません」

「……うへ、そうだね。当時のことは話したこと、なかったもんね」

「はい。……ノノミ先輩は、知っておられますか?」

「そうですね……ホシノ先輩ほどではありませんが、少しは」

 

 ああ……そっか。今日なのか。首に掛かった息苦しさが、重さを増す。締めつけられているように、呼吸が浅くなる。

 いつか、私の罪が暴かれる日が来るとは思ってた。でも、ああ、それは今日なんだ。

 

“……ホシノ? 大丈夫?”

“話しにくいなら、私から話そうか。彼女のことについても、少し調べたしね”

「……ううん、先生。おじさんは大丈夫だよ」

 

 私の方を向く、五対十個の瞳。それから目を逸らすように色褪せた天井を見て、私は息を吐いた。

 

「と言っても、軽〜く話したことはあったよね。まだこの学校がカイザーに襲われてた時だっけ」

「……ああ! あの、ホシノ先輩が一回も勝てなかった、って先輩?」

「ん、話を盛りすぎ。今思い返しても、やっぱり誇張表現だと思う」

「うへ〜、おじさん嘘なんてついてないよ〜……まあ、話を戻すとね。その先輩が、アビドス生徒会長。梔子ユメ先輩なんだ」

 

 久しぶりに、その名前を口にした気がする。いつもいつも、ずっと飽きずに呼んでいたその名前は、どこか空寂しく対策委員会の部室に響いた。

 

「で、そのユメ先輩とおじさんが、二人で所属してたのが『アビドス生徒会』……先生も、これくらいは調べたんでしょ?」

“そうだね。梔子ユメさん、私が調べた時は、強いって話は聞かなかったけど……”

“でも、アビドスに住んでた全ての人に慕われてた、って聞いたよ。住人の人も、休学してる生徒たちにも……カイザーグループの大人でさえ、ユメさんのことを慕ってた、って”

「うへ、間違いじゃないよ。……前にも言ったけど、ユメ先輩は騙されやすいおバカでね。理想主義で、夢見がちで。突拍子もないことをするけど、現実を見てないわけじゃなかった。……ね、セリカちゃん」

「な、なによ先輩! あ、あの時のことは謝ったでしょ!?」

 

 慌てる可愛い後輩に、くすりと笑みが溢れてしまう。首に掛かった息苦しさが、どこか和らいだような気がして、私は息を吸い込んだ。

 

「違う違う。そうじゃなくて……先輩はおバカだけど、すごい人でさ。……ほとんど一人で学校の借金を、二億と五千万円ちょっと返した……って言ったら、信じる?」

「……!?!?」

「……銀行強盗の先輩? ん、でも私たちは五分で一億稼いだ」

「それも違うよ〜、シロコちゃん。先輩は色んなところで地道にお金を稼いで、それだけ返済してたんだよ。先生なら知ってるかな、遊園地(スランピア)で稼いでた、って言ってたね」

“……! それは……すごい子だったんだね”

“(……でも、あれ? スランピアでのクレジット稼ぎについては、ヒマリでさえも知らなかった。それを、二年前のユメさんが知ってた……?)”

「……梔子ユメ先輩というのは、そんなにすごい方だったんですね」

 

 何かを考え込むアヤネちゃんの横で、セリカちゃんが慌てたように口をぱくぱくさせている。うへ、気持ちは分かるよ。ユメ先輩がいなくなって……その後、生徒会室を整理している時に返済の帳簿を見つけて、私も一人で驚いたもん。

 アビドスに入学した時から、一人でずっとコツコツと。誰に知られるでもなく、一人で戦って戦って、強くなって、お金を稼ぎ続けてたあの人。――旧生徒会は、そんなあの人に全部を押し付けて逃亡したってことだから、当然腹は立ったけどね。

 

「で、そんな凄〜いユメ先輩の下には、もう一人……凄くないバカがいたんだよ。それが私。アビドス生徒会は、おバカ二人で構成されてたんだ」

「……ん、一人でそれだけ稼げるのは分かった。でも、尚更借金を増やそうとした理由は分からない。その先輩は、どうしてそんな契約なんかしようとしたの?」

「……っていうか、そんな人がいるなら直接聞いたら良いじゃない! 今、どこに住んでるの!? なんなら手伝ってもらえば――」

「……セリカちゃん! それは――」

“梔子ユメさんは、二年前に……失踪したんだよね、ホシノ”

“その様子だと、ノノミや……アヤネも、知ってるのかな”

 

 ノノミちゃんが、その言葉に頷く。沈痛そうな表情で。……思えばノノミちゃんは、初めてアビドスに来た頃からユメ先輩の失踪を知っている様子だった。ノノミちゃんの実家の関係もあるだろうけど、それ自体には驚くことはないみたいだね。

 他に驚いた様子を見せないのは――アヤネちゃん。アヤネちゃんはしっかり者だから、きっと調べてたんだろう。多分、前に私が先輩の話をした時かな? その時はユメ先輩の名前を出しちゃいなかったけど……まあ、私と一緒にいた人、ってところからなら充分調べられるだろう。

 逆に、多少の差はあれど驚いているのはセリカちゃんとシロコちゃん。そして先生は――ユメ先輩の話を聞いても驚いた風を見せない。どうやら調べてきた、って言ったのは嘘じゃないみたいだ。

 そもそもなんで、先生がユメ先輩について――そう、あの契約書が出る前から調べてたのか、って疑問はあるけど……それは今気にすることじゃない、かな。

 

「そう、だね。先生の言う通り。……二年前のある日、私とユメ先輩は喧嘩をしてね。ほんの些細な、どうでもいいことで……私は怒って、生徒会室を飛び出して。そこから三日、ユメ先輩とは顔も合わせてなかった」

「……ホシノ先輩……」

「生徒会室に戻った私が見たのは、がらんどうの部屋と、ほんの少しの、メモみたいな置き手紙だけ。……いろんな目撃情報を集めて判明したのは、先輩が失踪したのはその日だってことだけ。私はそこから、三十三日かけてアビドス中を探し回って――」

“……見つからなかったんだね?”

 

 ああ、そうだね。他のみんなには、そう言ってある。だからユメ先輩は、今でも『失踪』扱いになっている。

 だけれど、もう、隠しきるのは無理みたいだ。……ごめんなさい、ユメ先輩。自分で何もかもを隠しておいて、いざとなれば学校のためだ、なんて理由をつけて吐き出せることに安心感すら感じてしまって。

 本当に、自分で自分が、情けない。

 

「――ううん。私は見つけた。見つけたんだよ。アビドス砂漠の真ん中で、ユメ先輩の……ヘイローの壊れた、死体をね」

「――、は? なに、それ……」

「え、っ……ほ、ホシノ先輩……?」

“な……っ、ホシノ、それは……”

“……大丈夫かい、ホシノ。無理はしなくても……”

 

 いつもは賑やかな対策委員会の部室が、しんと静まり返る。かちかちと、時計の音だけが響く。誰もが、呼吸を忘れたように息を止めて、私の顔を凝視している。

 ……なんだかきまりが悪いな。先生も、シロコちゃんやノノミちゃんも、アヤネちゃんやセリカちゃんも、青ざめた顔で私の方を見ている。うへ、そんなひどい顔になってるのかな、私。

 

「んや、大丈夫だよ。……おじさんは、失踪したユメ先輩を探してね、三十三日……一ヶ月くらいかな、捜索してたんだ。最後の目撃情報を辿って、アビドス砂漠を行ったり来たりして……」

「……先輩。それは一人で? それとも……」

「人手はたくさんあったよ。サンクトゥム攻略の時に来てくれた……って、シロコちゃんはその時いなかったか。まあ、アビドスに住んでる不良の子とか、みんなでね。……でも、見つからなかった」

「……ん」

 

 最後の日まで、誰も諦めはしなかった。みんな疲れてるだろうに、砂だらけになって、砂漠のあちこちを探してくれた。人手を集めて、朝から夜まで。時折発生する砂嵐を避けて、みんな必死で。

 

「……最後の日は、冷たい雨の日でね。風も強くって、みんなは遭難を避けるために砂漠には出なかったけど、私一人で探しに行って――そこで、見つけたんだ。ヘイローが壊れた、ユメ先輩を」

「……っ、ホシノ先輩……」

「状況的には、砂漠に行って遭難したように見えて。けど、それはあまりにも不自然でね。あの人がそんな失敗をするのもそうだけど、そもそもなんで、砂漠なんかに、一人で――、……あ」

 

 ――二日後。

 失踪から三十三日後の、ユメ先輩を見つけたあの日。いや、逆だ。ユメ先輩を見つけたあの日から、三十三日前の……ユメ先輩が失踪した日。それが――『二日後』だ。

 震える手で、机の上に広げられた契約書を取る――ああ。

 

「……こ、の日付。契約が結ばれた日。――ユメ先輩が、失踪した日だ」

 

 忘れるはずがない。忘れていい、はずがない。

 ユメ先輩が失踪した『あの日』。たった一人で、ユメ先輩をどこかへ行かせてしまった『あの日』を、私の罪を、忘れていいはずがない。

 

“――なんだって? ホシノ、じゃあ、それは……”

「……ユメ先輩は、一人で、この契約を結びに行った。そして、その帰りに――失踪した、ってことになる、のかな。でも、なんで……?」

 

 なぜ先輩は、一人で行ったのか? ――私がいなかったからだ。

 なぜ先輩は、そんな軽装で行ったのか? ――戦いに行った訳じゃなかったからだ。

 じゃあ、なぜ先輩はこの契約を結びに行ったのか? ――分からない、先輩が何を思い、何を考えていたのか、何も。

 分からない――いや、そんな筈はない。ユメ先輩が、何を思っていたか。何を夢見ていたか。先輩と、ずっと一緒にいたんだ。ずっと隣にいたんだ。私だけは、分からないなんて、言っちゃいけない。

 思い出せ。

 思い出せ。

 私は、先輩との記憶へと思考を潜らせて――。

 

 ぱちん、と、指を鳴らす音がしたような気がした。

 

 

 

「――攻略法その一『既に起きた出来事は変えられない』。ヒヒッ……これは、対先生の、その応用ですがね。そう、『暁のホルス』……変えられないのです、過去は。ならば、そんなものを後生大事に覚えていても、意味は無いでしょう? これは――小生からのささやかなプレゼントですよ。ヒヒッ、ヒヒヒヒ……!」

 

 

 

「……ぁ、れ」

 

 思い、出せない。

 あの日、先輩と話した――確かに、話した筈だ。なのに、何も思い出せない。

 先輩の声も、顔も、覚えている、なのに、何を話したのか思い出せない――本当に? 本当に、私は覚えているのか?

 先輩の声は、優しい声だった。優しくて、弾むようで――じゃあ、具体的には? どんな声音で、どんな抑揚で、誰に似た声だった?

 先輩の顔はいつも優しく笑っていて、朗らかで――じゃあ、笑顔以外の表情は? 私はいろんな先輩の顔を見た、見た筈だ。怒った顔も、泣いた顔も。その顔は、どんなだった?

 先輩はいつもなんで言ってた? 私を気遣うような、慈しむような、そんな言葉をかけてくれていて――じゃあ、その言葉を、私は覚えているか?

 

「っ、あ――な、なんで、ゆ、め……せんぱ、」

 

 先輩との思い出は? ――覚えている、先輩と初めて会った時のこと。生徒会入りの時、二人でパトロールに行った時、カイザーとの交渉、先輩を助けたこと、ビナーと戦ったこと――なら、それ以外は?

 あの日々の中で、私は先輩とどんな話をした? いやそもそも、それ以外の思い出は? 二年、二年も一緒にいて、たった少しの、それだけのことしか、思い出せないのか?

 

「ぁ、ちが、違っ、先輩っ」

「ちょっ、ホシノ先輩!? 顔真っ青よ、どうしたの!?」

「……様子がおかしい、先生、ホシノ先輩は……」

“っ……ホシノ、落ち着いて! 深呼吸するんだ!”

 

 首を、縄で締め上げられたように息が吸えない。手足の先が冷たくて、全身の血が凍りついたように寒い。視界が暗く狭くなって、頭の奥で、きぃーん、と甲高い音が鳴り響いている。

 視界に、目を閉じた先輩の姿がフラッシュバックする。砂の中に半ば沈んだ、血の気の失せた、冷たい、目を開かない先輩の身体。雨に濡れて、だらりと力無く横たわったあの人を抱いて、アビドスに帰って。せめてと思ったけど、あの人を埋葬できるところなんて無くて。結局、砂漠の――ある場所に埋めた。旧生徒会の宝物があるなんて言われてたけど、まるで何一つなかったあの場所に、私の宝物(あのひと)を埋めた。

 思い出せるのは、そんなことだけ。

 先輩はきっと、こんな情けない私が全部を忘れても、怒りはしないだろう。そんなこともあるよね、大丈夫だよホシノちゃんって、気の抜けたように笑うはずで――ああ、本当に、そうだろうか?

 

「ホシノ先輩っ!? しっかりしてくださいっ!」

「……先生! ホシノ先輩を休ませないとっ」

 

 先輩の顔も、声も、話したことも忘れかけているくせに、私が先輩の何を語れる? 先輩が私を……内心でどう思っていたかなんて、なんで私が断言できる?

 だって私は、あの人を傷つけたのだ。役立たずのくせして、あの人がどんなに頑張っていたのかを知っていて。なのに、あの人に差し出された手を跳ね除けて、あの人が大切に持ってきた、砂祭りのポスターまで目の前で引き裂いて。

 だからユメ先輩は、私を許さない。許してはいけない。許すはずがない。先輩を一人にして、死に追いやった私を、許すべきではない――ああ、いや、違う。そんなことすら、考えるのも烏滸がましい。

 ユメ先輩の思いも、考えも、私なんかが語るべきじゃないんだ。私にとって、唯一確かなのは――ただ、目の前に置かれた紙切れ一枚。そこに書かれた、ユメ先輩の名前。私が、私の何を信じられなくても、それだけは信じられる。

 ユメ先輩は、砂漠横断鉄道の権利を、アビドスの手に置いておきたかった――それだけが、真実だ。理由がわからなくても、そんなことはどうだっていい。先輩が、あのすごくて、私なんかより何倍も、何倍もすごい先輩が、そうしなければならないと決めた――遺志なのだから。

 

「……っっ!!」

“――ホシノ!?”

「ん、追いかける……!」

 

 ただ一つ、ユメ先輩の遺志が記された確かな証拠を置いて、私は駆け出した。大丈夫、分かってる、たとえユメ先輩が私をどう思っていたとしても、後輩たちと……先生に、迷惑をかけるつもりはない。あの子達を、先生を守るのが、私の使命だ。

 けれど、でも――ただ今だけは、あんまりにも情けなくて。

 私は、独りになりたかった。





Q:なんで唐突にカラオケの話を?
A:3Dライブがすごくってぇ……。みんな、観よう!

Q:このホシノ、先輩のおかげでメンタルも強化されてたけどどう崩すの?
A:地下カスの洗脳で記憶封じて土台を消せばガタガタになるぜ!

ってわけで、地下生活者の暗躍によりホシノが壊されたという。結果、暴走特急が出来上がりました。
本編でオラッ洗脳っ! をやってるだけあって、何をさせても「まあ、やるかこいつなら」ってなるのは良いエネミーだと思います。
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