TS転生クソボケユメ先輩(死亡済・幽霊)が原作のn倍ホシノの脳を焼いていた話 作:死刑囚
はちゃめちゃに長くなったので分割!
今回はクソボケが仕込んだりしたなんやかんやのネタばらし回です。
↓Twitter開設しています。本作に関する質問疑問やなんやかんや、ここが好きだよ、などなどお気軽にどうぞ。
@kusoboke_writer
びくり、と先生の肩が震えた。
慌てて周囲を見回して、何かを……おそらく私を、探している。
“……ユメ!?”
“見えないけれど……いるんだね?”
『はい! 梔子ユメ、参上ですっ! なんて……えへへ、今は幽霊なので見えないと思いますけどね。声だけ、伝えてるんです』
先生は私と会話しながら、器用に指示を出している。前衛は四人――ホシノちゃん、シロコちゃん、ノノミちゃん、セリカちゃん。ミカちゃんとヒナちゃんは負傷していて、戦えないようだ。
後衛はアヤネちゃん一人で、『あっち側』のシロコちゃんは指揮範囲外……自由行動のよう、で……あれ。
制約解除、していない……?
『あ、あれ? 先生、お邪魔しちゃいましたかね……? すみません、先に先生のご用を済まされてからでも大丈夫ですので……』
“……いや、大丈夫だよ、ユメ。”
“ただ……心配してくれている通り、戦況はあまり良くないかな。”
『うぇっ!? ろ、六人で戦うつもりですか……!?』
『……疑問。この方は、私と先生の会話を聞いていたのでしょうか』
『あれ? これは……』
プラナちゃんの声、と言いかけて、ぐっと踏み止まった。えらいっ! ……って、聞いてもないのに制約解除のことをぽろっと口走ってしまった時点でだいぶやっちゃった感じはあるけどね。
ただ、流石になんでもかんでも知りすぎているのは……説明が難しい。だから言葉を濁しておこう。
『……さっきの声?』
『驚愕。先生、この方には私たちの声が聞こえているようです』
“……そうみたいだね。幽霊だからなのかな?”
“まあ、それなら知ってると思うけど……プラナの言った『制約解除』だけどね、ちょっと問題があるんだ。”
『はぅ、も、問題……?』
『肯定。『シッテムの箱』のリソースが何かに占有されており、少しだけリソースが足りません。その為、制約解除状態を長く維持できないのです』
それは――。
『……それは、私のせいかも』
“ユメ? 君のせいって言うのは……?”
『後回しでも、って思ってたんですが……そうも言っていられませんね。やっぱり、お時間少しお借りします。そして、説明します――それをどうにかすれば、少なくとも、その……制約解除、とやらまでは持っていける筈ですので』
“……分かった、お願いするね。”
“遅滞戦闘に切り替える、少しなら時間も取れる筈だよ。”
先生の指揮するみんなのポジションが変わる。ホシノちゃんを最前衛にして、残りは迎撃をメインとした防衛向けの隊列に。『あっち側』のシロコちゃんは遊撃で、これなら時間稼ぎには充分だろう。
ただ、それより感心するのは……一見無意味な隊列変更に、戦術変更。それらに誰一人として異論を挟むことなく従っている点だろう。先生とみんなの、強い信頼関係が見て取れるようだ。
『ありがとうございます。……そう、ですね。何から話すべきか。迷っている時間はありませんが――まずは、これからですね』
『拝聴。……アロナ先輩も、ちゃんと聞いてくださいね』
『…………………………っ』
『……? アロナ先輩?』
“どうしたのかな?”
“……多分大丈夫だと思う。続けてくれるかな、ユメ。”
アロナちゃん――ううん、アーちゃんの息を呑む音だけが聞こえる。……はぅ、勝手に死んじゃったから怒ってるのか――あ、いや。流石にアーちゃんなら、私のことだって把握しているかもしれない。だとすると……なんと声を掛けて良いのか分からない、ってだけかもしれない。
ともかく、それを掘り返している時間はない。
『はい、分かりました先生。それでは――』
それにしても。
私はぶっちゃけ、色んなプランを用意していた。事前に借金を全部返し切るプランもあったし、存在を知っているのだから早期に砂漠横断鉄道の権利書を回収するプランも考えていた。
けれど結局、一人で全部やり切るプランは何もかも頓挫し……残ったのは、こうして他力本願に任せる最後の一つだけ。
私人としての趣味も、アビドス生徒会長としての責務も全部注ぎ込んで、色々と調べて備えることは出来るのに……それを結果にできない。臆病で、馬鹿で、一人でいればやることなすこと失敗する。
誰かに助けて貰わないと、生きていけなくて……なんて、ずっとそう思ってた。
でも。それで良いんだって分かったから。
ネガティブなのは、ここまでにしよう。『手繋ぎ進めば怖くない』――誰かと手を携えて、一緒に歩いていけるのならば、どれだけ未知の未来だって怖くないのだから。
だから――さあ、盛大な
『――まず、大前提として。私が企図しているのは、見立てによる
“見立て……それに、事象の再現?”
“それは、一体……?”
分かりやすい言葉で言えば、屁理屈をつける――と言ったところだろうか。このキヴォトスで起こった……ではなく。起こり得るあらゆる事象をかき集め、それを再現する。
それが、私のプランだ。
『ええ。そして成立のための複数要素、その一つ目。……先生、アビドス砂漠の『宝物』……大オアシスに埋められた旧生徒会の遺産、ってご存知ですか?』
“軽くなら、以前ホシノから聞いたよ。ユメと二人で宝探しをしたってね。”
“昔のアビドス生徒会が埋めた高価な品物……だっけ。”
『はい、その通りです。厳密には、希少鉱物を封入した花火が大オアシスに捨てられている……という話ですね。ホシノちゃんと宝探しをした時には、それは見つからなかったんですけど――』
――だが、この世界の誰も知らないことだけど。私は、『大オアシスに間違いなく、それが埋められている』ことを知っていた。他ならぬ、『原作』の描写によって。
セトの憤怒の攻撃……電撃によってそれは励起し、青い光を放って消滅する。そんな描写がある以上、大オアシスにそれが眠っているのは確定事項だ。
だが、私はそれを掘り出さなかった。何故か?
借金を返すためのお金稼ぎの方策は――私が死んでいなければ――他にもあった、というのもある。掘り出したところで、一発大逆転で全額返済! って訳じゃなかった、ってのもある。
けれど、私がホシノちゃんに秘密にしてまでそれを埋め続けたのは――。
『――実は、私は。追加の調査で、それが……希少鉱石を封入した花火が確実に埋設されていることを、突き止めていました』
――いつかの繰り返しになるけども。
『原作』知識を持っていることの最大の利点というのは――『原作』の知識を持っているということ、そのものだ。単なる未来予知とか、並行世界の認識とか。そういう話じゃなくて……『ブルーアーカイブ』というゲームと、システムと、シナリオを知っている、ということだと思う。
例えば――スランピアには、沢山のクレジットを落とすオモチャがいる、とか。放棄された軍需工場でロボットと戦うのは良い経験になる、とか。
例えば――先生が『シッテムの箱』で指揮をする際のUIは、
『ブルアカ宣言』よろしく文脈を乗せて宣言し、それを納得さえさせられれば、変質しかけたテクスチャですら元に戻せる、とか。
そして、何より――アビドス第三章で、先生は。間違いなく、私とホシノちゃんがかつて宝探しをした大オアシスの跡地に現れる――とかだ。
話が逸れたけど、要するに、私の言いたいことはそういうこと。普通では知らない、知りようもないことを知っている。それが私の持つ、オシリスではないもう一つの『神秘』。
それが何であると私は気付いたか――それは、また後だ。
“そうなんだね。流石はユメ、アビドス生徒会長の面目躍如ってところかな。”
“それで、それを話に出すってことは、それが何か関係しているってことかな?”
『はい、その通りです。と言っても、まずは諸々の前提として、その希少鉱石が何であるかをお伝えしたい、って話なんですけどね』
――アビドス砂漠、大オアシスの跡地には一つの
『その鉱石は――一生徒が気軽に手に入れられるような物品ではないそれは、途方もないエネルギーを秘めています。電気的な刺激を加えると使用でき……使用すれば、青い光を放って物理的に消滅する、という性質を持っているんです』
本来の世界、つまり『原作』でも、それはセトの憤怒の放つ雷によって励起した。結果、鉱石は生徒であるホシノちゃん達には使うことが叶わず、プラズマとなって消えていった。今、オアシスに埋没しているあれらもまた同様、期間限定……この後、”制約解除決戦”が開かれ、そして終われば消えゆく運命だろう。
もしも私が死を回避できれば、卒業間際に回収して借金返済に充てるつもりだったけど……今となっては、それにも使えずに消滅するだけ。
言い訳の結果論ではあるけれど、私のために使わせて……いや、使ってもらおう。
『……疑問。その石が、何に使えるというのですか?』
梔子ユメとして調べに調べて、原作通り、大オアシスにあることを突き止めたその石。
――『電気的な刺激を加えることで発動でき』。
――『一度使用すれば消滅し』。
――『生徒には意味のある使用はできず』。
――『非常に高価で、生徒には購入できず』。
――『使用後は青い光を放つ』。
来歴も産出場所も、名前すらも分からないそんな石。特徴はと言えば上記のそれと――青い光を放つに相応しい、透き通るような青色をしているということだけ。
けれど、そこまでの材料があれば――テクスチャを縫い付けるのは容易かった。
『うん、当然の疑問だよね。というわけで……ここでユメ印のマル秘情報〜! アビドス大オアシスに埋まってる、希少鉱石を使った花火! それに使われてる鉱石なんだけどね。綺麗な青い光を放つだけあって、石自体もとっても透き通ってて……綺麗な青色をしてるんです』
だって、電気的な刺激、つまり……UIをタップすることでクリックイベントを走らせて、内部的に使用処理を行う、そんな青い石なんて。この世界に、たった一つしかないのだから。
“透き通った――。”
“青色の、石……?”
『はいっ。そう、まるで――
先生とプラナちゃんが息を呑む。おそらく、聞こえないけれどアーちゃんも。
そう、これが私の伏せ札のひとつ。『原作』に間違いなく登場していて、かつ、希少鉱石と呼ばれるに相応しい石。
先生にしか使えないそれを、私が何と『見立て』たか。
『青輝石、と。そう呼んでいました』
“……!?”
“ユメ、それは――。”
それが一つ目。では二つ目は?
それも、私が砂漠でそれを見つけて以来仕込んでおいたものだ。
『話を遮ってしまってすみませんが、もう一つ。先生、先生は私のバイクに乗って下さいましたよね?』
“また、急な話だね……。”
“でも乗ったよ。良いバイクだったね!”
『ありがとうございます。私もお気に入りなんですよ、捨てられてなくて良かったです。じゃあ先生――二つ目の話です。あのバイクに貼ってあった、私の名前シール。見ましたよね?』
“……今更ながら、ユメ。私は君の見識の広さに驚いているよ。”
“あれも、ユメが一人で調べたのかな?”
『まあ、はい。……もしもの時のための保険ではありましたけどね。それが功を奏した形です』
私のお気に入りの名前シール。ピンク色でキラキラのラメ入りで、一枚一枚手書きで名前と似顔絵を描いたお手製だ。
ちょうど良いものがなく、どこにも売ってないから、自分で全部一から作った名前シール。私である俺と先生にしか、それが何か分からないであろう、名前シール。
『我ながら、ですけど。本物そっくりで良いデザインしてると思いませんか、先生?』
“ああ、そうだね。随分驚いたよ。”
“似顔絵は……随分、個性的だったけどね。”
『は、はぅ……絵心はあんまり無くて……こ、こほんっ。でも、似顔絵は『見立て』のためのおまけなので別に下手でも良いんですっ!』
“……見立て?”
“そうなると、あれはやっぱり……。”
――ピンク色で。キラキラに光っている。ちょっとだけ縦長な六角形の。手ずから作って、その時に……一枚一枚、私の『神秘』を込めに込めた。私の……否。
“……神名文字。だよね、ユメ?”
“信じがたいけど……それを自分で作った、ってことかな。”
『あくまでそれっぽいもの、ですけどね。……で、ここからが本題なんですけどね、先生』
私は話しながら、ポケットからスマホを取り出す。……操作する指にも、もうあんまり力が入らなくなってきている。
二、三度取り落としながら、操作を続ける。事前に作っておいた音楽ファイルを添付して、メッセージを送信――この音楽ファイルの作成だって、ただの趣味じゃない。今この時、このルートで、『見立て』を完成させるために、趣味に
『私特製の、神名文字シール。あれ、バイクの至る所に貼ってあるんですよ。シャシーのカバーだけじゃなく、フレームや荷台、座席の裏側なんかにも、たっくさん』
“それは、見たから知ってるよ。”
“こう……貼り方も独特だったね?”
『ひ、ひぃん……! なんだかデザインセンスがない人みたいに思われてますかっ、私!? ……こ、こほん。まあ良いや、それでですね、先生』
私の名前シール。バイク以外のいろんな私物にも貼って、貼って、貼り倒してはいた。けれど、もしそれを使うような時が来たら、どこにどれだけ残っているかも分からない。現に、コンパスなんかに貼って持ち運んでいた何枚かは、セトの憤怒に消し飛ばされちゃったし。
総数で言えば、ゆうに二百枚とか三百枚は作った気がするなぁ。それで――。
『あのシール。バイクに
そのうちの百個を、バイクに思いっきり貼り付けたのだ……纏めてスクラップにでもされない限り、まとまった数が確保され続けるから。
そしてそれを言い終わると同時――送信完了、のポップアップが出る。同時に、先生の持つシッテムの箱で、そのファイルが再生された。
ポップで、明るいBGM。戦闘中の、こんな世界存亡の危機って雰囲気には似合わない曲調。打ち込みで拙く再現した、その曲のタイトルは――。
『ついでに言えば、青輝石ですが。無数の花火に内蔵されていまして……古い納品書を見る限り、少なくとも、そして確実に……ここには花火が
――『Connected Sky』、という。
“な――……ッ!?”
“ユメ、これは……ッ。……でも、どうやって?”
『どうやって調べたのか、ってことですよね。……分かりました、それについてもお伝えします。と言っても、信じてもらえるかは分かりませんが……』
“……大丈夫、信じるよユメ。”
“だから、言ってみて欲しいな。”
ほっ、と息を吐いた。吐いて、呼吸していないことに気がついた。
一つ目は、青輝石について。二つ目は神名文字。では三つ目は――もちろん、私のもう一つの『神秘』について。
『……先生なら、そう言ってくれますよね。分かりました……じゃあ、なんですけど。私……『神秘』を二つ、持ってるんです』
『え……うえぇぇっ!? な、何ですかそれぇっ!?』
『アロナ先輩、驚かさないでください……。ですが、同意します。私も……驚きました』
ちらり、と横目で戦況を見る。芳しくはない……あまり時間を取ってはいられない、か。
『……私の持つ『神秘』の片方は、オシリス。ホシノちゃんたち同様……アビドスに根差す『神秘』です。そしてもう一つが、これらを調べるために効果を発揮したであろう『神秘』です』
『な、何なんですかそれは!? せ、説明してください! 私、聞いてませんよ!?』
『あはは……ごめんね? でも、薄々変だとは思ってたんじゃないかな、
『……っ!? それ、は……』
そう。当時、私である俺にしか起動できなかった――厳密に言えば、俺以外の誰かが侵入した時には何も起こらず、俺が侵入した時にだけ装置やら何やらが起動したそれらの施設。
なぜ、それを扱うことが出来たのか? 『神秘』による効果がそれらだとするのならば、よくよく考えてみれば……『転生者』『観測者』、その呼称では些か足りない。
『他にも、私は色々なことを調べることが出来ました。今までに述べたような、『シッテムの箱』に関するシステムも同様。このアビドス砂漠に埋設された青輝石や、列車砲シェマタと『雷帝』に関すること、『神秘』や『恐怖』、そして『崇高』のことなど――およそ、生徒には調べられない、知るべきではない事柄も』
そこにある、と分かっているなら、そこにあるものとして調べ、答えを得ることができる。それが私である俺の『神秘』だ。
『転生者』とそれを呼称するなら、例外が出る。例えば、『原作を知らない転生者』なら、そもそもそれらが存在する、と知る由がない。
『観測者』とそれを呼称するなら、視座が一段足りない。この世界のことを観測するだけでは、この世界の外から見た、メニュー画面やウィンドウを観測できはしない。
『極め付けは――私の意識が覚醒したのが、おそらく……先生、あなたがこのキヴォトスを訪れたその時だ、ということです。あなたの訪れに呼応して私は目覚め、あなたに接近することでその『シッテムの箱』と繋がることすら出来た。故に――』
本来なら、先生にしか扱えない施設を扱えて。
本来なら、先生にしか知り得ない知識を得られて。
本来なら、先生にしか触れられない『シッテムの箱』に触れられる。
故に、この『神秘』を形容するのならば。
『……『先生』という『神秘』。私は――私のもう一つの『神秘』に名前を付けるのならばそれが相応しい、そう思います』
“『先生』という、『神秘』……? ……ああ、なるほど、ユメ。”
“ようやく分かった――君は本当に、何もかもを背負っていたんだね。”
苦笑する。なんでか先生は、私のことを過大評価している節がある。
色々やったのは確かだけれど、そんなに……それこそ、先生のように、学校一つを助けたりとか、そんなことは出来ていないしね。
『あはは……そんなに大したことは出来てないですよ。それに。この『神秘』も、今日限りで手放すつもりですから』
『う、うえぇっ!? ユメさん、な、何でですかっ!?』
『……アロナ先輩が、先程からずっとうるさいですね』
『それは勿論……さっき二人が言ってたでしょ、『シッテムの箱』のリソースが足りないって。本来なら、そんな事は起こり得ない筈で……だとすれば、それはきっと、私が『先生』としてそれに接続しているからじゃないかな』
“……ユメと繋がる、あの文字化けアカウント。あれは、宛先が無いんじゃなくて……。”
“宛先が
『はい。きっと、その通りだと思います』
アーちゃんが呻き声を上げている。否定したいのに否定できない、と言った声音だ。それにしても、やっぱり連邦生徒会長をしていた頃よりちょっと……かなり幼いというか、感情に素直になっているよね?
個人的には、悪くないと思う。いつかまた、二人でゆっくり話してみたいなぁ。
『もちろん、この『神秘』もただ投げ捨てるだけじゃないですよ? せっかくなら何かに使っちゃおう、ってことで――これも、『見立て』です』
“……さっきも言ってたね、『見立て』って。”
“つまり、それは――。”
『……きっと、先生は間近で見ておられましたよね。鋼鉄大陸で、
ふう、と息を吐いた。吐いて、そのまま私は、私の中に眠るその力の塊へ手を伸ばす。
勇者アリスのように、それ自身が語りかけてくることはない。なぜなら、その『神秘』とは即ち俺であり、つまり私であるからだ。
語るべきでないこと。その権能の持ち主、神としての姿に立ち返り、その力を振るうか――その代わりに、それを手放して一度だけその力を振るうか。
私である俺が選ぶのは、後者だ。
『すべては『見立て』、私が用意できたのはそれだけです。青輝石と神名文字を用意し、音楽を鳴らすことで『生徒募集』の場と見立てる。形成したただの場へ力を持たせるために、『神秘』の放棄によるエネルギーの放出をかの勇者の奇跡に見立て、募集できないものを募集できるようにする。……ああ、『大人のカード』は使わないでくださいね、先生。私というものを立脚する土台にそれを噛ませてしまえば、何が起こるか分かりませんから』
『大人のカード』は『原作』の描写から、自身の募集に応じてくれている生徒をその場に呼び出して戦わせる力を持つ。『生徒を呼び出す』力で私を募集してしまえば、最悪の場合、私が生きる限り常にカードの
私を助けるために、先生が無茶をする。そんなのは本末転倒で……そして、彼ならやりかねない。だから事前に言っておく。
そして、これは口には出せないが――俺はあと二つ、『見立て』を重ねている。
一つは、それを手放すということを、エジプト神話そのものに見立てるということ。オシリス神は身体を引き裂かれ、蘇るためにかき集めた肉体のうち、ついぞ……その、男性の象徴的な、いわゆる『バナナとり』だけ見つからなかったという。
それに倣い、私である俺が先生という『神秘』を、つまり転生前の男としての俺の要素を手放すことで……転生前の男性性を放棄し、それをオシリスの復活に準える。
もう一つは、私である俺自身のこと。先生が募集するのは生徒だ。断じて、先生が先生を募集するわけじゃない。だから私の中に『先生』という『神秘』が残っていたならば、きっと私は募集されざる存在となるだろう。
故に俺は、あらゆる面で、それを手放さなくてはならないのだ。
『驚愕……。荒唐無稽ではありますが、成立しないとは断言できません。そして、その成立し難い部分を無茶苦茶なエネルギーでゴリ押そうとしている……?』
『の、脳筋! 脳筋の極みですよユメさん!? でも、これなら……!』
そう、これなら。
『うん。これなら――ようやく、賭けができる。成功率一パーセント以下の、ね』
言うまでもなく、これはガチャだ。それも、最低保証も何もない。私のレアリティが星いくつかは知らないが、たった一回だけのガチャで目当ての生徒を一発ツモする……それがどんな低確率かなんて、考えずとも分かるだろう。
その上、いくらゲームシステムに準えたとしても、ここはゲームではない現実だ。この世界での生徒募集は――文字通り、シャーレの当番としてやってくる生徒の募集をかける、そんなシステム。
この世界に生きる一人の人間、一人の生徒として言うならば。この世界に、モブなんて存在しない。全学園の、全生徒。その中から一人だけを狙って呼び出すことが、どれだけ難しい……いや、奇跡に近いことか。
『『募集』の形だけ整えても、私が募集される保証はない。されたとしても、そこにあるのは私の身体だけで、魂である私が入っていない、なんてこともあり得るでしょう。何せ私は、既に死んでいるのだから』
だからこそ、私はこれを賭けだと言っていた。ただ何百分の一を引くってだけじゃない。あらゆる要素が何もかもうまく噛み合って、そうしてやっと手繰れる結末だ。
そして、その噛み合いをこれ以上良くすることは、私には出来なかった。
『それに、何より……奇跡というのは本来、小さなことを積み重ねて、積み重ねて……ひたすらに歩き続けた先、やっと形になる果実。『見立て』で再現しただけの二番煎じに、それが宿るとは限りません』
ならば、私の紡ぐ
先生は……黙り込んでしまう。違う、と頭ごなしに否定するのは簡単だろうけど、ここに関しては私と先生の価値観は同じはずだ。
条件さえ揃えれば簡単に再現できるようなものは奇跡なんかじゃなく、簡単に行使できるすっごい力なんかよりも、結果にたどり着くための過程、その道行きこそが大事なのだと。
『先生。私は、楽園の主としての座を降り、ただ一人の生徒となりました。そんな私が私として、俺が俺として、用意できた道はここまでなんです。だから――』
『あ、諦めないでくださいユメさん! きっと、何か……!』
ああ、こうして口に出すのはあまりにも恥ずかしくて、緊張する。存在しないはずの心臓がばくばく言ってる気がするし、手なんか震えちゃっている。こんなにも、難しかったっけ。
『原作』で――鋼鉄大陸編で、勇者アリスは……そして先生は言ったはずだ。楽園とは、自分の足で歩いて辿り着くもの。足掻いて、もがいて、その結果がハッピーエンドでなかったとしても……それが私たちの結果であれば、受け入れるべきだ、と。それは正しい。
でも。
『原作』
難しいけれど、私はずっとそれが出来なかったけど。『自分にも、相手にも出来ないこと』を、誰かに託すことを選べなかったけど……。
『――だから! あと全部、ハッピーエンドまで、よろしくお願いします!!』
今ここで、それを選ぼう――私は、恥も外聞も投げ捨てて、思いっきりそう叫んだ。
『あ、あれ? ユメさん? ユメさん!?』
『超、他力本願……?』
アーちゃん、プラナちゃんは困惑している。それはそうだろうね、いきなり全部丸投げしてきたんだし……アーちゃんに至っては、また別種の困惑を抱えているような気はする。
でも……私の声を聞いてくれた先生は。無責任な、一方的な丸投げを受け取ってくれた先生は、心の底から、嬉しそうに笑ってくれた。
“ユメ――……! うん、任せて。”
“可能性はある、手段もある。あとはその確率を手にするだけ。”
“運の良さには自信は……まあ、無いけど。今だけはある、と言っておこうかな!”
『……絶妙に締まらないけど、個人的にはそのくらいの方が好きですね、先生!』
私は、俺は、
イメージするのは、一挺の拳銃だ。キヴォトスならば何処ででも売っているようなそれを、自分に突きつけて引き金を引く、それだけだ。
敵には向けられないけれど、自分にならば向けられる。胸の真ん中に突き付けて、引き金を引く――瞬間、膨大な『神秘』が溢れ出した。
喪失感はある。胸に空いた穴から、何かが流出してゆく。
『……『神秘』解放を、始めました。さあ先生、お願いします。成否どちらにせよ……決着をつけて、『シッテムの箱』を制約解除しないとホシノちゃん達が――』
ちらり、と横目で戦況を見る。案の定、ホシノちゃん達は押されて……。
『……え?』
“……っ!?”
“これは……世界が、止まって……?”
ホシノちゃん達も、セトの憤怒も。吐き出された銃弾も、今まさに放たれようとしている雷撃も。全てが灰色になって、停止している。
動いているものは私と先生、そして『シッテムの箱』の中の二人だけ。
そして、プラナちゃんが叫んだ。
『観測外域からのアクセス……交信希望? アクセス元、は……混沌の領域――!?』
『……如何にも。先ほどぶりです、先生。そして……梔子ユメ』
『地下、生活者……』
忘れようのないほど、特徴的な声。幾分か沈み気味の、聞き馴染んでしまったそれより、少し低い声で。
暗い地の底から――地下生活者の、声がした。
次回投稿!!
今度こそ23日0時!