TS転生クソボケユメ先輩(死亡済・幽霊)が原作のn倍ホシノの脳を焼いていた話 作:死刑囚
日刊ルーキーランキングMAX2位、お気に入り400over、UAたくさんってマ?
めちゃくちゃ嬉しすぎて書き溜めできてないのに投下しちゃいます。
今回はカリカリになってるホシノのほうで。
ちょっとした戦闘シーンもありますが、BGMは脳内で「真昼の空の月」を流しておいてください。
――便利屋68を追い払って、ゲヘナの風紀委員会を退却させて。
先生が委員長の……空崎ヒナ? から何か聞いたって話を元にアビドス砂漠へ向かうまで、ほんの少し休憩になった。
休めるのは良いことだし、戦わなくて良くなったのも良いことだ。別に風紀委員と委員長くらい、纏めて相手にしたとしても問題はなかったけど……あそこで戦うのは避けたかったし、助かった。
今はもう、ほとんどのテナントも引き上げたゴーストタウンだけど。数年前には、まだいろんな店があったのを覚えている。ちょっとした雑貨屋、安くて品揃えのいい日用品屋、美味しいスイーツを出してた喫茶店……どれもこれも、『あの人』に連れられて行ったことを、覚えている。
今はもう空っぽのお店だとしても、もうそこに何も残っていないとしても、思い出の場所をわざわざ壊したくないし……もしもあっちに壊されたりしてたら、ちょっと正気じゃいられなかったかもだ。
「はぁ……失敗した」
そんなわけで、眠れるわけもないのに空いた教室でごろごろ。休憩だなんて嘯いて、逃げるように対策室から飛び出て、着いた先がここだ。もう何年も使われていない、埃の積もった物置じみた部屋。
……休憩、なんてのはウソだ。いや、一息入れないといけない、って意味ならウソじゃないけど。なんせ……少し息を整えて、この胸に燻る未練がましい炎を消して、みんなの頼れる先輩の顔に戻さなきゃならない。
「ふぅー……すぅー、はー……。すぅー……はぁー……」
深呼吸して、一気に燃え上がった動悸を抑えて、血の上った頭を冷やす。原因はわかってる。セリカちゃんに、旧生徒会の話を出されたからだ。
もちろん、あの子を怒る気なんてない。ちょーっと口調はきついけど――それに、昔の私よりはだいぶマシだ――セリカちゃんは優しい子だ。
さっきの発言だって、旧生徒会を貶したいがために放った言葉じゃないだろう。私たちのアビドス、その土地が売られている……そしてその原因が旧生徒会にあると知って、それが、あの子が大切にしている対策委員会のみんなを苛んでいる。故に、つい口を衝いて出た言葉だろう。
そんなことはわかっている、誰かを否定したい意図なんてないことなど。わかっていて――それでも、『あの人』のことを否定されたようで。大事な後輩相手に激発しかけた自分の未練がましさが、情けない。
「(……はぁ。あとでセリカちゃんに謝らないとね。ちょっとさっきのは、先輩らしくなかったし……)」
うつ伏せになって反省していると、廊下から不意に足音がいくつか。知らない音ではない。というか、私の後輩たちと、最近ここに来るようになった大人……『先生』だ。だから警戒を解いて、だらーんと机に身体を預ける。
「あ、いた! ホシノ先輩!」
“やあ、ホシノ。ここにいたんだね”
「どったの〜みんな〜、勢揃いで〜。うへ、おじさんってばモテ期到来〜?」
さも今目を覚ましたかのように身体を擡げ、ふわぁ、と欠伸をしながら振り返る。セリカちゃん、アヤネちゃん、ノノミちゃん、シロコちゃん……そしてその後ろから、先生。五人ががやがやと踏み入ってくる。
「ん、セリカが言いたいことがあるって」
「うぇ!? え、えーっと、あの、その……ご、ごめんなさいホシノ先輩! さっきは、その……!」
ああ、やっぱり。この子達は優しい。さっきのは私が悪いのに、気にして、謝ってくれるなんて。
私の胸に空いた穴の、その輪郭で燻る、どろどろとした赤黒い炎が消えてゆく。同時に……純粋な、申し訳なさが湧き上がる。うへ、これじゃ先輩失格だね。
「……気にしなくてもいいのに。というか、セリカちゃんの言うことは間違ってないしね? 私もあの人も、もうほんっとに、どっちもバカでね〜……」
「ん、あれは気にする……ホシノ先輩、だいぶピリピリしてた。アウトローの貫禄」
「ちょっ、シロコ先輩!?」
「うへ、ほんとに? おじさんもまだまだ修行が足りないなぁ」
にへら、と笑って気にしてないとアピールする。セリカちゃんに限らず、みんなの緊張が解けたみたいだ。
「はぁ……よかったです。でも、あんなホシノ先輩は初めて見ました」
“確かにそうだね。かっこよくて驚いちゃった”
“あれは、やっぱりその生徒会が原因で?”
「うへ、かっこいいなんて照れちゃうな……まあ、そうかな。おじさんも一応は生徒会員だったわけだしね」
「……その、ホシノ先輩?」
おずおず、と言った様子のアヤネちゃん。何か聞きたげだけど、どうしたんだろう。生徒会のことなら……というか、『本来、生徒会が把握しておかなくてはならない事柄』についてなら、残念ながら答えられないのだが。
「いえ、そうではなく……その、ホシノ先輩が仰っていた、もう一人の方。前生徒会長とは、どのような方だったのか、少し気になって……」
「……ホシノ先輩が言うには、校内一のバカだった、ってことだけど」
「そんな顔色伺わなくても怒らないよ〜、セリカちゃん。事実だしね」
『あの人』。それはまあ、そうか。あんな反応をすれば、聞かれてもおかしくはない――気になるのも、自然なことだろう。それに、借金を返す手掛かりになんてならないのは私は分かっているが、アヤネちゃんたちには知らないことだしね。
「……うへ、そだねぇ……。あの人は、うん。校内随一のバカだったよ。おっちょこちょいで、ポンコツで、バカで。猪突猛進で、騙されやすくて、すぐ半ベソになるバカで。……理想主義で、いつも夢ばっかり見てて、何度言っても奇跡とか、そういうのを諦めないし、そのくせ銃の一つも抜かず、不良にボコボコにされては半ベソになるバカでさ」
“……し、辛辣……”
“ホシノが四回もバカって言ってる……!”
「……ん、それになんだか少し早口……」
「というか、生徒会長のくせに不良にボコボコにって……あのゲヘナの風紀委員長みたいなタイプじゃない、ってのは分かったけど」
「確かに、あの空崎って子とは似ても似つかないなぁ」
相違点が多すぎて、一致点を見つけるのが難しいくらいだね。背の高さも体型も、威厳も、スタンスも――
「……ってことは、やっぱり弱かったの? その生徒会長」
「ぅん? ……いやあ、それはね、セリカちゃん」
――そして、強さも。
「……強かったよ、あの人は。なにせ――私が、たったの一回たりとも、勝てなかったんだから」
「……え?」
「ん、流石に冗談……悪いけど、ホシノ先輩より強い人のイメージが湧かない」
「いい機会だし、話しておこうか。戦い方の参考になるかもしれないしね……強い相手と、戦う時のさ」
ああ、わざわざ思い出すまでもない。なにせ、ずっとずっと、私の目から消えてくれないのだから。あの人の――ユメ先輩の、背中が。
◆
「ほら、早くしてくださいユメ先輩。時間は有限なんですよ」
「ひぃん、やめようよホシノちゃぁん……模擬戦なんて時間の無駄だよぉ……」
私は、半ベソでぐずり倒す彼女……梔子ユメを、無理やり引き摺ってグラウンドに連れてくる。その姿は、だいぶひどい有様だ。なにせ、学区内のパトロールに出かけたと思ったら不良に集団攻撃されて、逃げ回っていたのを見つけて……不良を倒そうとしたのを止められて、逃げ帰ってきたばかりだから。
服は煤けて泥はねが目立つ。靴ひもはほどけていて、足元はまだ絆創膏の貼っていない生傷がいくつか。
アビドスの生徒会長の姿か、これが……?
「まったくユメ先輩は、いつもいつも逃げ回ってばかりで……少しは戦える実力を身につけた方がいいと思います」
「いや、でもねホシノちゃん。私、戦えないわけじゃないんだよ?」
「じゃあ、なんでいつも逃げ回っているんですか。戦えるというなら、不良の数人くらい蹴散らせば良いじゃないですか」
「だって
「うぐ」
それは――そうだ。アビドス高等学校の予算は厳しい。というか、数億円の借金を抱えている。たかだか不良ごときを相手に無駄弾をばら撒いて散財する余裕はない、というのも一理はある。
「……だとしても、です。もし本当に先輩が戦えるというなら、少しは実力を見せていただかないと信用できません」
「うひぃ……ホシノちゃんは厳しいなあ。まあでも、ゴム弾なら安いし、たまには運動もしないとね!」
どうやら納得してもらえたようだ。
……実力が見たい、というのはウソじゃない。どのくらい強いのか、あるいはどのくらい弱いのか。この人は少々危なっかし過ぎる上に、何か妙なフェロモンでも出ているのか……柄の悪い連中を誘き寄せがちだから、把握しておかなくては安心ができない。
そんな私の心境など、ユメ先輩は知らないようで。気の抜けるような準備体操をして、不意に口を開き。
「よし……じゃあ、ごほん。……俺も気合いを入れないとね。やろうか、ホシノ」
「今すぐその口調をやめてください」
「!?」
……どくんっ、と――なぜか心臓が跳ねた。
豹変して、なんだか男みたいな口調で話すユメ先輩の声音。ほわほわとした喋るいつもの声と同じ声で。ちょっと低めに、少しぶっきらぼうに、先達としての威厳を含ませたように私を呼び捨てにしたその声に……なんだろう。かなり危険なものを感じた。凶器に近いと言える。法規制すべきだと思う。たぶん。そうでなくとも、迂闊にそんな話し方をすべきではない。
「その……似合わないし、らしくないです。もし、他所でもそんなふうに喋っているのなら、今すぐやめるべきです。……最低でも、アビドスの中でだけにすべきです」
「ひ、ひぃん……! 全否定だよぉ……!」
くしゃっ、と顔を歪ませて膝をつく、いつも通りのユメ先輩。……やっぱり、こっちの方が安心感がある。ただそれはそれとして……さっきみたいなものが、このユメ先輩の中にある、というのは、やはり危険な気がする。何故かは、分からないけど。
「うう……仕方ないなあ。まあ、私も似合ってはないと思うし……でも、せっかくだからこの恨みも模擬戦に乗せちゃおう。ホシノちゃん、準備はいい?」
「……いつでも構いませんよ、ユメ先輩」
「おっけー! じゃ、このコインが地面に落ちたら開始ね!」
ユメ先輩の取り出した銀色のコイン。なんだっけ、ペロペロさん……とかいう、なんとかフレンズってキャラクターのシリーズだ。『これは将来絶対人気になるよ!』なんて言ったユメ先輩が、初版グッズとやらを買い込んで、倉庫に保管していたっけ。いわゆる転売……というよりは、プレミア価値を狙った蒐集だとか。まあ、あんなよくわからないデザインのキャラクターが人気になるなんて思えないし、ユメ先輩がそんな
「いくよ、ホシノちゃん! さん、にー、いちっ――」
キィン、と跳ね上げられたメダルが、変わらないアビドスの日差しを浴びてきらめく。太陽光を反射したそれが砂に落着するのを目で追い。そして、正面へ目を向けて――映り込んだのは、視界いっぱいに広がる、ガンメタル・ブラックの分厚い長方形。
砂煙を置き去りに、一瞬でこちらへ接敵し、こちらを押し潰そうとする、先輩の盾。それが、目の前にあった。
「は――な、ッ!?」
ごうッ、と唸り声を挙げて繰り出される大きな壁――無骨で分厚い、防弾性の盾。咄嗟に跳躍し、その盾を踏み台に後ろへ飛び退こうとするものの――重く、堅い。曲げた膝を伸ばす前に、更にもう一歩踏み出されて体勢を崩されて吹き飛ばされる。
「ちいっ、奇襲ですか……!」
「余所見してる暇はないよ、ホシノちゃんっ!」
それでもなんとか後退に成功する。くるりと身を翻し、着地――瞬間、顔を上げた私の目に飛び込んできたのは、盾を装備した左腕を、盾ごとぎゅっ、と右半身へ引き絞った――いつもとは全く違う、真剣そのものの表情をした、ユメ先輩の顔。
「吹き飛べっ!」
――視界を、潰された……ッ!
盾の横薙ぎ。手榴弾の爆音にも勝るとも劣らない、全身を震わせる轟音と共に振るわれたそれが、瓦礫混じりの砂煙を私に叩きつける。
瓦礫を防ぐには、手を身体の前に出す必要がある。そしてそうしても、砂煙は容赦なく敵の姿を隠す。
「まずッ――次は、どこか、らッ」
「し、ィ、る、どォ――」
ゾクリとした悪寒。動いてなくとも汗を掻くほどの熱気の中で、背筋だけが冷たく冷える。
第六感が叫ぶ警報に従い、咄嗟に転がりながら真横へ。瞬間、砂煙を切り裂いて現れた先輩が、その盾を。
「――ストライクっっ!!」
寸前まで、私のいたところに、全力で振り下ろす――その余波だけで、砂煙がすべて吹き飛んでゆく。
衝撃は甚大。破壊痕も同様。しかし、放射状に罅割れたグラウンドの、そのインパクトの場所だけは、ただ奇妙に四角く陥没している――盾によって地面を砕くのではなく、凝縮された力で以て、砂を圧縮し……地面に盾をめり込ませて。
「――ギロチンか何かですか、ッ!!」
呆然と、見惚れそうになる。
これをあの、いつもぽやぽやと笑っていたあの人が? 能ある鷹は爪を隠すとでも?
あまりのギャップに脳が混乱する。けれど、なぜか……少し、嬉しくなる。
「あらら、避けられちゃったね」
「当たれば一溜りもないでしょうが……それでも、今は隙でしかッ」
「そうかな?」
盾の下辺をグラウンドに叩きつけたままの先輩と、咄嗟にその横に回り込んだ私。盾は半ば固定され、先輩の横腹を狙える状態。位置関係としては……こちらが遥かに優位だ。
銃口を向け、トリガーを何度も引く。12ゲージのショットシェルから吐き出された散弾――シェルの中身はゴム弾だが――が、先輩へ迫る。
回避するには盾を手放すしかない。そんな思考の私を嘲笑うかのように、先輩は事もなげに――盾を、散弾の前へ移動させる。地面に突き刺さったままのそれを、地面を抉りながら動かして。
「危なかったぁ……よし。じゃあ、こっちの番だね――いち、にぃ、の……っ」
「――ブルドーザーですか貴女はッ!?」
そしてそのまま、どしん、どしん、と一歩ずつ近づいてくる。地面に突き刺さったままの盾を突き刺さったままに、砂と土を圧し除け、グラウンドをごりごりと開墾しながら。
「さんっ、しっ!!」
「か、くぅ……ッ!?」
先程の焼き直し。猛進するユメ先輩へトリガーを引くも、ゴム弾では――いや、たとえ実弾であっても、あの盾を抜けない。突進を止めることは出来ず、繰り出された盾によるカチ上げと……くるり、と盾を裏返し。無理やり浮かせられた私の腹を狙うような、強烈なアッパーカット。それを、
「まだ……まだぁッ!」
それでも防ぎ切った。数メートルは空中に跳ね上げられたが、それでも。目眩しに、使い切ったシェルをばら撒いて落としながらリロード。眼下の先輩へ向けて引き金を引く。
銃声は複数。私のものと、ユメ先輩のもの。けれどやはり、私の攻撃はあの盾に防がれ……逆に、先輩からの銃撃は、私の身体を撃ち抜く。遮蔽もなく、空中では回避もできない、今の私は良い的だ。
「(くそッ……あの盾が堅すぎる、あれを抜けるイメージが、まるで……!)」
手足を正確に攻撃されながら、どうにか着地して遮蔽に隠れる。
……先輩がいつも提げている、折り畳み式のバリスティックシールド。たかが盾一枚、そんなもので何がどうなると思っていたけど――でも、痛感する。あの盾一枚が、あまりにも遠い。
こちらの攻撃は全て阻まれ、あちらの攻撃の起点になる。盾を抜けないのなら盾のないところから攻撃しなければならないのに、盾のないところに回り込もうとすれば、その隙をついてあの盾が振るわれる。
……いや、違う。盾が脅威なんじゃない。あれも越え難い壁だけど――
「(本当にすごいのは、あんな盾を自身の手足のように操る先輩だ)」
荒くなった息を整える。リロードしながら、胸に奇妙な感覚が広がるのを自覚する。じんじんと痺れるような、どきどきと弾むような。……表立っては恥ずかしくって言えないけど、これはたぶん、誇らしい気持ち。
私の、”私だけの”先輩が、こんなに強いんだ、という――言葉にし難い、不思議な気持ち。
「どう、ホシノちゃん? 私も結構やるでしょ〜!」
「その言い草で、本当に”できる”とは思ってもみませんでしたよ……!」
がちゃり、と重い金属音。また突っ込んでくるのなら……正面から戦うのは無理、勝ち目がない。
ならどうするか? ……ユメ先輩の戦い方は、どう見てもタンク型だ。あの盾を使った火力も侮れないが、それよりもやはり『まるで攻撃が通らない』のが脅威。
けど、それは盾あってのもの。盾自体を軽々と振り回して攻撃を防いではくるが、それでも盾のないところは防げない。なら、私のすべきは――
「高速機動と、撹乱ッ!」
「――やっぱりそうだよねっ!」
遮蔽から飛び出す……その瞬間に、遮蔽の側面を蹴り付けて次の遮蔽へ。その遮蔽も蹴って次へ、そしてその次へ。気分はいわゆる八艘跳びだ、先輩だってトロい訳じゃないが、盾なんかを構えている以上この速度には敵うまい。
照準を合わせ、トリガーを……引かずに、攻撃の意思だけを叩きつける。反応して、盾を向ける先輩の更に横に回り込んで――また、狙いを定めるだけ。
「っ!!」
やはりそうだ。私の、トリガーを引く、という意思にすら反応して、先輩はこちらへ視線を向ける。おそらく本当に発砲すれば盾を向けるのだろうけれど、そうでない以上盾を翳すのはただの隙にしかなり得ない。結果として……ユメ先輩の視界と意識だけを、掴んで引き摺り回すことに成功する。
ユメ先輩が”できる”というのは、予想外ではあったが……その実力もまた、私の思い込みを軽く越えていた。しかし、これだけ強いのであればその反応速度が仇になる。徹底的に振り回して、反応が追いつかなくなれば――
「すごいね、ホシノちゃん! じゃあ私も、行っちゃおう……必殺技っ!」
数度目、照準を定めようとした瞬間に……じゃらり、という重い、鉄と鉄の擦れる音。同時に、今までで一番の悪寒を感じる。
悠長にしている暇なんてない。フェイントも、撹乱も、すべて忘れて思い切りトリガーを引き、そして同時に次の遮蔽へ飛び退く。飛び退いた瞬間――ほんの一瞬前まで足場にしていたそれが、耳障りな音を立てて砕けて吹き飛んでいった。
それを為したのは、先輩の盾。ロケット砲か何かと見紛う勢いで投擲されたそれが、大型の爆発弾頭を軽く凌ぐ破壊力で大きなクレーターを生み出している。そして、その盾から伸びる鋼の鎖は……ユメ先輩の手が、しっかりと握っていて。
「――マジですか、ユメ先輩……!」
「避けてね、ホシノちゃん! そぉー……れぇっ!!」
鋼鎖が、砂蛇のようにグラウンドを這う。ぶん回された鎖の、その先端に取り付けられた盾が、ユメ先輩を中心として一帯を薙ぎ払う。当然、それは遮蔽も……私も巻き込んで。
「(無茶苦茶だ……! なんっ、て、攻撃範囲……! どうする、退くか、進むか……!?)」
ある種これは、周りに味方がいないからこその大暴れだろう。だとしても、今の私を追い詰めていることに変わりはない。先輩の巻き起こす破壊の嵐から逃れるには、もっと下がるか、それとも踏み込んで跳び上がるしかなく――そして、その逡巡が致命的な隙だった。
「捕まえた、っ!」
「……ッ!?」
「よしっ、これで――」
じゃらり、と異音が足元から。いつの間にか、私の足首に鎖が巻き付いている――空を舞う隼であっても、足枷を繋がれてはどこへ逃げることもできず。思い切り、鎖を引かれた私は。
「――はいっ、確保! 私の勝ちだね、ホシノちゃん!」
「……もがもが、もが(……私の負けです、けど。……苦しいです)」
引き寄せられる勢いのまま、ユメ先輩の豊かな胸元に抱きしめられた。
……この人は強い。驚くほどに強かった。初見だった、ということを差し引いても……あと何回か戦って、勝てるかと言われたら、頷けない。
悔しいけれど……何故だか、胸がじんわりと温かくなる。表現し難い、何かが満たされるような感覚。
だと、言うのに。
「ぷはっ。苦しいです、先輩」
「え? あはは、ごめんねぇホシノちゃん。怪我はない?」
「はい、大きなものは特に。……その、ユメ先輩」
「ん? なにかな、ホシノちゃん」
「先輩は、こんなに強いのに……何故、戦わないんですか?」
不良だって、これだけ強ければ楽に駆逐できるだろう。街で絡まれて、一方的に攻撃されて。説得しようと話しかけて、拒絶され、泣いて逃げ帰る理由がわからない。
あんなに情けない姿を晒して、自分より弱い人間に侮られて、見下されて。なのになぜ、この人は。
「だって、ホシノちゃん。……一回でも、そうやって力で相手をねじ伏せたらさ。これから先、ずっとそれが自分の行動の、選択肢に入ってきちゃうでしょ?」
「……、――っ」
「別に、それが許せない、悪だ! って言うわけじゃないよ。ここはキヴォトスで、相手が悪者のことだってあるし、戦わなくちゃいけない時だってある。けど……いつもいつも戦って、力で解決するばっかりだったら……もう、話し合うなんて発想は、出てこなくなっちゃうよ」
――綺麗ごとだ。理想論だ。トリニティかどこかの、痛みも辛さも知らない裕福な生徒が言うならわかる。でも、この人は……この終わりかけた、荒んだアビドスの生徒会長で。誰からも蔑ろにされて、攻撃されて。それでも、そんなことを言うのか。
「だから私は、あんまり戦わないようにしてる。戦って戦って、目の前の全員を倒して……キヴォトスで一番人を倒せるようになったとしても、砂嵐は倒せないしね。アビドスを復興させたいなら、まずは人を呼ばなくちゃ。そしてその為には、人に優しくしなくっちゃね」
「……それでも、私は。不良や、わけのわからないチンピラに、先輩が攻撃されていたら……先輩を助けますよ。先輩の気持ちなんて、見ないふりをして」
先輩の言っていることは、正しい。でもやっぱり、楽観的で、平和ボケしている。精一杯の反抗を込めてそう言えば、なぜだかもう一度抱きしめられた。
「……ホシノちゃんは優しいね」
「はあ。話聞いてましたか、ユメ先輩」
「聞いてたよ。ホシノちゃんは、自分のためじゃなくて、私のために戦ってくれる、って言ってるんだよね。だったらそれは、とっても優しいことだよ」
「……能天気すぎますよ、ユメ先輩は」
「その分ホシノちゃんがしっかりしてくれてるから! 大丈夫だよね!」
……さっきも感じた気持ちがぶり返してくる。胸の奥がちりちりと焦がされるような感覚。なんとなく、この”私の”先輩には勝てないんだろうな、という確信と、勝てなくてもいいや、という安心と……それでもやっぱり、負けっぱなしは嫌だ、という子供じみた対抗心が。
不意に、首筋に押しつけられた、冷たい缶ジュースにかき消される。
「っふぁっ!?」
「えへへ、お疲れ様。ご褒美に買っておいたんだ。ホシノちゃんもどーぞっ」
何にも考えていないような、屈託のないのほほんとした笑顔と。
周りには誰もいない、たった二人きりの、砂だらけの世界で分け合ったジュースの味。
それは、きっと。ずっと、何があっても、忘れることなんて――
◆
「――って感じでねぇ。そりゃもう強かったんだよ、あの人は」
ある程度掻い摘んでではあるが、語り終えた私を見るみんなの顔は、唖然呆然という表現がぴったりの表情をしていた。
気持ちはわかる。銃が上手いとか、そういうレベルの話なら分かりやすいけど……ユメ先輩はなんだかこう、ちょっとそういう意味でもズレてるというか。
確か、『接近戦については、そういうことをして良いって学んだからね!』なんて言っていたが、どこまで本当の話か。
「に、俄かに信じられないですね……ホシノ先輩より強いってこともそうなんですけど、それだけじゃなくて……そんな風に戦うなんて」
「さ、参考までに聞くけど。ホシノ先輩は、それ、出来るの?」
「うへ、無理無理。おじさんにはぜぇったい無理だよ。試してみたこともあるけど、何をどうやったらあんなに好き放題に動かせるのかさっぱりだよ〜」
私も、あれから強くなったとは思う。けど……先輩に勝てるとは思えない。正確に言えば、勝てるって思いたくない、の方が近いのかもしれないけどね。
ユメ先輩が……死ぬまでの、何度も重ねた模擬戦で、ついぞ一つの勝ちを奪うことも出来ず。けれど、試行錯誤して、挑み、通じずに叩きのめされ。あの背中をずっと追いかけた日々、それこそが確かに、私の青春の一幕で。先輩を追い越してしまったら、あの日々も過去に消えてしまうんじゃないか、って……うん、恐怖、かな。
まあ、それも。最近は……みんなのおかげで、ちょっと前向きに受け止められるようになったけど、ね。
「あ、そうです! ホシノ先輩、先輩のお話に出てきた……」
「ほぇ? どしたのノノミちゃん」
「ほら、その先輩さんが置いてたってモモフレンズのグッズ! プレミア用に保管してたって言うなら、もしかすると高価になってるかも知れないですよ!」
「……あぁ〜、確かにそうかもね。でも、うーん……おじさん達、そんな鑑定とかする知識なんて……」
「――ん、問題ない。ヒフミを呼んだ」
余談だけど。
ユメ先輩の残した、例のなんとかってグッズは。
「こ、これは――ッ!! モモフレンズ最初期にのみ発売された限定生産の『考えるMr.ニコライ』像!?!? あ、あっちには少数生産品で市場には今やほとんど出回っていないというペロロ様の花瓶、未使用未開封品が、ふ、ふたつも……!? 『ウェーブキャットの叫び』も、ま、まさか人気が出た後に刷り直された生産品じゃなくてその元になったオリジナルの油絵じゃないですか!!?!? って、あぁーっ!? ま、ま、まさか、これはモモフレンズの中で最初にグッズになった、素材にお金をかけすぎてほとんど全く売れず工場に回収され処分されてしまったという、トリニティ産天然繊維をふんだんに使った『歓びのペロロ』様ぬいぐるみ、まさか現存していたなんて……ッ!!」
「あ、あの、ヒフミちゃん〜? これ、お値段にするとどれくらいの……」
「『考えるMr.ニコライ』像の一つで500万円はしますね、最低でも」
「「「「「”!?!?”」」」」」
〆て一億と数千万円の値段を叩き出し……その上で、その筋の専門家(ヒフミちゃんはモモフレンズ博物館とか言っていた)に引き取ってもらい。アビドスの財政をそれなりに助けてくれましたとさ。
――ほーら、やっぱり。”私の”先輩はすごいんだ。
ユメ先輩(マシュ)(ギャラハッド)(坩堝の騎士)(ほんのり聖園ミカ)。
過去編の先輩の強さはいくら盛っても良いと言われています。
なお当人は「まだ強くない時期(一方的な思い込み)のホシノちゃんにちょっと良いところ見せないと! 今くらいしかできないだろうし!(事実誤認)(普通は今でも無理です)」って思ってるだけなので実力を誤認しているし、結果カリカリになったホシノはなんか原作時点でクソ強化されているものとする。