TS転生クソボケユメ先輩(死亡済・幽霊)が原作のn倍ホシノの脳を焼いていた話   作:死刑囚

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二話投稿直後の私「みんな読んでくれて楽しんでくれたし嬉しいなあ、次も頑張ろう!」
三話投稿直前の私「なんや何が起こったんや!!?!?」
すごい勢いでUAと感想と高評価を頂きまして、日刊一位までいただいて……ありがとうございます。書き溜め途中でしたが急いで投稿。

それはそれとして、みなさんユメ先輩(坩堝の騎士)好きすぎて笑ってしまったんですよね。


ユメはロストガール

 

 私――梔子ユメになった『俺』が、幽霊として目覚めてから数ヶ月が経った。

 幽霊の身体っていうのはすごく便利で、まず動いてるのに暑くならない。ホシノちゃんの真逆ってわけだね。

 汗も掻かない、疲れもしない。まあ生きてないから当たり前ではあるんだけど、それでも――あの、渇いて死んでゆく感覚を味わわなくて良いっていうのは、私の精神衛生上でとても良い。

 自分で言うのも何だけど、あれは……つらい。本当に、辛い。喉が渇いて、お腹が減って、手足の先から感覚がどんどん無くなってゆく。

 そして、そんな私を睥睨したまま、あいつは。

 

『うぅ……もう流石に出会いたくないなぁ。()()()()()()()嵐の中に閉じ込められるのは、絶望ってレベルじゃないよ……』

 

 そう、あいつは――ほとんど、何もしなかった。

 私の荷物を吹き飛ばした後は、何も。

 ただ私について回って、檻のような砂嵐に閉じ込めて。じわじわと、私の力が尽きるまで、熱風と熱砂を叩きつけてきただけ。

 あいつの嵐の壁の前に、拳銃程度の弾は届かない。盾を投げようにも、届かない位置に滞空したまま。逃げようにも……砂漠の砂に足を取られて、嵐の壁の向こうには行けず。足掻く私を、虫籠の中の虫でも甚振るように、時たま雷を飛ばすだけ。

 勝負にもならない、いや、勝負をさせてくれない。文字通り――『足下にも及ばない』。まるで大人と子どものような絶望的な差はどう足掻いても埋められず、逃れようと戦うたびに私の力だけが失われ。

 何日も、何日も、苛まれ続け……、そして、私は。

 

『……で、でももう餓死はしないもんね! 幽霊だから! 暑くもないし!!』

 

 そう言う意味では便利な幽霊の身体。ただ不便なこともあって……当然だけど、歩き回る以外の事はなんにも出来ない。幽霊なんだから浮いたり飛べたりするくらいはして欲しいんだけど……それも出来ない。

 つまり、どういうことかと言うと――そう、”数ヶ月”、私は砂漠のど真ん中で、丸々放浪する羽目になったのだ。

 

『うひぃ……ひぃ、疲れたよぉ……』

 

 肉体的にはともかく――肉体はないが、気分的なものだ――、精神的に、疲労困憊だ。だって想像してほしい、目印の一つもない、見渡す限りなんにもない砂漠を、あっちへふらふら、こっちへふらふら。自分がどこへ向かっているのかも分からず、一人延々と歩き続けることを。

 というかそもそも、砂漠は徒歩で移動するところじゃないと思う。生きてたころは色々無理して用意した大型の悪路用バイクに乗ってたんだけど……あれも良い思い出だなぁ。

 ホシノちゃんを後ろに乗せて、大オアシスに行ったりD.U.の方まで足を伸ばしたり。アビドスの復興があるからあんまり遊ぶ時間はなかったけと、それでも……あの日々は、私たちの青春だった。

 

『……まあ多分、もう売られちゃってると思うけどね!』

 

 中古で買ったおんぼろシャシーに、そこら中から部品をかき集め。ホシノちゃんと二人で組み上げたお手製のバイクだとはいえ、使わないものを死蔵しておくとは思えないし。せめて、次の持ち主がもし居るのなら、大切にしてくれることを祈るのみである。

   

『あれさえあれば、もっと楽に移動できるのに……、お、おおっ? おおおっ、もしかして……何かの建物っ!?』

 

 遠くに見える岩場地帯に、どうやら人工物があるみたいだ。ただまあ、アビドス砂漠の中にある施設なんてカイザーグループのものしかないんだけど……背に腹は代えられない。

 思わず握りこぶしを突き上げ、やったー、と叫んでしまう。所構わず声をあげてしまうのは私の悪い癖だ。ホシノちゃんにもよくうるさいです、と注意されてたけれど、今は声も出ないので大丈夫……少し寂しくはあるけども。

 そうして歩いてたどり着いたのは、岩場の合間に建設された基地。ぐるりと周囲を歩いてみて――ある特定のスポットからそこを俯瞰した時、脳裏に既視感が蘇る。

 カイザーPMCの前線基地。『原作』でも、ホシノちゃんや先生(俺たち)が訪れた場所だ。今は戦闘中でもないらしく、カイザーに勤務していると思しきロボットたちや、傭兵生徒が基地内で忙しなく仕事をしている。

 この施設が何を目的として作られたのか、私である『俺』は知っているけれど……生前ならばともかく、幽霊になってしまった今の私には、あまり関係のないことだ。

 ただそれでも、ここで情報を集めれば……今が『原作』の前なのか、後なのか。それくらいは分かるかもしれない。

 

『――こんにちはっ! 私の声が聞こえますか?』

 

 私の、あるいは私になった『俺』の良いところは物怖じしないところだ。とりあえずロボット兵士さんに声をかけてみるが、案の定と言うべきか反応はない。念のため、真ん前に飛び出てみるが――こちらも同様。それどころか、ロボット兵士さんは私をすり抜けてそのまま歩いて行ってしまった。

 予想はしていたものの、今の私はやっぱり幽霊。人から見えず、人に触れず。そういう存在らしい。

 念のため、ロボットタイプじゃない……ヘイロー持ちの傭兵生徒たちに話しかけてみたけど、こちらも同じようだ。

 

『ひ、ひぃん……なかなか心にくるよぉ、これ……』

 

 半べそになっている自覚はある。死んでいる以上涙は出ないけど。

 そのまましばらく、なんとか誰かにコミュニケーションが取れないか、と色々試してはみたものの、成果は芳しくない。分かったことと言えば、『基本的に』ロボットや生徒、動物タイプ……見かけの種類によらず、意思のある人に対しては干渉できず、すり抜けてしまうこと。

 そしてそうではない、意思のないものに対しては――こちらも同様。すり抜けてしまい、干渉することはできない。階段なんかは、登ろうと思えば登れるけど、登ろうと思わなければ……つまり、普通にしていればすり抜けてしまう。

 これは便利だ、なんて思って。前世の、某魔法学園モノの駅の柱のように壁に体当たりして――すり抜けた先が空中で、そのまま三階から地面にびたーん、と全身を打ちつけたのは痛い思い出だ。

 我が事ながら、ちょっと馬鹿すぎると思う……うん、誰にも見られてなくてよかった。

 ただ、しかし。壁抜けができるようになったとして……物理的なPCには触れないし、カイザーの秘密なんかがこんな砂漠の基地にあるわけでもなく。

 

『――幽霊になったメリットがまったく無いよぉ!!』

 

 天を仰ぐ。

 普通はこう、幽霊になってできないことが増えた代わりに、できることも増えるってものじゃないかな!? そのはずが、できないことが増えた上に、増えた出来ることを活用できる先がない。シャークトレードってレベルじゃないよ。カイザートレードとでも言うべきだと思う。

 ただまあ――こうして、幽霊としてでも意識を保てていること。それそのものが私にとっては望外の幸運に他ならない。生きているだけ最高で、文句を言い過ぎるのも良くない。私は死んでるけど。

 

『……でもまあ、それならそれでやりようはあるんだけど。気分はステルスミッション、ってね!』

 

 そんなこんなで、カイザーPMCの基地で暮らして数週間が経った。

 相変わらず出来ることに変わりはないとはいえ、言ってしまえばそれだけでしかない。自分では何にも触れないとはいえ、例えば誰かが機密区画に入り込むときに、一緒に入ったりしちゃえば……その人越しに色々と見ることはできる。お陰で、カイザーのあくどい秘密なんかもいくつか知ることができた。まあ、今のところそれを伝える方法もなければ、伝えたところで裏付けなんて取れもしないんだけど。

 ……あとこれも、私の名誉のために言っておくけど。決して、ごろごろだらだらしたいだけで時間を浪費したわけじゃない。ちゃんと馬鹿は馬鹿なりに、情報を集めつつ、今の私についても調べていたのだ。

 とりあえず分かったことと言えば、今は梔子ユメ(わたし)の死後二年後。つまり、『原作』のころのようだ。

 そして空が赤くなった、なんて話はどこにも無く、シャーレの『先生』の噂もない。つまるところ、『原作』はまだ始まっていない。

 流石に始まってたら私ものんびりしていないよ、うん。

 

『あ、このロボット兵士の人……昔、現金輸送車の護衛してた兵士さんだ。出世したのかな? 優しい人だったし、良かったね……あ、こっちは借金の取立てロボットさんだ。結構話が合うんだよね、この人。課長さんになってるみたいだし、喜んでただろうなぁ』

 

 さて、その数週間で色々と今の私――つまり、幽霊の身体について調べてみた。結果、いくつか分かったことがある。

 まず一つ、今の私は何をどうやっても、誰からも視認されない。写真に写り込んだり、一緒に鏡を覗き込んだりしても、気付かれることはまったくなかった。

 あ、鏡と言えば……『幽霊の私』は鏡に映らず、他の誰にも気付かれない。でも、幽霊である私は、鏡に映った私を見ることができる。

 鏡に映った私は、いっそ安直な程に幽霊らしく半透明。見た目に関しては、おそらく死ぬ前と同じだろう。脚に貼っていた絆創膏まで幽霊の私に反映されているのは、死んだその時に貼っていたからだろうか。

 そういう意味で言えば、幽霊になった私はきちんと制服を着ている――身体が無いのに『着ている』と表現して良いのかは分からないけど、とにかく、半透明な私は、アビドスの制服を着ていた。

 これは非常に――そう、安心だ。だって、よくある幽霊の格好と言えば、連想されるのは真っ白な装束か、あるいは生前と同じ服。そしてもう一つは――そう、真っ裸。

 

『……危なかった!! 場合によっては私、『誰にも姿が見られないのを良いことに全裸で砂漠を徘徊してる変態痴女』になるところだったよぉ……!』

 

 もしもそんなことになっていたら、ホシノちゃんに合わせる顔が無くなるところだった。死んだ先輩が全裸で砂漠を徘徊している? ホラーどころかもはやコメディだ。いくらホシノちゃんでも脳が壊れてしまうかもしれない。

 強制的にトリニティの変態淑女(浦和ハナコ)以上の変態になるのは避けられて、良かった――いや、でも。もしかして、街に誰もいないからって、スク水を着てツルハシを担いで、バイクに二人乗りしてオアシスまでツーリングをするのも大して変わりはない……?

 

『……やめよう。アビドスの看板に傷をつけるわけにはいかないもんね、うん。……もう多少の傷なんて、ついたところで変わりないかも知れないけど』

 

 話を戻そう。

 私の状態だけど、正確には服を着ている、というよりは、死の瞬間の『梔子ユメ(わたし)』の状態が再現されているようだ。というのも、私は服だけじゃなくて、幾つかの持ち物も持っている。

 例えば、死ぬ前には――セトの攻撃によって――消し飛ばされていたコンパスや非常食なんかは持っていないし、戦闘中に取り落とした盾も銃も手元にない。代わりに、換えの弾薬や予備の絆創膏。あるいは、死の瞬間まで握りしめていたスマホなど……そういうものは、取り出せるようだ。

 まあ当然、取り出せたところで何が出来るってわけでもないけどね。私のスマホの本体は、私の身体と同じようにホシノちゃんが持って帰ってくれたのだろうから、ここにあるのも『スマホの幽霊』みたいなものだろう。電波も拾えないから圏外だし、今のところはオフラインのパズルゲームくらいしかできない――私はそんなに賢くないので、パズルゲームで遊んでいても楽しくはないけども。

 さて、だ。他に分かったことと言えば、もう一つある。それは、

 

『――うらめしやぁ〜……!』

「ぎゃぁぁああああ!? ()()幽霊!?」

 

 これだ。むんっ、と力を入れて踏ん張ると、ほんの僅かな時間だけ――囁くほどの大きさの声と、軽く撫でるくらいの力を、生きてる人に伝えられる。姿に関してはやっぱり変わらず誰にも見られないけれど、これは大きな進歩と言えるんじゃないかな。

 これについても、原理は不明だが――おそらくは、私、梔子ユメの『神秘』が関係しているのだろう。

 私の『神秘』――ホシノちゃん(ホルス)の前に君臨し、謀殺され、そして身体の欠片を集めて蘇る死と再生の神。月のように欠けては満ちる、冥府の王――『オシリス』。

 『原作』でそうと明言されていたわけではないが、おそらく梔子ユメ(わたし)のモチーフ元である”それ”が私の『神秘』である。

 

『うらめしや――』

「うわっ!? ……ゆ、幽霊……?」

『―― あ、そこ計算式間違ってますよぉ〜……!』

「え? ……あ、本当に間違えてる……。というか、あの声どこかで……?」

 

 生徒の『神秘』がその生徒自身の特殊能力となることは、分かりやすく表出するものは少ないが……無いわけではない。

 その中でも特に分かりやすいのは百合園セイア(ガブリエル)の予知能力、だろうか。

 それと同じように、冥府の王でありながら生者であるホルスの後見をした、というオシリス(わたし)は、死したが故に、死にながら少しだけ現世に介入できる……という力を得たようで。

 

「なあ聞いたか? 例の噂」

「聞いた聞いた。なんでも幽霊が出るって言うんだろ? ウチの会社に酷い目に遭わされた生徒の霊だとか……」

「そうなのか? いや、私はカイザーが開発した新型無人AIが暴走してるって……」

 

 そして、それを検証するのに色々と試してみた結果――こうして、PMC基地に怪談話が生まれる原因となってしまったのだ。

 

『や、やらかした……ホシノちゃんに怒られる……!!』

 

 一人で百鬼夜行編の先取りをする訳にはいかない。『先輩何やってるんですか』みたいな呆れ顔のホシノちゃんに正座させられてお説教されるのは、メンタルに堪えるのだ。

 そんなわけなので、ほとぼりが冷めるまで数日……私は基地の奥に引き篭もっていたりする。この辺りは人通りも多くなく、PMCの兵士ロボットさん達も立ち寄ることがない。おまけに他の部屋の音が響いてくることも無いため、静かでお昼寝がしやすいのだ。

 だと言うのに……さっきから、何故だかばたばたと慌ただしい。警報は鳴るわ、兵士さん達はみんな地上へ向かって行くわ、まるで蜂の巣を突いたような大騒ぎ。襲撃でも受けているのかな?

 

『うぅん、煩いなあ……一体どうしたんだろう。さっきからすっごく建物が揺れてるけど、まさか基地に襲撃してくる人なんて居るわけないしね……普通に考えて』

 

 キヴォトスの、特に実力者(ネームド)な生徒と比べれば流石に実力の劣るPMCの兵士さん達だが、恐ろしいのはその物量。生徒の中でも一対多数を得意とする子はそう多くない。

 数とは、一種の力なのだ。故に、カイザーグループへ手を出す者は居ない。それこそ、『原作』で無茶をやらかした対策委員会でもなければ――。

 

『…………、始まってるじゃん、『原作』!? そんなに私、ごろごろしてたの――や、ややや、やっちゃったぁ〜〜!?』

 

 そうじゃん、こんなところに殴り込みをかけるバカなんてアビドス(後輩)しか居ないよ!! というか『原作』で知ってはいるけど節操無さすぎじゃないかな!? ここに来てるってことはもう銀行強盗も終わったってわけで――ホシノちゃんは何を教育してたのか、問いたださないとだよっ!!

 私は急いで床から飛び起きて、慌てふためく兵士さんたちと一緒に地上へ。上へ近付くにつれて戦闘音は小さくなっており、ちょうど外に出終わったタイミングで――

 

「――みんな、帰ろう。これ以上ここで言い争っても、弄ばれるだけ」

「ほう……流石は副生徒会長。君は賢そうだな」

 

 ――PMCの兵士たちに取り囲まれ、銃口を向けられ。カイザーPMCの理事に理不尽を突きつけられ。それでも尚、私たちの学校を守ろうとする……ホシノちゃんと、後輩たち。そして、先生を、この目で見た。

 

『わぁいホシノちゃん!! って、言っても私のことは見えないんだよね……うぅん、寂しいなぁ。あ、でもこっちの子たちが……うん、やっぱり。シロコちゃん、ノノミちゃん、アヤネちゃんにセリカちゃん。俺の知ってる通りだな』

 

 自分たちより圧倒的に数の多い、カイザーグループの兵士へ銃を向ける後輩たちは頼もしげで、自分たちでアビドス高校(いばしょ)を守るのだ、という自信と自負に満ち溢れていて……胸がじんわりと温かくなる。

 そして、この子たちをこうして導いてくれたのが、私の/俺の大好きなホシノちゃんだ、ということにも。

 あとは、うん。

 

『これが……先生かぁ。うん、なんというか、こう……』

 

 今は生徒になったけど……かつて同類であった俺なら分かる。

 こいつは――やると言う時はやる。いざとなれば、生徒に跪いて、ブーツと靴下を脱がせ、足を舐めしゃぶるのも厭わない生徒思いの(ヘンタイ)だ。目尻の下がった、優しそうな見た目からは想像もつかない、しかし分かる者には確かに伝わる『スゴ味』のようなものを感じる。

 でも、うん。確かに思っていた通りの『先生』だ。ホシノちゃんに――アビドスのみんなに、いや、生徒みんなに優しい、頼りになる大人。かつて大人(そう)だった俺から見ても、信頼できるような人。

 この人なら、ホシノちゃんたちを――

 

『……えっ?』

 

 ――ヴヴッ。

 

 ポケットに入れていた、震えるはずのないスマホが震えた。取り出す。通知が一件。『近くに接続できるデバイスを検出しました』。端末名は――『シッテムの箱』。

 ……どういうこと? 件の先生は、今、あのタブレットを触ってなんかいない。苦々しい表情でカイザーPMCの理事を見据えている。ならばこれは何故?

 理由はわからない――いや待て、本当に分からないのか? 考える。馬鹿だって自覚はあるけど、必要なことだと直観して。

 そして、考えて……その答えが出る前に。

 

「そして、ああ――思い出したよ。賢く、現実的な君と一緒にいた、あの能天気でバカな……生徒会長とやらのこともな」

「――――――」

『ひぃん……知ってたけどバカにされてるよぉ……!』

 

 まあ能天気でバカなのは事実だからしょうがないし、ホシノちゃんが冷静で現実的で、いつも私のことを助けてくれていたのも事実。事実だけど、人は面と向かって否定されたら傷つくんだよ!?

 

「何と言ったか……ああ。『有明け(ありあけ)のオシリス』だったか? 大層な名前を付けられていた割に強くもなく、賢くもなく……我が社の社員に対しては腰が低かったようだが、学園の長としての威厳すら無い」

 

 って、あれ? こんな台詞あったっけ。ホシノちゃんが我慢して終わり、の筈だったけど……というか、有明けのオシリス? もしかして私のこと?

 ぜ、ぜんぜん知らなかった……! 異名なんて興味無かった、ってこともあるけど、それより……うぅん。

 『有明け』かぁ、何か意味はあるんだろうけど……前世(おれ)の記憶のせいで、あれしか出てこないんだよね。某同人誌即売会の会場……。

 というか、ポジティブを自認している私であっても、『原作』にない台詞を足された上に、その『原作』にない台詞でさえ罵倒されるのは……流石に事実とはいえ、結構堪え――

 

 あ、まずい。

 

「愚かな間抜けが味方のトップとは、さぞ君も苦労しただろう。なあ? 『暁のホルス』――、ッ!?」

「――――………」

 

 ……、ホシノちゃんの気配が、爆発した。

 吹き荒れる、『神秘』混じりの風が、私の身体をたたく。

 ホシノちゃんは一言も、息すらも溢してはいない。身動ぎひとつしていない。ただ少し目線を地面へ向けて、前髪を垂らして、黙り込んでいるだけ。

 にも拘わらず――そこに居る誰もが、呼吸すら出来ないほどの圧力。カイザーの理事も、兵士たちも、シロコちゃん達も、先生も。もはや『殺気』としか形容できない気配の、その()()だけで、みんな凍りついている。

 ……ホシノちゃんのヘイローが揺らめいている。まるでそれ(自分)自身を薪木として燃やしているかのように、炎みたいに靡いている。

 きっと、我慢しているんだろう。『原作』でそうだったから、とか、そんな話じゃない――だって、ホシノちゃんは優しい子だから。

 自分のことより、誰かのことを大切にできる子だから。仕方ないですね、なんて言って、私のために我慢してくれた子だから。いま、恐らくは私のことで……怒り出してしまいそうなのを、必死に、押し留めている。

 ここで手を出してはいけない、と。自分の後ろにいる、大切な人たちのために。

 

『……嬉しいなあ。やっぱりホシノちゃんが、みんなを導いてくれたんだね』

 

 私が押し付けちゃった……たった一人の孤独と、アビドスの負債のすべて。全部を背負って、辛くても歩き続けて。みんなの先頭で、みんなのために盾を持って。

 不謹慎だし、もう死んじゃった私が何を言えるものでもないけど。あの理事の言う通り、能天気でただのバカだった私のことを、少しでも背負ってくれているみたいで。

 だから……全身に、むんっ、と力を入れて。この幽霊の……たぶん、『神秘』でできた身体にはちょっとしんどい、ホシノちゃんの『神秘』の嵐の中を踏み越えて――がばっ、とその、小さな背中に抱きついた。

 

『――迷惑かけちゃって、ごめんね。偉いぞ、ホシノちゃん』

「――ッ!? せんっ、ぱ――」

 

 振り返る――その瞬間に、ホシノちゃんの殺気も、『神秘』も、霧散した。えへへ……だいぶしんどかったけど、伝わったかな。

 こっちを向いてくれたお陰で、私にもホシノちゃんがよく見える。驚いたような、泣きそうな、ちょっと疲れの滲んだ顔。けれどきっと、ホシノちゃんの目には、幽霊で半透明な過去(わたし)は映らないだろう。

 でも代わりに、その私の向こうにいる、ホシノちゃんの大切な人(みらい)が映っているなら……私にとっては、それが嬉しい。

 

「――ぁ、っ……」

 

 息を吸って、吐いて。もう一度吸って……それで、ホシノちゃんは『ホシノ先輩』に戻った。少し恥ずかしがるように、申し訳ないように、自分の後ろにいたみんなに控えめに笑いかけて。

 

「……うへ、理事長さん? あんまり人の陰口を言うのは良くないなぁ〜。理事長さんは『大人』なんだし、そういうのは『子供』の教育によろしくないんじゃない?」

「……は、はは、すまない。確かにそうだ……『大人気なかった』な。失礼した、アビドスの諸君」

「んや、こっちこそお邪魔しちゃったからね。……さ、帰ろうかみんな」

 

 そうして、ホシノちゃんたちは去ってゆく。私も追いかけようと思ったけれど……思った以上に消耗しすぎたのか、わりと全身ガクガクでもう立っていられないくらい。

 うぅん……いくら砂漠を歩いても平気なのに、ホシノちゃんに近づくとしんどくなるのは困るなぁ。()()()のこと――あの黒服の一件がある以上、ホシノちゃんの側にいたいんだけど。

 

『ひぃ、ふぅ……も、もしかして何年も寝てたから、鈍ったのかなぁ……?』

 

 ただ、私の疲労なんてのはやっぱりどうでも良くって。この後にホシノちゃんの側にいなきゃならないなら、いるだけだ。でなければ、私は、俺である私である意味がない。

 アビドスの、みんなの後ろを歩いてゆく。少しずつ、砂漠の風景もどこか見慣れた気配のするものになって。

 結局何にも分からなかったけど、とりあえず先生のモモトークに――今の私のアカウントは文字化けで、名前も写真も誰だか分からない状態だけど――友達登録だけはして。

 

『ここからは電車ですね。皆さん、疲れたと思いますし……アビドスに着くまで、ゆっくり休んでください』

「……ん、ありがと、アヤネ。ちょっと寝るかもしれない」

“私も……結構疲れちゃったな”

 

 そして、私たちを乗せた電車は――

 

『ふふふ、久しぶりのアビドス高校だ! 今の学校は、どんな風になって――あいたぁっ!?』

 

 ――動き出すと同時に、私は電車の椅子も、車体の壁も、ぜんぶすり抜けて線路の上に放り出された。

 えっ?

 ……えっ? あ、すり抜けるのって乗り物にも有効……? じゃ、じゃあ私、ここからどうやって帰るの? ここから高校まで、どれだけ遠いと思って……。というか、この後のタイムスケジュール的に、歩いて戻ったら何にも間に合わなくない……?

 

『……ゆ、ゆう、幽霊差別はんたーーーーい!!』

 

 叫んでみても、私の声が届かないのは実証済みで。

 がたごと、走りゆく列車をぽつねんと見送って……私は泣きながら、PMCの基地に戻ったのでした。

 もうカイザーの軍団に付いていくしか、本館の場所が分からないからね! コンパスも地図もないから! ……はぁ。





『有明け』……夜が明け、暁を越え、太陽が昇ってなお、空に月が残っている現象。あるいは、その月自体のこと。有明けの月とも。
なお、自明であるが。異名がつくということは……それに足る知られ方をしたということでもある。

今更ですが、この小説は『青春のアーカイブ』と『真昼の空の月』をとことん堪能していきます。
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