TS転生クソボケユメ先輩(死亡済・幽霊)が原作のn倍ホシノの脳を焼いていた話 作:死刑囚
そして次、どうしようかなあと思った結果アビ夏直前くらいの時系列(かつ、パヴァーヌ一章end&エデン条約開催直前)くらいを舞台にとりあえずホシノを焼いておこうかなと。
あと、ちょっと紛らわしい描写が前話にあったので少し詳しく書きました。ホシノ目線でのユメ先輩の遺体発見時の話。
カイザーPMCとの一件からしばらく経った。
あれから学校は落ち着きを取り戻して、少しずつ借金を返してゆく態勢も整った。それもこれも、頑張ってくれた対策委員会のみんなと……先生のおかげだね、うへ。
私たちは毎日忙しなくお金を稼いでいるし、先生は先生で、今度はミレニアムの方で何か用事があったらしい。その次はトリニティに用があるんだとか。
そうして日々を送って――季節は夏。ただでさえきついアビドスの陽射しが、最も強くなる季節だ。私は今日も、屋上で寝転がりながら、じりじりと肌を焼く日光を浴びながら……遠くの砂漠を眺めている。
「……あ〜。暑いねえ。喉が渇いてきちゃったよ」
じわりと汗が滲み出す。うだるような暑さに、全身の倦怠感が一層増す。ただ、それでも動けない。学校の一番高いところでひっくり返ったまま、遠くに見える逆さの砂漠を睨みつけた。
――砂漠は、嫌いだ。
アビドスは好きだし、アビドスの環境や気候だって嫌いじゃない。寒くて厳しい冬も、暑くて気怠い夏も、乾いた風も、偶の豪雨も。
ただ、でも――ユメ先輩を連れて行ってしまった砂漠は、嫌いだ。
「……先輩」
今でも夢に見る。
忘れた日なんて片時もないけれど、諸々のことが片付いたからか、最近は余計に――先輩を見つけた日の夢を、見るようになった。
……あれは、先輩が失踪してから三十三日後だった。あの日は、前の日の夜からずっと冷たい雨が降っていた。風が異様に強く、ユメ先輩を慕っていたスケバン達も捜索を断念するほどだった。
私は、それでも一人、砂漠へ行った。冷たい雨と、雨を染み込ませた砂漠の砂が、いやに足を取ったのを覚えている。
一度行ったところにも、二度、三度と足を運んで捜索をしていた。もしかして、行き違いになっているかもしれないからと、彼方此方を探し回って。
そして、ようやく、その日――何かに導かれるように。私は、ユメ先輩を見つけた。
そこはかつて、アビドスの大オアシスのあった場所だった。ユメ先輩と二人でツルハシを担いで、徒労だと半ば悟りながら、それでも笑い合って宝探しをした場所。その真ん中の、積み重なった砂の下に、ユメ先輩はいた。
強風に砂が飛ばされたおかげで見つかった先輩は――驚くほど白く、冷たくなっていた。
「――っ、ォェ……っ!」
今でも、この手に感触が残っているような気がする。
持ち上げた時、異様に軽い先輩の躯。だらりと力なく伸ばされた四肢。砂まみれの髪。虚ろな瞳。血の気を感じさせない、褪せた肌は冷たくて、冷たくて、氷のように冷たくて――あの、温かかった先輩の体温がまったく感じられなくて。
私は、そんな先輩を抱えて、一人でアビドスに戻った。
「っ、はあ、は、ぁ……っ、あ……ッ」
思い出すだけで、お腹の中の内臓ぜんぶが裏返ってしまうような感覚に襲われる。あの日からずっとそうだ。えずいて、えずいて、でも今日は朝から何も食べていない。おかげで、屋上の床を汚さずに済む。
偶然。
あの日の帰り道、道中も、帰ってからも。偶然あの日は誰にも会わず、誰一人としてすれ違わなかった。元々人の少ない自治区、その上外に出る人なんて居ないような天候で。私は一人、学校へ戻り。そのまま一人で、先輩を埋葬した。
……先輩が死んだとは、誰にも言えなかった。
だってそうだろう。誰に言えばいい? 何と言えばいい? 私の、ユメ先輩が死んでしまったと。もう二度と、誰にも笑いかけてはくれないのだと、どんな顔で言ってまわればいい?
何をあの時、苛立っていたのか。そんなに怒るようなことじゃない、些細なことで先輩と喧嘩して、ポスターを破いて、学校を飛び出して――それっきり。
私がいないところで。守ることも、助けることも、何も出来ず、何も知らないうちに、大好きな先輩が死んでしまった、などと――未だに先輩を信じる人たちから希望を奪い、絶望へ突き落とすようなことを、どう言えばよかった?
……私には、できなかった。ユメ先輩が死んだと口に出すことも、伝えることも、認めることもできなかった。その勇気が持てなかった。辛うじて後日、何人かの上級生――スケバンたちに、捜索の打ち切りを伝えただけで。それ以外は、何一つできなかった。
起きてしまったことは変えられない。昨日を変えることなんてできないのに、私は、先輩の死をなかったことにしたいと思ってしまった。
あの時、誰かが一緒にいてくれたら、私は先輩の死を、先輩を慕う人たちに伝えられたのだろうか。
けれど、そうはならなくて……だから先輩は、今もずっと一人でいる。
「……ごめんなさい、ユメ先輩」
これは私の罪だ。決して許されることのない罪だ。罪はいつか裁かれなければならない。私は償いをしなければならない。それから逃げるつもりは、ない。
けれど――言い訳でも、逃避でもなく。私にはまだ、やるべきことがある。
だって、そうだ。声が聞こえるんだ。
近頃は聞こえなかった声が。ノノミちゃんや、シロコちゃんと会う前まではずっと、耳元で囁き続けてきていたあの声が、聞こえるんだ。
先輩はなぜ死んだのか、それを突き止められるのはお前だけだ――と。
「ああ、もう……うるさいな」
幻聴だ。いつかのユメ先輩の声と同じ。私の弱い心が呟いてる声だってのは分かってる。けれどずっと、心に刺さったその疑問が消えないのだ。
先輩は、コンパスを忘れていったってメッセージに残していた。――そんなことは、断じてあり得ない。
あの人は確かに、抜けているところもあるし、ポンコツだ。コンパスを忘れて砂漠に行って、結局私のそれを使って帰ってきたことだってある。
だけど。
もしもそうであるのなら、私がかき集めた先輩の遺品の中に、先輩のコンパスがなければおかしい。
置き場所なんてずっと決まってる。旧生徒会室の入り口付近、ロッカーの側面に取り付けたフック。ロッカーの中に入れてしまうと忘れるから、とわざわざ見えるように引っ掛けていたコンパス。
あれが、どこにも見当たらない。ならば必然――先輩は、コンパスを持って出掛けたことになる。
他の荷物だってそうだ。先輩の荷物のうちいくつかが、消失したまま見つかっていない。先輩の――遺体の側にも、落ちてなんていなかった。鞄も、コンパスも、地図や……それに、先輩がずっと記していた、あの生徒会長手帳だって。
これで、先輩がただくだらないミスをして死んでしまった、なんて信じられるわけがないじゃないか。
なら、なんで先輩はあんなメッセージを残したのか? ……あの人のことだ、多分、そっちの方がミスなんだろう。私のことを心配して、私のことを想って。『大事な後輩』が、自分の死に囚われないようにしたかったのだろう。
「……ほんと、先輩はバカなんですから。……でも、でもねユメ先輩。今なら、貴女の気持ちも分かるんです」
……シロコちゃん、ノノミちゃん、セリカちゃん、アヤネちゃん。私の大切な後輩たち。義務感とか、役目とかじゃない。私が、私の意思で、守りたいと思う大切な人たち。先輩に対する好き、とはベクトルが違うけれど、それでも大好きな、私の後輩たち。……みんながいてくれるから、私にも、その気持ちが理解できたんだ。
私はユメ先輩みたいな立派な『先輩』じゃないけれど、曲がりなりにも先輩になったから痛感した、先輩としての務めと、思い。
そう。大切な後輩たち。たとえ我が身を盾にしたって構わないと思える、大事な子たちだ。たくさん学んで、たくさん遊んで。たくさん笑って――◼️◼️◼️◼️に、なってほしい。
きっとユメ先輩も、同じ気持ちだったんだろう。私に、そうなって欲しいと思ってくれていたんだろう。何度も何度も、そう口に出してくれていた、そのままに。
「だから……ごめんなさい、ユメ先輩。ずっと、ずっと、一人にしてしまって。でも……」
……後輩を守り、導き、育てる。その果たすべき責務の前に、私が、私だけの我欲を、妄執を優先させてはならない。たとえ――どれだけ、ユメ先輩の死が不自然であっても。いや、ユメ先輩の死が、あまりにも不自然であるからこそ。
「……先輩、言ってましたもんね」
ぎらぎらと輝く夏の日差し、白く染まる視界の向こう。
あの日の先輩の背中を幻視する。
◆
「今日はお休みの日だよホシノちゃん!! ゆっくり身体を休めて、趣味とかに時間を使ってね!」
にへーっ、ともぺかーっ、とも形容できる気の抜けた笑顔で、ユメ先輩はそう宣言した。
私達アビドス生徒会は基本的に、この寂れて滅びゆく学校を建て直すための活動をしている。それはバイトなんかでお金を稼ぐことだったり、旧アビドス高等学校本館や砂漠を探検して砂漠化の原因を探ることだったり、あるいは学区の見回りをして、不要な小競り合いを止めたり……そんな活動だ。
ただ、これは何も毎日ずっと休みなく行なっているわけじゃない。『私たちはアビドスの借金を返したい、けど、借金返済に苦しむためだけに生きてる訳じゃない』――という先輩の方針で、定期的に、あるいは不定期に遊んで休むだけの日を設けている。
「ユメ先輩。先輩は今日、何をするつもりなんですか?」
「ぅえ? えーと……今日は遊びにいこうかなって。あとは、買い物、とか?」
まあ、休みの日だからって何が大きく変わる、というものでもないが。休日だろうとそうでなかろうと、私と先輩が一緒にいることには変わりない。そもそも同棲しているようなものだし――と言えば、少し語弊があるけど。
――アビドス高等学校には現在、生徒がたった二人しかいない。それに対して、今いるここは別館とはいえ、元々マンモス校であったアビドス別館だ……設備が老朽化しているとはいえ、広さだけで言えばかなりのもの。使ってない教室が、嫌というほど有り余っている。
もちろん最初は、律儀に家から登校していた。けれど学校には部活用のシャワーどころか広めの浴場だってあるし、寝泊まりするスペースも有り余っている。遅くまで学校にいて仕事をすることもあった。
だから最終的に、私と先輩の意見が『わざわざ家に帰る必要ってあんまり無いんじゃない?』と一致するのは時間の問題で……以来、私たちは、学校で一緒に暮らしている。
「買い物、ですか。私も付いていきましょうか?」
「え? いやいや大丈夫! ホシノちゃんはゆっくりしてて良いよ〜」
「……そうですか。分かりました」
学校での共同生活は……照れとか、そういうものを無視して正直に言ってしまえば、うん、悪くない。……私にとっては。
夜遅くまで先輩に訓練してもらって、そのまま二人でお風呂に入ったりとか。風呂上がりに、薄着で歩き回る先輩を、目に毒です、と叱ったりとか。
半分寝こけた先輩の髪を乾かしたり、逆に疲れている日は私が乾かしてもらったり。
廃棄された民家から持ち込んだ冷蔵庫に保管してた食材を使って、家庭科室で先輩とご飯を作ったり。二人でバイクの整備をしたり、夜は眠るまでお喋りしたり。
……うへ。認めよう。帰ったところで独りだから、なんて言い訳をして始まったこの共同生活は、先輩と一緒にいる時間は、私には得難い、大切なものだ。心の奥の深いところが、じんわりと温まって、溶かされるような、そんな日々。
なのに先輩は、たまに行方を眩ますことがある。
「……あの感じは、多分今日……だったら追いかけよう。ユメ先輩、また誰かに騙されてるかも知れないし」
頻度はそれほど高くない。二週間に一回程度だろうか。姿を消す先輩が気になって、何度か尾行してみたけど追いきれないことが何度か。それでも追跡を続けて……ようやく、どうやらミレニアム学区のはずれ、廃墟群のあるあたりに行っているのだとアタリをつけられた。
おおよその場所は把握してるから、先回りして物陰に隠れておく。そこから数時間待って――先輩が、やってくる。
「ふんふんふんふん、ららら〜ら〜! ふんふんふん、らら〜ら〜!」
……思わずひっくり返ってしまいそうな、気の抜けた鼻歌を歌いながら。足取りは軽く、どことなく上機嫌だ。
だが、先輩は護身用の拳銃だけでなく、盾を持っている。いつもの武装。肩にかけた鞄からは弾薬のストックがいくつも覗いている。
それはつまり、ちょっと散歩で脚を伸ばしたかったという訳ではなく……何かのために、武装しているということだ。
傭兵か何かのバイト? いや、先輩がそんなことをするとは思えない。護衛……にしたって、こんなところで何を守るというのか。あるいは、やはり、もしかしてまた、騙されているのか。
疑問は尽きない。万一に備えて、気付かれないように大きく距離を空けて歩く。そうして辿り着いたのは、
「……廃工場?」
錆びついた扉を開きっぱなしにし、苔むしてツタの絡まった外壁を補修されてもいない、工場の廃墟とでも言うべき場所だった。
足跡から見るに、先輩はここへ入って行ったらしい。ショットガンに弾を込めて、警戒しながらゆっくりと進む。……警報器の類はない、というか壊れているらしい。見張りとか、警備員みたいなものも居ない。というか人っ子一人いる気配がない。たぶん、ユメ先輩が入っていくのを見なければ、他の誰も、こんなところに入ろうとすら思わないだろう。
「……目ぼしいものはない。換金できそうな機械とか、物資も……ない。というか、埃まみれだし……先輩は、なんでこんな所に?」
奥まった所にある扉を抜け、地下へと進む。階段は思ったよりも長い。ただ電気設備は生きているようで、明かりだけは確保されているのが有り難い――ふと、遠くから音が聞こえた。
テクノポップ、とでも言うのだろうか。あまり詳しくはないけれど、なんだかキラキラした、ノリの良い音楽と……それに紛れて聞こえてくる、銃声と破壊音。
思わず駆け出す。階段を転がるように降りきって、開いたままの重厚なシャッターへ近付き、向こう側を伺う――そこでは。
「はい百三っ、四っ、ごー、ろくっ、ここから纏めて二十体っ! 盾受け、躱して、牽制牽制牽制っ!」
そこにあったのは、工場の外装とは裏腹の、近未来的な工場だった。
最奥の、中枢と思しき製造プラント施設へ繋がるのは、人が十人は並んででも歩けそうな、幅広で長い長い鋼鉄製の橋。巨大な橋を支える頑丈そうな支柱も巨大で、しかしその支柱が伸びる橋の下は深い奈落になっていて、底が見えない。
橋の半ばにいくつかある防衛用のシャッターは、開いたままで意味を為していない。橋の上に散乱したコンテナや何かの廃材は、遮蔽にでもできそうなほど巨大だ。
そしてそんな、戦車でも通れそうな橋の上に仁王立ちして。場内スピーカーから流れる小気味良いテンポの音楽に合わせて盾と拳銃を振り回しているのは、やっぱりユメ先輩――そして、その先輩に群がっているのは。
「軍用ロボット……!? っ、ここは軍需工場だとでも!?」
前にどこかで見かけたことがある。白、黄色、黒色をした、真四角の軍用ロボット。だいたい1mから1.5mほどの体高で、改造しやすいのが利点だったはず。
そして、そんなロボットが――工場奥から、雲霞のように溢れ出している。百や二百じゃ済まない数。それが、先輩へ殺到してゆく。
――先輩が危ない。
「何をしてるんですかっ、ユメ先輩ッ!!」
「ほぇ……えぇっ!? ホシノちゃんっ!? なんで!?」
返事も聞かずに欄干を乗り越えて、思い切り跳躍して飛び出す。落下しながら全霊の力を込めて、腹の底から湧き出る力を封入したショットガンの引き金を引く。
どぱぁん、という低い破裂音。緋色を帯びた散弾が、軍用ロボットの装甲を――、ッ!?
「貫通、しない!? こいつらっ、硬ッ……」
「下がって、ホシノちゃん! ――吹き飛べっ!!」
咄嗟にロボットを蹴って飛び退く。蹴り飛ばそうと思ったが、想像の何倍もそれらは重く。ただ単純に、距離を空けるだけに留まる――瞬間、唸りを挙げて飛来した先輩の盾が、ロボットを吹き飛ばして奈落へと落下させた。
先輩はそのまま、盾に装着された鎖を引く。なんでそのまま、鎖ごと盾を振り回さないんだろうか? 私の一瞬の疑問は、同時に一瞬後に解消した。
「盾を構えるよ! ホシノちゃん、私の後ろに!」
「っ……!」
敵陣後方、製造プラントから吐き出されたばかりの黄色――『改造型スイーパー』の天面、といえば良いのだろうか。上側がぱかりと開いて銃座が飛び出す。
大した口径ではない。一般流通している、カイザーコーポレーション製のアサルトライフル程度の威力だと推測できる。問題は――数が、多すぎること。数百の銃口が、ユメ先輩の方を向いて、一斉に火を噴く。
「――防ぎ切るよっ! はあっ!!」
きゅいん、という甲高い音。先輩の全身から、ぶわりと力が吹き出る。真っ直ぐに構えられた盾の全面に、透き通ったターコイズ色の防壁が展開された。
……ぎり、と奥歯を噛み締めた。飛び出すだけ飛び出しておいて、先輩に守られて、なんて
けれど先輩は、やっぱり笑っていて。
「ふぃ〜、間一髪! って、そうだホシノちゃん! どうしてこんなところに……? もしかして道に迷っちゃった?」
「……そんなわけないじゃないですか。先輩がたまに、どこかに出かけてるみたいだったので……また騙されてたりしたら、問題ですから」
「心配してくれたんだね、ありがとホシノちゃん。……そだね、説明してる時間は、今はないから……はい、これ!」
先輩は私へ向かって、手を差し伸べる。そこに握られていたのは、先輩がいつも使っている拳銃だった。
「……先輩?」
「あいつらかなり硬いから、装甲の継ぎ目とか手足の関節を狙わなくちゃなんだ。私が戦うときは、足を止めて殴り合ってるけど、ホシノちゃんがいるなら……」
受け取る。なんの変哲もない、ただの拳銃だ。重いわけでもなく、威力だって高くない。ただの護身用のサブアームに過ぎない、一挺の自動拳銃。
なのに、先輩からそれを渡された私の胸は高鳴って。
「……つまり、私が撹乱と牽制ってことですね!」
「それで、私が盾でトドメ! 任せたよ、ホシノちゃん!」
返事もせずに、先輩の陰から飛び出す。自分の失態を反省するのは後だ――先輩の盾の上辺を踏んで、そのまま宙空へ。ロボットたちのカメラアイがこちらを向く――ショットガンの引き金を引く。
散弾が眼下のロボットへ強かに命中し、動きを止める。その隙を狙って、拳銃をトリガー。狙い通りに、最前線でユメ先輩へ向かっていたロボットの脚を止める。
倒せてはいない――けど、それで構わない。最前列のロボットの進行が止まれば、後ろの全員の足も止まる。なら、先輩が。
「纏めて――飛んでけっ!!」
先輩が白、黄、黒の群れへ突貫し、限界まで引き絞った横薙ぎを振るう――ごうっ、という暴風と、けたたましい破砕音。あれほど重さを感じた四角いロボットが、まるで子供用の玩具ブロックのように軽々と……いや待て。破砕音?
「うへぇ……先輩、装甲ごとぶっ壊してる。落ちてく前にばらばらになってるじゃん、空中で」
お陰でなんとなく理解する。この随分と慣れた様子、ユメ先輩はここに来るのが一回や二回じゃないと思う。何のためかは知らないけれど、恐らく何度も何度も、こんな戦闘を繰り返していたのだろう。
私がロボットの足を止めるたびに、無造作に突っ込む先輩――いや、違う。無造作なんかじゃない。
どの敵から攻撃が飛んでくるか。どれが近くて、どれが遠いのか。どこから倒すべきか。先輩はそれを判断して、その上で、気負いなく突貫しているから、無造作に見えるだけだ。
まるで、ミレニアムの企業が発売したとかいう無双系ゲームか何かのような光景……でも、あのロボットたちは決して弱くない。旧式とはいえ曲がりなりにも軍用だ、弱いはずがない。
先輩が。私の、ユメ先輩が強い。それだけなんだ。
「(……ああ。格好いいなあ、ユメ先輩)」
見惚れてしまう。
戦闘中だというのに、敵じゃなく、ユメ先輩から目が離せない。もちろん、ちゃんと戦いはするけれど……どうしても、先輩を目で追ってしまう。いつもはほわほわとした、朗らかで優しい、砂漠に咲く柔らかな花のような先輩が。こうしていると、どこまでも頼り甲斐があって、凛々しくて。
結局――先輩が、数百を優に越えるロボットを踏み越えて、最奥の一時停止ボタンを押すまで。戦場を切り拓く、先輩の横顔に釘付けになったままだった。
「ふぃ〜……今日の緊急停止も終わりっ! ありがとねホシノちゃん、楽できちゃった!」
「……い、いえ。こちらこそ、ご迷惑を……」
「? どうしたのホシノちゃん。迷惑なんてかかってないけど……なんだか耳が赤い?」
「き、気のせいですッ」
くそ。ずるい。ほんとうにずるいとおもう。
というか近いッ。さっきまであんなに格好よかったのに、今はもうほにゃほにゃと笑っていて、私のおでこに手を当ててきて……ああ、もう!
「だ、大丈夫ですからッ! それより、ユメ先輩はなんでこんな所にいるんですか! また誰かに騙されたんですか!?」
「え? うーん……それは違うかな。なんて言うんだろ、簡単に説明すると……この『軍需工場の廃墟』、放っておくと勝手にロボットを製造して、外に侵攻させちゃうんだよね」
「……はあッ!?」
なんだそれは。というか、そんな危険な施設が何で稼働したままになっているんだ。ここはミレニアムの管轄だろう、一応。
「まあ、稼働は不定期だし……ついでに言えば、訓練にもちょうど良いからね。だから監視装置だけ設置して、適当なタイミングで間引きしてるんだ。ホシノちゃんも戦ってみて分かったんじゃない?」
「まあ、はい。かなり手強くて……というか、訓練? ここで? ……一体いつから?」
「一年生の初っ端で見つけたから、もう二年と数ヶ月かな? 多分その位だと思う!」
「……は?」
一瞬だけ、呆けてしまった。
この物量を相手に、一人で二年と数ヶ月? 毎回毎回こんな敵の量では無いだろうけど、でも、決して楽な戦いではないはずだ。
思い返せば先輩のスタイルは、盾を起点とした堅牢な戦い方。どんな攻撃も通さない鉄壁と、それを前提に置いた牽制、そして大火力での範囲攻撃。分かってみれば、なるほど、たった一人でずっと、こんな戦いをしていたのなら、そうもなる。
けど。
しかし、なぜ、ユメ先輩は。
「……ユメ先輩。なんでずっと、こんなことを?」
「ほぇ?」
「先輩は、戦うことが好き……というタイプじゃないですよね。いつも戦わないようにしてるじゃありませんか。なのにどうして、こんなことをずっと? ……今までずっと一人だったんでしょう。危ないのに、何故こんなことを……!」
「うーん……そうだねぇ……」
ユメ先輩は、腰に手を当てて一度だけ天井を仰いだ。そしてそのまま、薄い微笑みを湛えた真剣な顔になって、私をじっと見据えて。
「確かに私は、戦うのは好きじゃないよ。暴力で誰かに言うことを聞かせるのも、無理やり欲しいものを手に入れるのも嫌。みんなで話し合って、みんなで幸せになりたいと思ってる――でもね、ホシノちゃん」
先輩の笑顔は変わらない。けれど、確かにその一言には強い熱が籠っていた。これだけは決して譲れない、という、私を焼き尽くしてしまいそうな熱が。
「もしも、私の大切な人たちに危険が迫った時……私が戦えないせいで、弱いせいで、その人たちを傷つけてしまったのなら――私は死ぬより後悔する」
だから私は、と続けた先輩は、やっぱり格好良くて。
「大切な人を守る。その為なら、誰よりだって強くいたい――そう思ってるよ。……えへへ、どうどう? ちょっとかっこよかったんじゃない?」
「……ッ。ふ、普段からそうしてくれていると、私も助かるんですけどね!」
「ひぃん……ご、ごめんねホシノちゃん……」
「……今度から、ここに来るときは私も連れてきてください。心配なんですから――わぷっ!?」
ホシノちゃーん、なんて笑いながら私を抱きしめてくる先輩の力はやっぱり強くて、安心感があって。
私もいつか、この人みたいに、誰かを守れるように――
◆
目が覚める。
どうやらいつの間にか、眠ってしまっていたみたいだ。
「うへ〜……汗だくだぁ。あちゅちゅちゅ〜……」
それにしても、懐かしい夢を見たもんだね。先輩はどこで、あんな工場や
結局、私と先輩が二人で、あの工場に行ったのは数えるほどだ。先輩の言った通り、工場が暴走するのは不定期で、先輩が――死んでしまってからは、なぜかあの工場はうんともすんとも言わなくなった。
ああ、でも、最近もう一度動き出したんだっけ? 先生が来たのと同じくらいに、そんな噂を聞いた気がする。どういう理屈で動いてるんだか。
「せんぱ〜い? ホシノせんぱ〜い? どこですかー!?」
ありゃ。下階の廊下あたりから、アヤネちゃんの声が聞こえてくる。
そう言えば、なんだか言ってたっけ。セリカちゃんが、リゾートのチケットを手に入れて……みんなで水着を買いに行こうとか、そんな話をしてた。
……みんなでリゾートかぁ。
「うん。ユメ先輩とも行きたかった、ってのは嘘じゃない。……けどね、ユメ先輩」
私にも、大切にしたいものが増えたんです。かけがえのない人たちが。
それはきっと、とても幸せで――きっとユメ先輩も、同じ気持ちだったんだ、って分かって。
「うへ〜……。もっかい行こっかな、あの工場。今は先生に頼んだら良いんだっけ? ……私も、今度こそ、みんなを――守りたいからね。もっと強くならなくちゃ」
ごろんと身体をひっくり返し、飛び起きる。水着は持ってるけど、あれを使う気にはなれない。後輩を待たせるわけにも行かないし、早く行かなきゃ。
――サイズ的には、まだ着れるんだけどね。あれは、ユメ先輩と海に行くために買ったものだから。
まあきっと、永遠に使うことはないんだろうなんて思いながら……私は、アヤネちゃんに返事を返した。
とりあえず焼いとけの精神。
アビ夏にクソボケユメ先輩も突っ込めるかな、と試行錯誤してみましたが、ちと無理でしたね。